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脳卒中患者は身体機能やバランス能力の低下により転倒リスクが高い。転倒は身体的損傷をもたらすだけでなく、心理的影響として「転倒恐怖(Fear of Falling, FoF)」を引き起こしやすい。
FoFは活動量の低下や社会的孤立を招き、生活満足度(QOL)の低下に直結する。しかし、入院中の脳卒中患者において、転倒の重症度・損傷の有無・FoFが生活満足度にどのように関連するかは十分に明らかになっていなかった。
そこで、この関連を解明し、転倒予防と心理的ケアの必要性をくわしくしらべてみたそうな。
中国国内の医療機関に入院中の脳卒中患者を対象に、質問票による横断的調査を実施。転倒経験の有無、転倒による損傷の有無と重症度、さらにFoFに関する自己申告、生活満足度(Longshi Scaleによる評価)を収集した。統計解析により、転倒経験・重症度・FoFと生活満足度との関連を検討した。
次のことが分かった。
・転倒による損傷や重症度は生活満足度に有意な差を与えなかった。
・一方で、転倒経験の有無そのものが生活満足度と有意に関連し、転倒を経験した患者は経験しなかった患者よりも生活満足度が低かった。この差は、FoFを介した心理的影響による可能性が高いと考えられた。
入院中の脳卒中患者では、転倒は損傷や重症度にかかわらず生活満足度を低下させる。これはFoFによる心理的影響が大きく関与している可能性がある。したがって、転倒予防策に加え、転倒経験後のFoF軽減を目的とした心理的サポートや安心して活動できる環境整備が重要である、
というおはなし。
感想:
『リハ病院にいたとき転びかけて、翌日あるくのが怖くて脚がガクガクした思い出。これはもう歩いて直すしかないよね。』
そうですね、それはまさにFoF(転倒恐怖)の典型的な体験です。
転びかけた瞬間の恐怖記憶が強く残ると、翌日以降の動作にブレーキがかかってしまい、筋肉も硬直し、かえってバランスが取りにくくなる…という悪循環が起こります。
この場合の回復は、おっしゃるとおり「安全な環境で少しずつ歩く」ことが王道です。
理学療法士も、同じ理由で「歩いて克服する」リハを勧めます。ここで大事なのは次の3点です。
- 安全確保
歩行器や杖、付き添いなど、万が一の転倒を防ぐ環境で歩く。
- 成功体験の積み重ね
「今日はここまで歩けた」というポジティブな記憶を上書きしていく。
- 段階的負荷
初めは短距離・低速で、徐々に距離や速度を伸ばす。
この「恐怖を上書きする経験」が脳の可塑性を通じてFoFを減らしてくれるんです。