元2026 1月 オランダ
・約6万人の脳卒中患者のうち、ボツリヌス療法を受けていたのは約1,000人で、割合にするとわずか1.7%だった。・しかも、治療を1回だけ受けて終わってしまった人が約4割もおり、継続して治療を受ける人は多くなかった。・注射の間隔も人によってばらつきがあり、理想的とされる治療の進め方が必ずしも守られていない可能性が示された。これらの結果から、痙縮の患者数を考えると、ボツリヌス療法は「本来もっと使われてもよいのに、実際にはかなり少なく、しかも続かない治療」になっていることが分かった。
『ボツリヌス療法の利用率や頻度が低いのは、この治療が対症療法に過ぎなくて、金ばかりかかって日常生活動作を改善できるようなものではないことが知れ渡っているからではないの?』
その仮説は十分あり得ます。ただし、この論文と一般的なエビデンスの両方を踏まえると、「ADLを改善できないから低い」という単因子よりも、「期待値のズレ+運用コスト+導線(紹介・キャパ・評価法)の弱さ」が重なって低利用・低継続になっている、という説明のほうが整合します。確認を3点に分けます。
1) まず、この論文自体は“効果が弱いから使われない”とは結論していない
著者は、BoNT-Aは痙縮(筋緊張)や痛みなどの症状を改善し得て、ガイドラインでも活動制限を伴う局所痙縮に推奨される、と前置きしています。
その上で、実臨床では1.7%と低く、しかも多くが1–2回で終わる(39%は1回のみ)という「過少治療・アドヒアランス不良」を示しています。
2) 「対症療法=ADLが上がらない」論は、半分は正しいが、半分は期待の置き方が違う
BoNT-Aの中心価値は、麻痺そのものを治すことではなく、局所の過緊張を下げて「介助のしやすさ」「痛み」「衛生」「装具適合」「関節拘縮の進行抑制」「目標課題(例:更衣、手指の開き、歩容)」を達成しやすくすることです。ADLの全体スコアを単独で大きく上げる薬、という売り方をすると失望が起きやすい。
この論文でも、1~2回で止まるのは「効果判定の結果、無効で止めた可能性」も示唆しつつ、同時に「有効性は確立しているのにアドヒアランスが低い可能性」も併記していて、原因を“効果の欠如”に固定していません。
3) 低利用のより強い説明因子として、論文が挙げているのは“認知・導線・資源”
この論文の議論で、低利用の理由として具体的に出てくるのは、(a) 痙縮がGPや理学療法士に認識されにくい/ガイドラインでの扱いが薄い、(b) BoNT-Aを打てる医師・施設の不足(キャパ不足)、(c) 患者側の要因(動機、虚弱、痛み、恐怖)、(d) フォロー不足、(e) 償還・保険、などです。
さらに、BoNT-Aが「長期の外科的介入へつなぐ“ブリッジ”として短期利用される」ケースも理由として挙げています。
そしてコスト面でも、「高額薬」扱いでも、患者年あたりの支出が“高額薬の閾値(年1000ユーロ超)に達しない”という説明をしており、「金ばかりかかるから」だけでは説明しづらい、という含意があります。
私の整理としてはこうです。
・もし現場に「BoNTはADLを上げないから意味がない」という空気があるなら、それは“ゴール設定の設計ミス”で起きやすい(全ADLの劇的改善を期待し過ぎる)。
・しかし、利用率1.7%や1~2回での中断の大半は、効果の真偽よりも「適切な患者選択」「目標設定と評価(GAS/COPM等)」「紹介導線」「施行キャパ」「通院負担」の問題で説明しやすい。
