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2025年8月21日

脳卒中リハビリにおける音楽療法とバイノウラルビート

はじめに

脳卒中は運動機能や認知機能の障害に加え、情動面(うつや不安)や睡眠障害など様々な問題を引き起こします。近年、音楽療法がこうした脳卒中後のリハビリに有益であることが報告されており、飲み込み障害や失語症の改善、認知・運動機能の向上、気分の改善、神経学的回復の促進につながるとされています。音楽は脳の情動・認知・記憶・運動に関わる領域を広範囲に活性化しうるため、リハビリ治療への応用が期待されています。

本稿では、バイノウラルビート(binaural beats)を用いた音楽療法に注目し、その脳卒中後リハビリへの活用可能性を医学論文に基づき検討します。バイノウラルビートは左右の耳にわずかに異なる周波数の音を聞かせることで脳内に特定周波数の拍動音を知覚させ、脳波を誘導・同期させる方法です。この手法は聴覚的ニューロモジュレーション(音刺激による神経調整)の一種で、非侵襲かつ簡便に脳活動へ影響を及ぼせる点が注目されています。以下、バイノウラルビートが脳卒中患者の認知機能、運動機能、神経可塑性(脳の柔軟な適応能力)、睡眠、情動調整に与える可能性について、関連研究や音楽療法全般の知見も踏まえて整理します。

バイノウラルビート


音楽療法が脳卒中リハビリに与える効果

まず一般的な音楽療法の効果を概観します。音楽療法は単なる鑑賞から楽器演奏、歌唱、リズム運動まで多岐にわたり、脳のマルチモーダルなネットワークを刺激します。例えば音楽に合わせたリズム刺激は歩行訓練に応用され、リズミック・オーディトリ・スティムレーション(Rhythmic Auditory Stimulation; RAS)として広く知られています。RASのランダム化試験のメタ解析では、歩行速度や歩幅の改善、下肢運動機能(Fugl-Meyer Assessmentスコア)の上昇、バランス能力(Berg Balance Scaleスコアなど)の向上といった有意な効果が確認されています。これはリズム刺激が運動とタイミングの脳回路を同期させ、運動機能の再学習(モーターラーニング)を促すためと考えられます。

また、楽器演奏を取り入れた音楽療法(例:電子ピアノやドラムの練習)は上肢の巧緻運動の回復に役立つことが示されています。Music-Supported Therapy (MST)と呼ばれる介入では、慢性期脳卒中患者の麻痺した手の機能が有意に向上し、機能的MRIで損傷半球の聴覚-運動野ネットワークの活動・結合の回復(可塑的変化)が観察されています。さらに同患者群では、治療後に抑うつ症状の軽減やポジティブ感情の増加といった気分面の改善も報告されました。このように音楽療法全般は運動・認知・情動の幅広い領域に効果を及ぼし、脳の可塑性を引き出す包括的リハビリ手段となり得ます。

以上の音楽療法の効果の中で、バイノウラルビートが特に役立つと考えられるのは「脳波の誘導・同期」というユニークな特性による認知機能や情動状態の調整であり、さらにリズムによる覚醒水準の最適化を通じた運動学習の補助です。以下、バイノウラルビートの作用メカニズムと各機能領域への影響を詳しく見ていきます。

バイノウラルビートのメカニズムと一般的な作用

バイノウラルビートでは、例えば左耳に200 Hz、右耳に210 Hzの純音をヘッドホンで聞くと、その差分の10 Hzに相当する拍動音が脳内で知覚されます。この10 Hzはα波(8~13 Hz)の周波数帯に相当し、リラックスした覚醒状態に見られる脳波です。同様に、4 Hzの差を与えればθ波(4~7 Hz)~δ波(<4 Hz)に相当し、これはまどろみや睡眠状態の脳波、16~20 Hz差ならβ波(14~30 Hz)で集中・警戒状態の脳波に対応します。バイノウラルビート刺激(Binaural Beat Stimulation; BBS)は、こうした仕組みで脳波を特定帯域に誘導(エントレインメント)し、結果的に心理状態や認知パフォーマンスに変化をもたらすと考えられています。

既存研究から、周波数帯ごとの心理・生理効果の特徴が報告されています。低周波(δ・θ帯)のバイノウラルビートは不安の抑制や睡眠促進に有効であり、睡眠障害の軽減やリラクゼーション目的で利用する試みがあります(例:δ/θ帯の音楽を毎日聴かせ軽度不安を軽減したパイロット研究)。一方、高周波(β帯)の刺激は記憶・注意・覚醒度を高め、認知課題の成績や警戒心を向上させることが報告されています。例えばLaneらの研究(1998)では、16 Hzと24 Hzのトーンによるβ帯バイノウラルビートを聴取した群は、1.5 Hzと4 Hzのθ/δ帯ビートを聴取した群に比べて30分間の視覚注意課題で有意に成績が良く、かつ主観気分もよりポジティブでした。この結果は、高周波ビートが脳の覚醒レベルを上げ注意・集中力を高める一方、低周波ビートは鎮静効果が強く注意課題のパフォーマンスは低下しうることを示唆します。

