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2021年9月25日

超早期リハビリと、ウルトラ早期リハビリの違いとは

2021  8月  中国


急性脳卒中患者への早期リハビリテーションに適した介入タイミングについてはいまだよくいわかっていないので、くわしくしらべてみたそうな。

2019年9月20日

BMJ誌:亜急性期の体トレは効果ないうえに危険


Physical Fitness Training in Patients with Subacute Stroke (PHYS-STROKE)- multicentre, randomised controlled, endpoint blinded trial
2019  9月  ドイツ

トレッドミルをつかった体力トレーニング(physical fitness training)は脳卒中患者の神経可塑性をうながし歩行や日常生活動作を改善すると考えられている。

じっさいアメリカ心臓協会のガイドラインでは、
亜急性期に最大心拍数の55-80%の有酸素運動20-60分間を週に3-5セットおこなうことを勧めている。

しかし亜急性期の体力トレーニングの効果をしらべたこれまでのランダム化比較試験9件のうち実際に効果を示したものは2件のみだった。

そこで体力トレーニングの効果と安全性についてマルチセンター(PHYS-STROKE)トライアルできっちりとしらべてみたそうな。



ドイツ7箇所の施設にて、発症から5-45日
NIHSSスコア8前後の中程度以上に神経症状の重い脳卒中患者200人について、

体力トレーニング105人と
リラクゼーション95人 の2グループにわけた。

体力トレーニンググループは体重支持つきトレッドミル上を最大心拍数の50-60%で25分間歩かせる。

リラクゼーショングループでは心拍に影響のない強度での筋肉緊張を解くエクササイズを25分間おこなった。

両グループともにこれらを週に5回 x4週間継続した。

3ヶ月後の日常生活動作をバーセルインデックスで、最大歩行速度を10m歩行テストでしらべた。
有害事象もフォローした。



次のようになった。

・体力トレーニングはリラクゼーションにくらべ最大歩行速度のあきらかな向上はみられなかった。

・日常生活動作についても差はなかった。

・有害事象は 22 vs. 9件 で体力トレーニングにはっきりと多く、とくに転倒リスクが高かった。

亜急性期の体力トレーニングはまったく効果ないばかりか危険だった。ガイドラインを見直したほうがいい、


というおはなし。

図:PHYS-STROKE



感想:

急性期の運動は効果ないし危険、亜急性期も効果ないし危険。

脳卒中の早期リハビリはがんばる人がバカを見る↓。
Neurology誌:早期リハビリ 気休めにもならない

コクランレビュー:超早期リハビリは効果ないし危ない

【やはり】亜急性期のリハビリは効果ないうえに危険

失語症の早期リハビリ まったく効果ない

超早期リハビリをやってはいけない理由

nature.com:脳卒中の超早期リハビリ やる意味ない

Stroke誌:早期リハビリがんばる意味ない

超早期リハビリで死亡者続出 AVERT続報

超早期リハビリには脳の細胞死を促す効果があった!

ランセット誌:超早期リハビリぜんぜん効果ない

2018年11月6日

Stroke誌:超早期リハビリと認知機能


Early Mobilization After Stroke Is Not Associated With Cognitive Outcome
2018  9月  オーストラリア

脳卒中のあとの認知障害や認知症はめずらしくない。

いっぱんに身体活動レベルが高いほど認知機能も良好であると考えられている。脳卒中患者についても同様の傾向がみられるという。

しかし早期リハビリの認知機能への影響はわかっていない。動物実験ではポジティブな報告があるものの、人間では脳循環を低下させ かえって認知機能を悪化させる可能性もある。

そこで、脳卒中患者への超早期リハビリと認知機能の関連をAVERT研究のデータからしらべてみたそうな。


56施設の脳卒中で、認知機能検査スコア(Montreal Cognitive Assessment)30以下の患者2104人について、
24時間以内にベッドから離床させ座位、立位、歩行などを行う「超早期リハビリ」と通常ケアのグループにわけた。

3ヶ月後の認知機能との関連を解析したところ、


次のようになった。

・年齢や脳卒中の重症度で調整したところ、3ヶ月後の認知機能スコアは超早期リハビリグループと通常ケアグループでまったく差がなかった。

脳卒中急性期の患者をできるだけ早い時期に動かしてみたものの、その後の認知機能にはなんの影響もなかった、


というおはなし。

図:超早期リハビリと認知機能

感想:

超早期リハビリは「危険」という報告がおおいなか、認知機能が悪化しなかっただけマシ。
コクランレビュー:超早期リハビリは効果ないし危ない

【やはり】亜急性期のリハビリは効果ないうえに危険

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超早期リハビリで死亡者続出 AVERT続報

ランセット誌:超早期リハビリぜんぜん効果ない
ほかにも↓
失語症の早期リハビリ まったく効果ない

超早期リハビリをやってはいけない理由

超早期リハビリには脳の細胞死を促す効果があった!

