~ 5000超の記事をシンプルな単語で検索するよ!

検索キーワード「proportional recovery rule」に一致する投稿を関連性の高い順に表示しています。 日付順 すべての投稿を表示
検索キーワード「proportional recovery rule」に一致する投稿を関連性の高い順に表示しています。 日付順 すべての投稿を表示

2018年1月17日

下肢で比例回復則Fitterなら上肢でもFitter?


Is the proportional recovery rule applicable to the lower limb after a first-ever ischemic stroke?
2018  1月  オランダ

脳卒中のあと6ヶ月間の神経障害からの回復は単に時間の問題であり、回復はほとんどすべて自然に起こるという報告がいくつもある。しかしこのしくみについてはよくわかっていない。

その回復ぶんは上肢、半側空間無視、失語で共通していて、脳卒中で低下した機能スコアの60-97%の回復が期待でき、"proportional recovery rule"(比例回復則)とよばれる。

この比例回復則が上肢機能に適合しない患者は、半側空間無視にも適合しないことから神経障害に共通した自発的回復メカニズムがあることをうかがわせる。

そこでほとんど検証されていない下肢機能の比例回復則の有無と適合者(Fitter)および非適合者(non-Fitter)を見分ける特徴とその条件が上肢機能にもあてはまるものか確かめてみたそうな。


脳梗塞患者202人について、発症後72時間以内と6ヶ月後に下肢機能(FMA-LE)および上肢機能(FMA-UE)を評価した。

発症直後の下肢機能から比例回復則で予測される機能回復を果たした適合者と予測から外れた非適合者の特徴をしらべた。


次のようになった。

・87%の患者の下肢機能が比例回復則にしたがっていた。

・その回復は機能低下ぶんの64%だった。

・発症直後のFMA-LEスコアが14ポイント以上のすべての患者は比例回復則に適合していた。

・しかし14ポイント未満であっても78人のうち51人が比例回復則に適合していた。

・非適合者は適合者よりも初期の神経症状が重かった。

・下肢機能の比例回復則に適合しなかったすべての患者は上肢機能の比例回復則にも適合しなかった。

比例回復則への適合度は患者ごとに下肢と上肢で一貫しているようにみえた。適合者を見分ける方法が確立すればリハビリ計画におおきく役立つだろう、


というおはなし。
図:下肢の比例回復則 Fitter non-Fitter

感想:

昨年の報告でも下肢のFitter率は非常に高い。
Stroke誌:下肢運動機能の比例回復則からわかること
つまり重症患者を除くと、歩行訓練はやってもやらなくても ほとんど全員が自然と歩けるようになるということ。

[比例回復則 "proportional recovery rule"]の関連記事

2017年6月9日

半側空間無視と失語症にも比例回復則はアリ?


Principles of proportional recovery after stroke generalize to neglect and aphasia.
2017  6月  スイス

脳卒中患者の運動機能は、低下したぶんの70%がおよそ3-6ヶ月間で勝手に回復するグループとほとんど回復しないグループに別れる。これを比例回復則 "proportional recovery rule"とよぶ。

運動機能にみられる比例回復則が半側空間無視や失語症にもあらわれるとする報告があるので確かめてみたそうな。


脳卒中で半側空間無視の患者35人と失語症の患者14人について、3週間後と3ヶ月時点での機能評価を行い回復度を比較したところ、


次のことがわかった。
・患者の回復度は良好と不良の2グループにはっきりと分かれた。

・半側空間無視の30人と失語症の10人は低下した機能ぶんの71%が回復した。

・残りの計9人の回復ぶんは25%未満だった。

脳卒中患者の半側空間無視や失語症にも 運動機能の回復にみられた比例関係と2分化が確認できた。運動機能と認知機能の回復には共通の可塑的プロセスがあるのではないか、、


というおはなし。
図:脳卒中半側空間無視の比例回復則

感想:

「治る人はすぐ治るし、治らない人は治らない」
言ってしまっては身も蓋もないテーマを語れるようになったのはおおきな進歩だとおもう。
Stroke誌:下肢運動機能の比例回復則からわかること

[比例回復則 "proportional recovery rule"]の関連記事

2017年4月6日

Stroke誌:下肢運動機能の比例回復則からわかること


Proportional Recovery From Lower Limb Motor Impairment After Stroke
2017  3月  ニュージーランド

脳卒中のあと皮質脊髄路にダメージが無い場合、その後のリハビリ訓練量にかかわらず 低下した運動機能の一定の割合≒70%が3ヶ月後には自発的に回復するという経験則があり "Proportional Recovery Rule"(比例回復則)ともいわれている。