総じて、バイノウラルビートは周波数帯域の選択によってリラクゼーションから集中亢進まで幅広く心理状態を調節し得るツールです。その応用可能性は大きく、実際に「気分や認知機能の改善」を目的に健康な人や患者に用いた複数の研究が存在します。系統的レビューによれば、バイノウラルビート刺激は記憶・注意などの認知機能や、ストレス・不安の軽減、モチベーションや自己信頼感の向上といった心理的効果が報告されており、脳波(EEG)の変化も含めた作用メカニズムが検討されています。さらに聴覚刺激によるニューロモジュレーションは、安全かつコスト面でも優れており、専門技術を要する経頭蓋刺激(tDCSやrTMS)などに代わる在宅でも可能な補完療法としても期待されています。

以上の知見を踏まえ、次節よりバイノウラルビートが脳卒中患者の認知機能、情動、睡眠、運動機能などに具体的にどう影響し得るか、関連する研究結果を詳述します。

認知機能への影響と神経可塑性の可能性

脳卒中後には記憶障害や注意障害、遂行機能低下など認知機能の低下が頻発します。また脳の再組織化(可塑的変化)を促すことが機能回復に不可欠です。バイノウラルビートの脳波誘導効果は、これら認知面の改善や可塑性の支援につながる可能性があります。

認知機能への直接的エビデンスとして、アルツハイマー病患者を対象に行われた試験では興味深い結果が出ています。Alzheimer型認知症患者に対しα帯域(10 Hz)のバイノウラルビート音を2週間聴取させた研究では、治療群で認知検査(MMSE)のスコアが有意に改善し、対照群では変化が見られませんでした。さらに治療群では抑うつ・不安ストレス指標(DASS-21)の得点も有意に低下し、EEG解析でもα波・β波・γ波パワーの増加など脳波スペクトルの変化が確認されています。認知症という別領域の研究ですが、音による適切な脳波帯域の賦活が認知機能を底上げし、気分症状も緩和し得ることを示す興味深い結果です。脳卒中後の認知機能障害にも、周波数選択的な聴覚刺激が神経回路の賦活や高次機能の回復をサポートする可能性があります。

実際、健常者を対象とした研究でも記憶・注意課題中のバイノウラルビートの効果が示唆されています。Beaucheneら(2017)はα帯域のビート刺激が作業記憶課題の応答正確度を上げ、脳の機能的結合を変化させることを報告しています。また別の報告ではγ帯域(約40 Hz)のビートが注意力トレーニングの習得を加速する可能性が示されました。40 Hz前後のγ振動は認知処理や神経同期に重要で、マウス研究では40 Hz光刺激や音刺激で脳内の可塑的変化(ミクログリア活性化による老廃物除去など)が生じたとの報告もあります。このように高周波数帯の刺激は注意・学習能力のブーストやシナプス可塑性の誘導に関与し得ると考えられます。

さらに神経可塑性という観点では、音楽療法それ自体が脳卒中後の脳ネットワーク再編を助けるエビデンスがあります。前述のMSTでは聴覚と運動のネットワーク結合が回復しました。バイノウラルビートも、左右両耳からの入力を中脳で統合する際に発生する現象であり、左右大脳半球の協調や皮質-視床ネットワークの同期を生む可能性があります。実際、バイノウラルビート刺激で脳の左右半球のα波コヒーレンスが上昇したとの報告もあり(Orozco Perezら, 2020)、脳全体の機能的結合に影響を及ぼすことが示唆されています。定常的なバイノウラル音響刺激の曝露は脳の可塑性を促進し、記憶保持力を改善し、学習・情報処理能力を高める可能性があるとも指摘されています。

もっとも、脳卒中患者における直接的な認知機能改善のエビデンスは現状限定的です。先行研究では意識障害(最小意識状態など)の患者に対し、お気に入りの音楽にα帯バイノウラルビートを重ねて聴かせることで、30回の治療後に意識レベル(昏睡尺度)が有意に向上したとの報告があります。この研究では脳波や脳幹誘発電位にも改善が見られ、音楽+αビートの組み合わせが通常の音楽だけより患者の覚醒度を高める効果が示されました。脳卒中後の高次脳機能障害に対しても、例えば注意力トレーニング時にβ/γ帯ビートを付加したり、リハビリ後のリラックスタイムにθ帯ビートで定着を促すといった応用が考えられます。これらは今後実証が期待される分野ですが、バイノウラルビートが脳の覚醒水準や情報処理効率を調節することで、リハビリ中の学習効果や再訓練効果を高める可能性が示唆されます。

情動調整・睡眠への効果

脳卒中サバイバーの多くは、抑うつや不安といった心理的ストレスを抱え、睡眠障害や日内変動の乱れが見られます。情動面のケアと睡眠の質向上は、リハビリ意欲や全身的な回復力に直結する重要な課題です。バイノウラルビートは上述の通り不安緩和やリラクゼーションに用いることができ、薬に頼らない音楽的アプローチとして注目されます。

具体的なエビデンスとして、バイノウラルビートの聴取が不安を低減した例があります。Le Scouarnecら(2001)のパイロット研究では、軽度の不安を抱える被験者15名に4週間、週5回程度、δ~θ帯域(睡眠領域)のバイノウラルビート音入り音楽を聴取させました。その結果、日々の自己評価で不安感が有意に減少し、終了時には状態不安(STAI)スコアも減少傾向を示しました。また別の試験では、手術前の患者にバイノウラルビート入り音楽を聴かせたところ、偽音楽や無介入に比べて術前不安が有意に26%ほど低下したとの報告があります。これらは聴覚刺激によるリラクゼーションが不安軽減に有効であることを示しています。

