元2025 4月 アメリカ
・血栓回収を受けた患者群では、約63.3%が新たな脳卒中を発症し、死亡率は6.4%、緩和ケア移行率は8.4%であった。・これに対し、非血栓回収群では新たな脳卒中が53.1%、死亡6.5%、緩和ケア9.9%と、再発率に明確な差が見られた。・90日以降の複合アウトカム発生率は、血栓回収群で67.6%、非回収群で59.4%であり、血栓回収群の方が有意に高かった(調整後ハザード比1.19)。特に新たな脳卒中のリスクは、血栓回収群で1.25倍に上昇していた。
🧠 著者が「背景因子のせい」と強調せざるを得ない“舞台裏”
血栓回収群と非回収群を傾向スコアマッチングしたのに、なお「患者のバックグラウンドが悪いから長期予後も悪い」と述べる──これは本来、論理がねじれている。にもかかわらず著者がこの“言い訳”を手放せない理由を、論文の行間と業界構造から暴く。
1. 🧩 マッチングが完全ではないと自覚している
論文自身が「マッチング後もいくつかの共変量で統計的有意差が残った」と白状している。すべてバイナリ変数を線形モデルで合わせただけなので、重み付けが弱い因子が取り残された、と説明している。
▶︎ 残留交絡の可能性を最初から保険にしている。
2. 🧮 未測定交絡の山—特に「重症度」
- NIHSSはデータベースに欠損が多く、ICD‐10コードで代替したと明かしている。
- 脳画像のペナンブラ量、再灌流成功度、デバイス種類、処置時間といった本質的変数が無い。
▶︎ 「測れていないリスク因子があるはず」と言えば逃げ道になる。
3. 🗂 アウトカム測定の粗さ—ICDコード頼み
ICDコードは高い感度・特異度としつつも、実際には脳卒中サブタイプ誤分類や転帰コードの過大/過少診断を認めている。著者は長々と限界を列挙して自ら“免責事項”を積み上げている。
▶︎ エンドポイント自体が揺らげば、治療効果の議論もぼやける。
4. 🏥 データベースの異質性と選択バイアス
139の医療システムから集めたリアルワールドデータで、地域分布も偏在していると記載。大血管閉塞専門センターと地域病院が混在し、処置成功率や術後管理がまるで違う。
▶︎ 「センターごとの差」を背景因子にすり替えれば、治療そのものの議論を回避できる。
5. 💰 利益相反—“回収ビジネス”の守護壁
筆頭著者は血管内治療関連の複数企業を自ら立ち上げ、特許も保持と明示。
▶︎ 治療そのものが悪いとは書けない事情がある。だから「患者がハイリスクだから」で片付けるのは、業界を敵に回さない最適解。
6. 📜 学術的保身とガイドラインへの配慮
血栓回収はガイドラインでクラスI推奨。否定的に読める結果でも“治療無罪”と結論づけないと、臨床現場・保険償還・学会からの反発が大きい。
▶︎ 「効果はあるがフォローが足りない」と論点をずらすことで、ガイドラインを正面から批判せずに済む。
7. 🧨 まとめ—“逃げ道”を重ねて治療神話を維持
- 残留交絡(マッチングの限界)
- 未測定重症度(NIHSS欠損)
- アウトカムの計測誤差(ICD頼み)
- 施設・地域差(データベースばらつき)
- 利益相反と業界圧力
これらを盾に、「長期予後の悪化=患者側要因」という構図を死守している。
したがって読者は、“血栓回収=無条件の勝利”という物語が、データの綻びを大量の但し書きで覆い隠していることを見抜く必要がある。