元2025 8月 日本
・解析した7件のうち、4件は75歳以上のみを対象にし、3件は70歳以上で平均年齢が75歳以上だった。参加者のもともとのSBPは141〜148mmHgくらいで、厳しめの管理群では最終的に120〜130mmHgの間に下がっていた。・75歳以上の人だけで比べると、SBP<130mmHg群は標準群に比べて、
* 複合心血管イベント:39%減少(RR 0.61, p=0.03)* 全死亡:28%減少(RR 0.72, p=0.01)* 心血管死亡:45%減少(RR 0.55, p=0.01)という結果だった。
・一方で、脳卒中の発症率は有意な差がなく(RR 0.75, p=0.22)、重い副作用も増えていなかった(RR 1.00, p=0.97)。・脳卒中を過去に経験した人だけに絞って調べると(SPS3、PODCAST、RESPECT試験)、この差は統計的に有意ではなかった(RR 0.62, p=0.21)。70歳以上を含めた解析でも、おおむね同じ傾向だった。
「SBP<130mmHgで高齢者も安全・有効」論文への徹底批判
「75歳以上でもSBP<130mmHgが“安全で有効”」という結論は、選ばれた比較的元気な高齢者と限られたRCTに基づく“条件付き”。85歳以上・フレイル・認知症・施設入所など最も脆弱な層には一般化できず、脳(認知)や日常機能の改善も未確立。過降圧は害になり得ます。数字だけを追うのは危険です。⚠️
- 外的妥当性の欠陥:多くの試験で高度フレイル・認知症・施設入所者を除外。実臨床で最も転倒・失神・腎機能悪化を起こしやすい層の安全性は未検証。
- 糖尿病・脳卒中既往の偏り:代表的試験(例:SPRINT)は糖尿病・脳卒中既往を除外。結論の適用範囲は狭い。
- 合成アウトカムの罠:主たる勝ち筋は「複合心血管イベント」。中身(MI/HF/CV死など)の比率・定義が試験間で異なり、どれが効いて合成が下がったのか不明瞭。一方、一般が最も気にする脳卒中発症は有意差なし。
- 有害事象の“ならし”表示:「重篤有害事象に差なし」とされるが、低血圧/転倒/AKIなど細目の定義・測定が不揃い。合成して“問題なし”は早計。
- 統計的不確実性:≥75歳の主要解析は実質4試験。複合心血管イベントはI²=高い不均質かつ境界的有意。少数試験×ランダム効果は推定が揺れやすい。
- 測定法の混在:AOBP/診察室BP/24h-ABPMが混在。同じ「130mmHg」でも測定法で意味が変わる(AOBPは低めに出やすい)。
- 下限の不確かさ:到達BPは概ね120–130mmHg帯。<120mmHgの安全性・有効性は未検証。著者らも下限120mmHg程度を妥当とする慎重姿勢。
- 認知/機能/転倒は未解決:SPRINT-MINDはMCI減少も、認知症抑制は有意差なし。INFINITYはMRI白質進行は抑制示唆も認知の明確改善はなし。転倒関連は指標が不揃いでメタ解析不能。
- 脳卒中既往者では有意差が消える:SPS3/PODCAST/RESPECTを束ねると、複合心血管イベントの明確な低減は示せず(=サバイバーに一律“<130”は根拠が脆弱)。
- 相対リスク偏重:一般に重要なのは絶対リスク低下(ARR)やNNT。相対効果だけだと治療価値が誇張されやすい。
- 対象は比較的元気な75歳以上を想定。急降圧は厳禁、段階的に。
- 120mmHg割れを避ける(Jカーブ/脳・冠虚血・転倒リスク)。
- “値”だけでなく“質”の管理:家庭BP、起立時測定、日内変動、変動性。
- フレイル・認知症・転倒歴・腎機能(eGFR)・白質病変では個別化(一律適用しない)。
一般の方向け・読み方ガイド
- “条件付きの結論”と理解する(対象と前提を確認)。
- 脳卒中は有意に減っていない点を知る(数字の“内訳”に注意)。
- あなたの基礎リスク(年齢・合併症・フレイル度)で実益は大きく変わる。
- 転倒/AKI/認知などのリスク因子を医師と共有して個別目標を設定。
- 最近の立ちくらみ/転倒は?(回数・時間帯)
- 起立性低血圧の自己測定(横→立のBP/脈拍)
- eGFR/Crの最新値、尿所見
- 日中の水分/塩分/利尿薬のバランス
- 家庭BP:朝・夜・立位を1–2週間ログに