脳卒中患者に焦点を当てると、バイノウラルビート併用による心理リハの報告があります。Kotelnikovaら(2021)は、運動障害(脳卒中や整形外科疾患による)の患者93名を対象にリラクゼーション目的の音響振動療法を実施し、一部にバイノウラルビート成分を組み込んで効果を検証しました。その結果、情動面(不安・抑うつ)の改善や「動作への恐怖心(運動恐怖症)」の軽減においてバイノウラルビート併用群で有意な効果が認められました。一方で、痛みの軽減や認知(記憶・注意)の回復には有意な効果が見られなかったとも報告されています。つまり、バイノウラルビートは精神的安定やモチベーション向上には寄与するものの、認知機能自体の回復には直接的には寄与しにくい可能性が示唆されます。ただし認知訓練への応用に関しては前節のような周波数選択の工夫や長期的介入など検討の余地があり、さらなる研究が必要です。

睡眠への影響については、バイノウラルビートを睡眠改善に用いた研究は少ないものの、周波数帯と効果の対応から推察できます。δ波やθ波は深い眠りや浅い眠りの脳波であり、これらを誘導する音刺激は入眠を促進し睡眠の質を高める可能性があります。前述のLe Scouarnec研究ではδ/θ刺激による不安軽減とともに睡眠潜時短縮も示唆されており、不眠傾向の人に有益だった可能性があります。脳卒中患者では睡眠時無呼吸や不眠が予後に悪影響を及ぼすことが知られており、睡眠改善は重要な課題です。寝る前に心地よい音楽に微細なδ帯バイノウラルビートを混ぜて聴かせることで、入眠儀式として睡眠リズムを整える効果が期待できるかもしれません。もっとも、不眠症患者を対象にしたランダム化試験ではバイノウラルビートの効果は最小限であったとの報告もあり、個人差やプラセボ要因も大きい領域です。現時点では確立した手法ではありませんが、副作用がなく容易に試せるリラクゼーション法として、睡眠衛生の指導と併せてバイノウラル音楽を利用することは一つの選択肢となるでしょう。

運動機能リハビリへの応用

バイノウラルビートは情動や認知面での効果が注目されがちですが、運動機能のリハビリテーションにも補助的役割を果たし得ます。音楽療法の中核にはリズムによる運動同期があり、これはRASの成功によく表れています。ではバイノウラルビート特有の効果として、単なるメトロノーム的リズム以上の何が期待できるのでしょうか。

一つにはリズム+脳波誘導による全身的なバランス機能の向上が挙げられます。Chenら(2025)は脳卒中患者27名を対象に、リハビリ訓練中にバイノウラルビート刺激(BBS)付き音楽を聴かせた群(15名)と、従来型の音楽療法のみの群(12名)を比較しました。その結果、両群ともバランス能力の指標(Berg平衡尺度BBScやMini-BESTest)が改善しましたが、日常生活動作(Barthel Index)と抑うつ(BDIスコア)の改善幅はBBS群で有意に大きいことが分かりました。さらにBBS群内での相関解析では、バランス能力の向上量が下肢機能・気分・ADL能力の向上と有意に関連しており、バイノウラルビート刺激がリハビリ効果を全般的に底上げした可能性があります。著者らは、音楽とリズムの相乗効果でバランスが改善したのではないかと結論づけ、脳機能への影響メカニズム解明を提言しています。この研究は直接的な運動成績への効果としてはバランス改善を捉えていますが、バイノウラル刺激がもたらす覚醒度や集中力の変化がリハビリ訓練の効率を上げたとも考えられ、興味深い所見です。

他の角度からは、運動学習課題におけるバイノウラルビート効果も報告されています。Azizzadehら(2024)は若年成人と高齢者それぞれに対し、α帯域(8.67 Hz)のバイノウルアルビートを30分聴取しながら鏡映描写課題(手先の巧緻運動課題)を行う群と、ヘッドホン装着のみで無音の対照群を比較しました。その結果、高齢者ではαビート群のみ課題エラー数が有意に減少(精度向上)し、若年者ではαビート群のみ反応時間が有意に短縮(速度向上)しました。同時に行った脳波解析では、若年群ではα波パワーの顕著な増大が、高齢群ではβ~γ波パワーの増大が認められました。著者らは、αビートが若年者にはリラックスによる効率化を、高齢者には覚醒度引き上げによる代償をもたらし、それぞれ異なる経路で運動パフォーマンスを向上させたと考察しています。この知見は、脳卒中患者のリハビリでも年齢や症状に応じて最適な周波数の選択が重要であることを示唆します。例えば、注意が散漫で意欲低下が見られる患者にはβ帯域で覚醒度・動機づけを上げる、緊張が強く協調運動が硬い患者にはα帯域で過剰な力みを抑えるなど、周波数調整によってリハビリ効果を高める戦略が考えられます。

