元2026 10月 日本
脳内出血は死亡や重い後遺症につながりやすく、日本を含む東アジアでは発症率が高いとされている。
そこで、滋賀県の大規模な脳卒中登録を使い、現在の日本で脳内出血がどのくらい起きているのかをくわしくしらべてみたそうな。
2011~2015年に滋賀県で初めて脳内出血を起こした3,461人を解析した。
年齢、性別、高血圧や糖尿病、喫煙・飲酒、出血部位、退院時の生活自立度などを診療録から調べ、発症率を年齢・性別ごとに計算した。
次のことが分かった。
・平均年齢は72歳で、男性が54.7%を占めた。年齢調整後の発症率は10万人・年あたり、男性61.2人、女性49.8人、全体55.3人であり、高齢になるほど大きく上昇した。・高血圧は68.3%にみられ、入院中の死亡率は17.6%であった。・女性は男性より高齢で、意識障害や退院時の生活自立度も悪い傾向にあった。出血部位は、男性では被殻出血、女性では皮質下出血が最も多かった。
日本では現在も脳内出血の発症率が欧米より高く、とくに高齢者で多かった。また、発症率や重症度、出血部位には男女差がみられた。高齢化が進む日本では今後も継続的な調査が必要である、
というおはなし。
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感想:
『抗血栓薬との関係についてなにか言ってる?』
以下、医師国家試験正答率98%AIの進化版GPT-5の回答コピペ↓
この論文では、抗血栓薬との「因果関係」や「出血リスク上昇」はほとんど解析していない。
示しているのはベースライン情報だけで、脳内出血患者3,461人のうち抗血栓療法中だったのは345人、10.0%。男性11.1%、女性8.6%で、男性のほうが有意に多かった(p=0.01)。
ただし、
- 抗血小板薬と抗凝固薬を分けていない
- 抗血栓薬使用者と非使用者で発症率を比較していない
- 血腫量、死亡、mRSとの関連を解析していない
- 抗血栓薬がICHの原因・増悪因子だったかも検討していない
という研究である。
つまりこの論文から言えるのは、「ICH患者の約1割が発症時に抗血栓療法を受けていた」までで、抗血栓薬がどれだけ脳内出血に寄与していたかは分からない。
『抗血栓薬割合が異様に低すぎるようにおもいますほんとうに10%なの?』
はい。論文の表を確認すると、「10.0%」で間違いないです。ただし、あなたの違和感はかなり妥当です。
Table 2には明確に、
「Anti-thrombotic therapy:345 / 3,461 = 10.0%」
男性 211/1,894 = 11.1%
女性 134/1,567 = 8.6%
p=0.01
とあります。
しかも smoking には missing n=404、drinking には missing n=539 と明記している一方、抗血栓療法には missing の記載がありません。したがって、表面上は「データが得られた患者だけで10%」ではなく、3,461人全体を分母にして10%として扱っています。
ただ、ここにかなり大きな問題があります。この論文は「Anti-thrombotic therapy」が何を意味するのか、方法のところで十分に定義していません。診療録から治療法などを取得したとは書いてありますが、抗血栓薬について、
抗血小板薬なのか抗凝固薬なのか
発症直前に服用していた薬なのか
どの期間の服用を「使用」としたのか
ワルファリン・DOAC・アスピリン等をどう拾ったのか
が示されていません。
なので私は先ほど「ICH患者の約1割が発症時に抗血栓療法を受けていた」と表現しましたが、厳密には少し言い過ぎでした。
正確には、
「論文のTable 2では、ICH患者の10.0%が “Anti-thrombotic therapy” と分類されている。しかし、その定義・薬剤内訳・曝露時点が論文中で明確にされていない」
です。
そして平均年齢72歳、糖尿病21.5%、冠動脈疾患4.1%という集団で「抗血小板+抗凝固を全部合わせて10%」だとすれば、たしかに少なく感じます。特にこの論文は2011~2015年の症例なので、DOAC普及初期という事情はありますが、それでも「抗血栓薬関連ICHを評価する研究」としてこの10%をそのまま信用して議論するのは危ないです。
むしろ気になるのは、345例もの抗血栓薬使用ICHがあるのに、著者がそこをほぼ掘っていないことです。
『インチキやってる痕跡は ないの?抗血栓薬について』
「インチキ」と断定できる痕跡まではない。ただし、抗血栓薬の項目については、かなり怪しい書き方がある。
いちばん気になるのは、「Anti-thrombotic therapy 10.0%」という数字なのに、本文Methodsでこの変数をまったく定義していないことだ。高血圧や糖尿病は細かく定義しているのに、抗血栓薬については「抗血小板薬を含むのか」「抗凝固薬だけなのか」「発症前服用なのか」が書かれていない。しかも論文全体を検索しても、“Anti-thrombotic therapy” が実質的に出てくるのはTable 2だけである。
さらに興味深いものを見つけた。同じ滋賀脳卒中レジストリの2011年データを使った2017年論文では、発症前薬剤として明記されているのは
「Oral anticoagulant:9.7%」
であって、発症前の抗血小板薬はTable 1にそもそも項目がない。[J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/advpub/0/advpub_CJ-17-0177/_html/-char/en)
