元2026 4月 インド
広範囲の脳梗塞では、脳が大きく腫れて命に関わることがある。これを「悪性中大脳動脈(MCA)梗塞」と呼び、内科治療だけでは死亡率が70%を超えるとされている。
こうした患者には、頭蓋骨の一部を外して脳の圧迫を減らす「減圧開頭手術」が行われる。
しかし、手術で命が助かっても、その後どの程度まで回復できるのかは十分にわかっていない。
そこで、減圧開頭手術を受けた患者の生存率と回復状況をくわしくしらべてみたそうな。
2020~2024年に、インドの大学病院で悪性MCA梗塞に対して減圧開頭手術を受けた31人を調査した。
平均年齢は47.9歳、男性が77%であった。
患者全員がMCAの支配領域の半分以上に及ぶ大きな脳梗塞を起こしていた。
手術を受けた時期は、発症から72時間以内が2人、73~120時間が11人、120時間を超えた人が18人であった。
手術後1年間の生存率と、日常生活の自立度(mRS)を調べた。
次のようになった。
・手術を受けた31人のうち、30日以内に15人(48%)が死亡した。6か月後には18人(58%)が死亡し、1年後も死亡者数は変わらなかった。生存した13人についても、6か月後の時点では全員が重い障害を抱え、日常生活に介助が必要な状態であった。・1年後には10人がある程度まで回復したものの、完全に自立できた人(mRS 0~2)は1人もいなかった。また、入院時の意識障害が重かった9人は全員が死亡した。脳梗塞の範囲が広く、脳の腫れが強いほど死亡しやすい傾向もあった。・一方、手術が発症120時間以内だったか、それより遅かったかによる死亡率の有意差は認められなかった。・死亡した18人のうち、脳の障害そのものが死因だったのは2人だけで、残る16人は肺炎、敗血症、心臓の問題などで死亡していた。
減圧開頭手術には救命効果があり、意識障害が重くなる前に行うことが重要である。
ただし、今回の患者では手術後1年以内に約6割が死亡し、生存者にも障害が残っていた、
というおはなし。
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感想:
『昨日とりあげた減圧開頭術のRCTレビュー(https://doi.org/10.1055/s-0046-1820439)は異様に高い救命率の代わりに生けるしかばね状態になるから家族と相談して死なせてやれみたいに書いてたけど、今回のは完全自立には至らないものの3分の1くらいはまあまあ回復したわけで、「やるじゃん」って感じがするの。手術タイミングが遅いせいで淘汰されてたからかね。』
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その可能性は十分にある。とくに「手術が遅れたことで、患者が自然に選別されていたのではないか」という視点は興味深い。
Golmei論文では31人中18人が死亡したものの、10人(32%)は1年後にmRS 3まで回復していた。
mRS 3とは、日常生活に一部介助が必要でも、自力で歩くことはできる状態である。決して「生けるしかばね」ではない。
しかも、6か月時点では生存者13人全員がmRS 4~5だったのに、1年後には10人がmRS 3まで改善している。これは予想以上の回復といってよさそうだ。
一方、手術のタイミングには興味深い特徴がある。
発症120時間(5日)以内に手術した13人の1年後の生存率は31%だったのに対し、5日を超えてから手術した18人では50%だった。
統計学的に有意な差ではないが、早く手術したほうがよいという一般的な説明とは逆の数字である。
ここで考えられるのが、指摘のとおり「生き残った患者の選別」である。
脳の腫れが急速に進んで命を落とすような患者は、そもそも5日後の手術対象になれない。一方、5日以上持ちこたえた患者には、もともと脳の腫れが比較的ゆっくり進む人や、生命維持に有利な条件を持つ人が多かった可能性がある。
つまり、手術が遅かったから生存率が高かったのではなく、手術が遅くても生き残れる患者だったのかもしれない。
ただし、この研究では手術前に死亡した患者や、手術を受けなかった患者の情報がなく、実際にそのような選別が起きていたかは確認できない。また、遅い手術群のほうが機能的な回復も良好だったかどうかは報告されていない。
なお、Gupta論文も、重度障害と家族の負担を強調する一方で、長期的な機能回復の可能性を認めている。「死なせてやれ」と一律に勧めているわけではない。
それでもGolmei論文の結果は、減圧開頭手術後の患者が重い障害を抱えたまま生き続けるだけとは限らないことを示している。
むしろ、6か月時点の状態だけで回復の限界を決めつけることの危うさが見えてくる。
「やるじゃん」という印象には、それなりの根拠があると思う。