さらに心理面から運動への波及として、前述のKotelnikovaらの研究ではバイノウラルビート併用により「動作への恐怖心(転倒や再発への不安)」が軽減しました。これは患者がリハビリ動作に前向きに取り組む助けとなる重要な効果です。恐怖心や不安が強いと運動学習の妨げになりますが、音楽とバイノウラルビートでリラックスできれば自発的な練習量や挑戦意欲が増し、結果的に機能回復が促進されるでしょう。以上より、直接・間接の両面からバイノウルアルビートは運動リハビリテーションの潤滑油として機能し得ると考えられます。

瞑想・マインドフルネスなど関連療法との接点

バイノウラルビートの活用を考える上で、瞑想やマインドフルネスとの親和性にも触れておきます。瞑想状態に入ると脳波にはα波やθ波の増強が生じることが知られており、熟練した瞑想者は安静閉眼時に高振幅のα波を示す傾向があります。これはリラックスしつつ集中した意識状態を反映しています。脳卒中後の不安や注意障害の緩和策として、マインドフルネス瞑想法が導入されるケースもありますが、その効果は認知機能のわずかな改善や抑うつ・ストレスの軽減程度と報告されています。しかし副作用なく反復可能なセルフケアとして有用です。

バイノウラルビートは、この瞑想の過程を音響的にサポートするツールになり得ます。実際、市販の瞑想音源やリラクゼーション音楽にはα帯やθ帯のバイノウラル音を混ぜ込んだものが多数存在し、初心者でも脳波を整えて瞑想状態に入りやすくすることを謳っています。科学的検証は十分ではないものの、一定の周波数刺激が迷走神経系を調整し自律神経バランスを整える可能性も指摘されています。ストレスで高ぶった交感神経活動を抑え、副交感神経優位に誘導することは脳卒中後の血圧管理や精神安定にも有益でしょう。

また、「オーディオニューロモジュレーション」全般の視点では、聴覚を介した脳刺激としてバイノウラルビート以外にも経皮的迷走神経刺激音(ある周波数の音で迷走神経を刺激)やASMRのような聴覚刺激によるリラクゼーション現象などが研究され始めています。これらも広義には音で脳の特定システムを調整する試みであり、非侵襲で実生活に取り入れやすい点が共通します。例えばある臨床試験では、脳波フィードバックを用いて個人に合わせたリアルタイムのバイノウラルビートを提供し、脳状態の改善を図る研究が計画されています(NCT07165899)。瞑想的アプローチと先端技術を組み合わせたこうした試みは、今後のリハビリ領域にも新風をもたらす可能性があります。音による神経調整は、脳卒中リハビリに取り入れられる補完療法の一つとして今後もエビデンスの蓄積が望まれます。

おわりに

バイノウラルビートを用いた音楽療法は、脳卒中リハビリの分野ではまだ新しい試みですが、関連領域の知見はその有用性を示唆しています。音楽療法自体が脳卒中後の運動・認知・情動機能を幅広く支援する中で、バイノウラルビートは脳波帯域への働きかけというユニークな作用で効果を増幅しうると考えられます。既存のパイロット研究からは、お気に入りの音楽にバイノウラルビートを加えることで意識障害患者の覚醒度が上がった例、リハビリ中のバランス訓練に取り入れてADLと気分の改善が得られた例、リラクゼーション場面での使用により不安や動作恐怖が和らいだ例などが報告されています。バイノウラルビートの周波数を工夫すれば、リラックスさせたい時にはα/θ帯、注意を喚起したい時にはβ帯というように患者のニーズに合わせたセッションが可能です。

もっとも、エビデンスはまだ初期段階であり、プラセボ対照を含む大規模試験や、最適な周波数・音楽との組み合わせ、介入期間など不明な点は多く残されています。安全性については報告された副作用はほとんどなく、少なくとも補助療法として試すことのリスクは低いと考えられます。ただし過度の期待は禁物であり、標準的なリハビリ訓練を補完するリラクゼーション・モチベーション向上策として位置付けるのが適切でしょう。

総合すると、バイノウラルビート活用は認知面では注意・記憶の改善や脳の覚醒状態調整に、情動面では不安軽減や睡眠改善に、運動面ではリズム同期と集中力向上による訓練効果アップに寄与しうると考えられます。これは瞑想やマインドフルネスとも通じるアプローチであり、今後さらに脳卒中リハビリへの応用研究が進めば、音楽療法のレパートリーに新たな選択肢を提供するでしょう。その日常生活への適用のしやすさも踏まえ、患者のQOL向上と神経回復力促進を目的とした音楽的介入として、バイノウラルビート療法は大きな可能性を秘めています。

参考文献

Xu C, et al. Potential Benefits of Music Therapy on Stroke Rehabilitation. Oxid Med Cell Longev. 2022;2022:9386095. ※2023年に撤回. 音楽療法が嚥下障害・失語の軽減、認知・運動機能の改善、気分の改善、神経学的回復の促進に寄与することを総説。

Chen R, et al. Effects of Auditory Frequency Stimulation on Balance and Rehabilitation Outcomes in Patients With Stroke: A Randomized Case-Control Study. Brain Behav. 2025;15(7):e70671. バイノウラルビート刺激併用群でバランス機能・ADL・うつ指標の改善が対照より大きかったことを報告。

