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2025年12月29日

脳卒中後の物忘れは回路の病気だった 運動でよみがえるシータ同期のコツ

2025  12月  アメリカ


心停止後や脳卒中後には、運動麻痺だけでなく記憶障害や注意障害といった高次脳機能障害が長く残ることが多い。しかし、これらの障害が「どの神経回路の破綻によって起き、どの介入で回復するのか」は十分に分かっていない。

これまでの研究では、運動が脳損傷後の認知機能を改善する可能性が示されてきたが、その効果が「海馬ニューロンが助かるから」なのか、「回路の働きが立て直されるから」なのかは不明であった。

そこで、記憶に必須な中隔‐海馬回路とθ(シータ)振動に注目し、運動がどのように認知機能回復をもたらすのかをくわしくしらべてみたそうな。

2025年12月8日

未破裂脳動脈瘤の「予防手術」は本当に必要か──10人に1人が重い障害を負う現実

2025  12月  


未破裂の脳動脈瘤は、破裂するとクモ膜下出血を起こし、命に関わる非常に危険な状態になる。そのため、破裂する前に治療するべきかどうかを判断するときには、「自然に破れる確率」と「治療自体のリスク」の両方を比べる必要がある。

しかし、これまで一般に広まっていた手術リスクの数字は、一部の専門施設や優れた術者によるデータに偏りがちで、世界全体の実情を反映しているとは言いにくかった。特に開頭クリッピングは「昔より安全になった」と語られてきたが、その裏付けとなる大規模データは不足していた。

そこで、世界20施設・3705例という大規模な国際データを用いて、未破裂脳動脈瘤の予防的手術が現在どれほど安全なのかを実際の数値としてしらべてみたそうな。

2025年11月25日

脳卒中後のうつは再発のガチリスク―甘えではなかった

2025  11月  トルコ


脳卒中のあとに起こるうつ症状(いわゆる脳卒中後うつ:PSD)は多くの患者にみられるものである。

うつが回復や日常生活の質を下げることは以前から知られていたが、うつそのものが脳卒中の再発を引き起こす要因になるのか、また認知機能の低下と直接的な関係を持つのかについては、十分に明らかではなかった。

さらに、脳のどの部位の損傷がうつの発生と関係するのかも不明な点が多かった。
そこで、脳卒中後のうつが再発リスクや認知機能障害にどの程度関わるのか、そして病変部位との関係についてくわしくしらべてみたそうな。

2025年9月9日

AIリハビリが療法士を超えた日──脳卒中リハの主役交代

2025  8月  韓国


脳卒中のあとには、もの忘れや注意力の低下、段取りがうまくいかないといった「認知の障害」がよく起こる。これは生活の自立や家族の負担に直結するため、大きな問題である。

これまでは病院でセラピストがついて行う認知リハビリが主流だったが、通院の負担や人手不足といった課題があった。コロナ禍をきっかけに遠隔(テレリハビリ)への期待が高まったが、従来のシステムは「一人ひとりに合わせた難易度調整ができない」「きちんと取り組めているか分かりにくい」といった弱点を抱えていた。

そこで、AIが患者の成績を見ながら自動で課題を調整する新しいテレリハビリが、従来のセラピストによるリハビリに劣らないかをくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月21日

脳卒中リハビリにおける音楽療法とバイノウラルビート

はじめに

脳卒中は運動機能や認知機能の障害に加え、情動面(うつや不安)や睡眠障害など様々な問題を引き起こします。近年、音楽療法がこうした脳卒中後のリハビリに有益であることが報告されており、飲み込み障害や失語症の改善、認知・運動機能の向上、気分の改善、神経学的回復の促進につながるとされています。音楽は脳の情動・認知・記憶・運動に関わる領域を広範囲に活性化しうるため、リハビリ治療への応用が期待されています。

本稿では、バイノウラルビート(binaural beats)を用いた音楽療法に注目し、その脳卒中後リハビリへの活用可能性を医学論文に基づき検討します。バイノウラルビートは左右の耳にわずかに異なる周波数の音を聞かせることで脳内に特定周波数の拍動音を知覚させ、脳波を誘導・同期させる方法です。この手法は聴覚的ニューロモジュレーション(音刺激による神経調整)の一種で、非侵襲かつ簡便に脳活動へ影響を及ぼせる点が注目されています。以下、バイノウラルビートが脳卒中患者の認知機能、運動機能、神経可塑性(脳の柔軟な適応能力)、睡眠、情動調整に与える可能性について、関連研究や音楽療法全般の知見も踏まえて整理します。

バイノウラルビート


音楽療法が脳卒中リハビリに与える効果

まず一般的な音楽療法の効果を概観します。音楽療法は単なる鑑賞から楽器演奏、歌唱、リズム運動まで多岐にわたり、脳のマルチモーダルなネットワークを刺激します。例えば音楽に合わせたリズム刺激は歩行訓練に応用され、リズミック・オーディトリ・スティムレーション(Rhythmic Auditory Stimulation; RAS)として広く知られています。RASのランダム化試験のメタ解析では、歩行速度や歩幅の改善、下肢運動機能(Fugl-Meyer Assessmentスコア)の上昇、バランス能力(Berg Balance Scaleスコアなど)の向上といった有意な効果が確認されています。これはリズム刺激が運動とタイミングの脳回路を同期させ、運動機能の再学習(モーターラーニング)を促すためと考えられます。

また、楽器演奏を取り入れた音楽療法(例:電子ピアノやドラムの練習)は上肢の巧緻運動の回復に役立つことが示されています。Music-Supported Therapy (MST)と呼ばれる介入では、慢性期脳卒中患者の麻痺した手の機能が有意に向上し、機能的MRIで損傷半球の聴覚-運動野ネットワークの活動・結合の回復(可塑的変化)が観察されています。さらに同患者群では、治療後に抑うつ症状の軽減やポジティブ感情の増加といった気分面の改善も報告されました。このように音楽療法全般は運動・認知・情動の幅広い領域に効果を及ぼし、脳の可塑性を引き出す包括的リハビリ手段となり得ます。

以上の音楽療法の効果の中で、バイノウラルビートが特に役立つと考えられるのは「脳波の誘導・同期」というユニークな特性による認知機能や情動状態の調整であり、さらにリズムによる覚醒水準の最適化を通じた運動学習の補助です。以下、バイノウラルビートの作用メカニズムと各機能領域への影響を詳しく見ていきます。

バイノウラルビートのメカニズムと一般的な作用

バイノウラルビートでは、例えば左耳に200 Hz、右耳に210 Hzの純音をヘッドホンで聞くと、その差分の10 Hzに相当する拍動音が脳内で知覚されます。この10 Hzはα波(8~13 Hz)の周波数帯に相当し、リラックスした覚醒状態に見られる脳波です。同様に、4 Hzの差を与えればθ波(4~7 Hz)~δ波(<4 Hz)に相当し、これはまどろみや睡眠状態の脳波、16~20 Hz差ならβ波(14~30 Hz)で集中・警戒状態の脳波に対応します。バイノウラルビート刺激(Binaural Beat Stimulation; BBS)は、こうした仕組みで脳波を特定帯域に誘導(エントレインメント)し、結果的に心理状態や認知パフォーマンスに変化をもたらすと考えられています。

既存研究から、周波数帯ごとの心理・生理効果の特徴が報告されています。低周波(δ・θ帯)のバイノウラルビートは不安の抑制や睡眠促進に有効であり、睡眠障害の軽減やリラクゼーション目的で利用する試みがあります(例:δ/θ帯の音楽を毎日聴かせ軽度不安を軽減したパイロット研究)。一方、高周波(β帯)の刺激は記憶・注意・覚醒度を高め、認知課題の成績や警戒心を向上させることが報告されています。例えばLaneらの研究(1998)では、16 Hzと24 Hzのトーンによるβ帯バイノウラルビートを聴取した群は、1.5 Hzと4 Hzのθ/δ帯ビートを聴取した群に比べて30分間の視覚注意課題で有意に成績が良く、かつ主観気分もよりポジティブでした。この結果は、高周波ビートが脳の覚醒レベルを上げ注意・集中力を高める一方、低周波ビートは鎮静効果が強く注意課題のパフォーマンスは低下しうることを示唆します。