比例回復則は上肢機能についてはよく調べられているが下肢の報告は無いのでしらべてみたそうな。


脳卒中患者32人の下肢運動機能を3日後と3ヶ月後に評価した。

皮質脊髄路の健全性はTMSとMRIで評価した。
これらと運動機能の回復度、リハビリ訓練時間との関連を解析したところ、


次のようになった。

・3ヶ月後、低下した下肢運動機能の74%が回復した。

・皮質脊髄路の健全性は下肢回復度の予測の役に立たず、

・しかも回復度はリハビリ訓練時間にもよらず、初期の運動機能低下度のみで決まった。

・上肢の研究では患者の30%は比例回復則にフィットしないはずなのに、今回そういった患者群はなかった。

脳卒中での下肢運動機能の低下は 3ヶ月後にその70%まで回復した。上肢研究でみられた比例回復則に沿わない患者群がいなかったことは 微力ながら別の神経経路(網様体脊髄路)の寄与があったことをうかがわせる。訓練量にもよらなかったことから、比例回復則はもともと備わっている生体プロセスなのであろう、


というおはなし。
図:下肢の比例回復ルール
回復度ΔFMは訓練時間と相関しない。


感想:

比例回復則は2006年ごろから話題になりはじめて、すでに失語や半側空間無視でも同様の効果が確認されている。

ようするに神経インフラさえ残っていれば、リハビリしようがしまいが 落ち込んだ機能スコアぶんの70%は勝手に回復する ってこと。

リハビリ訓練と回復はまったく関係ないというこれ↓に通じるものがある。
題指向型訓練 いくらやっても役には立たない

[比例回復則 "proportional recovery rule"]の関連記事

2018年7月16日

感覚障害も比例回復則するの?


Is There Full or Proportional Somatosensory Recovery in the Upper Limb After Stroke? Investigating Behavioral Outcome and Neural Correlates
2018  7月  ベルギー

近年、脳卒中で麻痺した上肢の運動機能は リハビリの有無にかかわらずその機能低下ぶんの70%が数ヶ月内に自発的に回復することが確認され、比例回復則(proportional recovery rule)と呼ばれている。

しかし皮質脊髄路の健全性に問題がある患者では このルールに則らない(nonFitter)ことがあると考えられている。

今回、上肢の体性感覚機能についても比例回復則があてはまるものかくわしくしらべてみたそうな。


32人の脳卒中患者について発症から4日、7日、6ヶ月後の感覚機能をEm-NSA(Erasmus MC modification of the revised Nottingham Sensory Assessment)で評価した。

Em-NSAでは、体性感覚機能を
1)感覚の有無
2)シャープさや鈍さを受動的に識別する能力(パッシブ処理)
3)感覚を統合して立体物を能動的に識別する能力(アクティブ処理)
にわけて評価した。

また、MRIを使って視床-皮質、島-弁蓋路の病変量を測定し関連を解析したところ、


次のようになった。

・上肢運動機能には比例回復則がみられ、nonFitterグループも確認できた。

・上肢の体性感覚は6ヶ月後にはほぼ全員が回復していた。

・パッシブおよびアクティブ感覚処理には比例回復則が確認でき、それぞれ86%、69%が自発的に回復した。

・4,7日時点で感覚障害のあった患者には視床-皮質、島-弁蓋路の病変量がおおきかった。

今回のサンプルでは全員がはやくに体性感覚を取り戻したが、パッシブおよびアクティブ感覚処理の回復は比例回復則にしたがっていた、


というおはなし。
図:比例回復則 上肢の運動機能と体性感覚

感想:

たしかに今も左腕の感覚は弱いものの、まったくの「ゼロ」だった期間は短く数週間だったよ。

[比例回復則 "proportional recovery rule"]の関連記事

2025年2月10日

脳卒中の新比例回復則!マウス実験が示した驚きの90%回復

2025  2月  ドイツ


脳卒中後の回復には個人差があり、多くの研究が「比例回復則(PRR:Proportional Recovery Rule)」に基づいて回復を予測している。

PRRとは、「初期損傷の約70%の回復がリハビリの有無にかかわらず観察される」という法則であり、ヒトのリハビリ研究で広く適用されてきた。

しかし、動物モデルではこの法則が必ずしも当てはまらないことが指摘されているので、マウスを用いて脳卒中回復のパターンを解析し、新たな回復則の可能性をくわしくしらべてみたそうな。

2025年6月30日

「脳卒中後の機能障害における比例回復則――早期のリハビリは要らないのか?