2020年3月2日

動物で早期リハビリ実験した結果、、、


An Animal Trial on the Optimal Time and Intensity of Exercise after Stroke
2020  2月  中国

運動は安全かつ経済的な脳卒中のリハビリ手段ではあるが、いつどのくらいの強度でおこなったら良いのかいまだよくわかっていない。

これをあきらかにするべく動物実験をこころみたそうな。

2020年8月3日

早期リハビリの個人データ メタアナリシス

2020  7月  オーストラリア


脳卒中の早期リハビリ(early mobilisation)の安全性と有効性をしらべるために、

これまでの研究参加者の個人レベルのデータ(IPD:individual participant data)統合による精度の高いメタアナリシスをこころみたそうな。

2021年4月9日

リハビリを急いてはダメな理由

2021  4月  日本


脳卒中の発症から24時間以内に開始する超早期リハビリテーションが運動機能障害を悪化させることが報告されている。

しかし そのメカニズムはよくわかっていないので、新潟大学が動物実験でくわしくしらべてみたそうな。

2018年10月21日

コクランレビュー:超早期リハビリは効果ないし危ない


Very early versus delayed mobilisation after stroke
2018  10月  イギリス

入院してまもない脳卒中患者の離床をうながして座位 立位 歩行訓練などを始める「超早期リハビリテーション」をすすめる臨床ガイドラインが世に存在しているが、その効果については結論がでていない。

これまでの研究をまとめてみたそうな。


19の医学データベースから信頼性の高い研究を厳選してデータを統合 再解析したところ、


次のことがわかった。

・被験者2958人を含む9の臨床試験がみつかった。

・超早期リハビリの平均開始時期は入院後18.5時間以内で、通常ケアでは33.3時間後だった。

・超早期リハビリグループではセラピー時間と活動量が通常ケアよりもおおかった。

・回復不良率 51% vs. 49%、死亡率 8.5% vs. 7% でいずれも超早期リハビリで高かった。

・超早期リハビリの入院期間は通常ケアよりも1日短かったが、エビデンスレベルは低かった。

入院した脳卒中患者に24時間以内の離床を勧める「超早期リハビリテーション」により死亡者と回復不良者はむしろ増えた。入院日数の短縮効果はせいぜい1日であり、そのエビデンスレベルは低かった、


というおはなし。
図:早期離床


感想:

いったん信じ込んでしまったことをくつがえすのは大変なんだね。

【やはり】亜急性期のリハビリは効果ないうえに危険

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超早期リハビリには脳の細胞死を促す効果があった!

2024年12月17日

リハビリが命を奪う!?超早期介入のリスクと現実

2024  10月  中国


急性脳梗塞後のリハビリテーションの適切な開始時期は長年議論されている。特に、発症後48時間以内に開始される“超早期リハビリテーション(VER)”は、機能回復を促進する可能性があるとされるが、一方でリスクも伴う。

そこで、VERの安全性と有効性について、科学的根拠を基に総合的に評価してみたそうな。

2020年8月19日

重度脳損傷への早期上体起こし

2020  8月  デンマーク

脳卒中患者での早期リハビリテーションは長く注目されてきた。

これに外傷性や低酸素性の脳損傷もふくめた重度の後天性脳損傷(acquired brain injury)での、早期の上体起こし(head-up mobilisation)のリスクとベネフィットについてメタアナリシスをこころみたそうな。

2020年11月10日

Neurology誌:早期リハビリで患者が亡くなるんよ

Fatal and Nonfatal Events Within 14 days After Early, Intensive Mobilization Poststroke
2020  11月  オーストラリア


超早期リハビリテーションの効果と安全性の臨床試験(AVERT:a very early rehabilitation trial)の新たな解析結果があきらかになったそうな。

