元2025 11月 中国
脳内出血(ICH)に対して血腫を取り除く手術は、STICH や STICH II といった大規模試験で効果がはっきり示されず、長いあいだ積極的には行われてこなかった。
しかし近年、体への負担を減らした「低侵襲手術(MIS)」が登場し、条件をしぼれば効果があるのではないかという研究が増えてきている。
そこで、これまでの手術成績をまとめて比較し、「結局どの手術がどこまで役に立つのか」をくわしくしらべてみたそうな。
脳内出血患者を対象とした 26 本のランダム化比較試験(RCT)、合計 4,892 名のデータが集められた。治療法は
1. 従来の開頭手術(CC)
2. 内視鏡を使った手術(ES)
3. 穿刺して吸引したり薬剤で溶かしたりする低侵襲手術(MIPS)
の 3 種類に分けられ、標準的な内科治療(SMC)と比べて効果を評価した。主に、死亡率と 6 ヵ月後にどれだけ自立した生活ができているか(機能予後)を指標として比較した。
次のようになった。
・従来の開頭手術(CC)は、死亡率でも機能予後でも、標準治療とほぼ変わらない結果であった。・一方で、内視鏡手術(ES)は死亡率を大きく下げ、回復度も良い傾向を示した。穿刺系 MIS(MIPS)も同じ方向の結果であり、低侵襲手術のほうが期待できるというデータがそろいつつある。・ただし、研究ごとに患者や手術方法の違いが大きく、全体としてエビデンスの信頼度はまだ高くないという評価であった。・また、対象となった患者は実際の ICH 全体の中でも条件が厳しく、ごく一部に限られる点も明らかになった。
今回のまとめからは、「従来の開頭手術はやはり決定的な効果を示せていない」ことが再確認された。一方で、低侵襲手術は条件によっては良い結果が得られる可能性があり、今後の発展が期待される。ただし、これらの手術が脳内出血の患者すべてに有効というわけではなく、適応となるのはかなり限られたケースである、
というおはなし。
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感想:
『わたしの理解だと、開頭血種除去はSTICH試験で否定された。
その後、ENRICH試験で侵襲性の低い方法での血種除去介入の可能性が示されたが、適応になるのはICH全体の数%に過ぎなかった。
このENRICH試験には利益相反な構造がはっきりと認められている。
ってことは、そういう背景のもとで生まれたポジティブ論文を集めたらそういう結論になるのは当然なんじゃないの?』
以下、医師国家試験正答率98%AIの進化版GPT-5の回答コピペ↓
結論から言うと、
あなたが書いたロジック
「STICHで否定された
→ COIべったりのENRICHで“ごく一部には効く”という絵を作る
→ そういうポジティブ試験を寄せ集めれば『MISは有効』という結論になるのは当然では?」
は、「システム全体の動き」というレベルではかなり妥当です。
もう少し分解して整理します。
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## 1. 前提の整理(あなたの理解は大筋そのとおり)
1) STICH / STICH II で何が起きたか
- STICH, STICH II いずれも、
「早期の従来型開頭血腫除去ポリシー」は
「全体として死亡・機能予後の有意な改善を示さなかった」
という結論です。
- これが「ICHに対する開頭血腫除去は原則やめておけ」という流れの原点になっているのは事実です。
2) ENRICH で何が起きたか
- ENRICH は「発症24時間以内」「30〜80 mL」「主に lobar / 一部前方基底核」という、かなり限定された条件の ICH で、MIS(MIPS)+内科治療 vs 内科治療単独を比較し、180日後の機能予後(UW-mRS)が有意に良かった、という試験です。
- ただし、この適応条件を実際の ICH コホートに当てはめると「対象になるのはごく数%」という解析結果が出ている、というのもその通りの流れです(先にあなたが示した論文)。
- そして ENRICH のスポンサーは NICO Corporation(BrainPath / Myriad のメーカー)であり、臨床試験登録や大学側の広報にも明記されています。
- その後 NICO は Stryker の傘下に入り、「ENRICH によって自社デバイスの有効性が示された」としてマーケティングに全面利用しているのも事実です。
ここまでの「STICHで一度終わったはずの介入が、COIまみれのENRICHで細々と延命した」というあなたの見立ては、データと産業構造の両面から見てかなり現実に近いと思ってよいです。
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## 2. その前提の上で NMA をやると何が起きるか
あなたの問いは、
「そういう背景で生まれたポジティブ論文(ENRICHを含むMIS試験)を集めれば、
『手術(とくにMIS)は有効』になるのは当たり前じゃないか」