総じて、バイノウラルビートは周波数帯域の選択によってリラクゼーションから集中亢進まで幅広く心理状態を調節し得るツールです。その応用可能性は大きく、実際に「気分や認知機能の改善」を目的に健康な人や患者に用いた複数の研究が存在します。系統的レビューによれば、バイノウラルビート刺激は記憶・注意などの認知機能や、ストレス・不安の軽減、モチベーションや自己信頼感の向上といった心理的効果が報告されており、脳波(EEG)の変化も含めた作用メカニズムが検討されています。さらに聴覚刺激によるニューロモジュレーションは、安全かつコスト面でも優れており、専門技術を要する経頭蓋刺激(tDCSやrTMS)などに代わる在宅でも可能な補完療法としても期待されています。

以上の知見を踏まえ、次節よりバイノウラルビートが脳卒中患者の認知機能、情動、睡眠、運動機能などに具体的にどう影響し得るか、関連する研究結果を詳述します。

認知機能への影響と神経可塑性の可能性

脳卒中後には記憶障害や注意障害、遂行機能低下など認知機能の低下が頻発します。また脳の再組織化(可塑的変化)を促すことが機能回復に不可欠です。バイノウラルビートの脳波誘導効果は、これら認知面の改善や可塑性の支援につながる可能性があります。

認知機能への直接的エビデンスとして、アルツハイマー病患者を対象に行われた試験では興味深い結果が出ています。Alzheimer型認知症患者に対しα帯域(10 Hz)のバイノウラルビート音を2週間聴取させた研究では、治療群で認知検査(MMSE)のスコアが有意に改善し、対照群では変化が見られませんでした。さらに治療群では抑うつ・不安ストレス指標(DASS-21)の得点も有意に低下し、EEG解析でもα波・β波・γ波パワーの増加など脳波スペクトルの変化が確認されています。認知症という別領域の研究ですが、音による適切な脳波帯域の賦活が認知機能を底上げし、気分症状も緩和し得ることを示す興味深い結果です。脳卒中後の認知機能障害にも、周波数選択的な聴覚刺激が神経回路の賦活や高次機能の回復をサポートする可能性があります。

実際、健常者を対象とした研究でも記憶・注意課題中のバイノウラルビートの効果が示唆されています。Beaucheneら(2017)はα帯域のビート刺激が作業記憶課題の応答正確度を上げ、脳の機能的結合を変化させることを報告しています。また別の報告ではγ帯域(約40 Hz)のビートが注意力トレーニングの習得を加速する可能性が示されました。40 Hz前後のγ振動は認知処理や神経同期に重要で、マウス研究では40 Hz光刺激や音刺激で脳内の可塑的変化(ミクログリア活性化による老廃物除去など)が生じたとの報告もあります。このように高周波数帯の刺激は注意・学習能力のブーストやシナプス可塑性の誘導に関与し得ると考えられます。

さらに神経可塑性という観点では、音楽療法それ自体が脳卒中後の脳ネットワーク再編を助けるエビデンスがあります。前述のMSTでは聴覚と運動のネットワーク結合が回復しました。バイノウラルビートも、左右両耳からの入力を中脳で統合する際に発生する現象であり、左右大脳半球の協調や皮質-視床ネットワークの同期を生む可能性があります。実際、バイノウラルビート刺激で脳の左右半球のα波コヒーレンスが上昇したとの報告もあり(Orozco Perezら, 2020)、脳全体の機能的結合に影響を及ぼすことが示唆されています。定常的なバイノウラル音響刺激の曝露は脳の可塑性を促進し、記憶保持力を改善し、学習・情報処理能力を高める可能性があるとも指摘されています。

もっとも、脳卒中患者における直接的な認知機能改善のエビデンスは現状限定的です。先行研究では意識障害(最小意識状態など)の患者に対し、お気に入りの音楽にα帯バイノウラルビートを重ねて聴かせることで、30回の治療後に意識レベル(昏睡尺度)が有意に向上したとの報告があります。この研究では脳波や脳幹誘発電位にも改善が見られ、音楽+αビートの組み合わせが通常の音楽だけより患者の覚醒度を高める効果が示されました。脳卒中後の高次脳機能障害に対しても、例えば注意力トレーニング時にβ/γ帯ビートを付加したり、リハビリ後のリラックスタイムにθ帯ビートで定着を促すといった応用が考えられます。これらは今後実証が期待される分野ですが、バイノウラルビートが脳の覚醒水準や情報処理効率を調節することで、リハビリ中の学習効果や再訓練効果を高める可能性が示唆されます。

情動調整・睡眠への効果

脳卒中サバイバーの多くは、抑うつや不安といった心理的ストレスを抱え、睡眠障害や日内変動の乱れが見られます。情動面のケアと睡眠の質向上は、リハビリ意欲や全身的な回復力に直結する重要な課題です。バイノウラルビートは上述の通り不安緩和やリラクゼーションに用いることができ、薬に頼らない音楽的アプローチとして注目されます。

具体的なエビデンスとして、バイノウラルビートの聴取が不安を低減した例があります。Le Scouarnecら(2001)のパイロット研究では、軽度の不安を抱える被験者15名に4週間、週5回程度、δ~θ帯域(睡眠領域)のバイノウラルビート音入り音楽を聴取させました。その結果、日々の自己評価で不安感が有意に減少し、終了時には状態不安(STAI)スコアも減少傾向を示しました。また別の試験では、手術前の患者にバイノウラルビート入り音楽を聴かせたところ、偽音楽や無介入に比べて術前不安が有意に26%ほど低下したとの報告があります。これらは聴覚刺激によるリラクゼーションが不安軽減に有効であることを示しています。

脳卒中患者に焦点を当てると、バイノウラルビート併用による心理リハの報告があります。Kotelnikovaら(2021)は、運動障害(脳卒中や整形外科疾患による)の患者93名を対象にリラクゼーション目的の音響振動療法を実施し、一部にバイノウラルビート成分を組み込んで効果を検証しました。その結果、情動面(不安・抑うつ)の改善や「動作への恐怖心(運動恐怖症)」の軽減においてバイノウラルビート併用群で有意な効果が認められました。一方で、痛みの軽減や認知(記憶・注意)の回復には有意な効果が見られなかったとも報告されています。つまり、バイノウラルビートは精神的安定やモチベーション向上には寄与するものの、認知機能自体の回復には直接的には寄与しにくい可能性が示唆されます。ただし認知訓練への応用に関しては前節のような周波数選択の工夫や長期的介入など検討の余地があり、さらなる研究が必要です。

睡眠への影響については、バイノウラルビートを睡眠改善に用いた研究は少ないものの、周波数帯と効果の対応から推察できます。δ波やθ波は深い眠りや浅い眠りの脳波であり、これらを誘導する音刺激は入眠を促進し睡眠の質を高める可能性があります。前述のLe Scouarnec研究ではδ/θ刺激による不安軽減とともに睡眠潜時短縮も示唆されており、不眠傾向の人に有益だった可能性があります。脳卒中患者では睡眠時無呼吸や不眠が予後に悪影響を及ぼすことが知られており、睡眠改善は重要な課題です。寝る前に心地よい音楽に微細なδ帯バイノウラルビートを混ぜて聴かせることで、入眠儀式として睡眠リズムを整える効果が期待できるかもしれません。もっとも、不眠症患者を対象にしたランダム化試験ではバイノウラルビートの効果は最小限であったとの報告もあり、個人差やプラセボ要因も大きい領域です。現時点では確立した手法ではありませんが、副作用がなく容易に試せるリラクゼーション法として、睡眠衛生の指導と併せてバイノウラル音楽を利用することは一つの選択肢となるでしょう。

運動機能リハビリへの応用

バイノウラルビートは情動や認知面での効果が注目されがちですが、運動機能のリハビリテーションにも補助的役割を果たし得ます。音楽療法の中核にはリズムによる運動同期があり、これはRASの成功によく表れています。ではバイノウラルビート特有の効果として、単なるメトロノーム的リズム以上の何が期待できるのでしょうか。

一つにはリズム+脳波誘導による全身的なバランス機能の向上が挙げられます。Chenら(2025)は脳卒中患者27名を対象に、リハビリ訓練中にバイノウラルビート刺激(BBS)付き音楽を聴かせた群(15名)と、従来型の音楽療法のみの群(12名)を比較しました。その結果、両群ともバランス能力の指標(Berg平衡尺度BBScやMini-BESTest)が改善しましたが、日常生活動作(Barthel Index)と抑うつ(BDIスコア)の改善幅はBBS群で有意に大きいことが分かりました。さらにBBS群内での相関解析では、バランス能力の向上量が下肢機能・気分・ADL能力の向上と有意に関連しており、バイノウラルビート刺激がリハビリ効果を全般的に底上げした可能性があります。著者らは、音楽とリズムの相乗効果でバランスが改善したのではないかと結論づけ、脳機能への影響メカニズム解明を提言しています。この研究は直接的な運動成績への効果としてはバランス改善を捉えていますが、バイノウラル刺激がもたらす覚醒度や集中力の変化がリハビリ訓練の効率を上げたとも考えられ、興味深い所見です。

