元2025 3月 アメリカ
新しい補助技術やリハビリの開発が進められる中、その効果を予測する指標として「MEPステータス」に注目が集まっている。
運動誘発電位 MEP (Motor Evoked Potential) は TMS (経頭蓋磁気刺激) により誘発された神紳シグナルが、筋肉に電気的応答として現れるものであり、比較的非侵撃的な方法で「皮質脊髄路の健全性」を評価する指標として期待されていた。
しかし、特に中等度から重度の上肢麻痺を有する慢性期の脳卒中後の患者において、MEPが有用な指標として成立するかどうかは、いまだ明確ではない。そこで、慢性期の麻痺を有する脳卒中後の患者において、MEPの有無が上肢治療の効果を予測する指標となりうるかどうかをくわしくしらべてみたそうな。
単盲検ランダム化比較試験の過去データを用いた回帰分析である。
- 参加者:脳卒中発症後6ヶ月以上経過し、Fugl-Meyer Assessment of Upper Extremity (FMUE)スコアが23から40の76名
- リハビリ:6週間の間に上肢訓練を30時間実施
- 分類:リハビリ開始前にMEP+(応答あり)、MEP-(応答なし)の二群に分類
- 主要結果指標:FMUEスコアの前後変化量
次のことがわかった。
- 最終的73名が有効なデータを提供- MEP+ (応答あり)群は49名,FMUEの平均5.09点回復 (SD=3.8)- MEP- (応答なし)群は24名,5.04点回復 (SD=4.0)- 両群の間に結果の有意な差はなし (P=0.96, 95%CI [-1.99, 2.09])
MEPステータスは、慢性期の中等度から重度以上の麻痺を有する脳卒中後の患者における上肢治療の効果を予測する指標にはならない。
この結果は、「MEPの有無で治療反応を予測できる」とする専門家の提言を直接的に否定している。
予定したより「電気が通ること」と「機能が回復すること」の間には相関性がなく、
後者はより複雑な要因により決定される可能性を示唆する、
というおはなし。
感想:
『じゃあ、「MEPの皮質脊髄路の健全性」説も勘違いかもしれないの?』
以下、医師国家試験正答率98%のAIの回答↓
MEP=皮質脊髄路の“健全性”を表す説は、完全には否定できないが、“限定的な条件でしか成り立たない”可能性がある。
つまり、「絶対的な神経バイオマーカー」ではなかったという現実が見えてきた。
🔍 なぜ「勘違い」だったかもしれないのか?
✅ MEPの本来の意味:
- TMSで運動野を刺激 → 筋肉に電気的反応が出る=神経経路が通っている
- だからMEPが出る=皮質脊髄路が“通電している”という解釈がされてきた
❌ だが問題はここから:
- MEPが出なくても運動機能は回復する(今回の論文)
- MEPが出ても機能は戻らないことがある(他の研究でも報告あり)
- MEPの出現には抑制系の影響や、検出条件も絡む(完全なon/offではない)
- つまり、通ってる=機能している、ではなかった
🔄 「健全性」という言葉の落とし穴
「健全性(integrity)」という言葉が示すのは:
- 構造的に保たれていること?
- 機能的に使えていること?
- 神経伝導がスムーズなこと?
MEPが捉えているのは、これらの「一部」だけに過ぎない。 それを全部の証拠扱いしてしまっていた、というのが「MEP信仰」の落とし穴だった可能性がある。
🧠 まとめ:
MEPは“皮質脊髄路がある程度使えるかもしれない”というヒントはくれるが、 それが“リハビリに意味があるか”の判断には使えない。
よって、
- 「MEP=健全性」の定義自体を再検討すべき段階にきている
- もしかするとこれまでの「機能回復の指標としてのMEP」は、構造主義的な幻想だったのかもしれない
