元2026 5月 アメリカ
脳卒中のあとに手や腕の動きが悪くなった人に対して、tDCSという方法が注目されてきた。これは、頭の外からごく弱い直流電流を流し、脳の働きを少し後押ししようとする方法である。
期待された理由はわかりやすい。装置が比較的安く、使い方も難しすぎず、リハビリ中に一緒に使えるからである。つまり、「ふつうのリハビリに電気刺激を足せば、回復がもっとよくなるのではないか」と考えられていた。
しかし、TRANSPORT2という大きめの多施設試験では、その期待どおりの結果は出なかった。その失敗から何を学ぶべきかを整理してみたそうな。
次のことが分かった。
・TRANSPORT2では、脳梗塞後1〜6か月の上肢まひ患者を対象に、リハビリにtDCSを上乗せする効果が調べられた。・参加者は、偽刺激、2mAのtDCS、4mAのtDCSの3群に分けられた。全員が集中的な上肢リハビリを受け、そのうえで電気刺激の有無や強さを比べた。・結果として、tDCSを追加しても、上肢運動機能の改善は明確には増えなかった。・安全性には大きな問題はなさそうだった。つまり、「危険だからダメ」というより、「足しても効果がはっきりしなかった」という結果である。・特に重要なのは、「電気を流せば少しでもよくなる」という単純な話ではなかった点である。2mA群は、数字上では偽刺激群より改善が小さかった。・今後の課題は大きく3つあると考えられる。ひとつは、刺激の強さや電極の置き方など「装置」の問題である。・ふたつ目は、患者の違いである。脳卒中といっても、損傷した場所、重症度、発症からの時期、残っている神経回路は人によってかなり違う。・みっつ目は、試験の設計である。どの評価指標を使うか、どんなリハビリと組み合わせるか、施設ごとの差をどう減らすかが重要になる。
脳卒中後の回復は、人によって条件が大きく違う。そのため、刺激の強さ、電極の位置、使う時期、組み合わせるリハビリ、患者の選び方をもっと細かく考えなければならない。
TRANSPORT2が教えたのは、tDCSの夢そのものよりも、脳卒中リハビリの難しさである、
というおはなし。
感想:
『tDCSはかなり早いうちに脳に電流が届いていないことが報告されていました。これは電極がチクチクする刺激による「気のせい効果」だなと確信して論文フォローするのをやめました。判断はただしかったようです。TRANSPORT2ではCI療法と組み合わせたそうですが、「類は友を呼ぶ」とはこのことかと納得しました。』
以下、医師国家試験正答率98%AIの進化版GPT-5の回答コピペ↓
判断としては、かなり当たっていたと思う。少なくとも「脳卒中リハビリの実用技術としてtDCSを追い続ける価値は低い」と見切ったのは、TRANSPORT2後の現在から見ると相当まともである。
ただし、厳密には「電流が脳にまったく届いていない」は言いすぎである。頭皮から流した電流で、皮質や深部に小さな電場が生じること自体は、頭蓋内電極を使った研究で確認されている。2mA刺激で皮質電場が動物実験上の有効下限に近い0.8 V/m程度に達するとの報告もあるし、DBS電極を使って視床下核レベルの電位変化を測った研究もある。([eLife][1])
しかし、ここがtDCSの弱いところである。
「届く」と「臨床的に意味のある回復を起こす」はまったく別問題である。大部分は頭皮・頭蓋骨・髄液などで散り、脳内電場は弱く、分布も個人差が大きい。さらに患者が感じるのは、脳刺激というより、電極部位のチクチク感、熱感、かゆみ、違和感である。だから、臨床試験で小さな効果が出ても、それが本当に脳の可塑性なのか、皮膚刺激による覚醒・期待・プラセボ的効果なのかを分けにくい。
TRANSPORT2は、その疑念にかなり強い形で答えてしまった。脳梗塞後1〜6か月の上肢麻痺患者129人を、偽刺激、2mA、4mAに分け、全員にmodified CIMTを併用したが、主要評価のFM-UE改善量に有意差はなかった。改善量は偽刺激群4.91、2mA群3.87、4mA群5.53で、p=0.39である。結論も、2mAまたは4mAのtDCSをmCIMTに足しても、運動障害の追加改善はなかった、というものだった。([ScienceDirect][2])
つまり、あなたの「気のせい効果では?」という直感は、臨床アウトカムの面ではかなり支持された形である。完全に「皮膚刺激だけ」とまでは言えないが、「脳に少し届くから臨床的に効くはずだ」という推論は、少なくとも脳卒中上肢回復では崩れた。
CI療法との組み合わせについても、皮肉としてはよくわかる。CI療法そのものはtDCSよりは証拠がある。EXCITE試験では、発症3〜9か月で手指伸展が残っている選ばれた患者に対して、CIMT群の一部指標に有利な結果が出ている。([ジャマネットワーク][3]) ただし、早期・高強度にやればよいわけではなく、VECTORSでは急性期の高強度CIMT群が90日後にむしろ改善が少なく、「訓練量が多ければよいとは限らない」と結論されている。([WashU Research Profiles][4])
だから、より正確に言うならこうである。
tDCSとCI療法は、どちらも「脳の可塑性をうまく誘導すれば回復を押し上げられる」という魅力的な物語を持っている。しかし、その物語は、患者選択、時期、損傷部位、残存運動機能、訓練量に強く依存する。そこを雑にまとめて「電気刺激+集中リハビリ」としたところで、平均効果は出なかった。
ブログ風に一言で切るなら、
「TRANSPORT2は、脳に電気を流せばリハビリ効果が増す、という素朴な期待をかなり冷たく否定した試験である。tDCSは脳にまったく届かないわけではない。しかし、届くことと、脳卒中後の手の回復を本当に押し上げることの間には、想像以上に大きな溝があった。」
このくらいが、少し辛口で、かつ言いすぎを避けた表現だと思う。
[1]: https://elifesciences.org/articles/18834 "Measurements and models of electric fields in the in vivo human brain during transcranial electric stimulation | eLife"
[2]: https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1474442225000444 "Safety and efficacy of transcranial direct current stimulation in addition to constraint-induced movement therapy for post-stroke motor recovery (TRANSPORT2): a phase 2, multicentre, randomised, sham-controlled triple-blind trial - ScienceDirect"
[3]: https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/203876 "Effect of Constraint-Induced Movement Therapy on Upper Extremity Function 3 to 9 Months After Stroke: The EXCITE Randomized Clinical Trial | Cerebrovascular Disease | JAMA | JAMA Network"
[4]: https://profiles.wustl.edu/en/publications/very-early-constraint-induced-movement-during-stroke-rehabilitati/ " Very early constraint-induced movement during stroke rehabilitation (VECTORS): A single-center RCT\- WashU Research Profiles"
