2025年3月24日

高身長は得か損か?脳卒中予防の陰で高まる心房細動リスク

2025  3月  イギリス


身長は健康に多面的な影響を与えることが知られている。これまでの観察研究では、身長が高いほど心血管疾患や脳卒中のリスクが低いとされてきたが、その因果関係の正体は明らかでなかった。

特に「子どもの頃に背が高いこと」が、その後の脳卒中リスクにどのように関与するのかを、直接的な影響(直接効果)なのか、それとも大人になっても背が高いという継続性によるもの(間接効果)なのかを区別してくわしくしらべてみたそうな。



UKバイオバンクに登録された45万人以上の遺伝情報と自己申告による10歳時点の身長(「平均より低い」「平均」「平均より高い」)を用いて、遺伝的な身長の傾向を分析した。さらに、大人になってからの身長を加味しつつ、冠動脈疾患、脳卒中、心房細動、大動脈瘤などの心血管疾患との関連を、メンデルランダム化という因果推論手法を用いて検証した。



次のようになった。

・単純な解析では、子どもの頃の身長が高いほど、将来的な脳卒中と冠動脈疾患のリスクが下がるという保護効果が示された(脳卒中に対するオッズ比 0.93)。

・しかし、大人の身長を同時に解析に加えたところ、この保護効果は消失した。つまり、脳卒中リスクの低下は、子どもの頃の身長そのものによるのではなく、大人になっても背が高いことが主要因であることが示唆された。

・一方で、心房細動(AF)および胸部大動脈瘤(TAA)については、子どもの頃の身長が高いことが大人の身長とは独立してリスクを高めるという、直接効果が確認された。


子どもの頃の身長が高いことが脳卒中のリスクを直接下げるわけではなく、大人になっても背が高いことによる間接効果であることが明らかとなった。一方、心房細動や胸部大動脈瘤については、子ども時代の身長がその後のリスクに直接的な影響を与えていた、


というおはなし。

身長と脳卒中



感想:

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『高身長には脳卒中からの保護効果があるというのに心房細動リスクがあがるとはこれ如何に?』



その問い、まさにこの研究の核心を突いています。「高身長には脳卒中を防ぐ効果がある」と「高身長が心房細動(AF)を増やす」は一見矛盾しているようですが、実はこの現象こそが「脳卒中は多因子疾患」であることの証明ともいえます。

🔍 この矛盾を分解して整理すると:

因子 高身長がもたらす影響 結果への影響
脳血管の構造 血管が太く、詰まりにくい 虚血性脳卒中のリスク低下
血圧 相対的に低めの傾向 高血圧関連の脳卒中が減る
代謝・栄養状態 幼少期の良好な栄養・発育の指標 動脈硬化リスクが低下
心房構造 左心房が大きくなる傾向 心房細動のリスク増加
AF → 脳卒中 本来は血栓をつくるが 他要因でリスクが相殺・抑制

✳️ つまりこういうこと:

高身長の人は、AFというリスクを一部背負いながらも、全体的には他の多数の保護因子によって脳卒中リスクが低く抑えられているという、多層的な健康構造を持っている。

🧠 もう少し踏み込むと:

  • AFだけが脳卒中の原因ではない: 高身長による他の要因(血圧、代謝、血管径)が強く保護に働いている。
  • AFの“絶対リスク”は意外と小さい: 多くのAFは治療で発症を防げる。高身長の人は医療アクセスも良好な傾向あり。
  • 高身長のAFは「良性」な可能性: 組織変化によるものの、血栓生成につながりにくい形態もあり得る。

🧩 結論:

高身長が脳卒中から守るのは事実。しかしその構造的代償としてAFが起きやすくなるという「表と裏」がある。
そしてそのAFさえも、他の因子によってリスクとして現れにくくなっているという複雑なバランスが存在する。