元2025 8月 中国
・血圧を厳しく下げたグループでは、重大な心血管イベントは明らかに減少した。およそ60人を治療すると1人の発症を防げる計算であった。・一方で、副作用も増加し、およそ55人に1人は害を受けることになった。腎臓に関する障害に限ると、そのリスクは100人に1人程度であった。・これらを総合的に評価すると、最終的には1000人のうち約11人に利益が生まれるという結果であった。特に120mmHg未満まで下げるよりも、130mmHg未満を目指す方が利益と害のバランスがよいと示された。
「120未満まで下げたときの“長期的にヤバそうな問題”」という観点で整理する。Lancet論文でも腎臓障害や転倒(低血圧・失神・不整脈など)が指摘されていたが、それ以外にも、医学的・生理的に考えられるリスクはいくつかある。
1. 脳血流の低下による慢性影響
- 高齢者や動脈硬化の強い人では、血圧を下げすぎると脳の自己調節機能が働かず、慢性的に脳血流が不足する。
- 結果として「認知機能の低下」や「小さな無症候性脳梗塞の蓄積」を招く可能性がある。
- 短期的には見えにくいが、長期で認知症リスクが上がるという仮説は強い。
2. 腎臓以外の臓器低灌流
- 腎臓は代表的だが、冠動脈や消化管など、血流が限界に近い臓器も低血圧でダメージを受ける可能性がある。
- 特に冠動脈疾患の既往がある人では、過度な降圧で「狭心症や心筋虚血」が誘発されやすくなる。
- 消化管では虚血性大腸炎なども理論的に増える。
3. 自律神経・ホルモン系への影響
- 慢性的な低血圧は交感神経やレニン・アンジオテンシン系を刺激し、かえって「反動的な血圧変動」を大きくする可能性。
- 血圧変動性は脳卒中や心血管イベントのリスク因子として知られており、「平均は低いが変動が大きい」という状態は長期的に不利。
4. 骨折・転倒の増加
- 急な立ちくらみや失神が増えると転倒リスクが上がり、骨折による寝たきりにつながる。
- 特に高齢者では「脳卒中は防げても、転倒で要介護」という逆転現象が起こりうる。
5. 血流低下による末梢臓器障害
- 眼(緑内障や黄斑変性の悪化リスク)。
- 末梢血管(下肢虚血や潰瘍の治癒遅延)。
- こうした微小循環の慢性低灌流が積み重なると、生活の質を大きく下げる。
まとめ
短期的には「脳卒中が減る」「心筋梗塞が減る」という利益が際立つが、長期的には以下のような問題が積み上がる可能性がある。
- 認知症や脳萎縮の進行。
- 心筋虚血や消化管虚血。
- 転倒・骨折による寝たきり。
- 血圧変動性の増大。
- 微小循環障害による慢性臓器障害。
短期の利益と長期の害は必ずしも一致しない。10年後を見据えると「下げすぎリスク」は決して軽視できない。