2026年8月27日

「治療しないと92%死亡」の正体――くも膜下出血“非治療群”のカラクリ

2026  8月  デンマーク


動脈瘤性くも膜下出血(aSAH)の院内死亡率は、これまで7.1~24.1%と報告されてきた。しかし「院内死亡」の定義や観察期間は研究ごとに異なり、治療を受けた患者だけを対象とした研究も多いため、実際の死亡率を評価することは難しい。

そこで、デンマーク全国のほぼすべてのaSAH患者が登録されるデータベースを用いて、脳神経外科への初回入院中の死亡率と、その関連因子をくわしくしらべてみたそうな。



2017年1月~2022年8月にデンマーク脳卒中登録へ記録されたaSAH患者を対象とした。
最終的な解析対象は1,374人で、このうち793人が血管内治療、408人がクリッピング術を受けた。残る173人は、臨床状態が非常に悪く治療に耐えられないと判断され、動脈瘤閉鎖術を受けなかった。
年齢、発症時の重症度、動脈瘤の特徴、再出血、脳梗塞などと死亡との関連を解析した。
さらに、治療差し控えなどによる影響を減らすため、実際に動脈瘤閉鎖術を受けた患者だけの解析も行った。



次のようになった。

・脳神経外科への初回入院中の死亡率は、全体で22.0%であった。

・一方、動脈瘤閉鎖術を受けた1,201人に限ると死亡率は11.9%であった。

死亡と強く関連していたのは、

* 入院時GCSが低い
* WFNSグレードが高い
* Fisherスケールが高い
* 動脈瘤が12mmを超える
* 後方循環の動脈瘤
* 動脈瘤閉鎖前の再出血
* 脳梗塞

などであった。

・一方、高血圧などの既存の心血管疾患は、他の因子を調整すると死亡との関連が弱くなった。


デンマーク全国のaSAH患者を対象とした本研究では、脳神経外科への初回入院中死亡率は22.0%、動脈瘤閉鎖術を受けた患者では11.9%であった。
死亡を大きく左右していたのは、もともとの持病よりも、発症時のくも膜下出血の重症度や、再出血、脳梗塞などの急性期合併症であった、


というおはなし。

高死亡率のからくり



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感想:

『状態が非常に悪いため動脈瘤手術に回されなかった患者が「非治療群」なわけだけど、彼らは何人いてどれだけ死亡したの?簡潔に』



以下、医師国家試験正答率98%AIの進化版GPT-5の回答コピペ↓



非治療群は173人で、そのうち159人が死亡した。死亡率は91.9%である。



『治療しないと91.9%も亡くなるんですね、、、という悲惨なストーリーに合うように非治療群には鎮静を強くして水も栄養も与えずに死亡みたいな扱いもありうるよね。』



ありうる。ただし、この論文からそこまでは確認できない。

論文が明記しているのは、非治療173人は「状態が悪すぎて動脈瘤治療に耐えられない」と判断された患者であり、さらに著者自身が withdrawal of care(治療差し控え・中止)による交絡を問題として認識している、というところまでである。 

したがって、

「予後不良と判断 → 積極的治療を制限 → 死亡」

という自己成就的な経路が91.9%という死亡率に混じっている可能性は十分ある。

ただし、「強い鎮静」「水分・栄養を与えなかった」「人工呼吸器を外した」など、具体的に何が行われたかは本文にデータがない。なので、「91.9%=治療しなかった場合の自然死亡率」と表現するのはかなり危険だが、「その多くが治療差し控えによる死亡だった」とまで断定するのも、この論文だけでは無理である。



『破裂動脈瘤の治療の根拠って、治療vs非治療のRCT(ランダム化比較試験)をもとにしたものではないの。つまりまともな根拠がないまま行われているわけ。それどころか過去に行われた非常に信頼性の高い治療vs非治療のRCTがランセット誌に載っていて(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(65)92616-4)、手術したほうが死亡率は高かったの。
ってことは、今回の研究ではダメそうな患者は非治療群にまわされているから、治療群は回復可能性ありまくりな患者なわけ、それなのに11.9%も亡くなっているのは手術の侵襲性がゆえに死に至った可能性がすくなくないの。そうは思わない?』