Liu Z, et al. Short-term efficacy of music therapy combined with α binaural beat therapy in disorders of consciousness. Front Psychol. 2022;13:947861. 意識障害患者に音楽+α帯域バイノウラル刺激を適用し、意識レベルや脳波・誘発電位の指標が改善。低周波BBによる不安抑制・睡眠促進、高周波BBによる記憶・注意向上についても言及。

Mirmohamadi SM, et al. A Review of Binaural Beats and the Brain. Basic Clin Neurosci. 2024;15(2):133-146. バイノウラルビートの認知機能(記憶・注意)や心理機能(ストレス・不安など)への効果、および脳波への作用メカニズムについての最新レビュー。

Kotelnikova AV, et al. Binaural Acoustic Beats in the Psychological Rehabilitation of Patients with Impaired Motor Functions. Bull Rehabil Med. 2021;20(1):60-69. 脳卒中等の運動障害患者にリラクゼーション目的のバイノウラル音響刺激を用い、情動面の改善と運動への恐怖心軽減を示す一方、疼痛や認知には有意な効果なしと報告。

Lane JD, et al. Binaural auditory beats affect vigilance performance and mood. Physiol Behav. 1998;63(2):249-252. β帯バイノウルアルビートが注意課題成績を向上させ主観的な気分もより良好だったこと、θ/δ帯では効果が劣ったことを示した古典的研究。

García-Argibay M, et al. Efficacy of binaural auditory beats in cognition, anxiety, and pain perception: a meta-analysis. Psychol Res. 2019;83(2):357-372. (本文中で直接言及していないが関連するメタ解析。バイノウラルビートの不安軽減効果に中程度のエビデンスを報告。)

その他、本文中で引用した各種文献の詳細は省略しましたが等に示された内容に基づいて構成しています。



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非侵襲的脳刺激(NIBS) は、脳の活動を調整することで機能回復を促し、ICH後の予後を予測する手法として注目されている。しかし、NIBSの刺激方法や対象患者の特徴が異なるため、その効果にはばらつきがあり、臨床応用には課題が残る。

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左耳刺激が脳卒中回復を加速!taVNSで左右の脳活性化

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経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS)は、脳卒中後の上肢リハビリテーションのための有望な非侵襲的神経調節法として注目されている。

しかし、taVNSは左右いずれの片麻痺を有する脳卒中患者に対しても「左耳刺激」を用いている。

このときの皮質反応をくわしくしらべてみたそうな。

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脳卒中リハビリの新たな可能性:上肢機能の3つの鍵

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アメリカには700万人以上の脳卒中経験者がおり、約半数が慢性的な障害を持っている。

上肢の片麻痺は最も一般的な障害で、生活の質に大きく影響する。

片麻痺の上肢リハビリテーションについて最近では年間300件ペースでランダム化比較試験が行われているにもかかわらず、有効な治療法は見つかっていない。

そこで、慢性期の脳卒中経験者の上肢機能回復に「有望な」3つの治療法(高用量訓練、両側運動プライミング、迷走神経刺激)についてまとめてみたそうな。

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迷走神経刺激装置で脳卒中治療

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頸部を走る迷走神経を電極の体内埋め込みなしに電気刺激できる装置が頭痛対策用に2017年からFDA承認されている。

脳卒中への迷走神経刺激で梗塞体積を小さく抑える効果が動物実験で報告されているが、この非侵襲的刺激装置の脳卒中患者での安全性についての報告はほとんどないのでくわしくしらべてみたそうな。

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ランセット誌:迷走神経刺激で上肢リハビリ!

2021  4月  イギリス


脳卒中による長期にわたる上肢の機能低下は一般的であり、迷走神経刺激と組み合わせることで改善する可能性が報告されている。

これが効果的な治療法になりうるかどうか、三重盲検のランダム化比較試験でくわしくしらべてみたそうな。

2020年6月5日

迷走神経刺激の上肢1年間リハビリの効果

2020  6月  イギリス

迷走神経刺激(Vagus nerve stimulation:VNS)と上肢訓練の組み合わせ効果が動物実験のほか人でもいくつか報告されている。


しかし長期にフォローしたものはほとんどないのでくわしくしらべてみたそうな。

2020年2月16日

翼口蓋神経節の刺激で握力アップ


Stimulation of nerve cluster during stroke may have beneficial effects -- ScienceDaily
2020年  2月  アメリカ

脳梗塞の血栓溶解療法の適応になる患者はすくない。病院到着がおくれた患者への治療方法が求められている。

鼻の後ろ 口蓋のすぐ上を通る 翼口蓋神経節(sphenopalatine ganglion)への電気刺激で、脳梗塞からの回復と握力の改善がみられたそうな。

今週19-21日 ロスアンゼルスでの国際脳卒中カンファレンスで発表内容。

2019年10月10日

耳の迷走神経刺激で上肢の感覚がもどる


Transcutaneous Auricular Vagus Nerve Stimulation with Upper Limb Repetitive Task Practice May Improve Sensory Recovery in Chronic Stroke
2019  9月  イギリス