脳卒中後の機能回復に関して、「比例回復則(proportional recovery rule, PRR)」と呼ばれる経験則が報告されています。これは、多くの脳卒中生存者において失われた機能の約70%が数か月以内に自然回復するというもので、初期障害の程度から最終的な回復量を高い精度で予測できる可能性を示唆しています

本レビューでは、この法則が成立する領域と限界、神経学的根拠、反証や批判、リハビリ介入の影響、および自然回復に関する議論について、信頼性の高い英語論文をもとに整理します。


脳卒中の比例回復則


1. 比例回復則が成立する機能領域とその限界点

主要な運動機能(特に上肢の運動機能)は比例回復則が典型的に確認されている領域です。たとえばPrabhakaranら(2008年)は、脳卒中後の上肢麻痺の回復量がおおむね「初期障害量の70%」に収束することを報告しました(上肢Fugl-Meyer評価において、初期評価と3~6か月後の差が最大得点からの70%に相当)。同研究では最重度の麻痺を呈した一部の患者は予測より著しく低い回復しか示さず、これらを除外すると残りの患者群で初期重症度と回復量に0.7の比例関係が成立したとしています。以後の研究でも、上肢機能について異なる国・集団やリハビリ方法にかかわらず一貫して約70%前後の回復率が確認されており、患者の年齢、発症時の重症度、脳卒中のタイプ、リハビリ量といった要因に左右されにくい現象であることが示唆されています。例えばWintersら(2015年)やStinearら(2017年)の報告を含め、近年の5研究(合計500名以上)でこの70%現象が再現されており、非常に高い再現性が示されています。 下肢機能(歩行を含む)についても、同様の回復パターンが報告されています。Smithら(2017年)は下肢運動麻痺も発症後3か月で約70%が回復すると結論付けました。より大規模なコホート研究(EPOSデータ)では、Veerbeekら(2018年)が下肢Fugl-Meyer評価 (最大34点) における6か月後の回復量が平均で64%(95%信頼区間59-69%)に達することを報告し、約87%の患者がこの「比例回復」に当てはまりました 。一方、初期下肢麻痺がきわめて重度(Fugl-Meyer下肢スコアが14点未満)の患者群では非比例な低回復(non-fit)となる例も見られ、同研究では下肢初期点14点未満の患者のうち約35%が70%則に当てはまらない「非回復者」でした。もっとも非回復者の割合は上肢より下肢で低く(上肢で31%、下肢で13%)、これは下肢の降下路が冗長で代償が効きやすいためではないかと議論されています。以上より上肢・下肢の運動機能は比例回復則が成立しやすい領域ですが、完全麻痺に近い重度例ではこの法則が適用できない限界があるといえます。 言語機能(失語症)に関しても、初期の言語障害の重症度が回復量をよく予測することが示されています。Lazarら(2010年)の研究タイトル「脳卒中後の失語症の改善は初期重症度によってよく予測できる」が示すように、失語症の回復も初期評価から一定割合の改善が見込まれる傾向があります。具体的にはWestern Aphasia Batteryなどの言語スコアで重症なほど改善余地も大きいが、その 約70%程度まで回復する例が多いと報告されています。もっとも言語領域では運動ほど症例数が多くないため変動幅も指摘されています。また、半側空間無視など注意機能についても比例回復が当てはまる可能性があり、Marchiら(2017年)やWintersら(2017年)は視空間の偏側注意障害が発症後に平均90%以上という高率で改善することを示し、これも一種の比例回復と捉えられています(95%CIが100%を超えるほどほぼ完全に近い回復が統計的に示唆されました)。さらに認知機能全般についてRamseyら(2017年)は、記憶や遂行機能など様々な領域で「各患者が失った機能の一定割合を取り戻す」という現象がみられる可能性を示唆しています。 以上のように、上肢・下肢の運動機能、言語、空間認知などで比例回復則が報告されています。ただし全ての患者・全ての機能に一律に成立するわけではなく、特に初期障害が極めて重度な場合や生理的な回復メカニズムが阻害された場合には当てはまらないことが明らかになっています。この当てはまらない群(非回復者/non-fitters)の存在が、比例回復則の限界点といえます。 2. 比例回復則を支持する神経科学的・生理学的根拠 脳の自然回復メカニズムが比例回復則の背景にあると考えられています。脳卒中後の最初の数週間~数か月で起こる自然な神経生物学的回復には、以下のような要素が挙げられます:
ジアスキシスの回復: 脳卒中によって損傷を受けた部位だけでなく、遠隔部位の機能低下(ジアスキシス)も生じます。時間経過とともに脳ネットワークの一過性の混乱が正常化するにつれて機能が戻ってくることが知られており、これが回復量の一定割合を占めると考えられます。例えば脳内の低下した血流や代謝が回復し、神経ネットワークの結合性が再正常化すれば運動機能は著しく改善しますが、ネットワークの再統合が不十分だと回復が阻害され比例回復が見られなくなる可能性があります。このことは、脳全体のネットワークレベルで共通の回復メカニズムが作用しており、それがほぼ一律の回復率を生む一因であることを示唆します