他の角度からは、運動学習課題におけるバイノウラルビート効果も報告されています。Azizzadehら(2024)は若年成人と高齢者それぞれに対し、α帯域(8.67 Hz)のバイノウルアルビートを30分聴取しながら鏡映描写課題(手先の巧緻運動課題)を行う群と、ヘッドホン装着のみで無音の対照群を比較しました。その結果、高齢者ではαビート群のみ課題エラー数が有意に減少(精度向上)し、若年者ではαビート群のみ反応時間が有意に短縮(速度向上)しました。同時に行った脳波解析では、若年群ではα波パワーの顕著な増大が、高齢群ではβ~γ波パワーの増大が認められました。著者らは、αビートが若年者にはリラックスによる効率化を、高齢者には覚醒度引き上げによる代償をもたらし、それぞれ異なる経路で運動パフォーマンスを向上させたと考察しています。この知見は、脳卒中患者のリハビリでも年齢や症状に応じて最適な周波数の選択が重要であることを示唆します。例えば、注意が散漫で意欲低下が見られる患者にはβ帯域で覚醒度・動機づけを上げる、緊張が強く協調運動が硬い患者にはα帯域で過剰な力みを抑えるなど、周波数調整によってリハビリ効果を高める戦略が考えられます。

さらに心理面から運動への波及として、前述のKotelnikovaらの研究ではバイノウラルビート併用により「動作への恐怖心(転倒や再発への不安)」が軽減しました。これは患者がリハビリ動作に前向きに取り組む助けとなる重要な効果です。恐怖心や不安が強いと運動学習の妨げになりますが、音楽とバイノウラルビートでリラックスできれば自発的な練習量や挑戦意欲が増し、結果的に機能回復が促進されるでしょう。以上より、直接・間接の両面からバイノウルアルビートは運動リハビリテーションの潤滑油として機能し得ると考えられます。

瞑想・マインドフルネスなど関連療法との接点

バイノウラルビートの活用を考える上で、瞑想やマインドフルネスとの親和性にも触れておきます。瞑想状態に入ると脳波にはα波やθ波の増強が生じることが知られており、熟練した瞑想者は安静閉眼時に高振幅のα波を示す傾向があります。これはリラックスしつつ集中した意識状態を反映しています。脳卒中後の不安や注意障害の緩和策として、マインドフルネス瞑想法が導入されるケースもありますが、その効果は認知機能のわずかな改善や抑うつ・ストレスの軽減程度と報告されています。しかし副作用なく反復可能なセルフケアとして有用です。

バイノウラルビートは、この瞑想の過程を音響的にサポートするツールになり得ます。実際、市販の瞑想音源やリラクゼーション音楽にはα帯やθ帯のバイノウラル音を混ぜ込んだものが多数存在し、初心者でも脳波を整えて瞑想状態に入りやすくすることを謳っています。科学的検証は十分ではないものの、一定の周波数刺激が迷走神経系を調整し自律神経バランスを整える可能性も指摘されています。ストレスで高ぶった交感神経活動を抑え、副交感神経優位に誘導することは脳卒中後の血圧管理や精神安定にも有益でしょう。

また、「オーディオニューロモジュレーション」全般の視点では、聴覚を介した脳刺激としてバイノウラルビート以外にも経皮的迷走神経刺激音(ある周波数の音で迷走神経を刺激)やASMRのような聴覚刺激によるリラクゼーション現象などが研究され始めています。これらも広義には音で脳の特定システムを調整する試みであり、非侵襲で実生活に取り入れやすい点が共通します。例えばある臨床試験では、脳波フィードバックを用いて個人に合わせたリアルタイムのバイノウラルビートを提供し、脳状態の改善を図る研究が計画されています(NCT07165899)。瞑想的アプローチと先端技術を組み合わせたこうした試みは、今後のリハビリ領域にも新風をもたらす可能性があります。音による神経調整は、脳卒中リハビリに取り入れられる補完療法の一つとして今後もエビデンスの蓄積が望まれます。

おわりに

バイノウラルビートを用いた音楽療法は、脳卒中リハビリの分野ではまだ新しい試みですが、関連領域の知見はその有用性を示唆しています。音楽療法自体が脳卒中後の運動・認知・情動機能を幅広く支援する中で、バイノウラルビートは脳波帯域への働きかけというユニークな作用で効果を増幅しうると考えられます。既存のパイロット研究からは、お気に入りの音楽にバイノウラルビートを加えることで意識障害患者の覚醒度が上がった例、リハビリ中のバランス訓練に取り入れてADLと気分の改善が得られた例、リラクゼーション場面での使用により不安や動作恐怖が和らいだ例などが報告されています。バイノウラルビートの周波数を工夫すれば、リラックスさせたい時にはα/θ帯、注意を喚起したい時にはβ帯というように患者のニーズに合わせたセッションが可能です。

もっとも、エビデンスはまだ初期段階であり、プラセボ対照を含む大規模試験や、最適な周波数・音楽との組み合わせ、介入期間など不明な点は多く残されています。安全性については報告された副作用はほとんどなく、少なくとも補助療法として試すことのリスクは低いと考えられます。ただし過度の期待は禁物であり、標準的なリハビリ訓練を補完するリラクゼーション・モチベーション向上策として位置付けるのが適切でしょう。

総合すると、バイノウラルビート活用は認知面では注意・記憶の改善や脳の覚醒状態調整に、情動面では不安軽減や睡眠改善に、運動面ではリズム同期と集中力向上による訓練効果アップに寄与しうると考えられます。これは瞑想やマインドフルネスとも通じるアプローチであり、今後さらに脳卒中リハビリへの応用研究が進めば、音楽療法のレパートリーに新たな選択肢を提供するでしょう。その日常生活への適用のしやすさも踏まえ、患者のQOL向上と神経回復力促進を目的とした音楽的介入として、バイノウラルビート療法は大きな可能性を秘めています。

参考文献

Xu C, et al. Potential Benefits of Music Therapy on Stroke Rehabilitation. Oxid Med Cell Longev. 2022;2022:9386095. ※2023年に撤回. 音楽療法が嚥下障害・失語の軽減、認知・運動機能の改善、気分の改善、神経学的回復の促進に寄与することを総説。

Chen R, et al. Effects of Auditory Frequency Stimulation on Balance and Rehabilitation Outcomes in Patients With Stroke: A Randomized Case-Control Study. Brain Behav. 2025;15(7):e70671. バイノウラルビート刺激併用群でバランス機能・ADL・うつ指標の改善が対照より大きかったことを報告。

Liu Z, et al. Short-term efficacy of music therapy combined with α binaural beat therapy in disorders of consciousness. Front Psychol. 2022;13:947861. 意識障害患者に音楽+α帯域バイノウラル刺激を適用し、意識レベルや脳波・誘発電位の指標が改善。低周波BBによる不安抑制・睡眠促進、高周波BBによる記憶・注意向上についても言及。

Mirmohamadi SM, et al. A Review of Binaural Beats and the Brain. Basic Clin Neurosci. 2024;15(2):133-146. バイノウラルビートの認知機能(記憶・注意)や心理機能(ストレス・不安など)への効果、および脳波への作用メカニズムについての最新レビュー。

Kotelnikova AV, et al. Binaural Acoustic Beats in the Psychological Rehabilitation of Patients with Impaired Motor Functions. Bull Rehabil Med. 2021;20(1):60-69. 脳卒中等の運動障害患者にリラクゼーション目的のバイノウラル音響刺激を用い、情動面の改善と運動への恐怖心軽減を示す一方、疼痛や認知には有意な効果なしと報告。

Lane JD, et al. Binaural auditory beats affect vigilance performance and mood. Physiol Behav. 1998;63(2):249-252. β帯バイノウルアルビートが注意課題成績を向上させ主観的な気分もより良好だったこと、θ/δ帯では効果が劣ったことを示した古典的研究。

García-Argibay M, et al. Efficacy of binaural auditory beats in cognition, anxiety, and pain perception: a meta-analysis. Psychol Res. 2019;83(2):357-372. (本文中で直接言及していないが関連するメタ解析。バイノウラルビートの不安軽減効果に中程度のエビデンスを報告。)

その他、本文中で引用した各種文献の詳細は省略しましたが等に示された内容に基づいて構成しています。



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2025年8月6日

手は動くのに、使えない――脳卒中リハビリの盲点とは?