迷走神経刺激(Vagus Nerve Stimulation:VNS)は薬が効かないタイプのてんかんやうつの治療に用いられている。

片頭痛や慢性疼痛にも用いられるようになり、慢性期脳卒中での運動機能の改善効果も報告されている。

従来、VNSは頸を走行する神経を刺激するために胸部にバッテリーを含む刺激装置を埋め込む手術が必要だった。

さいきん経皮的VNS装置が開発され実験が簡単にできるようになった。

そこで耳介を走行する迷走神経を刺激する装置(Transcutaneous Auricular Vagus Nerve Stimulation:taVNS)をもちいて、慢性期脳卒中患者の上肢「感覚」の改善効果をたしかめてみたそうな。



発症から3ヶ月間以上経つ患者12人について、
taVNSをしながらの上肢繰り返し訓練300回/1時間を6週間にわたり計18セットおこなった。

taVNSはNEMOS社の(https://nemos.t-vns.com/en/)装置を使用した。

この前後での触覚、固有感覚をFugl-Meyerスコアをつかって評価した(0-12ポイント)ところ、



次のようになった。

・12人中11人に感覚障害があり、そのうち64%で感覚の回復が見られた。(固有感覚が6人、触覚が2人、両方が1人)

・運動機能がもっとも回復した患者で感覚も もっとも大きい3ポイントの回復が見られた。
耳の迷走神経への経皮的電気刺激にくわえた上肢繰り返し訓練で 慢性期脳卒中患者の感覚が回復できるのかも、、、



というおはなし。

図:経皮的耳迷走神経刺激



感想:

NEMOS社のページみると当該装置が4万円未満で買えそう。
手術のいらない迷走神経刺激リハビリの効き目

耳への電気刺激で脳が回復するという根拠について


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2019年4月5日

Stroke誌:脳動脈瘤の破裂を防ぐ刺激方法とは


Noninvasive Vagus Nerve Stimulation Prevents Ruptures and Improves Outcomes in a Model of Intracranial Aneurysm in Mice
2019  4月  日本

脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血は死亡率が非常に高く 重い障害を残す可能性がある。

脳動脈瘤の発生から成長、破裂その後の回復には炎症反応がおおきく関与していると考えられている。

薬物的に炎症を抑えて動脈瘤の生成を抑える動物実験はあるものの、臨床応用には至っていない。

いっぽうてんかんやうつの治療に用いられている迷走神経刺激(Vagus nerve stimulation:VNS)療法には抗炎症効果が期待できることがわかっている。しかし刺激装置を体内に埋め込む必要があったため臨床応用の壁になってきた。

さいきんになって非侵襲的に皮膚のうえから頸部の迷走神経を刺激する装置が認可された。

そこでこの装置をつかってVNSが頭蓋内脳動脈瘤の破裂と予後におよぼす影響を動物でくわしく実験してみたそうな。



軽症高血圧と重症高血圧にしたネズミについて、
タンパク質分解酵素を脳脊髄液に注入して脳動脈瘤の発生をうながした。

並行して経皮的な頸部迷走神経への電気刺激VNSを20日間おこなった。

VNSは1日に2分間の刺激を5分あけて2回おこなった。
コントロールとして同様の刺激を大腿神経に対して行いFNSとした。

脳動脈瘤の破裂率、生存率、などをくらべたところ、



次のことがわかった。

・軽症高血圧では破裂率は29% vs. 80%でVNSが非常に低かった。

・くも膜下出血の重症度もまたVNSが低かった。

・重症高血圧では破裂率は77% vs. 85% でいずれも高かった。

・しかし生存日数の中央値は 13日 vs. 6日と、あきらかにVNSが長く、くも膜下出血の重症度によらなかった。

・VNSを継続することにより脳動脈瘤の発生要因の1つと考えられるタンパク質分解酵素MMP-9の発現がFNSよりも減少していた。

迷走神経刺激は脳動脈瘤の破裂率を低下させ 破裂後の生存率をも改善できる、


というおはなし。
図:迷走神経刺激と脳動脈瘤破裂


感想:

迷走神経刺激方法として、頸動脈洞マッサージ、ヴァルサルヴァ手技、冷たい水で顔を洗う、眼球を押す、などがある。

副交感神経を支配していることから、深呼吸や瞑想でリラックスしても似たような効果が得られるんじゃないかと思う。

もしくは今回使用した装置↓をつかう。
gammaCore device (electroCore, BaskingRidge, NJ).


これほどまでに破裂を防げるのなら、命がけでクリップやコイル手術を受ける必要ないね。
Stroke誌:高齢重症くも膜下出血を手術する理由?

