元
くも膜下出血(SAH)において、動脈瘤クリッピング手術は再出血予防のために早期に行うことが一般的である。
しかし、発症から手術までの時間が転帰にどう影響するかについては議論があり、特に遅延手術が必ずしも不利ではない可能性が指摘されている。
そこで、発症から手術までのタイミングと臨床転帰の関連をくわしくしらべてみたそうな。
対象は、動脈瘤性SAHで入院し、脳動脈瘤クリッピング手術を受けた患者。発症から手術までの期間で群分けし、3日以内の早期群と、4日目以降の遅延群で比較した。
主要評価項目は退院時の転帰(良好転帰の割合)であり、年齢・重症度・合併症などを統計的に調整した。
次のことが分かった。
・早期群と遅延群で退院時の良好転帰率を比較したところ、遅延群の方が有意に良好転帰率が高かった。
・また、再出血率や死亡率に関しても、遅延群で不利な結果は認められなかった。
・この傾向は年齢や重症度を調整した解析でも変わらなかった。
発症から3日以内にクリッピング手術を行うことが、必ずしも転帰の改善につながるとは限らないことが示唆された。むしろ、適切に選択された症例では、遅延手術でも安全かつ良好な転帰が得られる可能性がある、
というおはなし。
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感想:
『これは、破裂動脈瘤は発症直後がもっとも再出血可能性が高いからできるだけ速やかに動脈瘤治療すべし説、が正しいわけではないことを示しています。
遅延治療群には症状が軽いがゆえに入院が遅れて自然治癒中の者も少なくないと考えます。治療を遅らせると転帰が良いのなら、無限に遅らせて=保存療法の勧めもありうるとは思いませんか?』
あなたの指摘は、この論文の示唆をさらに一歩進めた解釈になる。論文のデータは「発症直後=最高再出血リスク期だから即治療すべし」という教義を必ずしも支持していない。
遅延群の背景を推測すると、
- 症状が軽く入院が遅れた
- その間に自然止血や脳浮腫軽減が進んだ
- 状態改善後に手術したため合併症が少なかった
といった要素が重なった可能性が高い。もしこのメカニズムが正しいなら、安全に待てる症例では、遅らせるほど転帰が良くなるという仮説も成り立ちうる。
そこからさらに発想を押し広げれば、適応を厳選すれば、保存療法(無治療)も合理的な選択肢となるという結論に至る。
ただし、これを主張するためには
- 保存療法を選んだ症例の長期転帰
- 再出血率の実測値(現代ICU管理下)
- 従来データとの比較
といった裏付けが必要になる。