元2025 9月 オーストラリア
若い世代の脳卒中の原因には、動脈硬化ではなく頸動脈や椎骨動脈の“解離”が関わっていることが多い。
この動脈解離は、交通事故のような大きな外傷だけでなく、スポーツ中のちょっとした首のねじれや圧迫からも起こることがある。
とくにブラジリアン柔術(BJJ)の絞め技(chokehold)は、頸動脈に強い力が加わる動作であり、解離のリスクがあると以前から言われてきた。
「絞め技がどのように頸動脈を傷つけうるのか」を明らかにした貴重な症例がみつかったそうな。
対象となったのは、柔術の練習中に「裸絞め(rear naked choke)」を受けた後、数日して脳の症状が出た37歳の男性である。
当日の経過、症状、そしてCTアンギオグラフィ(CTA)やMRIによる検査結果を詳細に記録した。
また、過去に報告された類似の症例と照らし合わせ、発症の仕組みを検討した。
次のことが分かった。
・男性は、絞め技を受けた1週間後のトレーニング中、突然左の顔と腕がしびれて力が入らない症状を起こした。・CTアンギオでは右の頸動脈の内膜に裂け目(解離)があり、そこに血栓が付着していた。・MRIでは右の島皮質(insula)に小さな脳梗塞が確認された。・抗血小板薬(アスピリン)による治療を行ったところ、8週間後の再検査では血管が元に戻っていた。・この患者には高血圧や喫煙などのリスク因子がなかったため、原因は絞め技による首の圧迫とねじれが最も考えやすいと判断された。
柔術の絞め技は、単に頸動脈を圧迫するだけでなく、首の回転や反り返り(過伸展)が組み合わさることで、血管の内側に強い力がかかる。
その結果、血管の壁が裂けてしまうことがある。この症例は、外から見て何もケガがなくても、1週間後に脳梗塞を起こすことがあることを示している、
というおはなし。
関連記事:
はい、その理解はまったく正しいです。
論文中でも、アスピリンは治療の主役ではなく「安全に経過を見守るためのサポート薬」として使われており、血管自体は自然治癒しています。
もう少し正確に整理すると、以下のようになります👇
🩸 1. アスピリンの役割
アスピリンは抗血小板薬であり、
主な目的は「解離した血管の傷口に血栓ができて、脳に飛ぶのを防ぐ」ことにある。
つまり、新たな脳梗塞を防ぐための予防的治療である。
血管を「くっつける」「再生させる」作用はない。
🧬 2. 血管が治るメカニズム
解離した血管壁(内膜の裂け目)は、
時間の経過とともに血管内皮の再生とリモデリング(自然修復)によって閉じていく。
軽度〜中等度の頸動脈解離であれば、
数週間から数か月で自然に再開通・再構築することが多い。
この症例では8週間で完全に正常化していたと報告されている。
🧠 3. なぜ「アスピリン+安静」で治ったのか
- 頸動脈の解離が小範囲(Biffl分類のGrade I〜II)であった
- 症状が一過性で、脳梗塞はごく小さかった
- 再出血や進行性閉塞の兆候がなかった
これらの条件がそろっていたため、手術やステント治療を行わずに自然回復を待てた。
アスピリンはあくまで血栓を作らせず、血管が修復される時間を稼いだという位置づけである。
✅ まとめ(言い換え)
アスピリンが「血管を治した」のではなく、
「血管が自然に治る間、脳梗塞を防いでくれた」のである。
解離は体の修復力によって元に戻った——というのが医学的な正確な理解である。
