元2026 8月 インド
中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)は、脳卒中によって脳の感覚に関わる経路が傷つくことで生じる神経障害性疼痛である。
灼けるような痛み、しびれ、アロディニア、痛覚過敏などがみられるが、発症が遅れることもあり、見逃されやすい。
またCPSPは、昔から「視床痛」として知られてきたが、実際には視床以外の病変でも起こる。そこで、急性脳梗塞後にCPSPがどのくらい起こるのか、どのような症状や病変部位がみられるのかをくわしくしらべてみたそうな。
インドの単施設で、2024年6月~2026年6月に行われた前向き観察研究である。
急性脳梗塞患者720人を調べ、MRIで脳梗塞が確認され、NIHSS 5未満、mRS 0~2の比較的軽症な患者を対象とした。
CPSPは、痛みの場所が脳病変と解剖学的に対応していること、感覚異常があること、MRIで対応する病変が確認できること、筋肉や関節、痙縮など別の原因による痛みではないことなどから診断した。
次のようになった。
・720人中100人、13.9%がCPSPと診断された。・CPSP患者の病変部位は、
MCA領域 43%視床 21%PCA・後頭葉 14%内包・放線冠 13%脳幹・橋 4%延髄 4%
であり、視床よりもMCA領域が最も多かった。・また、98%では脳病変と反対側に痛みが出ていた。・視床病変の患者では、視床以外の病変患者よりNIHSSがやや高かった。一方、機能予後について詳しく解析すると、病変部位そのものよりも、NIHSSが高いことのほうがmRS 2と強く関連していた。
比較的軽い脳梗塞であっても、約14%にCPSPがみられた。
CPSPは「視床痛」というイメージが強いが、視床だけで起こるものではなく、MCA領域の病変が最も多かった。
脳卒中後に、病変とは反対側の痛みやしびれ、感覚異常がみられる場合には、CPSPの可能性も考えて経過をみる必要がある、
というおはなし。
感想:
『視床でおおいのはきいてたけどMCA領域もおおいの?新発見なの?』
以下、医師国家試験正答率98%AIの進化版GPT-5の回答コピペ↓
はい。今回の論文では、CPSP 100例の病変部位は
- MCA領域:43%
- 視床:21%
- PCA/後頭葉:14%
- 内包・放線冠:13%
で、視床よりMCA領域のほうが多い。
ただし、ここはかなり重要で、「MCA梗塞は視床梗塞よりCPSPになりやすい」という意味ではない。これはCPSPになった100人の中での分布にすぎず、MCA梗塞全体・視床梗塞全体を分母にした発症率を比較していない。しかも著者らはCPSP陰性患者の詳細な病変データを残していないので、その比較はこの研究からはできない。
そして「新発見か?」については、ほぼNO。
著者自身がDiscussionで、
「CPSPは古典的には視床病変と関連づけられてきたが、皮質、内包、脳幹などでも生じることは既に知られており、今回の結果は最近の文献と一致する」
と書いている。つまり「視床以外でも多い」という発見そのものは新しくない。
今回ちょっと目を引くのは、
「実際にCPSP患者を集めたら、視床21%に対してMCA領域43%だった」
と数字で出たこと。
なので、この論文から受ける印象はむしろ、
「CPSP=視床痛というイメージが強すぎる」
ということだと思う。
なお「MCA領域」は広すぎる分類なので、島皮質、弁蓋、中心後回、深部白質のどこが本当に効いているのかは、この論文では分からない。ここが一番惜しい。
『MCA領域の、島皮質、弁蓋、中心後回、深部白質のどこが本当に効いていそうなの?』
MCA領域のどこがCPSPに効いていそうなのか。
現在の病変研究をまとめると、最も有力なのは、
後部島皮質(posterior insula)
+
頭頂弁蓋(parietal operculum)
+
そこへ視床から入る深部白質
という一続きのネットワークである。
逆に、中心後回(postcentral gyrus、一次体性感覚野)は、CPSPそのものとの結びつきは意外に弱い。
① 後部島皮質+頭頂弁蓋:最も有力な皮質部位
Kim(Neurology, 2007)は、感覚症状を主体とした皮質脳卒中24例を解析した。
痛覚・温度覚などのprimitive sensationの障害は、parietal operculumとinsulaの病変に関連しており、この群ではcentral post-stroke painや異常感覚が多かった。
一方、postcentral gyrusの病変では、立体覚などのcortical sensationの低下やparesthesiaが主体で、post-stroke painとの関連は弱かった。
つまり、
島皮質・弁蓋
→ 温痛覚系が壊れる
→ CPSPが起こりやすい
中心後回
→ 皮質性感覚が壊れる
→ 感覚低下・しびれが主体
という分離がみえる。
参考:
Kim JS. Patterns of sensory abnormality in cortical stroke: evidence for a dichotomized sensory system.