2025年1月3日

ゲームで命を守る!集中治療室で始まる安全な早期リハビリ革命

2025  1月  アメリカ


集中治療室に入院中の脳卒中など神経疾患患者にとって、早期リハビリは回復を左右する重要な要素である。

しかし、これまでのインタラクティブビデオゲームを用いたリハビリ研究では、神経疾患患者が対象から除外されている場合が多かった。

そこで、集中治療室における神経疾患患者に対して、ビデオゲームを用いたリハビリ療法の実現可能性と安全性をくわしくしらべてみたそうな。

2018年10月4日

早期リハビリを勧める理由


Behavioral Effect of Short- and Long-Term Exercise on Motor Functional Recovery after Intracerebral Hemorrhage in Rats
2018  9月  日本

脳卒中後のリハビリ効果には その開始する時期と期間が関係すると考えられる。

動物実験でこれをたしかめてみたそうな。


人為的に脳内出血にしたネズミをつぎの5グループに分けた。

1.脳内出血のみ(運動なし)
2.脳内出血の翌日から14日間運動
3.脳内出血の翌日から7日間運動
4.脳内出血の8日目から7日間運動
5.手術のみで脳内出血なし

運動は30分間のトレッドミル。

複数の行動検査をおこない比較したところ、


次のことがわかった。

・翌日から運動させたグループは、他のグループよりも回復があきらかにすぐれていた。

・8日目から運動させたグループは脳内出血のみのグループと同レベルの回復だった。

脳内出血のあと早くに運動を始めたグループは回復がよかった。この効果は運動させる期間によらなかった、


というおはなし。

図:脳内出血の早期リハビリ効果

感想:

アブストと本文中のこのあたり↓の記述、素人目にもおかしいと思う。
図:謎の記述

ネズミの歳も気になる。

いずれにしても早期リハビリを勧める根拠は いまだ動物実験しかない。

なぜなら人間では真逆の結論↓だから。
【やはり】亜急性期のリハビリは効果ないうえに危険

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ほかにも↓
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超早期リハビリには脳の細胞死を促す効果があった!

2019年8月7日

Neurology誌:早期リハビリ 気休めにもならない


Early mobilization and quality of life after stroke- Findings from AVERT
2019  7月  オーストラリア

早期リハビリテーションが脳卒中患者の生活の質にあたえる影響を、
2006-2015に56施設で国際的に行われたランダム化比較試験 A Very Early Rehabilitation Trial (AVERT) のデータをつかってくわしくしらべてみたそうな。



平均年齢70.6、2104人の脳卒中患者を
通常ケアのみと、
通常ケア+24時間以内にベッドから出る訓練を始める、
の2グループにわけた。

生活の質は、4つのドメイン(自立生活、社会関係、身体機能、精神状態)について評価する assessment of Quality of Life 4D (AQoL-4D) をもちいて12ヶ月後をしらべた。

AQoL-4Dスコアは、0は死亡 1が完全に健康、を指す。



次のようになった。

・12ヶ月後のAQoL-4Dスコアの中央値は0.49 vs. 0.47でグループ間で有意な差はなかった。

・ドメインごとにみても同様に違いはなかった。

早期リハビリテーションは脳卒中患者の生活の質に影響しなかった、


というおはなし。

図:AVERTのQoL


感想:

軽症な人が早くから動き回っていただけのことを訓練成果と勘違いしてうまれた「早期リハビリ」。

この数年でようやくおかしいことに気づいた模様↓。
コクランレビュー:超早期リハビリは効果ないし危ない

【やはり】亜急性期のリハビリは効果ないうえに危険

失語症の早期リハビリ まったく効果ない

超早期リハビリをやってはいけない理由

nature.com:脳卒中の超早期リハビリ やる意味ない

Stroke誌:早期リハビリがんばる意味ない

超早期リハビリで死亡者続出 AVERT続報

超早期リハビリには脳の細胞死を促す効果があった!

ランセット誌:超早期リハビリぜんぜん効果ない

2023年2月13日

Stroke誌:脳卒中のリハビリやってなかった

2023  2月  アメリカ


脳卒中は長期にわたる障害のおもな原因である。

脳卒中リハビリテーションを充実させることは機能転帰の改善につながると考えられているので、

発症後1年間のリハビリ量とその予測因子についてくわしくしらべてみたそうな。

2013年5月21日

早期リハビリって効果があるのかな...


