元2025 12月 ドイツ
・17,985例のうち、血管攣縮が記録されたのは578例で、全体の3.2%であった。そのうち約6割にあたる300例が動脈内ニモジピン投与を受けている。・血管攣縮が起きた群は、起きなかった群に比べて、90日後のmRSが明らかに悪い方向へずれており(調整オッズ比1.25)、死亡率も36%対29.7%と高かった(調整オッズ比1.35)。・一方で、攣縮を起こした患者の中では、ニモジピンを動注された群は、されなかった群よりも「早期の神経症状の悪化」が少なく(調整オッズ比0.54)、悪化リスクがおおよそ半分になっていた。再開通率や出血性合併症については、ニモジピンによる明らかな悪影響は見られなかった。・血管攣縮を起こしやすい条件としては、年齢が若いこと、喫煙していること、M2などやや末梢側の閉塞であること、ステントリトリーバーを第一選択にしていること、そして血栓回収を何度も試みていることなどが挙げられた。
まず、大枠から答えます。
1) 「血管内治療でガラパゴス後進国なのか」
2) 「なぜニモジピンが日本だけ未承認なのか」
この二点を分けて整理します。
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1. 日本は血管内治療の「ガラパゴス後進国」なのか
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視点を分けるとこうなります。
a. デバイス・手技そのもの
日本はステントリトリーバーやアスピレーションカテーテルなど、機器面では国際水準とほぼ同期しており、症例数も多く「後進国」とまでは言いにくい領域です。
b. 血管攣縮・DCIに対する薬物治療
ここはかなり“ガラパゴス”です。
・世界的には
くも膜下出血後の遅発性脳虚血(DCI)予防薬として、エビデンスレベル1Aで推奨されているのは経口ニモジピンだけであり、AHA/ASAガイドラインでも「唯一の標準薬」と位置づけられています。
・日本では
ニモジピンは未承認で、代わりに
ファスジル、オザグレル、シロスタゾール、スタチン、EPA、エダラボン、そして最近はクラゾセンタンなど、日本特有の薬剤が組み合わされて使われています。
つまり、
「世界標準薬ニモジピンが使えない一方で、ファスジルやクラゾセンタンといった世界的にはほぼ日本専用の薬を使っている」
という意味では、かなり典型的な“ガラパゴス構造”です。
今回のEVT攣縮論文も
・多回リトリーバー操作などで攣縮が起きると死亡率・機能予後が悪化
・IAニモジピンで早期神経学的悪化が減る可能性
を示したので、「本来ならニモジピンを自由に使える国であれば、EVTの安全性を底上げできる余地がある」と読めます。日本はその選択肢を持っていないので、ここだけ切り取れば「後進的」という評価は、かなり妥当な部分があります。
ただし公平に言うと、
・日本発のファスジルは、逆に欧米では承認されておらず、日本・中国だけの“ガラパゴス優位”な薬でもあります。
したがって、
「血管内治療の技術そのものが後進国」とまでは言えないが、
「薬物治療のレギュレーションは、エビデンスより薬事・産業構造に引きずられた結果として、かなりガラパゴスで患者に不利な面もある」
というのが、現状に近いと思います。
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2. なぜ日本だけニモジピンが未承認なのか
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公式に「この理由です」と一本化された説明はありません。公開情報をつなぎ合わせると、だいたい次の三層構造になります。
(1) 最初のつまずき:認知症薬として申請して失敗した説
医師・作家の李啓充氏などが指摘している経緯です。
・欧米ではニモジピンは「くも膜下出血術後の脳血管攣縮予防薬」として承認された。
・ところが日本の製薬企業は、この小さな市場(年間SAH患者数は約1万5千人)では採算が合わないと見て、「認知症治療薬」としての適応で大きな市場を狙って申請。
・ちょうどその頃、「脳代謝改善薬」全般への規制強化の流れに重なり、認知症適応での承認が取れず、結果として日本市場にニモジピン自体が入ってこなかった。
この「入口でこけた」ために、SAH用としても申請されず、未承認のまま時代が進んだ、というストーリーです。
(2) その後の停滞:誰も“スポンサー”にならなかった
PMDA資料やガイドラインをみると、
「ニモジピンは海外でaSAH後攣縮予防薬として承認されているが、日本では未承認薬」
と繰り返し記載されています。
一方で、日本には
・ファスジル(日本・中国のみ承認)
・ニカルジピン静注、ペレット製剤
・近年のクラゾセンタン(日本で世界初承認)
といった「国産・日本主導」の薬がそろってしまったため、
・古くて特許も切れた安価なニモジピンのために、高額な国内治験と申請コストを負担する企業インセンティブがほぼない
・厚労省の未承認薬要望リストには載るものの、手を挙げる企業がいないので前に進まない
という、政策と市場インセンティブのミスマッチ状態が続いてきたと考えられます。
(3) 科学的に「ニモジピンは要らない」と判断したわけではない
日本の専門誌や総説でも、
・「DCI予防で確実なエビデンスがある薬は、国際的にはいまなおニモジピンのみ」
・「日本では未承認のため、ファスジル等で代替している」
と明言されています。
つまり、「薬効が疑わしいから承認しない」のではなく、
「効くことはみんな知っているが、利害のからみで誰も正式に持ち込まなかった」
という構図に近い。
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3. あなたの問いに対するまとめ
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あなたの文章を前提にすると、次のように言えます。
・EVTで何回も血栓除去を試みるほど、攣縮リスクが上がり、今回のGSR-ET解析のように死亡・機能予後が悪化しうることは、かなりはっきりしてきた。
・本来なら、こうした手技起因の攣縮に対してもニモジピンという「世界標準薬」を自在に使えるはずだが、日本では制度の都合で封じられている。
・その一方で、ファスジルやクラゾセンタンなど高価で日本特有の薬に依存している。
この全体像を踏まえると、
「日本は血管内治療で、少なくとも薬物面ではガラパゴス後進国と呼ばれても仕方がない」
という理解は、かなり現実に近いと私は考えます。ただし、それは
「科学的にニモジピンを否定して選んだ結果」ではなく、
「薬事行政と製薬ビジネスの都合で、安価でエビデンスの確立した薬が取りこぼされ、高価な新薬が優遇されてきた結果」
という性格が強い、という点だけは押さえておくとよいと思います。
