~ 6000超の記事をシンプルな単語で検索するよ!

2026年7月10日

脳卒中の常識が崩れる? 病巣と同じ側に麻痺が出る“同側性片麻痺”の謎

2026  7月  スイス


脳卒中による片麻痺は、通常、脳病変の反対側に出る。これは皮質脊髄路が延髄錐体で交叉するためである。

しかし、ごくまれに、脳病変と同じ側に片麻痺が出ることがある。これを同側性片麻痺という。

そこで、このまれな現象がどのくらい起こるのか、どのような患者に多いのか、背景にどのような神経解剖学的メカニズムがあるのかをくわしくしらべてみたそうな。



スイス・ローザンヌ大学病院の脳卒中レジストリを用い、2003年から2023年までに入院した急性虚血性脳卒中患者を調べた。対象は、MRIで確認された片側のテント上病変があり、片麻痺を示した患者である。

その中から、病変と同じ側に麻痺が出た同側性片麻痺の症例を抽出した。
さらに、過去に報告された同側性片麻痺の文献も系統的に調べ、虚血性脳卒中および出血性脳卒中の症例を集めた。必要に応じて、MRI tractography、機能的MRI、経頭蓋磁気刺激も確認した。



次のようになった。

・ローザンヌの単施設データでは、MRIで確認された片麻痺を伴う急性虚血性脳卒中2433例のうち、同側性片麻痺は4例のみであった。頻度は0.16%であり、きわめてまれであった。

・4例すべてで、皮質脊髄路の交叉は画像上正常であった。一方、機能的MRIでは、少なくとも一方の上肢運動で両側性の運動関連領域の活動がみられた。

・文献レビューでは、追加で61例が見つかり、合計65例が検討された。探索的解析では、同側性片麻痺は若年者や過去に脳卒中を経験した患者で多く報告されていた。特に、過去の脳卒中後に運動路が再編成され、その後の新たな脳卒中で同側の麻痺として現れる「second-hit」型が多い可能性が示された。

・考えられるメカニズムとして、先天的に皮質脊髄路が交叉しないタイプ、部分的な交叉異常、両側性の運動表象、過去の脳卒中後の運動路再編成が挙げられた。


同側性片麻痺は、急性脳卒中では非常にまれな症候である。しかし、実際に存在し、診断現場では「病変と麻痺の側が合わないから脳卒中ではない」と単純に判断すべきではない。
同側性片麻痺の一部が、脳卒中後の神経可塑性、すなわち運動経路の再編成と関係している可能性を示している。ただし、症例数は少なく、文献症例も不均一であるため、結論は慎重に解釈する必要がある、


というおはなし。

同側性片麻痺



関連記事:







感想:

『皮質脊髄路の交差が絡んでいることはまちがいないんだろうけど、機能回復がMEPに関係ないみたいな報告をみるのよ(https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/15459683251327582http://stroke.ahajournals.org/content/early/2018/07/06/STROKEAHA.118.021718)。網様体脊髄路を迂回してどうのこうのなんだかんだは関係ありそうなの?』



以下、医師国家試験正答率98%AIの進化版GPT-5の回答コピペ↓



関係ありそうである。かなりある。
ただし、「皮質脊髄路が切れたから、網様体脊髄路がきれいに迂回して代替する」という単純な話ではない。より正確には、脳卒中後の運動回復は「皮質脊髄路一本勝負」ではなく、皮質脊髄路、皮質‐網様体‐脊髄路、網様体脊髄路、赤核脊髄路、前庭脊髄路、脊髄内回路、代償運動が混ざった総合現象である、という理解がよい。🧠

まず、MEPは「運動機能そのもの」ではなく、TMSで刺激したときに特定筋まで反応が出るかどうか、つまり主に皮質脊髄系の興奮性・伝導性を見ている指標である。だからMEP陰性でも、歩行や上肢訓練反応が完全にゼロになるとは限らない。2025年の慢性期・中等度〜重度上肢麻痺の研究では、MEP陽性群と陰性群でFugl-Meyer上肢スコアの改善がほぼ同じで、MEP状態は訓練反応を予測しなかったとされている。([Sage Journals][1])

下肢ではさらにこの話が強くなる。歩行は、手指の巧緻運動よりも脳幹・脊髄・姿勢制御・左右交互運動の比重が大きい。慢性期脳卒中では、下肢MEPの有無が歩行速度をよく説明しないという報告があり、レビューでも「下肢MEPは歩行速度のような具体的機能を予測しにくい」と整理されている。([Frontiers][2])