Early Mobilization after Acute Stroke.
2013  5月  ノルウェー

早期リハビリがほんとうに良いのか調べてみたそうな。


発症後24時間以内に入院した脳卒中患者について、

・入院から24時間以内に移動訓練を始めるグループ(27人)

・入院から24-48時間経ってから移動訓練を始めるグループ(25)

に分けて、3ヶ月後の回復程度を比較した。

また、年齢、性別、神経症状の程度、脳卒中リスク要因などとの関連も解析した。


次のようになった。

・早期グループでは中央値で7.5時間後、比較グループでは30時間後に訓練を始めた。

・55%の患者で回復が良かった。

・良好な回復と関連のある要因は見つからなかった。



移動訓練を始める時間と予後との関連は見られなかった


というおはなし。

写真:早期リハビリ

追記:(2018)
【やはり】亜急性期のリハビリは効果ないうえに危険

nature.com:脳卒中の超早期リハビリ やる意味ない

Stroke誌:早期リハビリがんばる意味ない

超早期リハビリで死亡者続出 AVERT続報

ランセット誌:超早期リハビリぜんぜん効果ない

2025年4月22日

超早期リハビリの“犯人”は誰だ? ― LVOではなかった、残るは…?

2025  4月  オーストラリア


 AVERT(A Very Early Rehabilitation Trial)試験では、脳梗塞発症後24時間以内の超早期リハビリ介入(Very Early Mobilization:VEM)を行うと、かえって機能予後が悪化するという結果が示された。

しかし、そのメカニズムは不明である。そこで、VEMの悪影響の原因として「大血管閉塞(Large Vessel Occlusion:LVO)のある患者にVEMを行うと、脳の血流がさらに低下し悪化を招くのではないか」という仮説をくわしく検証してみたそうな。

2025年6月30日

「脳卒中後の機能障害における比例回復則――早期のリハビリは要らないのか?

脳卒中後の機能回復に関して、「比例回復則(proportional recovery rule, PRR)」と呼ばれる経験則が報告されています。これは、多くの脳卒中生存者において失われた機能の約70%が数か月以内に自然回復するというもので、初期障害の程度から最終的な回復量を高い精度で予測できる可能性を示唆しています

本レビューでは、この法則が成立する領域と限界、神経学的根拠、反証や批判、リハビリ介入の影響、および自然回復に関する議論について、信頼性の高い英語論文をもとに整理します。