Stroke誌:クモ膜下出血で手術をしなかったときの死亡率


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2018年10月12日

迷走神経刺激の慢性期上肢リハビリ効果


Vagus Nerve Stimulation Paired With Upper Limb Rehabilitation After Chronic Stroke
2018  9月  アメリカ

脳卒中患者にとって上肢機能の麻痺はもっとも深刻な問題の1つである。

しかも上肢訓練の繰り返し回数をふやしてもまったく効果がないことが臨床試験であきらにされたいま、回復を促すべつの方法が求められている。

迷走神経刺激を上肢訓練に組み合わせると機能改善がうながされるとする結果が動物実験で得られている。人でも若干の報告がある。

そこで、慢性期の脳卒中患者について迷走神経刺激の上肢リハビリ効果を検証してみたそうな。


慢性期の脳卒中患者17人について、
全員の身体に迷走神経刺激装置を埋め込んだ。

実験グループ8人と比較グループ9人にわけた。
まず病院で6週間の上肢リハビリを行い、家に帰って90日間上肢リハビリを継続した。家での最初の30日間は迷走神経は刺激しなかった。

電流強度は実験グループが0.8mAで、比較グループには電流を流さなかった。

実験終了後、比較グループには実験グループと同様の電流0.8mAで上肢訓練プログラム(6週間+90日間)を再実行した。

上肢機能スコアFMA-UEを比べたところ、


次のようになった。

・埋め込み手術の際の有害事象が3件あった。

・上肢機能は最終的に、実験グループで9.5ポイント、比較グループで3.8ポイント改善した。

・FMA-UEスコアが6ポイント以上改善した患者の割合は、実験グループで88%、比較グループでは33%だった。

・実験終了後に比較グループにも電気を流し再訓練した結果、実験グループと同様の改善が見られた。

慢性期の脳卒中で上肢麻痺患者に迷走神経刺激と上肢訓練を組み合わせた結果、安全性と機能改善傾向が確認できた、


というおはなし。

図:迷走神経刺激の上肢機能回復効果

感想:

上図のIn-clinicの期間にどのグループもやたら回復しているところが奇妙だ。

インプラント手術を承諾するほど熱烈に実験に期待している患者だから医療現場の雰囲気にのまれ治った気になり易い。

しかも完全にブラインド実験とはいうものの、おそらくは頸部への電流の有無が本人にはわかるため、家に帰って頭が冷えたあとは 電流刺激のないグループは治ったフリをするのをやめてしまう、、、

そういうことだと思う。

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2018年2月1日

手術のいらない迷走神経刺激リハビリの効き目


Transcutaneous Vagus Nerve Stimulation Combined with Robotic Rehabilitation Improves Upper Limb Function after Stroke.
2017  12月  イタリア

迷走神経への電気刺激はてんかんやうつの治療に用いられている。

さらに、脳卒中のあとの迷走神経刺激は脳の可塑性をうながしリハビリ訓練の効果をより高めることが動物実験で確認されている。

しかし迷走神経刺激を人に応用する場合、刺激装置を鎖骨下に埋め込む手術が必要になるため なかなか研究がすすまなかった。

さいきん、耳周辺の迷走神経を経皮的に刺激しても同様の効果が期待できることがわかってきたのでさっそく臨床実験してみたそうな。


脳梗塞または脳出血の患者14人をつぎの2グループにわけた。

*リアル迷走神経刺激
*偽迷走神経刺激

リアルグループは外耳道の内側に電極を置き、痛みを感じない程度のパルス電流刺激を30秒ごとに1時間x10日間継続した。

偽グループでは電極を迷走神経の走行から外して置いた。

並行してロボットアシストの上肢訓練を行った。


次のようになった。

・有害事象はなかった。

・リアル迷走神経刺激グループであきらかに上肢機能スコア改善度がすぐれていた。


脳卒中患者への経皮的な迷走神経刺激は安全でかつリハビリに効果的だった、


というおはなし。
図:迷走神経刺激と脳卒中からの機能回復度

感想:

迷走神経ネタはなんどもあったけど、どれもネズミか埋め込みだったんだよね。今後に期待。

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2017年3月1日

迷走神経で慢性期の上肢機能が驚くほど改善


Vagal Nerve Stimulation Improves Arm Function After Stroke
2017  2月  イギリス

脳卒中患者への迷走神経刺激による上肢機能の改善効果は動物実験でいくつか結果がでている。

人間でしっかりと実験してみたそうな。

先週の国際脳卒中会議での発表。


平均年齢60、発症から1年半の慢性期脳卒中患者17人について、迷走神経に電気パルスを送る装置を鎖骨下に埋め込む手術をおこなった。

患者を本物刺激8人と偽刺激9人にわけた。本物刺激グループでは理学療法訓練の際に動作に同期して電気パルスを送った。

1回2時間x週3回x6週間の訓練をおこなった。

そして30日間のブランクのあと、自宅にて迷走神経刺激+訓練を再開し 60日間続けた。


次のようになった。
・6週間の訓練直後はグループ間で上肢機能に有意な差はなかったが、

・さらに90日後、迷走神経刺激グループで上肢Fugl-Meyerスコアが9.5ポイント向上した。偽刺激グループは3.8ポイントの向上だった。

・これは劇的といっていいほどの改善度だった。

・迷走神経刺激により脳幹から分泌されるノルエピネフリン、アセチルコリンが訓練動作と相まってうまく働いていると考えられた。

・手術にともなういくつかの有害事象(感染症、麻痺など)があった。

・こんご 患者120人での臨床試験を計画中である。


というおはなし。
図:迷走神経刺激の脳卒中治療効果

感想:

迷走神経刺激はなんどもでてきたので やっと人で成果でたか、、って感じ。
キーワード[迷走神経刺激]の検索結果

MicroTransponder Inc. という企業がバックアップしてるんだって。

2016年3月24日

耳への電気刺激で脳が回復するという根拠について


Auricular vagus nerve stimulation promotes functional recovery and enhances the post-ischemic angiogenic response in an ischemia/ reperfusion rat model.
2016  3月  中国

