2026年9月8日

脳梗塞も脳出血もシロスタゾール?――“血液サラサラ薬”の意外な実力

2026  9月  台湾


脳内出血では、血のかたまりである血腫が脳を圧迫するだけでなく、赤血球が壊れたあとの物質も脳を傷つける。そのため、血腫をできるだけ早く片づけることが重要である。

近年、脳脊髄液や老廃物を首のリンパ節へ流す「硬膜リンパ管」が、血腫の除去にも関係していることがわかってきた。

シロスタゾールがこの硬膜リンパ管を増やし、脳内の赤血球の除去を促すことがわかっている。ただしシロスタゾールは抗血小板薬でもあるため、脳出血を悪化させる心配がある。

そこで、通常の臨床に近い量のシロスタゾールを飲ませたとき、血腫の除去と回復を助けながら、出血を悪化させないかをくわしくしらべてみたそうな。



マウスの脳内にコラゲナーゼを注入して脳内出血を起こし、シロスタゾールを経口投与した。

投与量は、ヒトで通常使われる100~200mg/日に相当する量を含むように設定した。

発症3時間後から投与する群のほか、発症3日後から始める群や、発症前から投与する群もつくった。
血腫の大きさ、硬膜リンパ管の増え方や排液機能、神経細胞やシナプスの損傷、運動機能、認知機能などを調べた。



次のようになった。

・シロスタゾールを投与したマウスでは、硬膜リンパ管が増え、脳から首のリンパ節への排液がよくなった。

・それに伴って血腫が小さくなり、神経細胞やシナプスの損傷も減り、神経機能も改善した。

・さらに長期的にも、脳内に残る赤血球や脳損傷が減り、認知機能の一部も改善した。

・また、抗血小板作用をもつ薬であるにもかかわらず、発症前から投与していた場合も、発症3日後から投与した場合も、血腫が大きくなることはなかった。むしろ血腫は小さくなっていた。


シロスタゾールは、硬膜リンパ管を増やして脳からの排液をよくすることで、脳内出血後の血腫除去と神経回復を促す可能性がある。
しかもこの動物実験では、抗血小板薬でありながら出血を悪化させなかった、


というおはなし。

シロスタゾールすごい




感想:

『あたまに穴を開けて血種を取り除く手術はやっちゃいけないとSTICH試験であきらかになったにもかかわらず、内視鏡手術でチューチュー吸い出している脳外科医が後を絶ちません。この治療法がヒトで効果を示せればアタオカ医が減るかもしれませんね。』



以下、医師国家試験正答率98%AIの進化版GPT-5の回答コピペ↓



この論文の方向性がヒトで再現されれば、たしかに「血腫は物理的に取るしかない」という発想にはかなり強い揺さぶりになります。

ただし、STICHについては少しだけ修正が必要です。STICH I・IIが示したのは「開頭して血腫を除去する手術を広く行っても、全体として機能予後を改善しなかった」ということであって、「血腫除去手術はやってはいけない」とまで証明したわけではありません。現在も救命目的の開頭術や、選択された患者への低侵襲手術には余地があります。AHA/ASAガイドラインも、通常の開頭血腫除去の利益は不確実とする一方、低侵襲血腫除去は死亡を減らす可能性があるとしています。([AHA Journals][1])

しかも2024年のENRICH試験では、30~80 mLの脳内出血に対する早期低侵襲血腫除去で180日機能予後が改善しました。ただし効果は主に「脳葉出血」で認められ、前方基底核出血では明確ではありませんでした。したがって「内視鏡で吸うこと自体が根拠なし」とも、今は言い切れません。([New England Journal of Medicine][2])

そのうえで今回のシロスタゾール研究は面白い。もしヒトでも、

「薬を飲む → 硬膜リンパ排液が強まる → 血腫が早く減る → 機能予後まで改善する」

となれば、手術適応をかなり狭められる可能性があります。しかも発症3日後開始でも血腫減少が認められた点は、緊急手術とはまったく異なる治療概念です。

ブログの論点としては、「手術医がおかしい」より、

「血腫は本当に“吸い出す”必要があるのか――薬で脳自身の排出能力を高めるという逆転の発想」

のほうが、現在のエビデンスにも合っていて、かなり刺さると思います。

[1]: https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/STR.0000000000000407?utm_source=chatgpt.com "2022 Guideline for the Management of Patients With Spontaneous Intracerebral Hemorrhage: A Guideline From the American Heart Association/American Stroke Association | Stroke"
[2]: https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2308440?utm_source=chatgpt.com "Trial of Early Minimally Invasive Removal of Intracerebral Hemorrhage | New England Journal of Medicine"




『ENRICH試験って利益相反モリモリのインチキ試験だったんでしょ。』



「利益相反モリモリ」はかなり当たっています。ただし「インチキ試験」と断定できる証拠まではありません。

ENRICHは、使われたBrainPath/Myriadを製造するNICO Corporation自身がスポンサーで、ClinicalTrials.gov上の責任主体もNICOです。さらに主要研究者のPradilla、Ratcliff、HallらにはNICOからの研究資金が開示されています。([クリニカルトライアルズ][1])