脳卒中の比例回復則


1. 比例回復則が成立する機能領域とその限界点

主要な運動機能(特に上肢の運動機能)は比例回復則が典型的に確認されている領域です。たとえばPrabhakaranら(2008年)は、脳卒中後の上肢麻痺の回復量がおおむね「初期障害量の70%」に収束することを報告しました(上肢Fugl-Meyer評価において、初期評価と3~6か月後の差が最大得点からの70%に相当)。同研究では最重度の麻痺を呈した一部の患者は予測より著しく低い回復しか示さず、これらを除外すると残りの患者群で初期重症度と回復量に0.7の比例関係が成立したとしています。以後の研究でも、上肢機能について異なる国・集団やリハビリ方法にかかわらず一貫して約70%前後の回復率が確認されており、患者の年齢、発症時の重症度、脳卒中のタイプ、リハビリ量といった要因に左右されにくい現象であることが示唆されています。例えばWintersら(2015年)やStinearら(2017年)の報告を含め、近年の5研究(合計500名以上)でこの70%現象が再現されており、非常に高い再現性が示されています。 下肢機能(歩行を含む)についても、同様の回復パターンが報告されています。Smithら(2017年)は下肢運動麻痺も発症後3か月で約70%が回復すると結論付けました。より大規模なコホート研究(EPOSデータ)では、Veerbeekら(2018年)が下肢Fugl-Meyer評価 (最大34点) における6か月後の回復量が平均で64%(95%信頼区間59-69%)に達することを報告し、約87%の患者がこの「比例回復」に当てはまりました 。一方、初期下肢麻痺がきわめて重度(Fugl-Meyer下肢スコアが14点未満)の患者群では非比例な低回復(non-fit)となる例も見られ、同研究では下肢初期点14点未満の患者のうち約35%が70%則に当てはまらない「非回復者」でした。もっとも非回復者の割合は上肢より下肢で低く(上肢で31%、下肢で13%)、これは下肢の降下路が冗長で代償が効きやすいためではないかと議論されています。以上より上肢・下肢の運動機能は比例回復則が成立しやすい領域ですが、完全麻痺に近い重度例ではこの法則が適用できない限界があるといえます。 言語機能(失語症)に関しても、初期の言語障害の重症度が回復量をよく予測することが示されています。Lazarら(2010年)の研究タイトル「脳卒中後の失語症の改善は初期重症度によってよく予測できる」が示すように、失語症の回復も初期評価から一定割合の改善が見込まれる傾向があります。具体的にはWestern Aphasia Batteryなどの言語スコアで重症なほど改善余地も大きいが、その 約70%程度まで回復する例が多いと報告されています。もっとも言語領域では運動ほど症例数が多くないため変動幅も指摘されています。また、半側空間無視など注意機能についても比例回復が当てはまる可能性があり、Marchiら(2017年)やWintersら(2017年)は視空間の偏側注意障害が発症後に平均90%以上という高率で改善することを示し、これも一種の比例回復と捉えられています(95%CIが100%を超えるほどほぼ完全に近い回復が統計的に示唆されました)。さらに認知機能全般についてRamseyら(2017年)は、記憶や遂行機能など様々な領域で「各患者が失った機能の一定割合を取り戻す」という現象がみられる可能性を示唆しています。 以上のように、上肢・下肢の運動機能、言語、空間認知などで比例回復則が報告されています。ただし全ての患者・全ての機能に一律に成立するわけではなく、特に初期障害が極めて重度な場合や生理的な回復メカニズムが阻害された場合には当てはまらないことが明らかになっています。この当てはまらない群(非回復者/non-fitters)の存在が、比例回復則の限界点といえます。 2. 比例回復則を支持する神経科学的・生理学的根拠 脳の自然回復メカニズムが比例回復則の背景にあると考えられています。脳卒中後の最初の数週間~数か月で起こる自然な神経生物学的回復には、以下のような要素が挙げられます:
ジアスキシスの回復: 脳卒中によって損傷を受けた部位だけでなく、遠隔部位の機能低下(ジアスキシス)も生じます。時間経過とともに脳ネットワークの一過性の混乱が正常化するにつれて機能が戻ってくることが知られており、これが回復量の一定割合を占めると考えられます。例えば脳内の低下した血流や代謝が回復し、神経ネットワークの結合性が再正常化すれば運動機能は著しく改善しますが、ネットワークの再統合が不十分だと回復が阻害され比例回復が見られなくなる可能性があります。このことは、脳全体のネットワークレベルで共通の回復メカニズムが作用しており、それがほぼ一律の回復率を生む一因であることを示唆します
重要な神経経路の保存: 皮質脊髄路(CST)の損傷の有無が回復の程度を決定する決定的因子であり、比例回復則の成否を左右します。Byblow & Stinearら(2015年)の研究では、TMS(経頭蓋磁気刺激)で麻痺肢の運動誘発電位(MEP)が記録できる患者(すなわちCSTが機能的に残存している患者)のみが約70%の上肢運動回復を示し、MEPが得られない患者では顕著な回復が起こらないことが示されました。具体的には、発症2週時点の上肢Fugl-Meyerスコアが11点以上の患者(ある程度自主運動が残存)では26週後に約0.7の割合で回復しましたが、初期スコアが10点以下(重度麻痺)の患者ではこの比例回復パターンが成立しませんでした。同様にMEPが存在する群では回復率0.71、MEP陰性群では0~0.7以下に留まるなど、皮質脊髄路の構造・機能的保全性が「回復できる脳」の必要条件となっていました。このことは、脳内に残存する運動ニューロン資源が一定以上あれば、システム全体としてその潜在力の約7割を自律的に取り戻す生物学的プログラムが働く可能性を示しています。逆に主要経路が壊滅的に損傷された場合、脳の可塑的な再組織化にも限界があり、通常の回復メカニズムが機能しない(比例回復則から外れる)と考えられます
その他の生物学的要因: Waller変性(損傷後の遠位軸索の変性)や遺伝子多型(例: BDNF多型)、血液脳関門障害に伴う浮腫なども回復に影響を与える可能性があります
。これらは一部の患者で自然回復メカニズムを初期に阻害し、結果的に非回復者となる要因として指摘されています。また脳卒中直後の興奮性/抑制性神経伝達の変化(例えばGABA作動性抑制の増大)も可塑性に影響しうるため、こうした神経生理学的環境の改善が回復率に寄与する可能性があります
以上のように、脳卒中後の自然回復には脳ネットワーク全体の機能回復や主要経路の残存が不可欠であり、比例回復則はそれら生物学的条件が満たされた場合に現れる法則と考えられます。比例回復が「内在的な脳の自己修復能力」を反映するとの観点から、最近ではこの回復則そのものを脳の可塑性や回復能力の指標としてとらえ、さらに神経科学的に解明しようという研究も進んでいます。 3. 比例回復則に対する反証・批判的研究 比例回復則は興味深い法則ですが、一部の研究者は統計的な錯覚やバイアスの可能性を指摘しています。Hopeら(2019年)やHaweら(2019年)は、「初期値に対する回復量(アウトカム-初期値)の相関」という分析手法が数学的カップリング(同じ値が両側に含まれることによる見かけ上の相関)や尺度の上限効果によって本来以上に高い相関・高い説明率を生み出している可能性をシミュレーションで示しました。実際、いくつかの近年の研究で報告された「初期障害から回復を予測できる精度が80~90%以上(R2値)」といった数値は、アウトカムの変動範囲が初期値より小さい場合には統計的に人為的に大きくなり得ると指摘されています。Hopeらは、過去のほぼ全ての研究で報告された極めて強い相関は過大推定であり、実際にはそこまで厳密な「固定の割合回復」現象は存在しない可能性が高いと結論づけました。要するに、「回復が本当に比例的であるかどうか再検証が必要」という慎重な見解です。 また、Haweら(2019年)のStroke誌への報告「Taking Proportional Out of Stroke Recovery(比例という概念を回復から除外する)」では、独自の患者データ解析から回復量の個人差が大きく、単純な70%則では説明できないケースが多いことを示しました。