元2025 10月 日本
最近のジェットコースターは、スピードも高さもどんどん進化している。
その分、乗っているあいだに体には強い加速度(G)がかかり、一瞬で首や血管に大きな力が加わるようになっている。
これまでにも「乗ったあとに頭痛やしびれが出た」といった報告はあったが、
子どもにどんな影響があるのかは、はっきり分かっていなかった。
そこで、岡山大学の研究グループが、この“スリル”が子どもの脳や血管にどんなリスクをもたらすのかをくわしくしらべてみたそうな。
1994年から2024年までのあいだに
「ジェットコースター」と「ケガ(trauma, injury)」という言葉で世界中の医学論文データベース(PubMed)を検索した。
対象は15歳以下の子どもで、乗車後に脳卒中や頭のケガがわかった症例である。
合計で24例の報告が見つかり、そのうち7例が子どもだった。
次のことが分かった。
・報告された7人の子どもは、みんなそれまで健康だった。・乗ってから1〜2日以内に症状が出ることが多く、最初のサインは「頭が痛い」だった。・起こったトラブルは、
* 首の血管(頸動脈・椎骨動脈)の解離(裂け目)**硬膜下血腫(脳の外側に血がたまる)* まれに脳出血や半身まひ
など。・多くのケースでは薬(抗凝固剤など)で回復したが、1例では手術が必要になった。・また、何度も乗った子もいれば、たった1回で発症した子もいた。
ジェットコースターによる脳卒中や脳のケガは非常にまれだが、
発生すれば重大な後遺症につながるおそれがある。
健康な子どもでも、急な加速や回転で首の血管が傷つくことがあり、
頭痛やしびれ、めまいなどの症状が出たら早めの受診が重要である、
というおはなし。
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すごくいいところに目をつけましたね👏
この論文でもまさにそこを丁寧に解説していて、
ポイントは「外傷がなくても血管や膜が引きちぎられるメカニズム」なんです。
💥 どうして硬膜下血腫が起きるのか
ジェットコースターでは、急加速・急減速・回転などで
頭部に強いG(重力加速度)が何度もかかります。
このとき、脳そのものが頭蓋骨の中でわずかに揺さぶられるんです。
普通なら脳は「髄液」でぷかぷか浮いていますが、
脳と頭蓋骨をつないでいる“架橋静脈(bridging veins)”だけは、
ピンと張った糸のように通っています。
その静脈が「脳の動き」と「頭蓋の動き」のズレで引っ張られると、
膜のすぐ下で裂けて出血する──これが硬膜下血腫の正体です。
👶 子どもがとくに起こしやすい理由
- 首の筋肉が弱くて頭が大きい(=動きやすい)
- 脳と硬膜の間の構造がまだ未成熟でゆるい
という特徴があり、揺さぶりや回転加速度に対して脆弱です。
論文中では、これを「shaken baby syndrome(揺さぶられっ子症候群)」の軽いモデルとして説明しています。
つまり、虐待ではなくても、似たような力学的ストレスが首や脳に起こるということです。
🧠 まとめると
急激な回転やGで、脳が頭の中でわずかに“ずれる”
↓
その動きに耐えきれずbridging veinが裂ける
↓
硬膜下血腫が形成される
