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2025年8月6日

手は動くのに、使えない――脳卒中リハビリの盲点とは?

2025  8月  スイス


脳卒中後の上肢機能障害は極めて高頻度に見られるため、リハビリテーション領域では上肢の運動機能を評価する指標としてFugl-Meyer Assessment(FMA-UE)が広く用いられてきた。

しかし近年、FMAにおいて高得点を示すにもかかわらず、実生活上では上肢をほとんど使用していない患者が一定数存在することが報告されている。

このような「運動機能は温存されているのに、パフォーマンスが伴わない」という乖離現象が、急性期から存在するのか、そしてその背景に何があるのかは十分に解明されていない。

そこで、この現象の原因として認知機能障害(特に空間無視、遂行機能障、失行)が関与している可能性に着目し、急性期脳卒中患者を対象にくわしくしらべてみたそうな。



スイスの神経リハビリテーション病院において、急性期脳卒中患者407名を対象とした前向き観察研究を実施した(2018年~2024年)。

以下の評価スケールを用いて、運動機能と認知機能の関連を検討した。

* FMA-UE:上肢の運動障害の程度を評価
* UL-LIMOS:ADLにおける上肢パフォーマンスを臨床観察により評価
* MoCA:全般的認知機能のスクリーニング
* CBS(Catherine Bergego Scale):空間無視の評価
* AST(Apraxia Screen of TULIA):上肢失行のスクリーニング

特に、FMA-UEにおいて48点以上(軽度~なし)と評価された270名のサブグループにおいて、UL-LIMOSスコアとの関連を詳細に分析した。



次のようになった。

・運動機能に大きな障害が認められなかった270名のうち、38.5%がUL-LIMOSスコアで14点未満を示し、ADLにおいて上肢が十分に使用されていないことが判明した。

・このパフォーマンス低下に影響する因子として、以下の関連が示された。

* 空間無視(CBS):中等度~強い負の相関(r = −.415)
* 認知機能障害(MoCA):軽度の正の相関(r = .213)
* 失行(AST):有意ながら効果量は小さい(r = .190)

・多変量回帰分析においては、空間無視および認知機能障害が有意な予測因子であり、失行は統計的に有意な因子とはならなかった。


急性期脳卒中患者において、運動機能が温存されているにもかかわらず、実生活における上肢使用が不十分な症例が高頻度で存在することを初めて大規模に明らかになった。
その主な要因として、空間無視や注意・遂行機能障害といった認知機能の障害が強く関与していることが示唆された、


というおはなし。

上肢の使えなさは認知障害のせい



感想:

『上肢の使えなさは認知障害のせい ってことね』


以下、医師国家試験正答率98%のAIの回答コピペ↓


そのとおりである。

ただし、より正確に言えば、

「上肢が動かせるにもかかわらず、日常生活でうまく使えていない現象」は、主に
空間無視や全般的な認知機能の低下が原因で生じている

……というのがこの論文の結論である。

✅ つまり、こういうこと:

  • 運動麻痺が軽度またはない人でも、
  • 認知機能に障害があると、実生活ではうまく手を使えない。

とくに、

  • 空間無視(=片側の空間に気づかない)
  • 注意力や遂行機能の低下

が、上肢パフォーマンスを大きく低下させていた。

失行(動作の手順がわからなくなる)も影響はあるが、比較的小さい。


🧠 なぜ「認知」が影響するのか?

例えば食事の場面で、

  • 食器のある位置に注意が向かない(空間無視)
  • スプーンをどう使えばいいかが混乱する(失行)
  • 途中で何をしていたか忘れる(記憶障害)

こうした「脳の使い方の障害」があると、手が動いても“使える”とは限らない


🧩 まとめると:

「動かない」は運動障害のせい。
「使えない」は認知障害のせい――という視点が、リハビリには不可欠である。

このように、上肢の「使えなさ」は、筋力や関節可動域だけでは説明できない。
脳卒中後の上肢機能評価には、認知の視点を組み込むことが欠かせないというのが、
この論文の主張である。




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