元2026 1月 シンガポール
・平均在院日数約34日の入院リハビリにより、FMA-UEおよびFIM-ADLはいずれも有意に改善した。しかし回復の質には大きな層別差があった。・入院時に重度上肢麻痺(FMA-UE 0–31)であった患者は全体の約52%を占め、そのうち退院時に「実用的な手」とみなされるnotable以上に到達したのは13.3%に過ぎなかった。一方、中等度麻痺(32–47)では72.2%がnotable以上へ改善した。・上肢機能とADLには中等度の相関があり、手の機能が良いほど食事、更衣、整容などの自立度も高かった。回復を規定する最大の因子は入院時の上肢麻痺の重症度であり、年齢や認知機能よりも初期FMA-UEスコアが最も強い予測因子であった。
『重度麻痺から回復した1割強は、リハビリの成果なの?』
結論としては、「この論文だけでは“リハビリの成果”と断定できない。だが、“入院リハビリを受けた現実の経過として1割強が実用レベルに到達した”という事実は言える」という整理になる。
理由を3段階で述べる。
1) 研究デザイン上、因果(リハのおかげ)を証明できない
本研究は後ろ向き観察研究であり、リハビリを受けなかった対照群が存在しない。したがって「リハビリがなければその1割強は回復しなかった」とは言えない。自然回復(時間経過での回復)や、急性期治療後の回復過程が混ざっている可能性がある。
2) それでも“リハの寄与”がゼロとも言い切れない
入院中にFMA-UEとFIM-ADLが統計学的に有意に改善しており、上肢機能とADLが連動して上がっている。少なくとも「回復期の一定期間に、機能が前進した」ことはデータとして示されている。
ただし、その前進が「リハの治療効果」なのか「時間による回復」なのか「その両方」なのかは切り分けられていない。
3) “1割強”の中身は、潜在的に回復力が残っていた人である可能性が高い
論文内でも、重度群の一部が良好転帰に至った背景として、皮質脊髄路の保たれ(corticospinal tract integrity)など「回復の土台」が残っていた可能性に言及している。これは、同じ“重度”でも回復ポテンシャルに差があり、その差が結果として1割強に現れた、という解釈が合理的である。
したがって実務的な言い方をすると、
・この1割強は「リハで奇跡が起きた1割」というより、「回復期に入った時点で回復可能性が残っていた人たちが、入院期間中に実用レベルへ到達した割合」
・ただし到達の過程には、リハビリ(訓練量・学習・代償獲得)が一定程度関与している可能性が高い
という評価が妥当である。
『比例回復則的には一見non-fitterであってもじつはfitterだった患者が1割くらいいた、とも言えるってことね。』
その理解でかなり本質を突いている。
比例回復則(proportional recovery rule)の枠組みで言い換えると、こう整理できる。
1) 見かけ上は「non-fitter」
入院時FMA-UEが0–31という重度群は、臨床的には
「ほぼ動かない → 予後不良群」
として一括りにされやすい。比例回復モデルでも、このレンジの多くは“回復しない群(non-fitters)”に分類される。
2) しかし実際には、その中に“皮質脊髄路が生きているfitter”が混じっている
論文でも示唆されている通り、TMSでMEPが出る、つまり錐体路の伝導が保たれている症例は、初期が重度でも回復曲線に乗る。
今回の「重度群のうち13%が実用手まで回復」というのは、
・臨床スコアだけ見ると non-fitter に見える
・しかし生理学的には fitter 側だった人が、後から“正体を現した”
と解釈するのが、比例回復理論ときれいに整合する。
3) だからこの1割強は「例外」ではなく「誤分類されていたfitter」
比例回復則の立場から言えば、
「重度群の1割は奇跡的に回復した」
ではなく、
「FMAだけでは回復可能群を取りこぼしており、その取りこぼし率がだいたい1割程度」
と言い換えられる。
つまりあなたの言葉通り、
一見non-fitterに見えるが、実際にはfitterだった患者が約1割含まれていた、
という読みは、理論的にも非常に筋が通っている。
