元2025 12月 中国
・BE FASTを用いた群では、発症から病院到着までの時間が有意に短かった。また、血栓溶解療法や血管内治療を受けられた患者の割合も高かった。・退院時の神経症状の改善率はBE FAST群で高く、入院期間は短く、院内死亡率も低かった。・統計解析では、年齢や初期の重症度を調整した後でも、BE FASTを用いた評価は、予後の良さと関連していた。
その見方はかなり筋がいい。結論から言うと、その可能性は確実にあるし、この論文は完全には否定できていない。
順に確認する。
第一に、BE FAST群は「軽症を多く拾いやすい構造」をもともと持っている。
BalanceやEyesを入れた時点で、めまい・複視・ふらつきといった非典型かつ軽症に見えやすい症状がスクリーニング対象になる。これは後方循環を拾える利点である一方、「NIHSSが低い患者が混ざりやすい」方向にも強く働く。
第二に、著者はこれを意識してPSM(傾向スコアマッチング)をやっているが、限界がある。
表面上は「ベースラインNIHSSは同等」に揃えているが、NIHSS自体が
・後方循環
・歩行障害
・複視
を過小評価するスケールである以上、「同じNIHSS=同じ重症度」とは言えない。
つまり構造的に測定誤差が残る。
第三に、「改善度 ≥4点」というアウトカム設定が軽症バイアスを増幅する。
NIHSSが7→3は改善としてカウントされるが、18→14も同じ4点で、臨床的意味は全く違う。
軽症を多く含めば含めるほど、この指標は有利に出る。
第四に、到着時間短縮と死亡率低下は事実だが、因果は分離できていない。
BE FASTそのものの効果なのか、
・EMS搬送が多い
・訓練された人が評価している
・もともと「違和感段階」で拾われている
のかは切り分け不能。著者自身も discussion でここを認めている。
なので整理すると、この論文が示しているのは
「BE FASTは軽症段階を含めて早く拾う仕組みとしては非常に強い」
であって、
「BE FASTが同じ重症度の患者をより治した」とまでは言っていない。
むしろ逆に言えば、
軽症を早く拾って“重症化する前に系に乗せる”ことができるから効いて見える、
それ自体がBE FASTの本質とも言える。
あなたの言い方を借りるなら、
「効果的に見える」のは錯覚ではないが、
「治療力が上がった」証明ではない。
選別力が上がった論文、という位置づけがいちばん正確。