重要な神経経路の保存: 皮質脊髄路(CST)の損傷の有無が回復の程度を決定する決定的因子であり、比例回復則の成否を左右します。Byblow & Stinearら(2015年)の研究では、TMS(経頭蓋磁気刺激)で麻痺肢の運動誘発電位(MEP)が記録できる患者(すなわちCSTが機能的に残存している患者)のみが約70%の上肢運動回復を示し、MEPが得られない患者では顕著な回復が起こらないことが示されました。具体的には、発症2週時点の上肢Fugl-Meyerスコアが11点以上の患者(ある程度自主運動が残存)では26週後に約0.7の割合で回復しましたが、初期スコアが10点以下(重度麻痺)の患者ではこの比例回復パターンが成立しませんでした。同様にMEPが存在する群では回復率0.71、MEP陰性群では0~0.7以下に留まるなど、皮質脊髄路の構造・機能的保全性が「回復できる脳」の必要条件となっていました。このことは、脳内に残存する運動ニューロン資源が一定以上あれば、システム全体としてその潜在力の約7割を自律的に取り戻す生物学的プログラムが働く可能性を示しています。逆に主要経路が壊滅的に損傷された場合、脳の可塑的な再組織化にも限界があり、通常の回復メカニズムが機能しない(比例回復則から外れる)と考えられます
その他の生物学的要因: Waller変性(損傷後の遠位軸索の変性)や遺伝子多型(例: BDNF多型)、血液脳関門障害に伴う浮腫なども回復に影響を与える可能性があります
。これらは一部の患者で自然回復メカニズムを初期に阻害し、結果的に非回復者となる要因として指摘されています。また脳卒中直後の興奮性/抑制性神経伝達の変化(例えばGABA作動性抑制の増大)も可塑性に影響しうるため、こうした神経生理学的環境の改善が回復率に寄与する可能性があります
以上のように、脳卒中後の自然回復には脳ネットワーク全体の機能回復や主要経路の残存が不可欠であり、比例回復則はそれら生物学的条件が満たされた場合に現れる法則と考えられます。比例回復が「内在的な脳の自己修復能力」を反映するとの観点から、最近ではこの回復則そのものを脳の可塑性や回復能力の指標としてとらえ、さらに神経科学的に解明しようという研究も進んでいます。 3. 比例回復則に対する反証・批判的研究 比例回復則は興味深い法則ですが、一部の研究者は統計的な錯覚やバイアスの可能性を指摘しています。Hopeら(2019年)やHaweら(2019年)は、「初期値に対する回復量(アウトカム-初期値)の相関」という分析手法が数学的カップリング(同じ値が両側に含まれることによる見かけ上の相関)や尺度の上限効果によって本来以上に高い相関・高い説明率を生み出している可能性をシミュレーションで示しました。実際、いくつかの近年の研究で報告された「初期障害から回復を予測できる精度が80~90%以上(R2値)」といった数値は、アウトカムの変動範囲が初期値より小さい場合には統計的に人為的に大きくなり得ると指摘されています。Hopeらは、過去のほぼ全ての研究で報告された極めて強い相関は過大推定であり、実際にはそこまで厳密な「固定の割合回復」現象は存在しない可能性が高いと結論づけました。要するに、「回復が本当に比例的であるかどうか再検証が必要」という慎重な見解です。 また、Haweら(2019年)のStroke誌への報告「Taking Proportional Out of Stroke Recovery(比例という概念を回復から除外する)」では、独自の患者データ解析から回復量の個人差が大きく、単純な70%則では説明できないケースが多いことを示しました。この研究に対しては反論も寄せられていますが、少なくとも「すべての患者が70%回復する」といった単純な解釈は誤解を招くとの指摘がなされています。 さらに、Bowmanら(2021年)は「数値上の結合と上限への収束が70%という見かけの割合を生む危険性」を論じ、統計解析上の注意不足が「70%」という印象的な数字を膨らませた可能性を警告しています。こうした批判を受け、Chongら(2023年)を含む支持派の研究者たちは解析手法を改善した上でもなお比例回復傾向は有意に存在すると反論しており、現在も議論が続いています。 比例回復則への生物学的な反証としては、前述の非回復者(Non-fitters)の存在が挙げられます。およそ10~30%の患者は予測された割合まで回復せず、特に錐体路が高度に損傷された例や多発梗塞で脳の予備能が低下した例ではほとんど改善が得られません。例えば完全麻痺に近い上肢麻痺ではリハビリを尽くしても数点程度しかFugl-Meyerスコアが向上しないケースがあり、これらは「70%ルール」の例外となります。このような非回復者の存在自体は比例回復則の限界を示すものであり、「回復には二つのサブグループ(回復者と非回復者)が存在する」という見方につながっています。現在の課題はどの因子がこの非回復群を規定しているのかを明らかにすることであり、前述のように神経経路の断裂やネットワークの障害が重要と考えられています。非回復群を適切に早期同定できれば、一部の患者には別の戦略(例: 補償的アプローチや先進的治療)を検討するなど、リハ戦略の最適化につながるでしょう。 総じて、比例回復則は多数のデータに支えられた実証的傾向である一方、統計手法や解釈に注意を要し、また全例に普遍ではないといえます。支持・批判双方の研究が発表されており、今後も解析手法の改良や異なる集団・機能への検証が進む見通しです。 4. リハビリ介入が比例回復則に与える影響:早期介入は本当に必要か? リハビリテーション介入が回復率に与える影響は限定的である可能性が示唆されています。複数の研究から、現在行われている通常のリハビリの有無や強度に関わらず、最終的な改善割合は大きく変わらないことが報告されているためです。 Stinearら(2017年)のレビューによれば、上述の70%前後の回復現象はリハビリテーションのアプローチや密度によらず確認されており、療法の種類や集中的訓練の量が回復の「割合」自体を有意に変化させたという証拠は今のところないとされています。