そこで出てくるのが網様体脊髄路である。これは皮質脊髄路の「細かい指令線」と違って、姿勢、体幹、近位筋、抗重力筋、歩行のような粗大運動に関わりやすい下行路である。脳卒中後、交叉性の外側皮質脊髄路が障害されると、神経系は同側性に下行する経路、つまり非交叉皮質脊髄路、網様体脊髄路、赤核脊髄路、前庭脊髄路などへの依存を増やす可能性がある、と下肢運動回復のレビューでも述べられている。([PMC][3])

しかも、サルの実験では、皮質脊髄路損傷後に網様体脊髄路系の反応が強まり、非交叉皮質脊髄路の反応は弱かったという報告があり、これが「CSTがだめでも、脳幹系の下行路が粗大運動を支える」仮説のかなり強い根拠になっている。スコーピングレビューでも、CST損傷後にRSTがシナプス効率や結合性を高め、運動機能を保つ・補う方向に適応する可能性がまとめられている。([Essex Open Access Research Repository][4])

ただし、網様体脊髄路は救世主ではない。むしろ「動くけど雑になる」方向にも働く。2019年の慢性期脳卒中研究では、StartReact効果、つまり網様体脊髄路出力の代理指標とされる反応が脳卒中患者で大きく、上肢機能ARATや手関節運動とは負に相関し、痙縮が強い患者ほど大きかった。著者らは、重度CST損傷例ではRST結合が強まるが、それは巧緻な機能回復というより、痙縮や共同運動を伴う代償になりうると解釈している。([Sage Journals][5])

だから、今回の同側性片麻痺論文と接続するなら、こう言える。論文自体は網様体脊髄路を直接測ってはいない。主にCST交叉、tractography、fMRI、TMSで説明している。しかし、4例すべてでCST交叉は画像上正常なのに、fMRIでは両側性運動活動がみられている。さらに全65例中では、過去の脳卒中後の再編成による「second-hit」型が最多とされている。つまり「交叉異常だけではなく、脳卒中後に運動支配ネットワークが組み替わる」ことが中心テーマである。 

ここに網様体脊髄路を補助線として入れるのは自然である。過去の脳卒中でCSTが弱る。その後、脳は運動を保つために、両側性・脳幹性・近位筋優位の経路を使う。その状態で2回目の病変が起きると、通常の「反対側麻痺」ではなく、同側性の麻痺や奇妙な運動症状として表面化する。これが「second-hit」仮説とかなり相性がよい。

結論としては、こうである。

MEPで説明できない回復があるなら、網様体脊髄路はかなり有力な候補である。特に歩行、立位、体幹、近位筋、粗大運動、痙縮、共同運動では関係が深そうである。一方、手指の巧緻運動や分離運動では、やはり皮質脊髄路の残存性が強い意味を持つ。したがって「CSTかRSTか」ではなく、「CSTが精密制御、RSTが粗大・姿勢・非常用ルート」という二重制御として見ると、この論文もMEP陰性回復の報告もつながる。

[1]: https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/15459683251327582 "MEP Status is Not Predictive of Response to Upper Limb Training in People With Chronic, Moderate–Severe Hemiparesis Post-Stroke - Erin C. King, Michael Trevarrow, Sebastian Urday, Jacob M. Schauer, Daniel M Corcos, Mary Ellen Stoykov, 2025 "
            Ipsilateral motor pathways to the lower limb after stroke: insights and opportunities - PMC
        "
[4]: https://repository.essex.ac.uk/36092/1/Physiological%20Reports%20-%202023%20-%20Akalu%20-%20Identifying%20the%20role%20of%20the%20reticulospinal%20tract%20for%20strength%20and%20motor%20recovery%20A.pdf "Identifying the role of the reticulospinal tract for strength and motor recovery: A scoping review of nonhuman and human studies"
[5]: https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1545968319836233 "The Relationship Between Enhanced Reticulospinal Outflow and Upper Limb Function in Chronic Stroke Patients - Supriyo Choudhury, A. Shobhana, Ravi Singh, Dwaipayan Sen, Sidharth Shankar Anand, Shantanu Shubham, Mark R. Baker, Hrishikesh Kumar, Stuart N. Baker, 2019 "




ご意見 ご感想はこちら

名前

メール *

メッセージ *