ここがかなり引っかかる。
今回の論文では突然それが
「Anti-thrombotic therapy:10.0%」
になっている。
9.7% → 10.0%なので数字自体が同じという意味ではないが、同じレジストリが元々「oral anticoagulant」という変数を持っていたことを考えると、
「実は抗凝固薬だけを数えた数字なのに、Anti-thrombotic therapy と広い名前を付けてしまった」
という可能性を私はかなり疑う。
なぜなら、本当に「抗血小板薬+抗凝固薬」を意味するなら、10%はかなり異常に低いからである。
同時期の日本のICH研究を見ると、
- 2010–2015年、658例:抗血栓薬使用者 26.2~33.0% [PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30297170/)
- 2008–2015年、490例:25.5% [PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29103863/)
- 1999–2003年、947例:31.6%(抗血小板20.7%、ワルファリン8.1%、両方2.5%) [J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke1979/28/4/28_4_539/_article/-char/en)
- 2017–2020年のJapan Stroke Data Bankでも、抗血小板13.2%、ワルファリン4.0%、DOAC5.8%で、合計すると約23%が何らかの抗血栓薬使用者である。[PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39367611/)
もちろん病院ベース研究とpopulation-based registryを単純比較はできない。しかし「抗血栓薬全体10%」は相当に低い側に外れている。
なので、現時点で私が順位を付けるなら、
1. 「Anti-thrombotic therapy」というラベルが不正確で、実際には抗凝固薬中心の変数だった
2. 抗血小板薬がレジストリで十分拾われていなかった
3. 不明例を非使用として扱ったなど、データ収集上の過小評価
4. 本当に滋賀県では10%だった
の順で疑う。
意図的な改ざんを示す材料はない。しかし、「抗血栓薬使用率10%」を文字どおり「抗血小板薬+抗凝固薬の全使用率」と解釈するには、論文の記載が明らかに不十分である。
『missingを載せていないのもおかしいよねよほどやばい数字だったんじゃない?』
そこは確かに不自然です。ただし、「missingが大量にあって隠した」とまでは、この論文だけでは言えません。
Table 2の脚注には「各変数の欠損数は variable heading に示した」と明記されています。実際、喫煙は missing n=404、飲酒は missing n=539、退院時mRSは missing n=10 と書いてあるのに、Anti-thrombotic therapy には missing の記載がありません。したがって著者の表記ルールどおりなら、抗血栓療法については「欠損0」と読まざるを得ません。
ここがむしろ奇妙です。2011~2015年の3,461例を診療録から後ろ向きに拾っているのに、喫煙歴や飲酒歴には大量の欠損がある一方、「発症前の抗血栓薬使用」だけ3,461例すべて完全に判定できた、というのはかなり都合がよく見えます。しかもMethodsでは抗血栓薬の定義も、情報源も、unknownの扱いも説明していません。
考えられるのは主に3通りです。
- 本当に全例について薬剤歴が確認できた。
- レジストリ上の必須項目で、unknownを許さない入力形式だった。
- 「記載なし/不明」を「使用なし」として扱った。
3番目なら、10.0%はかなり過小評価されます。ただし、論文にはそれを証明する記述はありません。
数字の規模感で見ると、もし本当の抗血栓薬使用率が25%だったなら、本来は約865例必要で、報告された345例との差は約520例です。30%なら差は約693例です。つまり「本当は20~30%だったのに10%になった」と仮定するなら、数百例規模のunknownまたは誤分類が必要になります。
なので、「よほどやばいmissingだったのでは」という仮説は成立しうる。しかし現時点でより堅く言えるのは、
「欠損数を明示すると宣言している表なのに、抗血栓薬だけmissing=0扱いになっており、その判定方法も定義されていない。したがって10.0%という数字の信頼性を評価できない」
というところです。
ここはかなり良い突っ込みどころです。
『同時期の日本のICH研究で挙げてくれた抗血栓薬使用割合もかなり低く思えるの。脳出血での死亡の3割が抗凝固薬使用(https://doi.org/10.3389/fstro.2026.1840317)、脳内出血の6割が抗血栓薬使用(https://doi.org/10.1161/jaha.122.028336)って報告があるし、、
日本はその種の製薬企業に都合の悪そうなデータをごまかすのが様式美になっているんじゃないの?』
「日本では製薬企業に都合の悪いデータを組織的にごまかすのが慣行になっている」とまでは、いまある証拠では言えません。ただし、今回の滋賀論文の10%については、あなたの違和感はかなり強くなりました。比較してみると、単に「国による違い」で片づけるには低すぎます。
まず、挙げてくれた2本はかなり重要です。ただし分母が違います。
