元2026 10月 オランダ
脳卒中直後に延命治療を制限された患者は、死亡率が高いことが知られている。
しかし、治療を制限したから死亡したのか、もともと死亡しやすい患者に治療制限が行われただけなのかは不明である。
そこで、欧州各国の治療制限の違いを利用し、治療制限と死亡の因果関係をくわしくしらべてみたそうな。
欧州9か国で実施された臨床試験PRECIOUSのデータから、66歳以上の脳梗塞・脳内出血患者1,451人を解析した。登録時に死亡が差し迫っていた患者は除外されている。
登録後24時間以内の治療制限(心肺蘇生、人工呼吸、その他の延命治療、栄養・水分の差し控えなど)を調べ、90日死亡率との関係を分析した。
さらに、治療制限の多い国と少ない国を比較した。
次のようになった。
・患者の19%(276人)に早期治療制限が行われていた。・国による違いは大きく、オランダでは48.1%だったのに対し、イタリアでは0.4%、ポーランドとハンガリーでは0%だった。・また、治療制限を受けた患者のうち19人では、栄養・水分の供給が停止されていた。・治療制限を受けた患者の90日死亡率は39.1%で、制限されなかった患者の18.2%より高かった。交絡因子を調整した死亡オッズ比は3.39だった。・ところが、治療制限の多い国と少ない国を比較すると、90日死亡率は21.3%対23.5%で、有意差は認められなかった。
早期治療制限と死亡率の高さには強い関連があるものの、治療制限そのものが死亡を引き起こしているという証拠は得られなかった。
むしろ、治療制限は患者のもともとの予後不良を反映している可能性が高い。
脳卒中直後の治療制限を避けるようガイドラインで推奨することは、十分な科学的根拠がなく、早計である、
というおはなし。
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感想:
『脳内出血のほうが脳梗塞よりも治療制限率高いって書いてある。論文ではくも膜下出血はふくまないみたいだけど、若い脳出血は早々に脳死扱いにして臓器提供へ廻すかのような医療構造が問題になっている(https://doi.org/10.3389/frtra.2026.1924053)のをみたことがある。尊厳死法的な考え方も臓器需要と絡んでいるわけ(https://doi.org/10.3340/jkns.2023.0074)。こんかいの水も栄養も与えない治療制限って、積極的に殺しにきているわけで、オランダの治療制限率48%や著者の「治療制限を制限するな!」な結論もそういう背景があるんじゃぁ、、ないの?』
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脳卒中の治療制限と臓器提供――オランダの48%は何を意味するのか?
今回の欧州9か国の研究では、脳卒中患者1,451人の19%に早期治療制限が行われていた。特にオランダでは48.1%と突出しており、イタリアの0.4%、ポーランドやハンガリーの0%とは大きな違いがあった。
しかも、研究登録時に死亡が差し迫っている患者は除外されていたにもかかわらず、19人には栄養・水分の供給停止が記録されていた。
ここで気になるのが、脳卒中患者の延命中止と臓器提供との関係である。
2026年のベルギーの研究では、死亡した重症脳損傷患者のうち潜在的な臓器提供者183人を調べ、82人が移植チームに紹介されていなかったことを問題視している。くも膜下出血や脳死に至った患者は紹介されやすかった。
つまり、重症脳損傷患者が潜在的な臓器提供者として評価される医療体制は実際に存在する。ただし、この研究は回復可能な患者を意図的に死なせていることを示したものではない。
また、韓国の研究では、延命医療決定法の施行後、脳血管疾患患者の人工呼吸器中止が0%から28.4%へ増加し、手術拒否も36.6%から58.4%へ増加していた。
一方、臓器提供は13.6%から2.7%へ減少していた。したがって、延命中止の制度が臓器提供を増やしたとはいえない。
では、オランダはどうなのか。
オランダには、脳死後の臓器提供だけでなく、延命治療を中止して心停止した後に臓器を提供するDCDという制度がある。さらに、安楽死後の臓器提供も認められている。
ただし、延命中止の判断は臓器提供とは独立して行うことが原則である。
ここで重要なのは、今回のPRECIOUS研究で栄養・水分を停止された19人について、国別内訳、停止理由、本人の意思、停止後の生存期間、臓器提供の有無が報告されていないことである。
したがって、この19人が臓器確保を目的に治療制限されたという証拠はない。また、栄養・水分の停止は、通常の心停止後臓器提供の手順とも異なる。
しかし、栄養・水分の供給停止は、患者の状態によっては死期を早める可能性がある。それを単なる「治療制限」という分類にまとめてよいのかという問題は残る。
さらに、今回の研究では、早期治療制限を受けた患者の90日死亡率は39.1%、受けなかった患者では18.2%だった。
ところが、治療制限の多い国と少ない国を比較すると、死亡率に有意差がなかった。
著者らはこの結果から、早期治療制限と死亡との関連は因果関係ではなく、もともとの予後不良を反映している可能性が高いと解釈している。
そして、脳卒中直後の治療制限を避けるよう求めるガイドラインの推奨は、科学的根拠が不十分で早計だと結論している。
しかし、国別の死亡率に有意差がないことは、個々の治療制限が死期を早めなかったことの証明ではない。
特に、心肺蘇生を行わないという判断と、栄養・水分を停止する措置では、患者の生存に与える影響が異なる可能性がある。
オランダの終末期医療文化や臓器提供制度が、研究者の問題意識に影響している可能性は検討に値する。しかし、臓器需要が今回の結論を動かしたという証拠はない。
本当に知りたいのは、栄養・水分を停止された19人がどこの国の患者で、どのような状態にあり、誰の判断で停止され、その後どうなったのかということである。
「治療制限は死亡を増やさないかもしれない」という集団統計だけでは、個々の治療制限が適切だったかどうかは判断できないのである。
参考文献
Sluis WM, et al. Treatment restrictions after acute stroke across nine European countries and their association with 90-day mortality. Lancet Regional Health – Europe. 2026.
ベルギーの臓器提供に関する研究(2026)
韓国の延命医療決定法と脳血管疾患に関する研究(2023)
