元2025 7月 アメリカ
頸動脈解離(Cervical Artery Dissection: CAD)は、比較的若い世代にも起こり得る脳梗塞の原因であり、再発予防がとても重要である。
一般的に、脳梗塞の後にはスタチン(コレステロールを下げる薬)が再発予防に役立つとされているが、CAD は動脈硬化とは異なる仕組みで起こるため、スタチンが本当に効果を発揮するのかははっきりしていなかった。その疑問を明らかにするため、STOP-CAD 研究のデータを使って検証してみたそうな。
STOP-CAD 研究に登録された 4,023 人の患者のうち、CAD による虚血性脳卒中だった 2,610 名を対象とした。
退院時にスタチンが処方されていたグループと、処方されていなかったグループに分け、退院後の脳梗塞再発を中心に比較した。併せて、「重大な出血」「90 日後の生活機能(mRS≤2)」「死亡率」も評価した。
また、スタチンの強さ(高強度 vs 低〜中強度 vs 非使用)による差も調べた。
次のことが分かった。
・退院後の脳梗塞再発率は、スタチン使用群 3.1%、非使用群 3.3%で、統計的に差はなかった(調整 HR 0.73, p=0.256)。・重大出血、90 日後の機能回復、死亡率についても、有意な差は見られなかった。・さらに、スタチンの強さ別に見ても、結果に違いはなかった。
頸動脈解離による脳梗塞患者では、スタチンを使っても再発予防や転帰改善に明確な効果は示されなかった。一般的な脳梗塞ではスタチンが役立つことも多いが、CAD は病気の仕組みが別であるため、同じ効果を期待できない可能性がある、
というおはなし。
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まさに、その理解で正しいと思う。
今回の論文が静かに突きつけているのは、
「強い根拠がないまま、慣習的にスタチンが処方され続けている」現実
である。
数値をもう一度整理すると:
- STOP-CAD 全体から対象となった CAD 由来脳梗塞患者 2,610 名のうち
- 1,750 名(67%)が“とりあえずスタチン”を処方されていた
- しかし再発率はほぼ同じ(3.1% vs 3.3%)
つまり、
“効くから使われている”のではなく、
“使うことが前提になっているから使われている”
という構造が露わになった。
背景として考えられるのは:
- 脳梗塞=とりあえずスタチン
(実は CAD は動脈硬化性ではないのに) - ガイドラインの空白領域
- 個別化医療より慣例が優先される現場文化
- 予期せぬ再発を恐れた「保険医療的」処方
さらに興味深いのは、論文中の Table 2 に示されている通り、
スタチン群は動脈硬化リスクが高めの人が多く、
“なんとなく出された”というより“出す理由があるように見えた”患者が多い
という点。
しかし、結果として効果は同じ。
言い換えると:
スタチンで改善できる病態ならそもそも CAD は起きていない
CAD の本丸は血管壁の脆弱性であり、LDL ではない可能性が高い
だからこそ今回の論文は価値があり、
医学の常識が思い込みだった可能性
証拠よりルーティンが優先される医療の構造
患者の数と処方量が、科学の強さを意味しない
という問題を照らしている。
まとめると:
エビデンスが弱い領域ほど、処方が過剰になる現象の典型例
CAD 症例でスタチンを使う“必然性”は、実はほとんど確認されていない。