実際、Byblow & Stinearら(2015年)は48名の上肢麻痺患者を対象に、発症2~26週の間に一方の群には集中的リハ(2~6週に合計約553分の上肢訓練)を行い、他方の群は通常リハ(平均176分の訓練)とする比較試験データを解析しました。その結果、26週後の上肢機能回復率は両群でほぼ同等(集中リハ群β=0.69、通常群β=0.68)であり、リハビリ提供量の違いが回復の割合(約70%)に影響しなかったことが示されました。著者らは「比例回復はリハビリ介入量に対して不変(insensitive)であり、発症直後の自然な神経生物学的プロセスによるものかもしれない」と述べています。この所見は他の観察研究とも一致しており、例えばある前向き研究では発症後6か月までの神経学的改善の約90%は時間経過によって規定されると推定されています。要するに、一定の範囲内でリハビリを行っても行わなくても、「回復する人はするし、しない人はしない」という傾向が強いという示唆です。 では早期の集中的リハビリは不要なのか? この点については議論がありますが、大規模臨床試験の結果は興味深い知見を提供しています。たとえばBernhardtら(2015年)による国際ランダム化比較試験AVERTでは、発症24時間以内に頻回の離床・歩行練習を開始する超早期リハと通常ケアを比較しました。その結果、きわめて早期かつ高頻度のリハ介入を行った群の方が、3か月後の良好な機能転帰の確率がやや低下するという予期せぬ結果となりました。具体的には、「発症直後からの過剰なリハ刺激は却って転帰を悪化させる可能性」が示唆され、著者らは過度に早い動員は脳の回復環境(血圧や脳血流、代謝など)に悪影響を与えるリスクを指摘しています。この試験から得られるメッセージは、「とにかく早ければ早いほど良い」という単純なものではなく、脳の自然回復プロセスとのバランスを考慮する必要があるということです。 もっとも誤解してはならないのは、リハビリ自体の有用性が否定されたわけではない点です。上述の研究は主に「自然回復で達成される神経学的改善率」に焦点を当てていますが、リハビリテーションは機能的自立度の向上や代償手段の習得、廃用症候群の予防など多岐にわたるメリットがあります。早期リハ介入は脳の可塑性を高めうるとの動物・臨床研究もあり、適切なタイミングと強度で行えば自然回復で得られた能力を最大限に引き出し、ADL(日常生活動作)やQOLを向上させることができます。しかし少なくとも「生物学的な回復率そのもの」を押し上げる効果は限定的である可能性が高く、その意味で「急いで詰め込むようなリハビリ」が必須かどうかは再考が必要です。結論として、現在のエビデンスは「標準的なリハを行えば十分」であり、「過度に早期・集中したリハを行っても自然回復以上の上乗せ効果は証明されていない」とまとめられます。 5. 自然回復とリハビリ:早期リハ無しでも回復は見込めるのか? 比例回復則の示すところは、脳卒中後の回復の大部分が脳の自然な治癒プロセスによってもたらされるという点です。極端に言えば「早期リハビリを行わなくても、回復する人はある程度回復する」可能性を示唆するデータもあります。実際、前述のとおり発症後数か月の神経学的改善の7~9割は自然経過で決まるとの報告もあり、リハビリ専門家の間でも「初期改善は自然回復の表れであり、リハ介入はそれを“利用”している側面が大きい」と理解されています。 支持的なエビデンスとして、対照群を設けた動物実験や人間での観察研究があります。Jeffersら(2018年)の研究ではラットにおいて脳卒中後の上肢運動機能が人間同様に一定割合で自然回復することが示されました。ラットには人間のようなリハビリは施されませんが、それでも損失機能の約半分以上を取り戻す傾向が見られたのです。この事実は、生物種を超えた内在的な回復メカニズムの存在を示唆しており、人間においても何もしなくても起こる回復がかなりの部分を占める可能性を裏付けます。 さらに前述のStinearらの解析では、リハビリ量が少ない群でも多い群と同程度の回復を示したことから、たとえ手厚いリハを受けなくても大勢は自然に回復することが示唆されます。臨床現場でも、発症後早期に十分なリハを受けられなかった患者が数ヶ月後には自発的にかなり改善していた、というケースは珍しくありません。特に発症直後は安静優先になりやすい重症患者でも、数ヶ月リハ介入が遅れてから改善がみられる例もあります。これは脳の自己修復力が時間の経過とともに発現するためであり、リハはそれを待ってからでも「追いつける」部分があるとも解釈できます。 とはいえ、リハビリを全く行わなくてもよいという意味では決してありません。 自然回復である程度機能が戻ったとしても、適切なリハ介入がなければその機能を日常生活で最大限生かすことは難しいからです。リハビリは単に機能スコアを上げるだけでなく、脳が再獲得した能力を実用的な動作につなげる訓練でもあります。また廃用による二次的な筋力低下や拘縮を防ぐためにもリハは重要です。従って、「早期リハをしなくても勝手に良くなるから不要」という解釈は誤りであり、正しくは「早期リハによらずとも一定の回復は見込めるが、最終的な機能的自立にはリハ介入が必要」というバランスの取れた理解が求められます。 以上を総合すると、脳卒中後の回復は生物学的にプログラムされた部分と、リハ介入によって最適化される部分の双方から成り立っていると言えます。比例回復則は前者の「プログラムされた自然回復」の存在を示す重要な知見であり、これを踏まえて今後は「自然回復+α」を引き出すリハ戦略や、非回復者を救済する治療法の開発が期待されています。比例回復則そのものもまだ論争中のテーマではありますが、患者の予後予測やリハ計画立案に有用な概念であり、引き続き神経リハビリ分野の研究の焦点であり続けるでしょう。