2025  8月  スイス


脳卒中後の上肢機能障害は極めて高頻度に見られるため、リハビリテーション領域では上肢の運動機能を評価する指標としてFugl-Meyer Assessment(FMA-UE)が広く用いられてきた。

しかし近年、FMAにおいて高得点を示すにもかかわらず、実生活上では上肢をほとんど使用していない患者が一定数存在することが報告されている。

このような「運動機能は温存されているのに、パフォーマンスが伴わない」という乖離現象が、急性期から存在するのか、そしてその背景に何があるのかは十分に解明されていない。

そこで、この現象の原因として認知機能障害(特に空間無視、遂行機能障、失行)が関与している可能性に着目し、急性期脳卒中患者を対象にくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月3日

「脳卒中後、なぜ“自分は運転がうまい”と思ってしまうのか?」 ――F1ドライバー気取りの危うい自信とは

2025  7月  ドイツ


脳卒中を経験すると、身体や認知の働きに何らかの後遺症が残ることがある。運転という行為は、その両方を使うため、再開には注意が必要である。

実際には、多くの人が病後の運転再開について「自分で大丈夫だと思うから」という理由だけで判断してしまっている。
そこで問題になるのが、「自分の運転能力を正しく見きわめられているのか?」という点である。

過去の研究では、脳卒中経験者が自分の運転をやや過信しやすい傾向が示されていた。

そのようなズレが時間の経過とともに回復するのかどうか、また脳のどのような働きと関係しているのかをくわしくしらべてみたそうな。

2025年7月21日

音楽療法と脳卒中リハビリ – 聴く音楽がもたらす驚きの回復効果

脳卒中からのリハビリテーションに「音楽療法」が注目されています。音楽療法(特に音楽を聴くリスニング療法)は、クラシック音楽や自然音、患者さんの好きな曲、さらにはバイノウラルビートなど幅広い音を活用し、脳と心身にポジティブな刺激を与えるアプローチです。実は近年の医学論文で、音楽を取り入れることで運動機能や認知機能の回復、感情面の安定、睡眠の質向上、疼痛(痛み)緩和など様々な効果が報告されています。ここではエビデンスに基づき、音楽療法が脳卒中患者にもたらす驚きの効果を前向きな論調で解説します。


聴く音楽療法



運動機能の改善 – リズミカルな音楽がまひした手足の動きを引き出し、歩行やバランスの向上に役立つ可能性があります。

認知機能の向上 – お気に入りの音楽を聴くことで記憶力や注意力が回復し、さらには言葉のリハビリにもつながることが示されています。

感情・心理面への効果 – 音楽は気分を高揚させ、うつ症状や不安を軽減します。リハビリの意欲向上やストレス緩和にも有効です。

睡眠の質改善 – 穏やかな音楽や自然音は寝つきを良くし、深い睡眠を促進します。睡眠障害に悩む脳卒中患者さんの安眠ケアとして期待されています。

疼痛緩和 – 心地よい音楽に集中することで痛みの知覚が和らぐ可能性が報告されています。痛みや緊張を音で紛らわせる効果です。

それでは、各効果について医学研究の結果を詳しく見ていきましょう。

脳卒中リハビリに音楽療法が注目される理由

脳卒中後の後遺症には麻痺や言語障害、認知障害、感情面の不調など多岐にわたります。リハビリ初期の急性期から回復期・慢性期まで、音楽療法は各段階で患者を支える「隠れた名脇役」になり得ます。医学的な視点で見ると、音楽を聴くことは脳にとって豊かな刺激です。音楽を聴くと人間の脳では、注意・記憶・運動・情動処理に関わる広範なネットワークが左右両半球で活性化されます。また音楽刺激はドーパミン系を介して快感や意欲を高め、感情や認知機能を向上させることも知られています。こうした科学的知見が背景にあり、「音楽の力で脳を再活性化しよう」という発想が脳卒中リハビリに取り入れられてきたのです。

さらに音楽療法は安全で安価かつ取り組みやすいという利点もあります。フィンランドのヘルシンキ大学の研究者サルカモら(2008年)は「脳卒中直後の早期リハビリ期間に音楽を日常的に聴くことは、他の積極的リハビリが難しい時期でも手軽に導入でき、患者の認知面・感情面の回復を促す有用な方法」だと述べています。実際、入院中の患者さんはリハビリの合間、多くの時間をベッド上で過ごしがちですが、その“空白の時間”に音楽を聴くことで脳に刺激を与え、回復を後押しできるわけです。このように、音楽療法は従来のリハビリを置き換えるものではなく「価値あるプラスアルファ」として注目されています。

音楽療法の種類:クラシックから自然音・バイノウラルビートまで

一口に音楽療法と言っても、そのアプローチはさまざまです。ここでは脳卒中患者に用いられている主な「聴く音楽療法」の種類と特徴を紹介します。

クラシック音楽 – モーツァルトやバッハなどクラシックは研究で用いられる代表格です。クラシック音楽は構造が安定しておりリラックス効果も高いため、注意力や空間認知を改善する目的で使われます。実際、クラシック音楽を流すと空間の片側を見落とす半側空間無視の患者で視覚注意が向上したとの報告があります。静かなクラシックは心拍を落ち着け、不安軽減にもつながります。

自然音・環境音 – 小川のせせらぎ、波の音、鳥のさえずりなどの自然音は、まるで森林浴をしているようなリラックス効果を生みます。病院や自宅で環境音楽を流すことで、ストレスホルモンを抑えリラックス状態を促進する取り組みもあります。直接の医学論文は多くありませんが、不眠や不安の軽減目的で自然音を用いる療法も実践されています。心が安らぐ環境音は、脳卒中後の睡眠環境の改善や情緒安定に貢献すると期待されています。

好きな音楽(患者の選曲) – 患者さん本人が「これが聴きたい!」と思う曲こそ最高の音楽療法です。ジャンルはポップスでも演歌でもジャズでも構いません。実際の研究でも、患者が自分で選んだお気に入りの音楽を毎日聴いてもらう方法が取られています。ヘルシンキ大学の研究ではポップ、クラシック、ジャズ、フォークなど本人の好みに合わせた曲を自由に聴いてもらいました。好きな曲は脳の報酬系を強く刺激し、やる気や快感情を引き出すため、リハビリ効果を高めるエンジンになってくれます。

バイノウラルビート – 左右の耳にわずかに異なる周波数の音を聴かせると、脳内でその差周波数に同調した音が知覚されます。これをバイノウラルビートといい、近年脳波や認知機能への影響が研究され始めました。あるパイロット研究(2025年)では、バイノウラルビートを聴いた脳卒中患者で前頭前野の脳活動が一時的に高まり、神経系の反応性が改善する可能性が示唆されています。まだ予備的な段階ですが、脳を直接「周波数でマッサージする」ようなユニークな試みとして注目されています。

このように、音楽療法と一口に言っても癒やしのクラシックから自然音、モチベーションを上げる大好きな曲、新しい音響技術まで多彩です。患者さん一人ひとりに合った音を選ぶことで、その効果を最大限に引き出すことができます。

運動機能の改善:リズムと音が身体を動かす

脳卒中後の麻痺した手足の機能回復に、音楽が力を発揮します。特にリズムは運動機能リハビリの強い味方です。例えば、音楽に合わせて歩行訓練を行うリズミック・オーディトリ・ステimulation(RAS, リズム聴覚刺激)は、歩幅や歩行速度、バランス能力の改善に有効であるとするメタ分析結果があります。あるレビュー研究では、RASによって歩行機能やバランス機能が有意に向上したと結論づけています。

また、音楽に合わせた運動療法(Music-Supported Therapy)も注目されています。これは楽器演奏やリズムに乗せた動作練習など音楽を積極的に用いるリハビリで、上肢機能の改善に効果があると報告されています。実際、10件の臨床試験(計358名)を統合した系統的レビューでは、音楽を取り入れたリハビリ群は通常リハビリ群に比べ、指先の巧緻動作テスト(ボックス&ブロックテスト)の成績が有意に向上し(効果量SMD=0.64)、上肢全体の運動機能でも有意な改善傾向が見られました。さらに、2件の試験では歩行の歩幅が伸び、歩行速度も向上するなど、下肢を含めた全体的な運動機能にも音楽療法が良い影響を及ぼしています。