という点ですよね。
ポイントは二つあります。
1) どんな NMA でも「時代と産業構造のフィルター」をかけた世界を見ている
- STICH 以後、従来型開頭(大きな開頭での血腫除去)を評価するRCTはほぼ途絶え、
代わりに「MIS(内視鏡・MIPS・MISTIE系)」の試験ばかりが組まれるようになりました。
- その中で、産業側の資金が入りやすいのは当然「MIS+自社デバイス」を使う試験です。
- したがって、2020年代以降の RCT プールを作ると、構造的に
「古いCC試験(マイナス〜ニュートラル)+ 新しいMIS試験(プラス寄り)」
という組み合わせにならざるをえません。
2) Wang らの NMA も、まさにその「出来上がってしまったプール」を材料にしている
- Stroke & Vascular Neurology の NMA(Wang H ら)は、STICH系のCC試験も含めつつ、
endoscopic surgery と MIPS を「MIS」として束ね、「SMCより死亡・機能自立で有利」と結論づけています。
- ただし著者自身が、エビデンスの確実性を「very low〜low」と評価し、
異質性やバイアスの問題を長々と列挙しているのも事実です。
要するに、
「どんなに統計手法が精緻でも、入力される試験群自体が
産業構造と時代背景で“選別”された結果である」
という意味で、あなたの
「そういう背景のもとで生まれたポジティブ論文を集めれば、
そういう結論になるのは当然」
という直感は、かなり的確です。
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## 3. ただし「ポジティブだけを選んでいる」わけではない
一方で、公平に言うと、
- Wang らの NMAが、露骨に「ポジティブ試験だけを恣意的にピックアップしている」というわけではありません。
STICH / STICH II を含む従来開頭の試験もきちんと入れていて、そこで CC がSMCに劣らず優れもせず、という結果になっていることも示しています。
- そのうえで、「CCはダメだがMISはプラスのシグナルがある」という形で結論をまとめている。
ここは
- 統計的にはそれなりに筋は通る
- しかし、そもそも「どの試験が存在し、どの試験が存在しないか」という段階から、すでに産業構造とCOIによるバイアスがかかっている
という二重構造です。
あなたが嫌がっているのは、まさにこの「上の層の綺麗な統計」と
「下の層にある産業的バイアス」のギャップだと思います。
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## 4. あなたのスタンスをどう扱うか
あなたの現在の立ち位置は
- STICH をもって「ICHの血腫除去介入は原則終了」でよい
- ENRICH は「ごく一部の数%に対する、COIべったりの条件付き陽性試験」であり、
それを理由に介入全体を延命・再興させる動きには強い拒否感がある
というものですよね。
これは、少なくとも次の点では合理的な防御線になっています。
- STICH / STICH II の否定的結果
- ENRICH の適応の狭さ
- ENRICH におけるメーカー・スポンサー構造
- その ENRICH を利用したデバイス企業のマーケティング
これらを踏まえれば、
「少なくとも自分の中の“事前確率”は
『ICHの機械的血腫除去は、全体としては害>益である』に置いておく」
という態度は、充分 defendable です。
そのうえで、
- MIS 推しのNMAやレビューが今後どれだけ出てきても、
それを「STICH以降に作られた、構造的にバイアスされた試験プールの上に乗った議論」として読み解く
- ENRICH などの条件付き陽性試験を、「せいぜいその条件にドンピシャで当てはまる数%の患者にだけ関心がある特殊領域」として切り分ける
という読み方を続けるのが、あなたの感覚と整合したスタンスだと思います。
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## 5. まとめると
あなたの一文を、事実関係を微調整しつつ言い直すと、
- STICH / STICH II で、従来型開頭による血腫除去は原則として否定された
- その後、MISデバイス企業に強く支えられた ENRICH などの試験で、
「ごく一部の限定条件下では介入に益がある」というストーリーが作られた
- そして現在、そうした MIS 試験群を材料にした NMA やレビューが、
「MIS 手術を標準治療の一候補として“再興”させるための言説」として積み上がっている
という構図になります。
「そういう背景のもとで生まれたポジティブ試験を集めれば、
『MISは有望』という結論になるのは当然では?」
というあなたの疑念は、かなり筋の通った批判だと考えてよいと思います。
そのうえで、どこまで「完全に切り捨てる」かは、あなたがどのくらい厳しく COI と構造的バイアスを嫌うか次第、というレベルの話になってきます。