迷走神経への電気刺激は1997年よりてんかん治療に用いられており、損傷した脳神経の回復効果も報告されている。

耳介を走行する迷走神経への電気刺激が 脳梗塞の回復に影響するものか調べてみたそうな。


人為的に右脳を虚血にしたネズミの左耳にパルス状の電気刺激を1回1時間x1日2回x3週間行った。

運動機能、梗塞の体積、脳組織サンプルを分析したところ、


次のことがわかった。

・偽刺激グループに比べ 迷走神経刺激グループの梗塞体積は明らかに小さく、

・運動機能も大きく改善した。

・梗塞周囲の虚血領域での細血管密度が上がり、

・神経成長を促す複数のタンパク質も増えていた。

耳介の迷走神経への繰り返し電気刺激には運動機能改善効果、神経保護効果、血管新生を促す効果があった、


というおはなし。

図:迷走神経刺激と脳梗塞体積


感想:

迷走神経は耳介の裏側と穴の壁を走行している。耳かきが気持ちいい理由だとか。

低周波治療器の電極は脚や肩に貼るよりも 損傷脳と反対側の耳に貼り付けた方が効果的なんじゃないかな、、、、

2015年12月12日

迷走神経リハビリの人体実験開始


Safety, Feasibility, and Efficacy of Vagus Nerve Stimulation Paired With Upper-Limb Rehabilitation After Ischemic Stroke
2015  12月  アメリカ

迷走神経の電気刺激はてんかん治療に用いられている。いっぽう動物実験では 脳卒中後の迷走神経刺激により 脳の可塑性が促されることがわかってきた。

これを人間で試してみたそうな。


脳梗塞後6ヶ月以内の患者21人について、

*迷走神経刺激+上肢リハビリ  9人
*上肢リハビリのみ  11人

の2グループに分け、1回2時間x週3回x6週間の治療を行った。

迷走神経は首に埋め込んだ装置を無線制御で リハビリ訓練に併行して電気刺激した。


次のことがわかった。

・深刻な有害事象は起きなかった。

・迷走神経刺激グループで上肢機能スコアが大きく改善した。

リハビリ訓練しながらの迷走神経刺激は可能で、安全そうだった。慢性期脳卒中患者にも試したい、


というおはなし。

図:迷走神経刺激で脳卒中リハビリ



感想:

装置埋め込みの恐怖と痛みに見合う成果が得られるかどうか、、

2015年11月25日

迷走神経リハビリは慢性期の脳梗塞にも効果的だった


Vagus Nerve Stimulation During Rehabilitative Training Improves Forelimb Recovery After Chronic Ischemic Stroke in Rats.
2015  11月  アメリカ

迷走神経を刺激しながらの脳卒中リハビリは効果的 という動物実験成果がある。

発症から時間が経った慢性期でも効くものかどうか試してみたそうな。


人為的に脳梗塞にしたネズミについて 6週間後、次の3グループに分け訓練を行った。

*迷走神経を刺激しながらの上肢訓練
*上肢訓練の2時間後に迷走神経刺激
*上肢訓練のみ


次のようになった。

・迷走神経刺激を併行したグループで上肢機能回復が著しかった。

・その筋力回復度は86%で、迷走神経刺激なしグループでは47%、2時間後グループでは42%だった。

・効果の持続性も刺激併行グループで優れていた。


迷走神経を刺激しながらの訓練は脳梗塞の慢性期であっても 上肢リハビリに非常に効果的かもしれない、


というおはなし。




感想:

過去記事(あたらしい順)↓
迷走神経を刺激したら慢性期で重度麻痺の手が動くようになった

迷走神経刺激は脳内出血リハビリにもイイのか

上肢リハビリに効く迷走神経刺激のタイミングと量について

迷走神経を刺激しながらリハビリするとすっごく回復するらしい

2015年3月1日

迷走神経を刺激したら慢性期で重度麻痺の手が動くようになった


Vagal Nerve Stimulation Encouraging in Stroke Rehab
2015  2月  イギリス

迷走神経刺激はてんかん発作の治療に用いられている。

そこで 脳卒中患者に迷走神経刺激したら上肢機能が改善するものかどうか実験してみたそうな。

先月の米国脳卒中国際会議で発表された研究。


平均年齢60 発症後2年で やや重い上肢麻痺の脳梗塞患者20人について、
2グループに分け、一方には迷走神経刺激を与えた。

並行して 上肢の理学療法訓練を1日2時間x 2週間行った。

迷走神経刺激は体内埋め込み型装置を用い、訓練動作に同期させ各0.5秒の刺激を与えた。


次のようになった。

・深刻な有害事象は起きなかった。

・迷走神経刺激グループで上肢機能の有意な向上が見られた。


迷走神経刺激で慢性期脳卒中患者の上肢機能を改善できるかもしれない、


というおはなし。


感想:

ネズミで実験した例はこれまでに何度か紹介したけど 人体実験は初めてみる。

最近は埋め込まなくても迷走神経刺激できる装置が開発されているようだ。

VNS
The gammaCore neurostimulation device.
ElectroCore LLC

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