元2019 3月 フィンランド
もやもや病では、脳への血流を補うためにバイパス手術が行われることがある。
しかし、長期的にみて本当に手術した患者のほうが良いのか、データが十分ではなかった。
そこで、フィンランドのもやもや病患者を長期間追跡し、脳卒中再発や機能予後をくわしくしらべてみたそうな。
対象はヘルシンキ大学病院に登録された61人。
平均9.5年間、合計581人年にわたって追跡した。
このうち26人が血行再建手術を受け、35人は保存的に治療されていた。両群について脳卒中再発やmRS、Barthel Indexなどを比較した。
次のようになった。
・約66%の患者では長期追跡中に新たな血管イベントは起きなかった。・虚血性脳卒中は13.1%、出血性脳卒中は8.2%で、年間脳卒中リスクは約3.5%であった。・手術群と保存治療群の間で、脳卒中再発にも機能予後にも差が認められなかった。・全体では80%がmRS 0~2という良好な状態を保っていた。
フィンランドのもやもや病は、「比較的良性で安定した経過」を示した。しかも、バイパス手術をした患者のほうが明らかに良かったという結果にはならなかった。
もちろんこれはランダム化比較試験ではなく、患者の選択バイアスが存在する。
それでも、「もやもや病なら手術したほうが当然よい」と単純には言えない結果であった、
というおはなし。
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感想:
『論文には「患者の3分の1は脳外科にすら紹介されていなかった。手術の有効性や安全性を裏付けるランダム化試験がないため、手術そのものに懐疑的な医師がいたからである。」ってかいてあるの。ようするに手術を受けたくない患者や、医師がこんなインチキ臭い手術を受けさせたくないと判断した患者はバイパス手術の対象にはなっていなかった、この病院では。巷で報告されている異常なまでの好成績は、全体主義的医療機関によるもので、個々の患者や医師の考えが重視されるシステムにおいては必ずしもすぐれた成績を残さないってことなのよねこの論文は。』
以下、医師国家試験正答率98%AIの進化版GPT-5の回答コピペ↓
かなり近い。ただし、この論文が直接示しているところと、そこからの推論は分けたほうがよい。
論文が明確に書いているのは、保存治療群には「重症すぎて手術対象にならなかった患者」と「ほぼ無症状で手術リスクを取りたくなかった患者」が含まれ、さらに約3分の1は、RCTがなく手術の有効性・安全性に疑問を持つ医師の判断で、そもそも脳外科へ紹介されていなかったということだ。著者自身、この事情によって手術群と保存群の比較には大きな選択バイアスが生じていると認めている。
なので、この論文からかなり強く言えるのは、
「手術ありきではなく、患者の症状、患者本人の意思、担当医の手術に対する評価によって、そもそも手術ルートに乗らない患者がかなりいた。それでも長期成績は手術群に劣らなかった」
という点である。実際、再発脳卒中にもmRSやBarthel Indexにも、手術群と保存治療群で差はなかった。
一方で、
「巷の異常な好成績は全体主義的医療機関だからだ」
までは、この論文だけでは証明できない。施設間の医療文化を比較した研究ではないからである。
ただし仮説としては筋が通っている。手術を積極的に行う専門施設では、紹介バイアス、適応選択、術者選択、軽症例の取り込みなどによって、手術後成績が非常に良く見えることはありうる。このフィンランド研究は逆に、「手術に懐疑的な医師や手術を望まない患者も含めて現実の患者集団を追うと、手術群だけが圧倒的に良いとはならなかった」という、かなり珍しいデータである。
ブログでは「全体主義的」と断定するより、
「手術を当然とする医療システムで得られた好成績は、患者や医師が手術を選ばない自由を持つ集団でも再現するのか?」
と書くほうが、この論文を武器としては強い。
『もやもや病であって良かった、、、 と思えるようなシーンってないの?完全なる病気なの?特殊環境への適応の結果ではないの?』
ある。むしろ、かなり面白い見方ができます。
「もやもや病で良かった」というより、
> 「内頚動脈が細くなるなら、“もやもや血管を作れる体質”で良かった」
という場面は十分考えられます。
もやもや血管そのものは、慢性的に脳血流が不足した結果として発達する側副血行路です。つまり少なくとも「もやもや」は、脳が低灌流に適応して作った非常用バイパスと考えてよい。実際、病気が進むにつれて複数の経路から側副血行が形成されます。([PubMed Central (PMC)][1])
今回のフィンランド研究も妙にその見方と整合します。平均9.5年追跡して、約66%は新たな血管イベントなし、80%はmRS 0–2。そして手術群と保存治療群で脳卒中再発にも機能予後にも差がありませんでした。
少なくとも一部では、自然にできた側副血行がかなり長期間仕事をしていたことになります。
さらに興味深いのがRNF213です。東アジア特有のp.R4810Kは、保有者の大部分がもやもや病になりません。発症率は概算で1/150~1/300程度とされます。つまり「もやもや病遺伝子」というより、環境条件によって血管表現型が変わる遺伝的背景に近い。([Wiley Online Library][2])
しかもこの変異は約5,100~14,500年前に東アジアで生じたと推定されています。研究者自身も、同じ変異を持っていても臨床像が大きく違うことから、環境因子の影響をかなり重視しています。([PubMed][3])
ここからは仮説ですが、私は
「RNF213系の血管特性は、ある特殊な環境では有利だったが、現代環境あるいは特定の刺激との組み合わせで“もやもや病”として現れる」
という発想は、検討する価値があると思います。
ただし現在のところ、p.R4810Kが低酸素・寒冷・感染・食環境などへの適応として正の自然選択を受けた、という証拠まではありません。東アジアで残ったことは founder effect でも説明できます。
なので現時点で一番強く言えるのは、
「主幹動脈狭窄=病的現象」
「もやもや血管形成=それに対する適応現象」
という二層構造です。
「もやもや病は100%壊れた血管系」と捉えるより、かなり正確だと思います。むしろ「異常に対して異常なほど側副血行を作る脳」と見ると、この病気の印象がだいぶ変わります。([PubMed Central (PMC)][4])
[1]: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8864689/?utm_source=chatgpt.com "Moyamoya disease and syndrome: a review - PMC"
[2]: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/ene.16473?utm_source=chatgpt.com "HAPLN3 p.T34A contributes to incomplete penetrance of moyamoya disease in Chinese carrying RNF213 p.R4810K - Xu - 2024 - European Journal of Neurology - Wiley Online Library"
[3]: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34013582/?utm_source=chatgpt.com "An analysis of the demographic history of the risk allele R4810K in RNF213 of moyamoya disease - PubMed"
[4]: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13381305/?utm_source=chatgpt.com "Collateral circulation after revascularization in moyamoya disease: influencing factors and underlying mechanisms - PMC"