音楽が運動機能に効く理由の一つは、「楽しいからたくさん動いてしまう」点にあります。曲に合わせて身体を動かすことで苦しいリハビリ訓練も遊びのように継続できます。また、楽器を使う場合、自分の動きがそのまま音になって返ってくる即時フィードバックが得られます。たとえば、麻痺した腕でもタンバリンを叩けば音が鳴り、小さく動かせただけでも達成感があります。国立長寿医療研究センターの佐藤正之氏も「楽器を用いた訓練では、運動の結果が音としてリアルタイムに返る利点が大きい」と述べています。この達成感や喜びが脳内報酬系を刺激し、さらなるリハビリ意欲や神経回路の活性化につながると考えられます。

ポイントは患者さんが楽しめるリズムや曲を選ぶことです。アップテンポの行進曲に合わせて足踏みしたり、ゆったりしたワルツに乗って腕を動かしたりと、音楽はトレーナーでありパートナーです。音の波に乗ることで、「麻痺した足が自然と前に出た!」という喜びを引き出し、身体の再学習を促すーーそれが音楽療法の持つ力なのです。

認知機能の向上:音楽刺激で脳を活性化

音楽は脳の認知機能(記憶や注意、言語など)にも良い影響を与えます。特に脳卒中の急性期から回復期において、意識がはっきりしている患者さんには積極的に音楽を聴いてもらうことで認知面の回復を早めるエビデンスがあります。フィンランドのヘルシンキ大学病院で行われた有名な研究(サルカモら、Brain誌2008年)では、脳卒中後すぐの患者60名を対象に毎日音楽を「聴く」グループ、オーディオブックを聴くグループ、何も聴かないグループに分け経過を追いました。その結果、3か月後に音楽を聴いたグループは、何もしなかったグループに比べて言語記憶(言葉の記憶)が大幅に改善し、その改善率は発症直後から約60%もアップしました(対照群は29%の改善)。また注意力(選択的注意)も音楽群のみ有意に向上し、オーディオブック群や対照群では改善が見られなかったのです。驚くべきことに、この差は6か月後の追跡調査でも維持されていました。研究チームは「これほど顕著な認知機能の差は日常的に音楽を聴いた効果によるもの**だ」と結論づけています。

音楽はまた、脳の「注意を向ける」力を引き出すことも示されています。右脳梗塞で左側への注意が弱くなる「半側空間無視」の患者16名を対象にした実験では、クラシック音楽を流しながら課題を行うと、何も音がない時より課題成績が向上しました。逆に不快なノイズを流すと成績が悪化し、静寂時が最も悪い結果に。多くの患者さんで音楽により覚醒度や注意喚起レベルが上がったと自己報告されており、心地よい音が脳の注意ネットワークを活性化する可能性が示唆されています。これは音楽が持つ覚醒効果・気分調整効果のおかげで、脳が刺激され集中しやすくなるためと考えられます。

さらに、音楽は言語能力の回復にも役立ちます。脳卒中後に言葉が出にくくなる失語症に対して、メロディック・イントネーション・セラピー(MIT、メロディーに乗せて発語を促す療法)が有名です。患者に簡単なフレーズをメロディに合わせて歌わせるこの方法で、残存する右脳のネットワークを活用して言語中枢を再訓練できるとされています。実際、ブローカ失語の患者で歌唱訓練により日常会話フレーズの発話が改善したとの報告もあり、音楽が「言葉を取り戻す橋渡し」となるケースもあるのです。

このように、音楽を聴くことは記憶や注意、言語といった高次脳機能へのセラピーにもなり得ます。脳卒中によるダメージからの回復には脳の可塑性(神経のつなぎ替え)が重要ですが、音楽は脳の多領域を同時に刺激してネットワーク再編を促すため、認知機能のリハビリ効果を高める理にかなったツールなのです。

感情・心理面への効果:音楽が心に与える癒しと活力

音楽の持つ心への癒し効果は、誰もが一度は実感したことがあるでしょう。脳卒中後は身体機能の障害だけでなく、うつ病や不安、意欲低下など心理面の課題も生じやすくなります。そんな時、音楽療法が心の処方箋として寄与するエビデンスが続々と報告されています。

まず、前述のフィンランドの研究(2008年)では、毎日音楽を聴いていたグループは対照群に比べて抑うつ気分や混乱が少なく、ポジティブな気分を保てたことが示されました。音楽を聴かなかった患者では落ち込みがちだったのに対し、好きな曲を聴いていた患者は「音楽に励まされ前向きな気分になれた」と自己報告しています。音楽には気持ちを明るく切り替える力があるのです。

さらに注目すべきは、音楽療法が臨床的なうつ症状を有意に軽減するという大規模な分析結果です。中国の研究チームが行った最新のメタ分析(2025年、対象2776人のRCT37件統合)によると、音楽療法介入を受けた脳卒中後うつ(PSD)患者は通常ケアのみの患者に比べ、うつ病評価スコア(HAM-D)がおよそ5ポイント改善し、不安評価スコアも大きく低下しました。加えて日常生活動作(ADL)の自立度が向上し、神経学的後遺症の程度も有意に改善しています。興味深いことに、生化学的指標では脳内のセロトニン(5-HT)濃度が有意に上昇しており、音楽療法が脳の幸せホルモンを増やすことで気分改善につながっている可能性があります。研究者らは「音楽療法は脳卒中後うつ病の抑うつ症状、ADL、神経機能、そしてセロトニンレベルを有意に改善する臨床的有効性が示された」と結論づけています。

また、他の研究でも、楽器演奏を取り入れた音楽療法で患者の抑うつスコアが低下し、自己評価の生活の質が向上したとの報告があります。音楽そのものに即効性のリラックス効果・高揚効果がある上、音楽療法セッションに参加することで「自分も積極的に何かできた」という達成感や社会交流が得られる点も、心理的安定につながります。

このように音楽は、うつや不安を和らげ、前向きな気持ちを呼び起こす強力なツールです。不安なときに好きな曲を聴くとホッとしたり、落ち込んだ日に明るい音楽で元気が出たりする――その延長線上に、医学的にも証明された音楽療法の効果があります。「心に効くリハビリ」として音楽を活用することで、患者さんのメンタルヘルスと意欲向上をしっかり支えていけるのです。

睡眠の質改善:穏やかな音で安眠サポート

脳卒中後、入院中や在宅療養中に不眠や睡眠障害に悩まされる方も少なくありません。夜間の痛みや不安、環境の変化、脳の損傷による睡眠リズムの乱れなど、原因は様々ですが、質の良い睡眠は脳の回復にとって不可欠です。そこで役立つのが音楽による安眠サポートです。

音楽のリラックス効果を睡眠に応用した研究は多数あり、総合すると音楽療法は主観的な睡眠の質を有意に改善することがわかっています。2025年のレビュー研究では、異なる手法の27研究を分析し、寝る前の音楽療法が入眠を早め、眠りの深さなど主観的睡眠の質を向上させたことが確認されました。特に音楽が不眠に効く理由は、音楽を聴くことで不安が和らぎ気分が落ち着くためです。ゆったりした曲調の音楽は副交感神経を優位にし、心拍や呼吸を穏やかに整えるため、心身が睡眠モードに入りやすくなります。

脳卒中患者さんの場合も、例えば就寝前に穏やかなクラシック音楽や自然音を静かに流すことで、病院の消灯後の不安感を軽減したり、在宅での夜間トイレ後の入眠をスムーズにしたりといった効果が期待できます。実際、脳卒中リハビリ病棟で環境音楽を取り入れた取り組みでは「音楽を流すようにしたら夜間せん妄が減り、みなよく眠れるようになった」との声もあります(※看護ケアの報告事例)。

もっとも、音楽による睡眠効果は個人差も大きく、「この曲を聴けば誰でも熟睡」といった万能薬ではありません。音楽選びは人それぞれ好みがありますので、本人が心地よいと感じる音を選ぶのが大原則です。ある人には波音が安らぎを与える一方、別の人にはピアノ曲が安心感をもたらすかもしれません。大切なのは「聴いていて不快でないこと」。リラックスできる音に身を委ねることで、緊張がほぐれスムーズな眠りにつながるでしょう。

