元2025 7月 中国
脳梗塞の重症患者に対しては、脱水を避けるために十分な水分補給が重要とされてきた。
特に急性期では、点滴による水分投与が標準的に行われている。しかしその一方で、水分を与えすぎることが脳浮腫や全身への悪影響を引き起こす可能性があるにもかかわらず、そのリスクについては明確な根拠が不足していた。
そこで、脳梗塞急性期における水分出納バランス(とくに点滴を含む総水分量)と3か月後の死亡率との関連をくわしくしらべてみたそうな。
対象は、2020年から2022年に中国の脳卒中センターに入院した、急性期の重症脳梗塞患者354名である。いずれも発症から24時間以内に入院し、3日間連続で水分出納(入った水と出た水)の記録があった症例のみを対象とした。
水分の「入力」には、以下すべてが含まれた。
* 点滴による静脈輸液(主たる水分源)
* 経口摂取(飲水、経口薬)
* 経管栄養や経腸輸液
* その他薬剤に含まれる水分
出力は、尿量を中心に評価された。
その水分出納(入出量の差)に基づき、患者を以下の3群に分類した。
* バランス群(±500mL以内)
* ポジティブバランス群(+500mL超)
* ネガティブバランス群(−500mL未満)
主要評価項目は3か月後の死亡率、副次評価項目として機能的転帰(mRSスコア)が用いられた。
次のようになった。
・3日間の水分バランスが+500mLを超えたポジティブバランス群では、3か月後の死亡率が明確に高かった(26.4%)。・一方、バランス群の死亡率は10.2%と有意に低かった。・ネガティブバランス群の死亡率はやや高めであったが、統計的な有意差は認められなかった。・また多変量ロジスティック回帰分析により、ポジティブバランスは独立した死亡リスク因子であり、死亡リスクを約2.5倍に高めることが示された。なお、実際に患者に与えられた水分の多くは、点滴によるものであった。
この研究は、脳梗塞の急性期において、点滴を含む水分の与えすぎが死亡リスクを高める可能性があることを明確に示した。
とくに、入出量の差が+500mLを超えるような水分バランスは、3か月後の生存率を低下させる要因となっていた。
従来の「脱水を避けるべき」という認識に加え、今後は「水分を入れすぎない」という視点が急性期管理に必要である、
というおはなし。
感想:
『500ml+の意味は、摂った水のおおくが尿以外にたとえば汗などにつかわれてしまっている、の意味じゃあないの?』
以下、医師国家試験正答率98%のAIの回答コピペ↓
✅ 結論:
+500mLの意味は「体内に水分が残存・貯留した」ことを示していると解釈するのが自然であり、「汗や呼気などで失われた可能性」は否定できないが、主因とは見なされていない。
🔍 理由①:この論文の「出納バランス」は目に見えるものしか数えていない
Fluid input and output were recorded and calculated daily. Input was defined as oral or intravenous fluid, medication or enteral nutrition, and output as urine volume. (p.3)
つまり、
- 入力(input) = 点滴、経口摂取、薬剤、経腸栄養
- 出力(output) = 尿量のみ
➡ 呼気、発汗、下痢、嘔吐などはカウントされていない
🔍 理由②:だからこそ、「±500mL」は誤差を見込んだ“安全域”として設定されている
著者は、見えない水分損失(不感蒸泄)などによる不確実性を前提に、±500mLを安全な中間ゾーンとしたと考えられる。
これは ICUや脳卒中治療の現場でも一般的な考えであり、
- 不感蒸泄(呼気、皮膚)→ およそ800〜1000mL/日
- でも正確に測定できない
- よって、「±500mLならまあOK」とされる
🔍 理由③:+500mLという“残り”が多い患者ほど死亡率が高いという事実
見えない喪失があったなら、「水が足りない」方向(ネガティブバランス)に偏るはずだが、実際には、
- +500mLを超えて“水が残ってしまった”患者の死亡率が高い
- つまり「出し切れず、体に残ってしまった」ことが問題
これを代謝的喪失の見逃しだけで説明するのは難しい。
🧠 要するに:
この研究における+500mLは、「汗で消えたかもしれない」ではなく、
「尿として出てこずに、体にとどまっている可能性が高い」=“水が捌けていない”という意味に近い。
📌補足:ネガティブバランス群では有意差が出なかった
興味深いことに、「水分が少なめだった」ネガティブバランス群では、死亡率の有意な上昇はなかった。
つまり、「多少足りない」より「多少余ってる」ほうがはるかに危ない、という結果である。