加えて、結果の読み方にも注意点があります。300人中、前方基底核出血では効果が出ず、175人の時点でその群の登録を打ち切り、その後は脳葉出血に絞りました。最終的な「陽性」はほぼ脳葉出血群が引っ張っています。前方基底核では差は −0.013、脳葉では +0.127でした。これは事前規定された適応的デザインなので後付け改変ではありませんが、「あらゆる脳内出血に手術が効いた」という試験では全くありません。([New England Journal of Medicine][2])

さらに11,600人ほどスクリーニングしてランダム化されたのは300人だけで、かなり選別された患者集団です。評価者が治療群を知っていたことも外部の論評で指摘されています。([NICO Corporation][3])

一方、論文では「スポンサーは試験設計、データ収集・解析、投稿決定には関与しなかった」と明記されています。したがって、

「メーカー主導でCOIが強く、非常に選択された患者で得られた、独立追試を強く要求したくなる陽性試験」

という評価ならかなり妥当です。([New England Journal of Medicine][2])

なので、さっき私がENRICHをさらっと「低侵襲手術の有効性が示された」と持ち出したのは、少し雑でした。STICHと対置するなら、ENRICHのこの構造までセットで言うべきでした。

[1]: https://clinicaltrials.gov/study/NCT02880878?tab=table&utm_source=chatgpt.com "Researcher View | NCT02880878 | ENRICH: Early MiNimally-invasive Removal of IntraCerebral Hemorrhage (ICH) | ClinicalTrials.gov"
[2]: https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2308440?utm_source=chatgpt.com "Trial of Early Minimally Invasive Removal of Intracerebral Hemorrhage | New England Journal of Medicine"
[3]: https://niconeuro.com/news/surgical-clot-removal-superior-to-meds-alone-in-ich-enrich-published/?utm_source=chatgpt.com "Surgical Clot Removal Superior to Meds Alone in ICH: ENRICH Published - NICO Corporation"




『シロスタゾールはアジア人の脳梗塞再発予防サラサラ薬に最適って報告をみました(https://doi.org/10.21037/atm-20-7951)。 日本人ならアスピリンよりこっちのほうが断然いいよね、運悪く脳出血しても回復速そうってことでしょ。』



かなり近い理解です。ただし後半だけ、まだ一段「仮説」です。

ご提示の2021年ネットワークメタ解析では、アジア人の非心原性脳梗塞/TIAの二次予防で、シロスタゾールは再発脳卒中・大出血・血管イベントを総合した「net clinical benefit」が最良と評価されています。アスピリンとの比較でも再発脳卒中は少ない方向でした。([Annals of Translational Medicine][1])

別のRCTメタ解析でも、アスピリンに比べてシロスタゾールは再発性虚血性脳卒中が約32%少なく、頭蓋内出血は約58%少ないという結果です。([PubMed][2]) 日本の脳卒中治療ガイドラインでも、非心原性脳梗塞の再発予防薬としてシロスタゾール200 mg/日はアスピリン、クロピドグレルと並ぶ推奨薬です。([PubMed Central (PMC)][3])

だから、

「日本人の非心原性脳梗塞二次予防なら、出血まで考えるとシロスタゾールはかなり魅力的」

これは十分言えます。

そして今回のマウス研究を重ねると、

「脳出血そのものが起こりにくいうえ、万一起こっても血腫排出を促進して回復を助けるかもしれない」

という、かなり魅力的な絵になります。実際マウスでは血腫縮小、神経回復、長期認知機能改善まで出ています。

ただし「運悪く脳出血しても回復が速い」は、まだヒトでは証明されていません。むしろ現行の日本の添付文書では、実際に頭蓋内出血している最中の患者へのシロスタゾール投与は禁忌です。([PMDA][4])

なので現状を一文にすると、

「シロスタゾールはアジア人の脳梗塞再発予防ではアスピリンよりかなり魅力的で、さらに“脳出血しても有利かもしれない”という驚くべき可能性まで今回の動物研究が付け加えた」

くらいが、いちばん正確です。

なお心原性脳塞栓症は別物で、そこで「アスピリン vs シロスタゾール」という選び方をする話ではありません。またシロスタゾールは頻脈・動悸が問題になり、うっ血性心不全では禁忌です。([PMDA][5])

[1]: https://atm.amegroups.org/article/view/68562/html?utm_source=chatgpt.com "Antiplatelet regimens for Asian patients with ischemic stroke or transient ischemic attack: a systematic review and network meta-analysis - Jung - Annals of Translational Medicine"
[2]: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33388632/?utm_source=chatgpt.com "Cilostazol Versus Aspirin for Secondary Stroke Prevention: Systematic Review and Meta-Analysis - PubMed"
[3]: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9615334/?utm_source=chatgpt.com "Japan Stroke Society Guideline 2021 for the Treatment of Stroke - PMC"



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