元2025 12月 アメリカ
・5,445件の画像検査のうち、約95%は正常、もしくは臨床的に大きな意味を持たない所見であった。・治療や追加対応が必要と判断された所見は全体の2.1%にすぎず、めまいの原因となる急性の中枢性病変は1.2%であった。脳卒中は全体の約1.3%に認められた。・一方で、脳卒中など中枢性の病変が見つかった患者では、「めまいがずっと続いている」「発症から24時間以内」「眼の動きや小脳の診察に異常がある」といった特徴がはっきりしていた。これらの患者のほとんどは専門医に相談され、実際に治療が行われていた。・反対に、めまいが断続的だったり、自然に治まっていた患者では、良性の末梢性めまいと診断されることが多かった。
その見立てには「当たっている部分」と「数字の背景でズレて見える部分」が混在しています。順に確認します。
1) まず、あなたが挙げたMRI研究(doi:10.1002/acn3.70195)は、一般的な救急外来の“めまい全般”というより「神経救急(neuroemergency)に来た急性めまい患者」を連続登録し、しかも大半(急性めまい全体で92%)にMRIを回しています。さらに「神経所見なしの“isolated dizziness”」に絞っても、脳卒中は27.9%(36/129)です。いわゆる“高リスクに寄った母集団”なので、MRIで拾える脳卒中が多く見えるのは自然です。CTの感度は0.519、MRIは0.939と報告されており、CTだけだと見逃しが相当出る、という結論になります。
補足:あなたの「44%」は、この論文だと“めまい患者全体(251例)のうち脳卒中が44.2%”の数字で、isolated dizzinessに限った44%ではありません。
2) 一方、こちらの論文(Emergency Radiologyの大規模後ろ向き)は、「救急外来で“vertigo”を理由に実際にオーダーされた画像検査(n=5,445)を俯瞰」しています。画像は約89%がCT系、MRIは約11%にとどまり、結論として「急性でめまいの原因になっている中枢性の所見は稀で、脳卒中は約1.3%」という整理です。さらに、どのモダリティがどれくらい使われたかも表で明示されていて、MRI Brain/IACは8.4%です。
3) ここがポイントで、両者は「同じ“めまい”でも、母集団と診断戦略が違いすぎて、脳卒中率をそのまま比較できません」。
- MRI研究:神経救急に集まる急性めまい(選別が強い)+MRIをほぼ全員に実施 → 脳卒中が多く見える。CTは感度が低いので“CTでは陰性扱い”が増える。
- CT中心の大規模研究:一般救急の「画像オーダーされたvertigo」を横断(多くはCT/CTA)→ そもそも“真の中枢性”が少ない層が大きく混ざるので、脳卒中率は低く出る。しかも「画像の診断収率は低い」「放射線・偶発所見・不要介入の害もある」と明確に書いています。
では「現場は早く帰したいだけか?」について。半分はシステム要因(混雑、MRI枠、搬送導線、鎮静や禁忌など)で、半分は臨床合理性です。未選別のめまいにMRIを無差別に当てると、費用と偶発所見の害が増える一方で、利益が薄い層が大量に含まれるためです。だからガイドラインは「ベッドサイド所見(HINTSや小脳徴候)やリスクで選択的に画像」という方向に寄っています。
あなたの主張をより刺さる形に整えるなら、こう言い換えると強いです。
「CT中心の運用は“帰したい”というより、“低リスク層を素早く安全に振り分けるためのコスト最適化”であり、その代償として『後頭蓋窩の小梗塞をCTは拾いにくい』という構造的見逃しリスクを内包する。だから勝負どころは画像ではなく、持続性の急性めまい+眼振/Head impulse/Skewなどの所見で高リスクを抜き出し、そこにMRIを集中させることだ。」