参考文献(一部)
Prabhakaran S. et al. (2008). Inter-individual variability in the capacity for motor recovery after ischemic stroke. Neurorehabil Neural Repair, 22(1):64-71. - 上肢麻痺の回復量は初期麻痺量の約70%であり、重度麻痺患者では回復が著しく限定的なことを報告。
Lazar R. et al. (2010). Improvement in aphasia scores after stroke is well predicted by initial severity. Stroke, 41(7):1485-1488. - 失語症改善は初期重症度で良く予測でき、比例的回復パターンを示唆。
Smith M.-C. et al. (2017). Proportional recovery from lower limb motor impairment after stroke. Stroke, 48(5):1400-1403. - 下肢麻痺も約70%が自然回復しうること、非回復者群の存在について報告。
Stinear C. M. et al. (2017). Proportional motor recovery after stroke: implications for trial design. Stroke, 48(3):795-798. - 比例回復現象を踏まえた臨床試験計画の提言。回復率はリハ内容・量によらず一定であることを強調。
Byblow W. & Stinear C. (2015). Proportional upper limb recovery after stroke is predicated upon corticospinal tract integrity. Brain Stimul, 8(2):429-430. - 皮質脊髄路の保全例でのみ上肢機能が約70%回復し、リハ提供量には依存しないことを示した発表。
Hope T. M. H. et al. (2019). Recovery after stroke: not so proportional after all? Brain, 142(1):15-22. - 比例回復則の統計学的妥当性に疑問を呈し、報告された高い決定係数は過大評価の可能性を示した。
Hawe R. L. et al. (2019). Taking proportional out of stroke recovery. Stroke, 50(1):204-211. - 回復の個人差が大きく固定的比例則には当てはまらないとする研究。
Bowman H. et al. (2021). Inflated estimates of proportional recovery from stroke: the dangers of mathematical coupling and compression to ceiling. Stroke, 52(5):1915-1922. - 数学的 coupling により70%という数値が人為的に生まれる危険性を指摘した論考。
Bernhardt J. et al. (2015). Efficacy and safety of very early mobilisation within 24 h of stroke onset (AVERT trial). Lancet, 386(9988):46-55. - 超早期リハの大規模RCT。過度に早い離床は転帰を改善せず、標準ケアで十分である可能性を示唆。


