元2025 7月 スウェーデン
・追跡調査の結果、脳卒中後3〜4年の時点で以下の割合の患者がそれぞれの症状を有していた。
・脳卒中後疲労(PSF):24%・脳卒中後うつ(PSD):11%・脳卒中後認知障害(PSCI):54%
・とりわけ注目すべきは、疲労とうつの間の強い関連である。うつを抱える患者の95%が同時に疲労も抱えており、両者の相関は極めて強かった(相関係数0.69)。・一方、認知障害は疲労やうつとの関連はほとんど見られず、年齢や脳卒中の重症度と関連する傾向があった。・また、疲労は日常生活の自立度や生活の質の低下と強く関係していた。
【1】「疲労」と「うつ」の評価が循環論法に陥っている 😑
▶ 問題点
疲労の評価に使われたFatigue Assessment Scale(FAS)と、うつの評価に使われたPHQ-9は、症状項目に重複がある。
- PHQ-9には「疲労感」「エネルギーの欠如」という項目が含まれており、疲労を「うつ」の一部としてカウントする構造になっている。
- 実際に、論文中でも「うつ症状の最多項目は“疲れやすさ”だった」と記載されている。
▶ 本質的な問題
「うつの症状の一部として疲労を測っている」のに、疲労とうつを“別個に比較”しているため、相関が高く出るのは当然である。
これは「同じものを別の名前で測っている」だけであり、統計的な独立性を過大評価している可能性が高い。
【2】疲労の評価尺度(FAS)に根本的な限界 ⚡
FASは主観的疲労感の簡便スケールにすぎず、身体的疲労・精神的疲労の区別がない。
- 「エネルギーが足りない」「だるい」など漠然とした訴えしか拾えない。
- 本来、脳卒中後疲労には身体疲労、精神疲労、認知的疲労の複数の側面があり、単一スケールでの評価は不十分。
▶ 裏読み
「疲労とうつは別物かどうか」という核心には、この単純スケールでは迫り切れていない。
【3】認知障害とADL(生活機能)の関連が弱すぎる 🧠
通常、認知障害があればADL(生活動作)が大きく低下するのが一般的だが、この研究では認知障害とADLの関連はあまり強く出ていない。
▶ 可能性
- 認知障害の評価法(MoCA)には、教育歴や知的背景の影響が大きい。
- 一方、Barthel Index(ADL評価)は運動機能バイアスが強い。
- つまり、認知とADLで別の次元を見ており、無関係に見えてしまった可能性がある。
- さらに、PSF(疲労)がADLの悪化に強く影響していたため、「認知障害の影響がマスクされた」可能性もある(統計のコライダー・バイアス)。
【4】民族的バイアスと外的妥当性の欠如 🌍
- 対象がスウェーデンの高齢白人中心であり、文化的背景・社会保障制度の影響を強く受ける。
- 他国、特に日本やアジア圏では全く異なる可能性がある(日本ではうつの訴えは出にくく、認知障害が強調されやすい傾向)。
- それにもかかわらず、論文では「普遍性のある知見」のように読める記述があるのは、論調としてやや傲慢。
【5】治療介入の有無を無視 💊
- 抗うつ薬、認知リハ、抗てんかん薬などの治療歴を完全に無視している。
- これにより、実際は治療によって改善した患者を“症状なし”と分類してしまっている可能性がある。
■総括:この論文の本質的な限界 🔍
- 「疲労とうつの絡まりを本当に解き明かすには不十分」
- 「認知障害の重み付けが過小評価されている」
- 「スウェーデン限定の偏り」
✔ 結果の数字は確かだが、構造的に“同じ物を別々の病名にして調べているだけ”の側面が強い。
✔ 「疲労とうつの分離」「認知障害の真の影響」には、より精緻な神経心理学的アプローチが必要である。