その疑いを持つ筋道はかなり理解できる。ただし、「11.9%のかなりの部分が手術侵襲による死亡だ」とまでは、今回のデータからは言えない。ここは分けて考えたほうが強い議論になる。

まず、あなたの重要な指摘は正しい。今回の研究では、非治療173人は「治療するには臨床状態が悪すぎる」と判断された患者で、159人(91.9%)が死亡した。一方、治療群1,201人は少なくとも「clinical condition allowed treatment」、つまり治療可能と判断された患者である。したがって22%対11.9%には、巨大なconfounding by indicationが入っている。 

そして現代のガイドラインを確認すると、ここは意外に重要である。AHA/ASA 2023は「破裂動脈瘤をできるだけ早く治療する」をClass Iで推奨しているが、エビデンスレベルはB-NR、つまり randomized evidence ではなく nonrandomized evidence である。「完全閉塞すべき」という推奨もB-NRである。([AHA Journals][1]) したがって、「現在行われている動脈瘤閉鎖そのものの有効性が、現代的な治療 vs 無治療RCTで確立されているわけではない」という指摘は事実として重要である。

一方、1965年のMcKissockらのLancet RCTについては少し表現を修正したい。これは前交通動脈瘤について保存治療と外科治療をランダム化した歴史的RCTで、現代のレビューでは保存治療死亡率40%、外科治療44%と記載される資料がある。つまり生の数字では確かに手術群のほうが悪かった。([クリニカルゲート][2]) ただし原著の結論は「手術が有意に死亡を増やした」ではなく、「両者の死亡率に差を検出できなかった」である。別の再解析では40%対40%とも報告されており、分母の扱いにも違いがある。([サイエンスダイレクト][3])

しかも1965年の「手術」は現代のクリッピングとはかなり違う。頸動脈結紮、前大脳動脈近位結紮、wrappingなどが多く、neck clippingは約14%だったとされる。([クリニカルゲート][2]) したがって、このRCTをそのまま「現在のclipping/coilingも無効」と外挿することはできない。ここは反論されやすいところである。

しかし、今回の論文に戻ると、あなたが気にしている部分は別に残る。

治療を受けられる程度には救命可能性がある患者だけに絞っても11.9%が死亡している。そして治療群では、治療後に確認された脳梗塞が死亡と非常に強く関連しており、OR 10.9である。著者はこの梗塞を「治療後に発生した、原因を問わない虚血性病変」と定義している。つまり、自然経過によるDCI由来なのか、カテーテル操作・血栓塞栓・クリッピングによる血管障害など治療関連なのかを分離していない。 

ここはかなり気になる。

もし本当に「治療そのものが何人を救い、何人を殺したのか」を知りたいなら、

治療群11.9%死亡
= 原疾患で救えなかった死亡
+ 再出血による死亡
+ DCIなど自然経過による死亡
+ 治療合併症による死亡

を分解する必要がある。

しかしこの研究はそれをしていない。クリッピング死亡10.5%、血管内治療12.6%という数字を出しているだけで、死亡が「治療にもかかわらず」起きたのか、「治療によって」起きたのかは判別できない。

だから私なら、あなたの仮説をこう表現する。

「最重症患者をあらかじめ非治療群へ除外した後の、治療可能と判断された患者ですら11.9%が死亡している。その死亡のうち、治療侵襲そのものがどれほど寄与したのかは本研究では検証されていない。」

これはかなり強い指摘である。

ただし、

「したがって11.9%のかなりの部分は手術で殺された」

まで進むと、この論文には証拠がない。そこを断定せず「この研究デザインでは、その可能性を排除も定量もできない」とするほうが、McKissock RCTと組み合わせた批判としてはむしろ刺さると思う。

[1]: https://www.ahajournals.org/doi/pdf/10.1161/STR.0000000000000436?utm_source=chatgpt.com "2023 Guideline for the Management of Patients With Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage: A Guideline From the American Heart Association/American Stroke Association"
[3]: https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0028377012000331?utm_source=chatgpt.com "Le rôle des essais contrôlés randomisés dans les indications de traitement des anévrismes intracrâniens : que peut-on apprendre du passé ? - ScienceDirect"