睡眠は脳の回復時間。その質を高める手段として、副作用のない音楽という安眠薬をぜひ活用したいですね。

疼痛緩和:音による痛みの軽減効果に期待

音楽には痛みを和らげる不思議な力もあります。脳卒中そのものによる中枢痛や、麻痺に伴う肩の痛み・関節痛、長期臥床による腰痛など、患者さんが抱える痛みは様々です。痛みがあるとリハビリ意欲も下がりがちですが、そこでも音楽療法が助けになる可能性があります。

研究によれば、音楽を聴くことで痛みの知覚や痛みに対する耐性が変化します。たとえば手術後の疼痛や慢性痛の患者で、好きな音楽を聴かせると痛みスコアが低下したという報告が多数あります。脳卒中リハビリ領域でのエビデンスは限定的ですが、カナダのストロークエンジン(脳卒中リハ情報データベース)は「音楽療法は脳卒中後の痛みの知覚を改善する可能性が示唆されている」と述べています。

音楽による疼痛緩和のメカニズムは完全には解明されていませんが、有力な説として注意のそらし効果があります。好きな音楽に聴き入っている間は痛みから意識がそれるため、痛みを感じにくくなるのです。特に歌詞のある歌や思わず口ずさみたくなる曲は、痛みへの注意を逸らすのに有効でしょう。また音楽によってリラックスし筋緊張がほぐれることで、筋肉や関節の痛みそのものが軽減するケースもあります。

脳卒中患者さんではありませんが、ある研究で心臓手術後の患者に小川のせせらぎ音を聞かせたところ、痛み止めの使用量が減ったとの報告もあります。自然音やヒーリング音楽による穏やかな環境は、痛みに伴うストレス反応(血圧上昇や心拍数増加)を抑え、痛みの悪循環を断つ助けとなるのでしょう。

以上のように、音楽療法は「痛みと上手に付き合う」一手段としても有望です。痛みが強いときこそお気に入りの曲で気を紛らわせ、リラックスする習慣を取り入れてみると良いかもしれません。薬と違って副作用は一切なく、むしろ心まで軽くしてくれる点が音楽療法の魅力です。

音楽療法を取り入れる上でのポイントとまとめ

音楽療法は脳卒中からの回復を多方面でサポートする、有望なリハビリ手法です。急性期の意識がある段階から慢性期の在宅生活まで、音楽は常に寄り添い、脳と心と体に働きかけてくれます。病院でのリハビリ期間は通常6ヶ月程度で終了しますが、その後の慢性期の在宅における機能維持・向上に音楽療法が果たす役割は大きいと専門家も指摘しています。

最後に、音楽療法を上手に活用するためのポイントと本記事のまとめを述べます。

好きな音楽を毎日の習慣に: 科学的エビデンスからも、本人が好きな曲を繰り返し聴くことが最も効果的です。通院途中やリハビリ前後のリラックスタイムに、お気に入りの音楽をイヤホンで聴く習慣をつけてみましょう。気分が上がり、脳も活性化してリハビリ効率が高まります。

目的に合わせて音楽を選ぶ: 就寝前はゆったりした曲や自然音、運動リハビリ時はテンポの良い曲、といったように目的にフィットする音を選びましょう。たとえば歩行訓練ではリズミカルな曲で足運びがスムーズになり、注意訓練ではハッピーな音楽で集中力が増すとの報告もあります。音楽の「処方箋」を使い分ける感覚です。

専門家の助言を活用: 音楽療法士がいる場合はぜひ相談を。専門家は患者さんの状態に合った音楽やアクティビティ(歌唱や楽器演奏なども含む)を提案してくれます。グループ音楽療法なら仲間と一緒に歌ったり演奏したりする楽しさで孤独感も薄れ、社会的交流がリハビリ意欲につながります。音楽療法士不在でも、リハスタッフに音楽の活用を相談すれば何らかの形で取り入れてもらえるでしょう。

無理のない範囲で楽しく: 音楽療法のモットーは「Enjoy!(楽しもう!)」です。決して「毎日◯時間聴かなきゃ」と義務に感じる必要はありません。調子が悪い日は小鳥のさえずりを5分聞くだけでもOK。心地よく感じる範囲で、長く続けることが大切です。

最後に強調したいのは、音楽の力は想像以上だということです。記憶を呼び覚まし、足を前に踏み出させ、心に灯をともす音楽は、まさに脳卒中リハビリの名脇役と言えるでしょう。医学論文の裏付けも年々増え、音楽療法はエビデンスに基づく補完療法として確立されつつあります。ぜひ日々のリハビリに音楽を取り入れてみてください。好きな音楽とともにリハビリに取り組めば、きっと脳も体もいつもより元気に応えてくれるはずです。

参考文献

Särkämö T. et al., Brain, 2008 – Music listening activates broad bilateral brain networks (attention, memory, motor, emotion) and enhances cognitive & emotional functions.

Särkämö T. et al., Brain, 2008 – Early post-stroke daily music listening improved verbal memory and focused attention more than audiobooks or no input, and prevented depressed mood.

Zhao J. et al., Scientific Reports, 2016 – Meta-analysis: Music-supported therapy significantly improved fine motor skills (Box and Block test) and showed positive trends in overall motor function in stroke patients.

Wang L. et al., Frontiers in Neuroscience, 2022 – Systematic review: Rhythmic auditory stimulation improved gait parameters, walking function, and balance in individuals with stroke.

Särkämö T. et al., Brain, 2008 – Music listeners had approximately 60% improvement in verbal memory versus 18–29% in others at 3 months, and reported less depression and confusion.

Tsai P-L. et al., American Journal of Occupational Therapy, 2013 – Listening to classical music improved visual attention in stroke patients with unilateral neglect compared to silence or noise.

Li Y. et al., Medicine (Baltimore), 2025 – Meta-analysis of 37 randomized controlled trials: Music therapy in post-stroke depression significantly reduced depression, anxiety, improved activities of daily living, reduced neurological deficits, and increased serotonin levels.

Gou D. et al., Frontiers in Psychology, 2025 – Meta-narrative review: Music therapy significantly improves subjective sleep quality by reducing anxiety and regulating mood, though effects on objective sleep measures are inconclusive.

Zhong Y-T. et al., Medicine, 2025 – Pilot EEG study: In stroke patients, binaural beats stimulation enhanced prefrontal cortex activity and may improve nervous system responsiveness.

佐藤正之, 音楽医療研究, 2024 – 楽器を用いた音楽訓練は運動結果が音として即時にフィードバックされ、慢性期在宅リハビリに有用である。

StrokEngine, Music Therapy, 2017 – Review suggests limited evidence that music therapy can improve arm movement, walking, pain perception, mood, and behavior after stroke.

StrokEngine, Music Therapy – Melodic Intonation Therapy (singing phrases with rhythm) has been shown to improve language and aphasia outcomes in stroke patients.



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「脳卒中後の機能障害における比例回復則――早期のリハビリは要らないのか?

脳卒中後の機能回復に関して、「比例回復則(proportional recovery rule, PRR)」と呼ばれる経験則が報告されています。これは、多くの脳卒中生存者において失われた機能の約70%が数か月以内に自然回復するというもので、初期障害の程度から最終的な回復量を高い精度で予測できる可能性を示唆しています

本レビューでは、この法則が成立する領域と限界、神経学的根拠、反証や批判、リハビリ介入の影響、および自然回復に関する議論について、信頼性の高い英語論文をもとに整理します。


