元2026 1月 日本
脳卒中のあとに起こる「痙縮(手足がつっぱって動かしにくくなる状態)」は、患者の約2~4割にみられ、痛みや歩きにくさ、日常生活の不自由さにつながり、生活の質を大きく下げる原因となる。
この痙縮の治療として、A型ボツリヌス毒素(OnabotulinumtoxinA、いわゆるボトックス注射)は広く使われているが、効果は一時的で、数か月ごとに何度も打ち続ける必要がある。
短期間の効果や安全性については多くの報告があるが、3年以上にわたって繰り返し注射した場合に、本当に安全なのか、どれくらいの人が治療を続け、どんな理由でやめるのか、といった長期の実態はあまり詳しく調べられてこなかった。
そこで、脳卒中後痙縮に対するOnabotulinumtoxinAの長期使用における安全性と、治療を続ける人・やめる人の経過をくわしくしらべてみたそうな。
2012年から2023年までに慶應義塾大学病院でOnabotulinumtoxinA治療を受けた脳梗塞または脳出血後痙縮の患者のうち、少なくとも3年以上経過を追うことができた224人を対象に、過去の診療記録を調べた。
調べた内容は、治療をどれくらいの人が続けているか、やめた理由は何か、副作用はあったか、注射量は年月とともにどう変化したか、である。
治療中止の理由は、「良くなって治療終了」「効果が不十分」「副作用」「別の治療に変更」「転院・引っ越し」「理由不明」に分類した。
さらに、脳梗塞か脳出血かといった病型や、最初の投与量などが治療の継続や終了に関係しているかを統計的に解析した。
次のようになった。
・224人のうち94人(42%)は、2023年の時点でも治療を続けていた。残り130人(58%)は治療を中止しており、その内訳は以下のとおりであった。・症状が改善して治療を終えた:59人・理由がはっきりせず通院をやめた:39人・転院・転居:13人・効果が不十分だった:13人・別の治療に切り替えた:4人・副作用のため中止:2人・副作用で中止したのは2人だけで、歩きにくさや感覚の異常が一時的に悪化したが、特別な治療をしなくても回復した。治療をやめた人の約9割は、8回以内の比較的早い段階で中止していた。・統計解析の結果、脳梗塞の患者は「良くなって治療を終える」ケースが多く、脳出血の患者は「治療を長く続ける」傾向が強かった。また、最初の注射量が少ない人ほど、最終的に改善して治療を終えやすい傾向がみられた。・10回以上治療を受けた人では、注射の回数を重ねるにつれて投与量が少しずつ増えていき、初回の平均約150単位から、10回目には約285単位まで増加していた。
脳卒中後の痙縮に対するOnabotulinumtoxinAの長期反復投与は、3年以上にわたって観察しても、重い副作用はほとんどなく、比較的安全に続けられる治療であることが示された。
患者の半数以上は途中で治療をやめていたが、その中には症状が改善して注射が不要になった人も一定数含まれていた。特に脳梗塞の患者では改善して終了する割合が高く、脳出血の患者では治療を続ける必要がある場合が多かった。
また、長く治療を続ける人では、時間とともに必要な注射量が増える傾向がみられた、
というおはなし。
感想:
『利益相反はないの?』
以下、医師国家試験正答率98%AIの進化版GPT-5の回答コピペ↓
あります。しかもこの論文では、きちんと明示されています。
論文末尾の Competing interests にこう書かれています。
・責任著者の川上教授は
GlaxoSmithKline と 帝人ヘルスケア(Teijin Healthcare)から
**ボツリヌス毒素治療に関する講演料(honoraria)を受け取っている**
と明記されています。
ここで重要なのは構造です。
第一段階:誰が何を売っているか
この研究対象は OnabotulinumtoxinA = ボトックス(アラガン/アッヴィ製)
一方、帝人は主に IncobotulinumtoxinA(ゼオマイン)を扱っています。
つまり「同じA型ボツリヌス毒素市場の競合メーカー」から謝金を受けている。
第二段階:なぜそれでも利益相反になるのか
製品が完全に同一でなくても
・同じ疾患領域(痙縮治療)
・同じ治療クラス(BoNT-A)
・同じ処方決定者(リハ科・神経内科)
を対象にした市場なので、
「ボツリヌス治療は安全で長期に使える」
「一部は改善して終了できる」
というメッセージ自体が、市場全体にプラスに働く構造です。
第三段階:この論文の“微妙な香り”の正体
・安全性を強調
・有害事象は極端に少ない
・改善終了というポジティブな離脱を前面に
・unknown reason の30%を深掘りしない
これは意図的な捏造ではなく、
「産学連携研究で自然に生じるフレーミングの歪み」に非常に典型的です。
要するに、
形式的には
「ボトックスメーカーそのものからの資金提供ではない」
しかし構造的には
「ボツリヌス毒素ビジネス圏からの経済的関係がある研究者による、
長期安全性を強調する論文」
なので、
**利益相反は“弱いが確実に存在する”タイプ**
と評価するのが妥当です。
この論文はデータ自体は真面目ですが、
「安全」「改善で終了」という解釈を
どこまで楽観的に読むかは、
このCOIを頭に置いたうえで割り引く必要があります。
『あなたが言う「この論文の“微妙な香り”の正体」 についてド素人にもわかるように解説して』
超かみくだいて言います。
この論文の「微妙な香り」というのは、
データをウソついているとか、捏造しているとかではなく、
「同じ事実をどういう角度で切り取って語っているか」
に、ほんの少し“商売向きの方向バイアス”がかかっている感じのことです。
たとえ話で説明します。
ラーメン屋が
「うちのラーメン、毎日食べても健康に悪影響ありませんでした」
という調査を出したとします。
調べてみたら事実として
・重い副作用で食べられなくなった人はほぼいない
・中には「もう満足したから来なくなった」人もいる
・でも「味に飽きた」「高い」「通うのが面倒」で来なくなった人も多い
という結果だった。
ところが宣伝文ではこう言う。
「長期に食べても安全。しかも満足して卒業する人もいます。」
事実は正しい。
でも「来なくなった理由の中身のグレーな部分」はあまり語られない。
この論文で起きているのも、構造的にはこれと同じです。
・ボトックスは長期でも大きな副作用は少ない
→ 事実
・途中でやめる人は多い
→ 事実
・その中に「良くなったからやめた人」もいる
→ 事実
でも同時に、
・3割は「理由不明で来なくなった」
・効果が物足りなかった可能性
・通院が大変だった可能性
・費用や期待外れの可能性
こういう「都合の悪いかもしれない理由」は
数字としては出しているけど、深く掘らずに
「安全」「改善して終了」という明るいストーリーのほうを前面に出している。
しかも著者は
ボツリヌス毒素を売る会社(帝人など)から講演料をもらっている。
すると無意識にこうなりやすい。
・危ない話より「安心して長く使える話」を強調したくなる
・「やめた人の闇」より「うまくいった人の光」を語りたくなる
これがあなたに言った
「微妙な香り」
の正体です。
まとめると、
この論文は
「データは真面目」
「でも語り方は“ボトックスに優しい物語構成”」
ウソではない。
ただし
“宣伝寄りの編集”がかかっている可能性がある。
ド素人向けに一言で言うなら:
「成績表は本物だけど、いい点を赤ペンで大きく丸して、
悪い点は小さく端に書いてある感じ」