『2017年のフィンランドの研究で(http://stroke.ahajournals.org/content/early/2017/03/01/STROKEAHA.116.015933)、動脈瘤を治療しないと65%が死ぬっていう論文があるんだけど、非治療群にすでに亡くなった人を含めるなどメチャクチャな内容なのに治療しない危険の根拠としてやたら引用されてる。今回の研究もおなじくらいアタオカな匂いがするの。』



その「匂い」はある。ただし、2017年Korja論文と今回の2026年論文では、危うさの種類と程度が少し違う。

2017年フィンランド論文はかなり強烈である。510人の「未治療」患者のうち、未治療になった理由は、poor grade 40%、手術困難19%、そして「治療予定だったが治療前に死亡」が16%だった。つまり、治療を受ける予定だった患者が、治療まで生き延びられなかったために「untreated」に分類されている。([ResearchGate][1])

これは単なる交絡より一段まずい。群分けが発症時点で決まっておらず、

治療まで生存した → 未治療群から脱出
治療前に死亡した → 未治療群に残る

という、転帰そのものが群分けに関与する構造だからである。それで1年死亡65%を算出し、さらに著者は「未治療自然歴は従来考えられていたより悪い」「患者・家族との治療選択の説明に有用」と結論している。([PubMed][2])

だから私は、Korja 2017については「未治療自然歴65%」という数字を、そのまま治療しない危険性の根拠として引用するのはかなり問題があると思う。実際、後年のレビューでもこの65%が「untreated ruptured aneurysms have a poor natural history」という形で普通に引用されている。([PubMed Central (PMC)][3])

今回の2026年論文にも似た構造は確かにある。

非治療173人はランダムに非治療になったのではなく、「状態が非常に悪く、治療に耐えられない」と医師が判断した患者である。そこで159人、91.9%が死亡した。

したがって、

重症
→ 「治療しても無理」と判断
→ 動脈瘤を閉鎖しない/場合によっては治療差し控え
→ 死亡
→ 「非治療は91.9%死亡」

という自己成就的な経路が混入しうる。

しかも著者自身、withdrawal of care による交絡を認識している。だから治療患者だけの解析を追加している。

私が今回の論文で特に「ん?」と思うのは、Table 2で「No closure」をあたかも死亡のrisk factorの一つとして扱い、OR 78.7、調整後でも66.3という数字を出しているところである。

だが、この患者たちは「治療しなかったから予後が悪かった」というより、そもそも「予後が悪そうだから治療しなかった」のである。

つまりこのOR 66.3は、かなりの部分、

「医師が死にそうだと判断した患者は実際によく死んだ」

という循環を数字にしているだけ、とも読める。

ただしKorja 2017との大きな違いもある。今回の著者は91.9%を「無治療の自然歴」と呼んで治療効果の証明には使っていない。むしろ治療差し控えの交絡を認めている。その意味では、Korjaほど露骨ではない。

なので私ならこう整理する。

Korja 2017:
「治療前に死んだ人まで未治療群に入れる → 未治療65%死亡 → これがnatural historyであり治療選択の参考になる」
→ かなり危険な因果解釈。

今回:
「救命困難と判断した患者を非治療にする → 91.9%死亡 → 非治療が死亡とOR 66」
→ 因果効果とは主張していないが、治療選択と予後判断が絡み合った数字を“risk factor”として提示しており、同系統の循環性がある。

そしてむしろ今回いちばん考える価値があるのは、「では、最重症者をあらかじめ非治療へ振り分けた後の、治療可能と判断された1,201人でなぜ143人=11.9%も死んだのか」である。

この143人について、原疾患による不可避死亡、再出血、DCI、治療手技による梗塞・出血などを分解しない限り、「動脈瘤治療が何人を救い、何人に害を与えたか」はこの研究からはまったく分からない。ここを突くほうが、単に「91.9%はおかしい」と言うより研究批判として強い。

[2]: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28250196/?utm_source=chatgpt.com "Natural History of Ruptured but Untreated Intracranial Aneurysms - PubMed"
[3]: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11323123/?utm_source=chatgpt.com "Current state of endovascular treatment of anterior cerebral artery aneurysms - PMC"