脳卒中の比例回復則


1. 比例回復則が成立する機能領域とその限界点

主要な運動機能(特に上肢の運動機能)は比例回復則が典型的に確認されている領域です。たとえばPrabhakaranら(2008年)は、脳卒中後の上肢麻痺の回復量がおおむね「初期障害量の70%」に収束することを報告しました(上肢Fugl-Meyer評価において、初期評価と3~6か月後の差が最大得点からの70%に相当)。同研究では最重度の麻痺を呈した一部の患者は予測より著しく低い回復しか示さず、これらを除外すると残りの患者群で初期重症度と回復量に0.7の比例関係が成立したとしています。以後の研究でも、上肢機能について異なる国・集団やリハビリ方法にかかわらず一貫して約70%前後の回復率が確認されており、患者の年齢、発症時の重症度、脳卒中のタイプ、リハビリ量といった要因に左右されにくい現象であることが示唆されています。例えばWintersら(2015年)やStinearら(2017年)の報告を含め、近年の5研究(合計500名以上)でこの70%現象が再現されており、非常に高い再現性が示されています。 下肢機能(歩行を含む)についても、同様の回復パターンが報告されています。Smithら(2017年)は下肢運動麻痺も発症後3か月で約70%が回復すると結論付けました。より大規模なコホート研究(EPOSデータ)では、Veerbeekら(2018年)が下肢Fugl-Meyer評価 (最大34点) における6か月後の回復量が平均で64%(95%信頼区間59-69%)に達することを報告し、約87%の患者がこの「比例回復」に当てはまりました 。一方、初期下肢麻痺がきわめて重度(Fugl-Meyer下肢スコアが14点未満)の患者群では非比例な低回復(non-fit)となる例も見られ、同研究では下肢初期点14点未満の患者のうち約35%が70%則に当てはまらない「非回復者」でした。もっとも非回復者の割合は上肢より下肢で低く(上肢で31%、下肢で13%)、これは下肢の降下路が冗長で代償が効きやすいためではないかと議論されています。以上より上肢・下肢の運動機能は比例回復則が成立しやすい領域ですが、完全麻痺に近い重度例ではこの法則が適用できない限界があるといえます。 言語機能(失語症)に関しても、初期の言語障害の重症度が回復量をよく予測することが示されています。Lazarら(2010年)の研究タイトル「脳卒中後の失語症の改善は初期重症度によってよく予測できる」が示すように、失語症の回復も初期評価から一定割合の改善が見込まれる傾向があります。具体的にはWestern Aphasia Batteryなどの言語スコアで重症なほど改善余地も大きいが、その 約70%程度まで回復する例が多いと報告されています。もっとも言語領域では運動ほど症例数が多くないため変動幅も指摘されています。また、半側空間無視など注意機能についても比例回復が当てはまる可能性があり、Marchiら(2017年)やWintersら(2017年)は視空間の偏側注意障害が発症後に平均90%以上という高率で改善することを示し、これも一種の比例回復と捉えられています(95%CIが100%を超えるほどほぼ完全に近い回復が統計的に示唆されました)。さらに認知機能全般についてRamseyら(2017年)は、記憶や遂行機能など様々な領域で「各患者が失った機能の一定割合を取り戻す」という現象がみられる可能性を示唆しています。 以上のように、上肢・下肢の運動機能、言語、空間認知などで比例回復則が報告されています。ただし全ての患者・全ての機能に一律に成立するわけではなく、特に初期障害が極めて重度な場合や生理的な回復メカニズムが阻害された場合には当てはまらないことが明らかになっています。この当てはまらない群(非回復者/non-fitters)の存在が、比例回復則の限界点といえます。 2. 比例回復則を支持する神経科学的・生理学的根拠 脳の自然回復メカニズムが比例回復則の背景にあると考えられています。脳卒中後の最初の数週間~数か月で起こる自然な神経生物学的回復には、以下のような要素が挙げられます:
ジアスキシスの回復: 脳卒中によって損傷を受けた部位だけでなく、遠隔部位の機能低下(ジアスキシス)も生じます。時間経過とともに脳ネットワークの一過性の混乱が正常化するにつれて機能が戻ってくることが知られており、これが回復量の一定割合を占めると考えられます。例えば脳内の低下した血流や代謝が回復し、神経ネットワークの結合性が再正常化すれば運動機能は著しく改善しますが、ネットワークの再統合が不十分だと回復が阻害され比例回復が見られなくなる可能性があります。このことは、脳全体のネットワークレベルで共通の回復メカニズムが作用しており、それがほぼ一律の回復率を生む一因であることを示唆します
重要な神経経路の保存: 皮質脊髄路(CST)の損傷の有無が回復の程度を決定する決定的因子であり、比例回復則の成否を左右します。Byblow & Stinearら(2015年)の研究では、TMS(経頭蓋磁気刺激)で麻痺肢の運動誘発電位(MEP)が記録できる患者(すなわちCSTが機能的に残存している患者)のみが約70%の上肢運動回復を示し、MEPが得られない患者では顕著な回復が起こらないことが示されました。具体的には、発症2週時点の上肢Fugl-Meyerスコアが11点以上の患者(ある程度自主運動が残存)では26週後に約0.7の割合で回復しましたが、初期スコアが10点以下(重度麻痺)の患者ではこの比例回復パターンが成立しませんでした。同様にMEPが存在する群では回復率0.71、MEP陰性群では0~0.7以下に留まるなど、皮質脊髄路の構造・機能的保全性が「回復できる脳」の必要条件となっていました。このことは、脳内に残存する運動ニューロン資源が一定以上あれば、システム全体としてその潜在力の約7割を自律的に取り戻す生物学的プログラムが働く可能性を示しています。逆に主要経路が壊滅的に損傷された場合、脳の可塑的な再組織化にも限界があり、通常の回復メカニズムが機能しない(比例回復則から外れる)と考えられます
その他の生物学的要因: Waller変性(損傷後の遠位軸索の変性)や遺伝子多型(例: BDNF多型)、血液脳関門障害に伴う浮腫なども回復に影響を与える可能性があります
。これらは一部の患者で自然回復メカニズムを初期に阻害し、結果的に非回復者となる要因として指摘されています。また脳卒中直後の興奮性/抑制性神経伝達の変化(例えばGABA作動性抑制の増大)も可塑性に影響しうるため、こうした神経生理学的環境の改善が回復率に寄与する可能性があります
以上のように、脳卒中後の自然回復には脳ネットワーク全体の機能回復や主要経路の残存が不可欠であり、比例回復則はそれら生物学的条件が満たされた場合に現れる法則と考えられます。比例回復が「内在的な脳の自己修復能力」を反映するとの観点から、最近ではこの回復則そのものを脳の可塑性や回復能力の指標としてとらえ、さらに神経科学的に解明しようという研究も進んでいます。 3. 比例回復則に対する反証・批判的研究 比例回復則は興味深い法則ですが、一部の研究者は統計的な錯覚やバイアスの可能性を指摘しています。Hopeら(2019年)やHaweら(2019年)は、「初期値に対する回復量(アウトカム-初期値)の相関」という分析手法が数学的カップリング(同じ値が両側に含まれることによる見かけ上の相関)や尺度の上限効果によって本来以上に高い相関・高い説明率を生み出している可能性をシミュレーションで示しました。実際、いくつかの近年の研究で報告された「初期障害から回復を予測できる精度が80~90%以上(R2値)」といった数値は、アウトカムの変動範囲が初期値より小さい場合には統計的に人為的に大きくなり得ると指摘されています。Hopeらは、過去のほぼ全ての研究で報告された極めて強い相関は過大推定であり、実際にはそこまで厳密な「固定の割合回復」現象は存在しない可能性が高いと結論づけました。要するに、「回復が本当に比例的であるかどうか再検証が必要」という慎重な見解です。 また、Haweら(2019年)のStroke誌への報告「Taking Proportional Out of Stroke Recovery(比例という概念を回復から除外する)」では、独自の患者データ解析から回復量の個人差が大きく、単純な70%則では説明できないケースが多いことを示しました。この研究に対しては反論も寄せられていますが、少なくとも「すべての患者が70%回復する」といった単純な解釈は誤解を招くとの指摘がなされています。 さらに、Bowmanら(2021年)は「数値上の結合と上限への収束が70%という見かけの割合を生む危険性」を論じ、統計解析上の注意不足が「70%」という印象的な数字を膨らませた可能性を警告しています。こうした批判を受け、Chongら(2023年)を含む支持派の研究者たちは解析手法を改善した上でもなお比例回復傾向は有意に存在すると反論しており、現在も議論が続いています。 比例回復則への生物学的な反証としては、前述の非回復者(Non-fitters)の存在が挙げられます。およそ10~30%の患者は予測された割合まで回復せず、特に錐体路が高度に損傷された例や多発梗塞で脳の予備能が低下した例ではほとんど改善が得られません。例えば完全麻痺に近い上肢麻痺ではリハビリを尽くしても数点程度しかFugl-Meyerスコアが向上しないケースがあり、これらは「70%ルール」の例外となります。このような非回復者の存在自体は比例回復則の限界を示すものであり、「回復には二つのサブグループ(回復者と非回復者)が存在する」という見方につながっています。現在の課題はどの因子がこの非回復群を規定しているのかを明らかにすることであり、前述のように神経経路の断裂やネットワークの障害が重要と考えられています。非回復群を適切に早期同定できれば、一部の患者には別の戦略(例: 補償的アプローチや先進的治療)を検討するなど、リハ戦略の最適化につながるでしょう。 総じて、比例回復則は多数のデータに支えられた実証的傾向である一方、統計手法や解釈に注意を要し、また全例に普遍ではないといえます。支持・批判双方の研究が発表されており、今後も解析手法の改良や異なる集団・機能への検証が進む見通しです。 4. リハビリ介入が比例回復則に与える影響:早期介入は本当に必要か? リハビリテーション介入が回復率に与える影響は限定的である可能性が示唆されています。複数の研究から、現在行われている通常のリハビリの有無や強度に関わらず、最終的な改善割合は大きく変わらないことが報告されているためです。 Stinearら(2017年)のレビューによれば、上述の70%前後の回復現象はリハビリテーションのアプローチや密度によらず確認されており、療法の種類や集中的訓練の量が回復の「割合」自体を有意に変化させたという証拠は今のところないとされています。実際、Byblow & Stinearら(2015年)は48名の上肢麻痺患者を対象に、発症2~26週の間に一方の群には集中的リハ(2~6週に合計約553分の上肢訓練)を行い、他方の群は通常リハ(平均176分の訓練)とする比較試験データを解析しました。その結果、26週後の上肢機能回復率は両群でほぼ同等(集中リハ群β=0.69、通常群β=0.68)であり、リハビリ提供量の違いが回復の割合(約70%)に影響しなかったことが示されました。著者らは「比例回復はリハビリ介入量に対して不変(insensitive)であり、発症直後の自然な神経生物学的プロセスによるものかもしれない」と述べています。この所見は他の観察研究とも一致しており、例えばある前向き研究では発症後6か月までの神経学的改善の約90%は時間経過によって規定されると推定されています。要するに、一定の範囲内でリハビリを行っても行わなくても、「回復する人はするし、しない人はしない」という傾向が強いという示唆です。 では早期の集中的リハビリは不要なのか? この点については議論がありますが、大規模臨床試験の結果は興味深い知見を提供しています。たとえばBernhardtら(2015年)による国際ランダム化比較試験AVERTでは、発症24時間以内に頻回の離床・歩行練習を開始する超早期リハと通常ケアを比較しました。その結果、きわめて早期かつ高頻度のリハ介入を行った群の方が、3か月後の良好な機能転帰の確率がやや低下するという予期せぬ結果となりました。具体的には、「発症直後からの過剰なリハ刺激は却って転帰を悪化させる可能性」が示唆され、著者らは過度に早い動員は脳の回復環境(血圧や脳血流、代謝など)に悪影響を与えるリスクを指摘しています。この試験から得られるメッセージは、「とにかく早ければ早いほど良い」という単純なものではなく、脳の自然回復プロセスとのバランスを考慮する必要があるということです。 もっとも誤解してはならないのは、リハビリ自体の有用性が否定されたわけではない点です。上述の研究は主に「自然回復で達成される神経学的改善率」に焦点を当てていますが、リハビリテーションは機能的自立度の向上や代償手段の習得、廃用症候群の予防など多岐にわたるメリットがあります。早期リハ介入は脳の可塑性を高めうるとの動物・臨床研究もあり、適切なタイミングと強度で行えば自然回復で得られた能力を最大限に引き出し、ADL(日常生活動作)やQOLを向上させることができます。しかし少なくとも「生物学的な回復率そのもの」を押し上げる効果は限定的である可能性が高く、その意味で「急いで詰め込むようなリハビリ」が必須かどうかは再考が必要です。結論として、現在のエビデンスは「標準的なリハを行えば十分」であり、「過度に早期・集中したリハを行っても自然回復以上の上乗せ効果は証明されていない」とまとめられます。 5. 自然回復とリハビリ:早期リハ無しでも回復は見込めるのか? 比例回復則の示すところは、脳卒中後の回復の大部分が脳の自然な治癒プロセスによってもたらされるという点です。極端に言えば「早期リハビリを行わなくても、回復する人はある程度回復する」可能性を示唆するデータもあります。実際、前述のとおり発症後数か月の神経学的改善の7~9割は自然経過で決まるとの報告もあり、リハビリ専門家の間でも「初期改善は自然回復の表れであり、リハ介入はそれを“利用”している側面が大きい」と理解されています。 支持的なエビデンスとして、対照群を設けた動物実験や人間での観察研究があります。Jeffersら(2018年)の研究ではラットにおいて脳卒中後の上肢運動機能が人間同様に一定割合で自然回復することが示されました。ラットには人間のようなリハビリは施されませんが、それでも損失機能の約半分以上を取り戻す傾向が見られたのです。この事実は、生物種を超えた内在的な回復メカニズムの存在を示唆しており、人間においても何もしなくても起こる回復がかなりの部分を占める可能性を裏付けます。 さらに前述のStinearらの解析では、リハビリ量が少ない群でも多い群と同程度の回復を示したことから、たとえ手厚いリハを受けなくても大勢は自然に回復することが示唆されます。臨床現場でも、発症後早期に十分なリハを受けられなかった患者が数ヶ月後には自発的にかなり改善していた、というケースは珍しくありません。特に発症直後は安静優先になりやすい重症患者でも、数ヶ月リハ介入が遅れてから改善がみられる例もあります。これは脳の自己修復力が時間の経過とともに発現するためであり、リハはそれを待ってからでも「追いつける」部分があるとも解釈できます。 とはいえ、リハビリを全く行わなくてもよいという意味では決してありません。 自然回復である程度機能が戻ったとしても、適切なリハ介入がなければその機能を日常生活で最大限生かすことは難しいからです。リハビリは単に機能スコアを上げるだけでなく、脳が再獲得した能力を実用的な動作につなげる訓練でもあります。また廃用による二次的な筋力低下や拘縮を防ぐためにもリハは重要です。従って、「早期リハをしなくても勝手に良くなるから不要」という解釈は誤りであり、正しくは「早期リハによらずとも一定の回復は見込めるが、最終的な機能的自立にはリハ介入が必要」というバランスの取れた理解が求められます。 以上を総合すると、脳卒中後の回復は生物学的にプログラムされた部分と、リハ介入によって最適化される部分の双方から成り立っていると言えます。比例回復則は前者の「プログラムされた自然回復」の存在を示す重要な知見であり、これを踏まえて今後は「自然回復+α」を引き出すリハ戦略や、非回復者を救済する治療法の開発が期待されています。比例回復則そのものもまだ論争中のテーマではありますが、患者の予後予測やリハ計画立案に有用な概念であり、引き続き神経リハビリ分野の研究の焦点であり続けるでしょう。

