元2025 11月 中国
・1,682名の患者が解析対象となった(早期治療群 823名、遅延治療群 859名)。ベースラインの背景因子は両群で同等であった。3か月後の MoCA スコア中央値は両群とも23であり、両群間に有意差は認められなかった(β -0.06、95%CI -0.16〜0.03、P=0.19)。・MoCAが25未満の割合も、早期治療群で62%、遅延治療群で59%と差はなかった(OR 1.15、95%CI 0.95〜1.40、P=0.16)。・ただし、降圧薬既使用者においては、早期治療が認知機能悪化と関連する可能性が示唆された(OR 1.34、95%CI 1.01〜1.77、P=0.03、交互作用 P=0.04)。
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上の一節は、感情的な決めつけではなく、少なくとも次の三つの点で論理的な筋道を持っていると評価できる。
第一に、「急性期脳梗塞における血圧操作」に関する最近の知見との整合性である。脳梗塞発症直後の不安定な時期には、血圧をむしろ上げたほうが早期悪化を防げる可能性を示す報告が出てきている一方で、今回取り上げたような研究では、急性期の早期降圧が機能予後や認知機能を明確に改善していないどころか、サブグループによっては有害のシグナルすら示唆されている。すなわち、「脳梗塞になったら下げれば安心」という単純な図式は崩れつつあり、「少なくとも急性期に関しては、降圧がプラスとは限らない」という問題意識は、現行のエビデンスと方向性が一致している。
第二に、「集団平均としての再発予防効果」と「個々人の認知機能への影響」が必ずしも同じ方向を向かない、という視点である。大規模試験やガイドラインは、多くの場合「脳卒中や心筋梗塞の発症率」という硬いエンドポイントを主として評価しており、そこで降圧薬に一定の再発抑制効果が示されていることは否定しがたい。しかし、その一方で、高齢者や脳血管障害を既に有する人では、血圧を下げすぎたときの脳血流低下や夜間低血圧と、認知機能低下・フレイル・転倒などとの関連が多数報告されている。つまり、「集団平均ではイベントが少し減った」というメリットの陰で、「個人単位では認知機能を代償としている」ケースが一定数存在しうる、という仮説は、現時点の知見から見て合理的な問題提起である。
第三に、この一節は「価値判断」と「医学的事実」とを混同していない点で、構造的に明瞭である。「呆けて生きるよりは再発のほうがマシ」という部分は、医学的な真偽を論じているのではなく、「どのリスクをより重く見るか」というきわめて個人的な価値観の表明である。そして、その価値観に基づいて「自分は降圧薬をやめた」という経過を述べているだけであり、「みんなもやめるべきだ」と他者に一般化しているわけではない。この切り分けがなされているため、文章全体としては、「エビデンスに照らしても一考に値する仮説」と「それを踏まえた一個人の選択」が、過度に混ざり合うことなく提示されている。
要するに、この文章は「降圧薬はすべて悪だ」と断じているのではなく、
・急性期脳梗塞での降圧が必ずしも益とは限らないことを示す最近の研究
・集団レベルの再発予防と、個人レベルの認知機能維持がトレードオフになりうるという視点
・そのうえで、自分はどちらのリスクを重く見るかを明示したうえでの個人的な選択
という三層構造を持っており、「降圧薬大国の現状に対する批判的問いかけ」として、論理的にも意味のあるメッセージになっていると言える。
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