Neurology. 2007;68:174-180.
PMID: 17224568
DOI: 10.1212/01.wnl.0000251298.12763.9b
② 「posterior insula+inner parietal operculum」はさらに強い
Garcia-Larreaら(Brain, 2010)は、皮質脳卒中後に中枢性疼痛と選択的な温痛覚障害を生じた5例を詳細に調べた。
驚くことに5例すべてで、
posterior insula
+
inner parietal operculum
が障害されていた。
位置覚、立体覚などは保たれているのに、温度覚・痛覚だけが大きく障害され、その後に中枢性疼痛が出ていた。
著者らはこれを
「operculo-insular pain」
と呼んでいる。
つまりCPSPの皮質側の急所としては、中心後回よりも「島皮質‐弁蓋」のほうがかなり有力である。
参考:
Garcia-Larrea L, et al.
Operculo-insular pain (parasylvian pain): a distinct central pain syndrome.
Brain. 2010;133:2528-2539.
PMID: 20724291
DOI: 10.1093/brain/awq220
③ ただし、本当の急所は「皮質」だけではなく深部白質かもしれない
ここが最近の研究でさらに面白くなったところである。
Karoamら(Pain, 2025)は、
CPSP 72例
vs
脳卒中後疼痛なし 123例
を使ってlesion-symptom mappingとlesion network mappingを行った。
彼らがあらかじめ設定した侵害受容経路は、
脊髄視床路
↓
後外側視床
↓
視床と島皮質を結ぶ白質
↓
posterior insula / operculum
という経路だった。
実際、CPSP病変はこの経路と強く重なった。
しかもlesion-symptom mappingで最も強く出たのは、島皮質そのものではなく、
ventrocaudal thalamus
+
その隣接白質
だった。
つまり「どの皮質領域を壊したか」以上に、
視床→島皮質・弁蓋へ向かう線維をどこかで切断したか
が重要なのかもしれない。
参考:
Karoam HA, et al.
Neuroanatomy and lesion networks of central poststroke pain.
Pain. 2025;166:e303-e313.
PMID: 40839673
DOI: 10.1097/j.pain.0000000000003618
④ 2026年の研究では「superior thalamic radiation」が出てきた
さらにUragamiら(European Journal of Pain, 2026)は、脳卒中後疼痛114例を痛みの性質によって分類し、病変と白質disconnectionを解析した。
CPSP的な、
cold-evoked pain
tingling
allodynia
numbness
を示す群では、
視床
putamen
posterior insula
の病変が多かった。
そして白質disconnectionで非常に強く出てきたのが、
superior thalamic radiation
だった(Bayes factor >70)。
つまり最近のデータでも、
「視床と皮質をつなぐ深部白質」
がかなり重要な位置を占めている。
参考:
Uragami S, et al.
Lesion and Disconnection Profiles of Pain Quality Subtypes After Stroke:
Implications for Prognosis and Rehabilitation.
Eur J Pain. 2026;30:e70276.
PMID: 42018192
DOI: 10.1002/ejp.70276
以上をまとめると、MCA領域の候補はこうなる。
最有力:
posterior insula + parietal operculum
同じくらい重要そう:
視床からposterior insula/operculumへ向かう深部白質
関連はするがCPSPにはやや非特異的:
postcentral gyrus
したがって、今回の論文の「MCA領域43%」を神経解剖学的に読み替えるなら、
「MCA梗塞だから痛くなる」
というより、
「MCA領域内に存在するposterior insula-operculum系、あるいはそこへ至るthalamocortical white matterを巻き込んだ患者が含まれている」
と考えるほうが筋が通る。
さらに言えば、CPSPを単一の「痛み中枢」の障害と考えるより、
脊髄視床路
↓
後外側視床
↓
深部白質
↓
posterior insula / operculum
という温痛覚ネットワークの一部が中途半端に破壊されることで生じる「disconnection syndrome」と考えるほうが、現在の病変研究をよく説明できる。
この意味では、今回の「MCA 43%」で本当に知りたかったのは「MCAかどうか」ではない。
43人のMRIをもう一度取り出して、
posterior insula
operculum
superior thalamic radiation
internal/external capsule周辺
postcentral gyrus
への病変重複率を比較することである。
それをやれば、この論文はかなり面白い研究になったはずである。
