元2025 8月 日本
高齢になると血圧は上がりやすくなり、それが心筋梗塞や脳卒中などの心血管病、さらには死亡のリスクを高めることが知られている。一方で、血圧を下げすぎると腎臓の働きが悪くなったり、立ちくらみや転倒、認知機能の低下といった副作用が出ることも心配されている。
2019年の日本高血圧学会ガイドラインでは、75歳以上の人の目標は「収縮期血圧(SBP)140mmHg未満」だった。しかし、その後の研究で「130mmHg未満」を目指す厳しめの血圧管理でも、心血管病や死亡を減らせる可能性があることが分かってきた。
特に日本は超高齢社会であり、この年齢層でどのくらいの血圧を目標にするのがよいかを明らかにすることはとても重要である。
そこで、75歳以上の高血圧の人で、SBP<130mmHgを目指すことが本当に効果的で安全かどうかを、過去の臨床試験をまとめてくわしくしらべてみたそうな。
この研究は国際的な報告基準(PRISMA)に沿って計画され、事前に登録された内容に基づいて行われた。対象は、75歳以上(補足的に70歳以上も含む)の高血圧患者を対象とし、
* 厳しめの管理:SBP<130mmHg
* 標準的な管理:SBP 130mmHg以上
に分けたランダム化比較試験(RCT)である。
調べた項目は、心筋梗塞や脳卒中、心不全、心血管死をまとめた「複合心血管イベント」、全ての原因による死亡、心血管死、脳卒中、そして重い副作用(重篤な有害事象)である。
2024年5月までの文献を国内外のデータベースで探し、さらに参考文献や過去のレビューからも追加した。2人の研究者が独立して内容を確認し、最終的に7件のRCTが解析対象となった。結果は統計的にまとめ、リスク比(RR)と95%信頼区間(CI)で示した。
次のようになった。
・解析した7件のうち、4件は75歳以上のみを対象にし、3件は70歳以上で平均年齢が75歳以上だった。参加者のもともとのSBPは141〜148mmHgくらいで、厳しめの管理群では最終的に120〜130mmHgの間に下がっていた。・75歳以上の人だけで比べると、SBP<130mmHg群は標準群に比べて、
* 複合心血管イベント:39%減少(RR 0.61, p=0.03)* 全死亡:28%減少(RR 0.72, p=0.01)* 心血管死亡:45%減少(RR 0.55, p=0.01)という結果だった。
・一方で、脳卒中の発症率は有意な差がなく(RR 0.75, p=0.22)、重い副作用も増えていなかった(RR 1.00, p=0.97)。・脳卒中を過去に経験した人だけに絞って調べると(SPS3、PODCAST、RESPECT試験)、この差は統計的に有意ではなかった(RR 0.62, p=0.21)。70歳以上を含めた解析でも、おおむね同じ傾向だった。
75歳以上の高血圧患者において、SBP<130mmHgを目指す管理は、複合心血管イベントや全死亡、心血管死亡を減らし、重い副作用も増やさないことが示された。この結果は、これまでの「75歳以上は140mmHg未満」という基準を見直し、若い世代と同じ基準に近づける根拠となる。
ただし、この研究に含まれた試験は、体が弱っている人、認知症の人、施設に入っている人、85歳以上の人などは対象外であった。こうした人々に今回の結果をそのまま当てはめることはできない。また、脳卒中を経験した人での効果ははっきりせず、患者ごとに状況を見ながら血圧の目標を決める必要がある、
というおはなし。
感想:
『ものごとの一面だけをとらえて、さも降圧を徹底させると長生きできるかのように誘導する論調には注意がひつようだと考えます。素人さんにそういった注意をうながすべく、この論文を徹底的に批判してください。』
