2026年1月18日

時間拡張血栓溶解はロシアンルーレットより危うい― 奇跡は1%、死亡増加は70%の結論

2026  1月  アメリカ


脳梗塞の血栓溶解療法は、発症から4.5時間以内であれば効果があることが確立している。一方、最近はMRIやCTなどの詳しい画像で「まだ助かりそうな脳」を選べば、発症時刻がはっきりしない場合や4.5時間を過ぎた場合でも治療できるのではないか、という期待が広がってきた。

しかし、これまでのメタ解析は「良くなったか・ならなかったか」という単純な分け方で評価しており、生活の質がどれくらい本当に良くなるのか、またその効果や危険性がどの程度の確率で起こるのかを十分に示していなかった。

そこで、患者の生活の質を反映した指標とベイズ統計を用いて、4.5時間を過ぎてからの血栓溶解療法が本当に意味のある治療なのかをあらためてくわしくしらべてみたそうな。



発症時刻が不明、または4.5時間を超えた脳梗塞患者に対して、先進画像で脳の状態を評価し、アルテプラーゼやテネクテプラーゼを投与した無作為化試験を集め、まとめて解析した。対象となった試験は計6本である。
結果の評価には、日常生活の自立度を示すmRSに「生活の質の重み」をつけた uw-mRS を用い、「この差なら患者の人生が実感として変わる」と考えられる範囲をあらかじめ設定した。そのうえで、ベイズ統計を使い、「本当に良くなる確率」「ほとんど差がない確率」「害が出る確率」を計算した。



次のことが分かった。

・4.5時間を過ぎてから血栓溶解を行った場合、統計的には少し良くなる傾向は見られたものの、生活の質がはっきり改善したと言えるレベルに達する確率は約1%しかなかった。つまり、100通りの可能性のうち、本当に「人生が変わるほど良くなる」世界は1つしかない計算になる。

・一方で、死亡については、治療によって死亡が増える方向に働いている可能性が高く、「100人治療すると少なくとも1人は余計に亡くなる」程度の増加が起きている確率は約7割と推定された。


先進画像を使って時間を延ばした血栓溶解療法は、「効くかもしれない治療」として期待されてきたが、生活の質という観点から確率で見ると、はっきり良くなる人が出る可能性はごく低く、その一方で死亡が増えるリスクのほうが無視できないことが示された。
つまりこの治療は、わずかな改善の可能性のために、一定の確率で余分な死亡を受け入れている可能性があり、本当に標準治療として広く行ってよいのか、あらためて慎重に考える必要があると結論づけられる、


というおはなし。

時間外血栓溶解治療?



感想:

『時間拡張はそれほどダメなのになぜ希望があるように見えてたの?』



以下、医師国家試験正答率98%AIの進化版GPT-5の回答コピペ↓



見えていた「希望」は、事実というより“見え方の構造”が作った錯覚に近い。

段階的に整理するとこうなる。

第一に、アウトカムの作り方の問題。
これまでのRCTやメタ解析の多くは mRS 0–1 vs 2–6 のように二値化していた。
この方法だと、
・mRS3→2 の小さな改善
・mRS5→4 の生活の質的にはほとんど意味のない改善
も「成功例」としてカウントされる。
すると「有意差あり」「機能予後改善」と表示され、希望があるように見える。

第二に、「統計学的有意」と「臨床的意味」が混同された。
サンプルを集めれば、ごく小さな平均差でも p値は下がる。
しかし患者にとって意味があるか(歩けるようになるのか、介助が外れるのか、人生が変わるのか)は別問題。
今回の論文はそこを uw-mRS と ROPE で切り分けた結果、
「差はあるが、人生を変えるほどの差が出る確率は1%しかない」
と可視化してしまった。

第三に、ベイズ以前の思考様式。
従来は
「有意差あり → 効果あり」
という二分法。
今回の解析は
「どの程度の大きさの効果が、どの確率で起きるか」
を直接問うた。
その瞬間、
“希望的な平均効果”が
“ほぼゼロの臨床的実効確率”
に分解された。

第四に、選択バイアスの心理効果。
画像でペナンブラを選別すると、医師も患者も
「助かるはずの脳を救っている」
という物語を信じやすい。
この“生理学的にもっともらしい説明”が、
実際のアウトカムの小ささと死亡リスクを心理的に覆い隠していた。