この研究に対しては反論も寄せられていますが、少なくとも「すべての患者が70%回復する」といった単純な解釈は誤解を招くとの指摘がなされています。 さらに、Bowmanら(2021年)は「数値上の結合と上限への収束が70%という見かけの割合を生む危険性」を論じ、統計解析上の注意不足が「70%」という印象的な数字を膨らませた可能性を警告しています。こうした批判を受け、Chongら(2023年)を含む支持派の研究者たちは解析手法を改善した上でもなお比例回復傾向は有意に存在すると反論しており、現在も議論が続いています。 比例回復則への生物学的な反証としては、前述の非回復者(Non-fitters)の存在が挙げられます。およそ10~30%の患者は予測された割合まで回復せず、特に錐体路が高度に損傷された例や多発梗塞で脳の予備能が低下した例ではほとんど改善が得られません。例えば完全麻痺に近い上肢麻痺ではリハビリを尽くしても数点程度しかFugl-Meyerスコアが向上しないケースがあり、これらは「70%ルール」の例外となります。このような非回復者の存在自体は比例回復則の限界を示すものであり、「回復には二つのサブグループ(回復者と非回復者)が存在する」という見方につながっています。現在の課題はどの因子がこの非回復群を規定しているのかを明らかにすることであり、前述のように神経経路の断裂やネットワークの障害が重要と考えられています。非回復群を適切に早期同定できれば、一部の患者には別の戦略(例: 補償的アプローチや先進的治療)を検討するなど、リハ戦略の最適化につながるでしょう。 総じて、比例回復則は多数のデータに支えられた実証的傾向である一方、統計手法や解釈に注意を要し、また全例に普遍ではないといえます。支持・批判双方の研究が発表されており、今後も解析手法の改良や異なる集団・機能への検証が進む見通しです。 4. リハビリ介入が比例回復則に与える影響:早期介入は本当に必要か? リハビリテーション介入が回復率に与える影響は限定的である可能性が示唆されています。複数の研究から、現在行われている通常のリハビリの有無や強度に関わらず、最終的な改善割合は大きく変わらないことが報告されているためです。 Stinearら(2017年)のレビューによれば、上述の70%前後の回復現象はリハビリテーションのアプローチや密度によらず確認されており、療法の種類や集中的訓練の量が回復の「割合」自体を有意に変化させたという証拠は今のところないとされています。実際、Byblow & Stinearら(2015年)は48名の上肢麻痺患者を対象に、発症2~26週の間に一方の群には集中的リハ(2~6週に合計約553分の上肢訓練)を行い、他方の群は通常リハ(平均176分の訓練)とする比較試験データを解析しました。その結果、26週後の上肢機能回復率は両群でほぼ同等(集中リハ群β=0.69、通常群β=0.68)であり、リハビリ提供量の違いが回復の割合(約70%)に影響しなかったことが示されました。著者らは「比例回復はリハビリ介入量に対して不変(insensitive)であり、発症直後の自然な神経生物学的プロセスによるものかもしれない」と述べています。この所見は他の観察研究とも一致しており、例えばある前向き研究では発症後6か月までの神経学的改善の約90%は時間経過によって規定されると推定されています。要するに、一定の範囲内でリハビリを行っても行わなくても、「回復する人はするし、しない人はしない」という傾向が強いという示唆です。 では早期の集中的リハビリは不要なのか? この点については議論がありますが、大規模臨床試験の結果は興味深い知見を提供しています。たとえばBernhardtら(2015年)による国際ランダム化比較試験AVERTでは、発症24時間以内に頻回の離床・歩行練習を開始する超早期リハと通常ケアを比較しました。その結果、きわめて早期かつ高頻度のリハ介入を行った群の方が、3か月後の良好な機能転帰の確率がやや低下するという予期せぬ結果となりました。具体的には、「発症直後からの過剰なリハ刺激は却って転帰を悪化させる可能性」が示唆され、著者らは過度に早い動員は脳の回復環境(血圧や脳血流、代謝など)に悪影響を与えるリスクを指摘しています。この試験から得られるメッセージは、「とにかく早ければ早いほど良い」という単純なものではなく、脳の自然回復プロセスとのバランスを考慮する必要があるということです。 もっとも誤解してはならないのは、リハビリ自体の有用性が否定されたわけではない点です。上述の研究は主に「自然回復で達成される神経学的改善率」に焦点を当てていますが、リハビリテーションは機能的自立度の向上や代償手段の習得、廃用症候群の予防など多岐にわたるメリットがあります。早期リハ介入は脳の可塑性を高めうるとの動物・臨床研究もあり、適切なタイミングと強度で行えば自然回復で得られた能力を最大限に引き出し、ADL(日常生活動作)やQOLを向上させることができます。しかし少なくとも「生物学的な回復率そのもの」を押し上げる効果は限定的である可能性が高く、その意味で「急いで詰め込むようなリハビリ」が必須かどうかは再考が必要です。結論として、現在のエビデンスは「標準的なリハを行えば十分」であり、「過度に早期・集中したリハを行っても自然回復以上の上乗せ効果は証明されていない」とまとめられます。 5. 自然回復とリハビリ:早期リハ無しでも回復は見込めるのか? 比例回復則の示すところは、脳卒中後の回復の大部分が脳の自然な治癒プロセスによってもたらされるという点です。極端に言えば「早期リハビリを行わなくても、回復する人はある程度回復する」可能性を示唆するデータもあります。実際、前述のとおり発症後数か月の神経学的改善の7~9割は自然経過で決まるとの報告もあり、リハビリ専門家の間でも「初期改善は自然回復の表れであり、リハ介入はそれを“利用”している側面が大きい」と理解されています。 支持的なエビデンスとして、対照群を設けた動物実験や人間での観察研究があります。Jeffersら(2018年)の研究ではラットにおいて脳卒中後の上肢運動機能が人間同様に一定割合で自然回復することが示されました。ラットには人間のようなリハビリは施されませんが、それでも損失機能の約半分以上を取り戻す傾向が見られたのです。この事実は、生物種を超えた内在的な回復メカニズムの存在を示唆しており、人間においても何もしなくても起こる回復がかなりの部分を占める可能性を裏付けます。 さらに前述のStinearらの解析では、リハビリ量が少ない群でも多い群と同程度の回復を示したことから、たとえ手厚いリハを受けなくても大勢は自然に回復することが示唆されます。臨床現場でも、発症後早期に十分なリハを受けられなかった患者が数ヶ月後には自発的にかなり改善していた、というケースは珍しくありません。特に発症直後は安静優先になりやすい重症患者でも、数ヶ月リハ介入が遅れてから改善がみられる例もあります。これは脳の自己修復力が時間の経過とともに発現するためであり、リハはそれを待ってからでも「追いつける」部分があるとも解釈できます。 とはいえ、リハビリを全く行わなくてもよいという意味では決してありません。 自然回復である程度機能が戻ったとしても、適切なリハ介入がなければその機能を日常生活で最大限生かすことは難しいからです。リハビリは単に機能スコアを上げるだけでなく、脳が再獲得した能力を実用的な動作につなげる訓練でもあります。また廃用による二次的な筋力低下や拘縮を防ぐためにもリハは重要です。従って、「早期リハをしなくても勝手に良くなるから不要」という解釈は誤りであり、正しくは「早期リハによらずとも一定の回復は見込めるが、最終的な機能的自立にはリハ介入が必要」というバランスの取れた理解が求められます。 以上を総合すると、脳卒中後の回復は生物学的にプログラムされた部分と、リハ介入によって最適化される部分の双方から成り立っていると言えます。比例回復則は前者の「プログラムされた自然回復」の存在を示す重要な知見であり、これを踏まえて今後は「自然回復+α」を引き出すリハ戦略や、非回復者を救済する治療法の開発が期待されています。比例回復則そのものもまだ論争中のテーマではありますが、患者の予後予測やリハ計画立案に有用な概念であり、引き続き神経リハビリ分野の研究の焦点であり続けるでしょう。