関連記事:

















2018年1月15日

脳卒中の比例回復則 リハビリはほんとうに必要か?


Does Stroke Rehabilitation Really Matter? Part A: Proportional Stroke Recovery in the Rat.
2018  1月  カナダ

脳卒中で失われた患者の機能が、障害の程度に比例してその70%くらいまで自発的に回復する現象を "proportional recovery rule"(比例回復則)と呼ぶ。

これまで比例回復則は上下肢の運動機能および半側空間無視、失語症でも報告されていて、脳卒中患者のおよそ80%がこの現象をしめす。

皮質脊髄路や運動誘発電位の健全性が比例回復則と関連するとの見方もある。

回復が自発的にすすみリハビリの有無によらないことから生物の持つ本質的な治癒メカニズムと考えられ、脳卒中リハビリの存在意義が問われている。

ところが人で実験する場合、いかなるリハビリ行為もまったく行わない群を設けるのはほとんど不可能に近い。

そこで完全管理の動物をつかって比例回復則を確認できるものか 実験してみたそうな。

2018年5月15日

刺激豊富な環境と課題訓練の相乗効果


Synergistic Effects of Enriched Environment and Task-Specific Reach Training on Poststroke Recovery of Motor Function
2018  5月  カナダ

刺激豊富な環境や集中的なリーチ課題訓練は神経の可塑性をうながすと考えられている。これらを単体でおこなったときと組み合わせた時の効果を実験してみたそうな。

2018年7月9日

半側空間無視はほとんどが自然に治る


Impact of clinical severity of stroke on the severity and recovery of visuospatial neglect
2018  7月  オランダ

半側空間無視は通常、損傷脳半球の反対側に注意障害がおきる。そして脳卒中が重症のばあいには同側にも無視が生じる。

そこで、重症脳卒中の半側空間無視とその症状の時間的変化をしらべてみたそうな。


右脳の脳卒中患者90人を非常に重症である 完全前循環梗塞(total anterior circulation infarct:TACI)38人と非TACIグループ52人にわけた。

半側空間無視の程度は文字抹消検査(letter cancellation test:LCT)で損傷脳の対側、同側についてしらべた。

発症から 1, 2, 3, 4, 5, 8, 12, 26週までその自発的な改善変化をフォローしたところ、


次のことがわかった。

・同側と対側の無視については臨床的重症度とLCTの取りこぼし数とのあきらかな関連はなく、

・いずれの場合も その数は時間が経つにつれ徐々に減少した。

・TACIタイプの重症脳梗塞では同側の無視症状の回復スピードがあきらかに遅かった。

広範囲におよぶ脳梗塞では同側への空間無視症状の回復があきらかに遅かった。しかしこれら症状は時間が経つにしたがい自発的に回復していった、


というおはなし。
図:半側空間無視の週別変化


感想:

この回復パターンは比例回復則 (proportional recovery rule)のそれとおなじで、そこから外れる患者こそが治療対象になるべきだって。

2025年6月9日

“重症”でもあきらめないで!脳内出血が見せた奇跡の回復メカニズム

2025  5月  イギリス


脳梗塞と脳内出血は、起こる仕組みも治療のやり方も違っており、回復のしやすさや亡くなるリスクにも差がある。

そこで、それぞれのケースで腕の動きにどんな障害が出て、どのくらい回復するのかをくわしくくらべてみたそうな。

2024年7月16日

脳出血リハビリの真実:効果的な開始時期と超早期介入のリスクに迫る

2024  6月  ポーランド


脳卒中には脳出血と脳梗塞の2種類があり、それぞれの回復には異なるアプローチが必要である。

特に早期リハビリテーションの効果とその開始時期については議論が続いている。

そこで、早期リハビリテーションにおける脳出血と脳梗塞の違い、機能転帰との因果関係、および24時間以内に開始する超早期リハビリでの注意点に焦点を当て、最新の研究結果をもとにその有効性とリスクのレビューをこころみたそうな。