要するに、

・二値化
・p値信仰
・平均効果の物語化
・ペナンブラという美しいメカニズム仮説

この四つが重なって、
「時間外でもいける」「希望がある」
という認知的蜃気楼を作っていた。

ベイズ+uw-mRS+ROPEというレンズで見ると、
その蜃気楼の中身は

「ほとんどの人は変わらず、少数がわずかに良くなり、しかし一定割合で確実に死が増える」

という冷たい確率分布だった、というわけ。




『よぼどの奇跡でもないかぎり時間拡張による実感できるベネフィットは得られそうにないいっぽう、かなりな確からさで治療により人が死ぬ、って言いたいのよね。』




概ねその理解でよい。ただし、言い切り方を少しだけ精密にすると、論文の含意はこうである。

・時間拡張血栓溶解が、患者本人が「はっきり良くなった」と実感できるレベルの生活の質改善をもたらす世界に我々がいる可能性は、統計的には極めて低い(ほぼ奇跡に近い側の確率分布にある)。
・一方で、この治療が「治療しなければ起きなかった死亡を、臨床的に無視できない規模で増やしている」世界に我々がいる可能性は、かなり高い確信度で支持される。

したがってメッセージは、

「よほどの幸運な世界に当たっていない限り、時間拡張によって患者が実感できるほどの利益はほぼ期待できない。しかし、同時に、この治療が一定の確からさで余分な死亡を生んでいる可能性は無視できないほど高い」

という“非対称な確信の配置”である。
ベネフィット側は仮説レベルでほとんど確信が持てず、ハーム側は仮説レベルでかなり確信が持てる。このアンバランスそのものが、この論文の核心である。




『4.5時間以内の治療に同様の解析を行った場合もまた、たいして変わらない結論になるんでしょたぶん。 なぜならアルテプラーゼは選択バイアスまみれのナインズ試験しか根拠のないハリボテインチキ治療で有名だから。』




結論が「同じになるかどうか」は、実はかなり微妙で、論理的には分けて考える必要がある。

第一に、解析の“枠組み”を同じにした場合の話。
もし4.5時間以内tPAについても、

・uw-mRSのようなQOL連続指標
・ROPEで「臨床的に意味のある差」を定義
・ベイズで「その差がその大きさ以上である確率」を直接評価

という、今回と同じ厳しい物差しを当てれば、
「統計学的有意=臨床的に意味がある」と単純に言えなくなるのはほぼ確実である。
従来のNNT 7~10という数字も、ROPEを設定した瞬間に
“ほとんどは小さなシフトで、人生が劇的に変わる人は少数”
という分布に分解されるはずである。

第二に、それでも時間内と時間外は質的に違う。
NINDS試験やその後の統合解析には、確かに

・選択バイアス
・アウトカム二値化
・時代背景(血圧管理、抗血小板、画像精度の違い)

といった構造的問題がある。
その意味で「きれいな真理の証明」ではない。

しかし同時に、

・再灌流の生理学的即効性
・早期治療ほど効果が大きいという時間依存性
・後続試験やリアルワールドデータでの一貫した方向性

という点で、4.5時間以内tPAには
「分布の右の尾が確実に存在する」ことを示す証拠は、
時間拡張群よりははるかに厚い。

第三に、あなたの直観が鋭い点。
今回の論文が突きつけている本質は、

「有意差がある治療」
「人生をはっきり良くする治療」
は全く別物である

ということである。
このレンズで見ると、時間内tPAでさえ

・多くはわずかなシフト
・ごく一部が劇的改善
・一定割合に致死的出血

という確率分布になる。
つまり「魔法の治療」ではない。

ただし分布の形は違う。

時間内:
右の尾(明確に救われる人)がそれなりに太い。

時間外:
右の尾が極端に細り、左の尾(死亡・重篤出血)が相対的に目立つ。

だから論理的に言うと、

・同じ解析をすれば、時間内tPAも“神話”はかなり剥がれる
・しかし、時間拡張tPAのように「ほぼ奇跡待ち」レベルまで痩せるかは別問題

となる。

「NINDSはバイアスだらけのハリボテ」という評価には、
方法論的批判として正当な部分もあるが、
それだけで時間内tPAと時間外tPAを同一視するのは、
確率分布の形の違いを無視しすぎている、というのが冷静な位置づけである。

要するに、

時間内tPA:
過大評価はされている可能性が高いが、右の尾は実在する。

時間拡張tPA:
右の尾そのものがほとんど消失している可能性が高い。

今回の論文は、「後者はほぼ宝くじの世界に入っている」ことを
ベイズとQOL指標で可視化した、という位置づけになる。