元2025 10月 パキスタン
・最終的に13報(合計5728人分)のデータが解析された。そのうちクラゾセンタンを投与されたのは2287人、プラセボ群1171人、ファスジル群2270人であった。・効果についての主な結果は以下のとおりである。
・脳血管れん縮による新しい脳梗塞:クラゾセンタンで約半分に減少(RR 0.56, p=0.0002)・遅発性虚血性神経障害(DIND):プラセボに比べて有意に減少(RR 0.67, p<0.0001)・れん縮そのものの発生率:プラセボ比で約半減(RR 0.54, p<0.00001)
・一方で、機能回復(GOSE)や死亡率については改善が見られなかった。・ファスジルとの比較では、クラゾセンタンの方がれん縮抑制効果は強かったが、神経症状や救済治療の頻度は変わらなかった。・副作用については以下の通りである。
・貧血(約1.5倍)・低血圧(約2.4倍)・胸水(約3.4倍)・肺水腫(約2.6倍)これらの副作用は用量が高いほど増える傾向にあった。
・サブ解析では、
・10〜15mg/hの高用量で効果が最も強かったが、副作用も増加。・1〜5mg/hの低用量では明確な効果が見られなかった。・開頭クリッピング例では脳梗塞やれん縮の抑制効果が明確であったが、コイリング例では限定的であった。
クラゾセンタン「日本だけ高額・実質的強制」問題の背景
1. 制度的に見た「なぜ日本だけクラゾセンタンが実用化されたのか」
クラゾセンタン(一般名、製品名PIVLAZ)は、世界的には標準治療ではない。欧米の第III相試験(CONSCIOUS-2、CONSCIOUS-3)では「血管れん縮は減るが、臨床転帰は改善しない、かつ有害事象が多い」とされ、承認に至らなかった。
一方で日本では、日本人を対象とした主要第III相試験(AC-054-305〔クリッピング症例〕、AC-054-306〔コイリング症例〕)の結果を主な根拠として、2022年に承認・上市された。背景には、日本の薬事制度特有の「国内データ重視」による承認運用がある。くも膜下出血が希少かつ重症で「有効な選択肢が限られる」ことも、承認判断を後押しした。なお、国際P3のREACT試験は主要評価項目を満たせず陰性である。
2. 医師側の「利益相反(COI)」の問題
高額薬剤の導入時には、企業からの研究費・講演料・コンサル料、臨床試験参加報酬、学会への寄附金など、資金が医師・学会に流れる構造がある。承認後に事実上の標準治療として推奨される過程で、COIが臨床判断に影響するリスクは否定できない。
ただし、すべての医師が金銭目的で動いているわけではない。現場の多くは「れん縮を起こしたくない」「使える手段は使いたい」という善意に基づいており、その結果として企業に有利な処方行動になりやすいという構造的問題が本質にある。加えて、日本の費用対効果評価など公的審査でも、日本人第III相試験への依存度が議論されている。
3. 国際標準薬(ニモジピン)とのズレと価格
国際的な標準薬は経口ニモジピンだが、日本では未承認である。このため国内での単純な薬価比較はできない一方、治療体系の差が日本におけるクラゾセンタン依存を強めている。
価格面では、クラゾセンタンの薬価は1バイアル150 mgあたり約8万円強。用法用量(例:10 mg/時の持続投与)を標準的に運用すると、1日あたり150 mgバイアル×2本相当で、おおむね15〜17万円/日が目安となる。重症くも膜下出血の集中治療下では、院内プロトコルで使用が定められているなどの理由により、患者・家族が判断を示しにくい状況下で自動的に投与が進む場面が実際に生じやすい。この“実質的に選択余地が乏しい”導入は、医療機関・学会・企業の三者に責任が分散する構造的問題である。
4. 結論的見解
問い「利益相反医師が多いのか」に厳密に答えるなら、「利益相反を強く意識せず、制度・慣行・院内運用の流れの中で企業の意向と整合的な臨床判断を下している医師が非常に多い」というのが現実に近い。悪意というより“構造的な馴れ合い”が本質であり、この構造こそが「世界では撤退した薬が、日本では高値で定着する」という現象を生んでいる。