元2025 11月 日本
・降圧薬開始時点の平均血圧は約 148/92mmHg であり、開始後約 1 年の平均血圧は 134/83mmHg であった。・つまり、薬によって血圧は有意に下がっていたが、それでも JSH2025 が掲げる目標である「130/80mmHg 未満」を達成していたのは全体の 26.7%にとどまっていた。・都道府県別にみると、患者背景を調整したうえでも、130/80mmHg 未満の達成率には最大 7.4 ポイント程度の差が残っていた。・達成率が高い県ほど脳血管疾患死亡率は低く、達成率が 1 ポイント高いと、10 万人あたり約 3.5 人分、脳卒中死亡が少ないという関連がみられた。・医療資源との関係では、医師の偏在を示す PUDI が高い(人口あたり医師が多い)地域ほど血圧コントロールが良いという有意な相関がみられ、医師が少ない地域では目標達成率も低い傾向が示された。
いい問いかけだと思うので、あえて論点をはっきり分けて答えるね。
1. 「寿命ほぼ世界一」と「達成率3割未満」は、たしかに噛み合っていない
事実関係だけ並べると、
- 日本人の平均寿命・健康寿命は世界トップクラス
- 高血圧治療はすでに広く行われている
- それでも「130/80 未満」の達成率は 3割未満
という組み合わせなので、
「その“目標”って、ほんとにそこまで下げる必要あるの?」
と疑うのは、かなり自然な反応だと思う。
少なくとも、
- 130/80 を“全員に”求めないと長生きできない
- 130/80 を達成できていないから日本人の健康が危ない
という話では「まったくない」。
現実には、もうかなり良いところまでは来ていて、その上をさらにどこまで攻めるか、という「利益が小さくなっていく領域」の議論になっている。
2. 3割しか達成していない → 目標が「実臨床から浮いている」可能性
論文の設定は「年齢関係なく 130/80 未満」で、これは
- 若年〜中年・ハイリスク患者には“そこそこ妥当”
- フレイル高齢者・合併症だらけの人には“かなり攻め過ぎ”
というラインであることが多い。
だから、
- 達成率が低いからといって「医者がサボっている」とも言えないし
- 逆に「こんなに達成できないなら、そもそも目標設定が現実とかけ離れているのでは?」と疑うのは合理的
という両面がある。
日本のガイドラインも、本当は年齢やフレイルで目標を変えているわけで、「一律130/80」は研究上の“物差し”に近い。
その物差しを、そのまま「国民全員が達成すべきライン」と読むと、かなり無理が出る。
3. 「医者が余計なことをしている」部分は、どこに潜んでいるか
ここを少し分解すると見えやすい。
ざっくり、血圧とリスクの関係はこんなイメージになりやすい:
-
160〜170/100 前後 → 140/90 くらいまで下げる
- 脳卒中・心血管イベントの減少効果は「大きい」
- ここは「やった方がいい介入」が多いゾーン
-
140/90 → 130/80
- 効果はあるが、絶対リスク減少は小さくなる
- 人によって「やった方がいい」「どっちでもいい」が分かれ始めるゾーン
-
130/80 → 120/70 近辺
- 一部の高リスク群ではメリットがあるが
- フレイル高齢者では、失神・転倒・腎機能悪化など「害」の方が目立つこともあるゾーン
問題なのは、現場で
- 本来は「①の大きなリスク群」にもっとリソースを割くべきなのに
- すでにかなり下がっている「②〜③の人」にも一律に薬を足して、
- 数字だけ 130/80 未満を追いかける
というパターンが起きがち、という点である。
この層に対しては、あなたの言う
医者が余計なことをしている
という評価が当てはまるケースが現実に混ざっている、と見てよいと思う。
特に高齢者・フレイル・多剤併用では、過剰な降圧が「QOL悪化+転倒リスク↑」に直結しうる。
4. じゃあ「目標が完全に間違い」なのかというと…
一方で、
- 中年期からの高血圧放置が、脳卒中と心不全を大量に生んできた
- 降圧薬普及とともに、日本の脳卒中死亡が大幅に減った
という歴史的事実もある。
だから、
「血圧介入そのものが余計」というところまで振り切るのは、さすがにデータと合わない。
より妥当なのは、
- 「130/80 を“全員一律で”目指す発想」は怪しい
- 特に高齢・フレイル・多疾患の層では、明らかにやり過ぎが混ざる
- 一方で、中年〜若年・ハイリスク層でちゃんと 130/80 近辺まで抑えること自体は、今もそれなりに意味がある
という整理だと思う。
5. あなたの一文をどう位置づけるか
あなたの主張を少しだけ整えて書き直すと、
平均寿命がすでに世界トップクラスの日本で、あえて全員に 130/80mmHg という厳格な数値目標を押しつける必然性は弱い。
それにもかかわらず、達成率が 3 割に満たない現状を「医療側の努力不足」とみなして、さらに薬を積み増そうとする発想は、過剰医療を増やす方向に働きやすい。
特に高齢者では、医者が“余計なこと”をしている部分が少なからず含まれている可能性が高い。
このくらいの言い方であれば、
- エビデンスとも大きく矛盾せず
- 今のガイドライン運用への健全な異議申し立て
として十分成立している、と私は考える。
要するに、
- 「高血圧介入の全てが余計」ではない
- しかし「一律130/80」という設定と、それを数字だけ追いかける医療文化は、かなり怪しい
というところまでは、堂々と問題提起してよいと思う。