2018年11月16日

上肢感覚リハビリの方法と効果予測


Initial severity of somatosensory impairment influences response to upper limb sensory retraining post-stroke
2018  10月  オーストラリア

脳卒中患者のおよそ半数は触覚や深部感覚の障害を経験する。しかしリハビリテーションはおもに運動機能にフォーカスしているため感覚障害はあつかわれないことがすくなくない。

上肢の運動機能障害に関しては Proportional Recovery Rule(比例回復則)があって、初期の障害程度に比例した自発的回復が予想できる。
しかし重度の障害患者ではこのルールに則らないことがわかっている。

そこで感覚障害患者に積極的な感覚リハビリをおこなったときに、その回復が初期の障害程度に比例するものか実験してみたそうな。


感覚の弁別能と認識能を再訓練するための方法 "SENSe therapy" (→7つの原理の 詳しいYoutubeリンク)を用いた2つの臨床試験のデータを用いた。

脳卒中で上肢感覚麻痺の80人の患者について、感覚訓練の効果を質感弁別、手首の深部感覚、触覚による物体認識について訓練前後で評価したところ、


次のことがわかった。

・訓練後の感覚障害の回復は訓練まえの障害程度に比例していた。

脳卒中で上肢感覚麻痺患者への感覚訓練の効果は、訓練まえの障害程度と比例関係にあり予測が可能だった。この感覚訓練は重度の感覚障害にも期待できる、


というおはなし。

図:脳卒中感覚障害の比例回復

感想:

比例回復則からのおちこぼれ(non-fitter)を救えるんだね この感覚リハビリは。
感覚障害も比例回復則するの?

2019年3月7日

Brain誌:半側空間無視のシータバーストと比例回復則


Theta burst stimulation in neglect after stroke- functional outcome and response variability origins
2019  2月  スイス

脳卒中で半側空間無視の患者の、過活動状態にある健常側の脳半球のはたらきを磁気刺激などの非侵襲的な方法で抑えると 無視症状が緩和されるという報告がいくつかある。

ただしこの効果はすべての患者にあてはまるものではなく個人差がおおきい。

そこで、健常脳を抑制する条件と、効果があらわれる個人の特徴をくわしくしらべてみたそうな。



亜急性期の右脳の脳卒中で、左の半側空間無視の患者30人と無視症状のない30人について、

右脳の後頭頂葉に連続シータバースト磁気刺激をあたえた。

適した刺激量をさぐるため、1バーストトレイン44秒の磁気刺激を4日間で計8トレインまたは16トレイン、偽刺激 の3グループにわけて実験した。

無視症状と日常生活動作ADL、機能的自立度FIMを3ヶ月後までフォローした。

損傷の位置と拡がりを画像ボクセル解析VLMSでしらべた。

また比例回復則(proportional recovery rule)で予想される回復程度(~70%)とも比較した。



次のようになった。

・全体としてシータバースト刺激グループ(8と16トレイン)で無視症状のあきらかな低下が見られ、効果が3ヶ月以上持続して、

・彼らは身体機能の回復もすぐれていた。

・個人レベルではシータバーストの効果が見られない者は脳梁の、とくに背側注意ネットワークのある後頭頂葉に損傷がおよんでいた。

・シータバーストにより無視症状と機能的自立度があきらかに改善した者の脳梁構造は無傷に保たれていた。

・さらに比例回復則から予測されるADLと無視症状の回復幅はシータバーストにより大きくなっていた。

無視症状のある脳卒中患者で左右脳半球の結合が保たれている場合は、健常脳への連続シータバースト刺激により無視症状はおおきく改善する


というおはなし。

図:脳梁の健全性


感想:

比例回復則はリハビリの有無にかかわらず 運動機能や無視 失語について 機能低下したぶんの70%が数ヶ月間で自発的に回復するという経験則をさす。これに従うものをFitter、はずれる者をnon-Fitterと呼ぶ。

シータバーストにより non-FitterがFitterになるわけではなく、70%の期待回復度が100%ちかくになるようだ。


でもこんな↓はなしもあるからうのみにはできない。
半球間抑制のアンバランスは片麻痺の原因ではなかった

2022年9月20日

日本人脳卒中の機能回復は栄養状態とは無関係だった

2022  9月  日本


脳卒中患者の入院時の栄養状態と退院時の機能的自立度(FIM)との関連について、くわしくしらべてみたそうな。

ご意見 ご感想はこちら

名前

メール *

メッセージ *