参考文献(一部)
Prabhakaran S. et al. (2008). Inter-individual variability in the capacity for motor recovery after ischemic stroke. Neurorehabil Neural Repair, 22(1):64-71. - 上肢麻痺の回復量は初期麻痺量の約70%であり、重度麻痺患者では回復が著しく限定的なことを報告。
Lazar R. et al. (2010). Improvement in aphasia scores after stroke is well predicted by initial severity. Stroke, 41(7):1485-1488. - 失語症改善は初期重症度で良く予測でき、比例的回復パターンを示唆。
Smith M.-C. et al. (2017). Proportional recovery from lower limb motor impairment after stroke. Stroke, 48(5):1400-1403. - 下肢麻痺も約70%が自然回復しうること、非回復者群の存在について報告。
Stinear C. M. et al. (2017). Proportional motor recovery after stroke: implications for trial design. Stroke, 48(3):795-798. - 比例回復現象を踏まえた臨床試験計画の提言。回復率はリハ内容・量によらず一定であることを強調。
Byblow W. & Stinear C. (2015). Proportional upper limb recovery after stroke is predicated upon corticospinal tract integrity. Brain Stimul, 8(2):429-430. - 皮質脊髄路の保全例でのみ上肢機能が約70%回復し、リハ提供量には依存しないことを示した発表。
Hope T. M. H. et al. (2019). Recovery after stroke: not so proportional after all? Brain, 142(1):15-22. - 比例回復則の統計学的妥当性に疑問を呈し、報告された高い決定係数は過大評価の可能性を示した。
Hawe R. L. et al. (2019). Taking proportional out of stroke recovery. Stroke, 50(1):204-211. - 回復の個人差が大きく固定的比例則には当てはまらないとする研究。
Bowman H. et al. (2021). Inflated estimates of proportional recovery from stroke: the dangers of mathematical coupling and compression to ceiling. Stroke, 52(5):1915-1922. - 数学的 coupling により70%という数値が人為的に生まれる危険性を指摘した論考。
Bernhardt J. et al. (2015). Efficacy and safety of very early mobilisation within 24 h of stroke onset (AVERT trial). Lancet, 386(9988):46-55. - 超早期リハの大規模RCT。過度に早い離床は転帰を改善せず、標準ケアで十分である可能性を示唆。


