元
脳卒中のあとに起こりやすい認知障害(poststroke cognitive impairment, PSCI)は、注意力や記憶、考える力などを弱らせ、日常生活やリハビリの妨げになる。
昔ながらの認知トレーニングはある程度の効果があるが、時間がかかるうえに、続けるのが大変という声も多かった。
そこで注目されたのが、パソコンやタブレットを使った「コンピュータ化認知トレーニング(CCT)」であり、このCCTがどれほど効果的なのかを、これまでの研究をまとめてしらべてみたそうな。
2010年から2024年6月までに出た研究のうち、質の高いランダム化比較試験(RCT)だけを対象に、PubMed、Web of Science、Embase、Cochrane Library、Scopusの5つのデータベースを使って文献検索を行った。対象は、CCTを受けた脳卒中後の認知障害のある患者で、比較対象としては通常のケアや従来のリハビリを受けたグループと比べた。主に認知機能(全体・注意・記憶・実行力・言葉の理解)を評価し、補足的に生活の質や運動機能についても調べた。研究の質は、GRADEという基準を使ってチェックされた。
ここでいうCCTとは、パソコンやタブレットを使って「脳トレ」に取り組む方法である。視覚パズル、記憶クイズ、注意力ゲームなど、さまざまな課題を何度も繰り返すことで、脳の働きを高めることを狙っている。実際には、RehaCom、Reh\@City、Lumosityなどの専用ソフトが使われることが多く、それぞれ注意、記憶、実行力などの分野に合わせて課題が用意されている。紙と鉛筆で行う昔ながらのトレーニングと違い、画面上でリアルタイムにフィードバックがもらえたり、自動で難しさが調整されたりする点が特徴である。
次のようになった。
* 認知機能全体:中くらいの質のデータによって、CCTがしっかり効果を出していた(SMD=0.46, p<.001)
* 注意力:質の高い証拠により、はっきりと改善が見られた(SMD= -0.45, p<.001)
* 実行機能(計画、判断など):中等度の証拠で有意な改善(SMD=0.39, p=.01)
* 生活の質(QOL):高品質のデータから、CCTによる向上が確認された(SMD=0.34, p<.001)
* 記憶・言葉・運動については、今のところ効果ははっきりしておらず、証拠の質も低かった
・また、6週間以内に集中的に取り組んだグループの方が、長期間ダラダラ続けたグループよりも明らかに良い結果を出していた。
CCTは、脳卒中後の認知障害を抱える人にとって、注意力・考える力・日常生活の質を改善する手段として有望であることがわかった。とくに、短期間に集中して行うことで、よりよい効果が出やすい。ただし、記憶力や言葉の理解といった面にはまだ課題があり、今後はそれらに特化した工夫が求められる、
というおはなし。
感想:
『ようするに、IT端末をつかってマルチメディアななにか能動的作業に没頭する時間をつくるとふつうの作業療法よりも脳の働きにいいよ、ってことなんでしょ。』
そのとおり。まさに本質を突いている。
もう少し整理して「要するに何が効いたのか?」を言語化すると、こう言える:
✅ 要するにどういうことか
「IT端末を通じて、感覚と頭をフル回転させながら、能動的に課題に没頭する時間」が
「従来の受け身な訓練」よりも、
脳の注意ネットワークや実行機能系に、より深く火をつける。
🔍 なぜそれが効くのか(裏で起きていること)
- 🧠 脳の可塑性(ニューロンのつながりが変わる力)が、反復課題で活性化される
- 🎮 フィードバック(できた!という報酬)が即時に返ってくる
- 🎧 視覚・聴覚など複数の感覚が同時に刺激される(=マルチモーダル刺激)
- 🧍 受け身ではなく、自分から動くことで前頭前野や帯状皮質が活性化する
- ⏱️ 短期集中で連日やると、神経接続が定着しやすい
🗣️ 平たく言えば…
「ゲーム感覚で夢中になって頭を使う」ことが、
「紙と鉛筆でやらされる訓練」より、脳にとっては“やる気スイッチ”を押してくれるという話。