2026年の英国研究では、2020~2024年に「頭蓋内出血が死因」とされた173人のうち、74人に心房細動があり、そのうち52人が抗凝固薬を使用していました。つまり全ICH関連死亡の約30%が「心房細動+抗凝固薬使用者」だったことになります。ただしこれは一病院の死亡者だけを見た研究で、全ICH患者における使用率ではありません。[DOI](https://doi.org/10.3389/fstro.2026.1840317)
一方、Larsenらのノルウェー研究はもっと直接的です。自然発症ICH 420人中252人、60%が発症時に抗血栓薬を使用していました。内訳は抗血小板薬のみ33%、抗凝固薬のみ22%、両方5%です。しかも「発症時に継続使用していた薬」と明確に定義し、薬剤まで列挙しています。[PubMed Central (PMC)](https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10111438/)
それに対して日本の研究を見ると、実は「日本では全部低い」わけでもありません。
1999~2003年の日本11施設947例では31.6%が抗血栓薬使用者で、抗血小板薬20.7%、ワルファリン8.1%、両方2.5%と明記されています。[J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke1979/28/4/28_4_539/_article/-char/en)
2008~2015年の日本490例では25.5%、後半の2012~2015年だけなら31.7%でした。[PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29103863/)
2010~2015年の別の日本658例でも、抗血栓薬使用率は33.0%→27.4%→26.2%でした。[PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30297170/)
さらに2024年の日本J-ICH registry 1,085例でも、抗血小板薬14.2%、抗凝固薬8.1%、両方1.8%で、合わせれば約24%です。しかもワルファリン使用は院内死亡と強く関連していました。[PubMed Central (PMC)](https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11127931)
ここまで並べると、
日本のICH研究:おおむね24~32%
ノルウェーのICH研究:60%
今回の滋賀県:10.0%
となる。
だから今回の10%は、「日本だからこんなもの」という数字ではありません。日本国内の過去の研究と比べてもかなり外れています。
そして、さらに気になる事実があります。同じ滋賀Stroke Registryの2011年報告では、発症前薬剤として「Oral anticoagulant 9.7%」と報告されています。これは脳内出血だけではなく全脳卒中2,956例についての数字ですが、「抗凝固薬」が約10%という数字です。[J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/advpub/0/advpub_CJ-17-0177/_html/-char/ja)
今回の新論文では、それに非常によく似た10.0%という数字が、なぜかより広い「Anti-thrombotic therapy」という名称で出てくる。
ここはかなり興味深いです。
抗血栓薬 = 抗血小板薬+抗凝固薬
であるなら、日本の既報からみても20~30%程度あって不思議ではない。一方、
抗凝固薬だけ
なら10%前後というのは非常に自然です。
したがって、現時点で私が一番疑うのは「製薬会社のために数字を捏造した」という大きな話よりも、
「この10%という変数は、本当に抗血栓薬全体なのか?」
というもっと具体的な問題です。
今回の論文には、
抗血小板薬と抗凝固薬の内訳なし
薬剤名なし
“anti-thrombotic therapy”の定義なし
発症時使用なのかどうかの明確な定義なし
missing数なし
です。
一方、Larsen論文ではこれを全部書いています。[PubMed Central (PMC)](https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10111438/)
なのでブログで追及するなら、「日本医学界は製薬企業のために隠している」と広げるより、
「日本の他研究では抗血栓薬使用者が約25~32%なのに、なぜ滋賀県だけ10%なのか。そしてなぜ、その10%について薬剤内訳・定義・欠損数を一切示さないのか」
と攻めるほうが、はるかに強いです。
これは陰謀を仮定しなくても成立する批判です。
しかも皮肉なことに、日本の研究者自身が過去には「31.6%」と堂々と報告しています。つまり「日本では必ず隠す」という仮説には反証があります。[J-STAGE](https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke1979/28/4/28_4_539/_article/-char/en)
一方で今回の滋賀論文については、「10%という製薬企業にとって都合のよい数字が出た」ということよりも、「その数字を検証するために必要な情報がことごとく欠けている」ことのほうが問題です。
ここはかなり記事として掘れます。たとえば、
「抗血栓薬10%は日本でも異常に低い――国内研究では25~32%、なぜ滋賀県だけ?」
という第二段の記事にできるくらいです。