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2025年2月10日

脳卒中の新比例回復則!マウス実験が示した驚きの90%回復

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脳卒中後の回復には個人差があり、多くの研究が「比例回復則(PRR:Proportional Recovery Rule)」に基づいて回復を予測している。

PRRとは、「初期損傷の約70%の回復がリハビリの有無にかかわらず観察される」という法則であり、ヒトのリハビリ研究で広く適用されてきた。

しかし、動物モデルではこの法則が必ずしも当てはまらないことが指摘されているので、マウスを用いて脳卒中回復のパターンを解析し、新たな回復則の可能性をくわしくしらべてみたそうな。

2025年7月28日

「吊るして歩かせるリハビリ」──効くのか?信じられるのか?

2025  中国  3月


脳卒中は、成人における代表的な長期障害の原因であり、特に歩行障害は多くの人に残る問題である。歩けなくなることで活動量が減り、生活の質も低下する。

このため、歩行機能を取り戻すことはリハビリの中心的な目標とされてきた。

近年注目されているのが、体重を一部支えながら行う「ボディウェイトサポート(BWS)」を活用した歩行訓練である。
ハーネスなどを使って体を部分的に支え、安全かつ早期に歩行練習を行える点が特徴である。

しかし実際のところ、BWSが従来のリハビリに比べて本当に効果があるのか、また装置の違いによって結果が変わるのかといった点について、統一的な答えは出ていなかった。
とくに、歩く力だけでなく、健康に対する実感や生活の質といった主観的な部分まで改善されるのかどうかについては、これまで明確な検証がされていなかったのでくわしくしらべてみたそうな。

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