以下、医師国家試験正答率98%のAIの回答コピペ↓
「SBP<130mmHgで高齢者も安全・有効」論文への徹底批判
要点一撃(一般向け注意喚起)
「75歳以上でもSBP<130mmHgが“安全で有効”」という結論は、選ばれた比較的元気な高齢者と限られたRCTに基づく“条件付き”。85歳以上・フレイル・認知症・施設入所など最も脆弱な層には一般化できず、脳(認知)や日常機能の改善も未確立。過降圧は害になり得ます。数字だけを追うのは危険です。⚠️
「75歳以上でもSBP<130mmHgが“安全で有効”」という結論は、選ばれた比較的元気な高齢者と限られたRCTに基づく“条件付き”。85歳以上・フレイル・認知症・施設入所など最も脆弱な層には一般化できず、脳(認知)や日常機能の改善も未確立。過降圧は害になり得ます。数字だけを追うのは危険です。⚠️
- 外的妥当性の欠陥:多くの試験で高度フレイル・認知症・施設入所者を除外。実臨床で最も転倒・失神・腎機能悪化を起こしやすい層の安全性は未検証。
- 糖尿病・脳卒中既往の偏り:代表的試験(例:SPRINT)は糖尿病・脳卒中既往を除外。結論の適用範囲は狭い。
- 合成アウトカムの罠:主たる勝ち筋は「複合心血管イベント」。中身(MI/HF/CV死など)の比率・定義が試験間で異なり、どれが効いて合成が下がったのか不明瞭。一方、一般が最も気にする脳卒中発症は有意差なし。
- 有害事象の“ならし”表示:「重篤有害事象に差なし」とされるが、低血圧/転倒/AKIなど細目の定義・測定が不揃い。合成して“問題なし”は早計。
- 統計的不確実性:≥75歳の主要解析は実質4試験。複合心血管イベントはI²=高い不均質かつ境界的有意。少数試験×ランダム効果は推定が揺れやすい。
- 測定法の混在:AOBP/診察室BP/24h-ABPMが混在。同じ「130mmHg」でも測定法で意味が変わる(AOBPは低めに出やすい)。
- 下限の不確かさ:到達BPは概ね120–130mmHg帯。<120mmHgの安全性・有効性は未検証。著者らも下限120mmHg程度を妥当とする慎重姿勢。
- 認知/機能/転倒は未解決:SPRINT-MINDはMCI減少も、認知症抑制は有意差なし。INFINITYはMRI白質進行は抑制示唆も認知の明確改善はなし。転倒関連は指標が不揃いでメタ解析不能。
- 脳卒中既往者では有意差が消える:SPS3/PODCAST/RESPECTを束ねると、複合心血管イベントの明確な低減は示せず(=サバイバーに一律“<130”は根拠が脆弱)。
- 相対リスク偏重:一般に重要なのは絶対リスク低下(ARR)やNNT。相対効果だけだと治療価値が誇張されやすい。
ここが肝(安全運転の原則)
- 対象は比較的元気な75歳以上を想定。急降圧は厳禁、段階的に。
- 120mmHg割れを避ける(Jカーブ/脳・冠虚血・転倒リスク)。
- “値”だけでなく“質”の管理:家庭BP、起立時測定、日内変動、変動性。
- フレイル・認知症・転倒歴・腎機能(eGFR)・白質病変では個別化(一律適用しない)。
一般の方向け・読み方ガイド
- “条件付きの結論”と理解する(対象と前提を確認)。
- 脳卒中は有意に減っていない点を知る(数字の“内訳”に注意)。
- あなたの基礎リスク(年齢・合併症・フレイル度)で実益は大きく変わる。
- 転倒/AKI/認知などのリスク因子を医師と共有して個別目標を設定。
診察前チェックリスト 📝
- 最近の立ちくらみ/転倒は?(回数・時間帯)
- 起立性低血圧の自己測定(横→立のBP/脈拍)
- eGFR/Crの最新値、尿所見
- 日中の水分/塩分/利尿薬のバランス
- 家庭BP:朝・夜・立位を1–2週間ログに