参考文献(一部)
Prabhakaran S. et al. (2008). Inter-individual variability in the capacity for motor recovery after ischemic stroke. Neurorehabil Neural Repair, 22(1):64-71. - 上肢麻痺の回復量は初期麻痺量の約70%であり、重度麻痺患者では回復が著しく限定的なことを報告。
Lazar R. et al. (2010). Improvement in aphasia scores after stroke is well predicted by initial severity. Stroke, 41(7):1485-1488. - 失語症改善は初期重症度で良く予測でき、比例的回復パターンを示唆。
Smith M.-C. et al. (2017). Proportional recovery from lower limb motor impairment after stroke. Stroke, 48(5):1400-1403. - 下肢麻痺も約70%が自然回復しうること、非回復者群の存在について報告。
Stinear C. M. et al. (2017). Proportional motor recovery after stroke: implications for trial design. Stroke, 48(3):795-798. - 比例回復現象を踏まえた臨床試験計画の提言。回復率はリハ内容・量によらず一定であることを強調。
Byblow W. & Stinear C. (2015). Proportional upper limb recovery after stroke is predicated upon corticospinal tract integrity. Brain Stimul, 8(2):429-430. - 皮質脊髄路の保全例でのみ上肢機能が約70%回復し、リハ提供量には依存しないことを示した発表。
Hope T. M. H. et al. (2019). Recovery after stroke: not so proportional after all? Brain, 142(1):15-22. - 比例回復則の統計学的妥当性に疑問を呈し、報告された高い決定係数は過大評価の可能性を示した。
Hawe R. L. et al. (2019). Taking proportional out of stroke recovery. Stroke, 50(1):204-211. - 回復の個人差が大きく固定的比例則には当てはまらないとする研究。
Bowman H. et al. (2021). Inflated estimates of proportional recovery from stroke: the dangers of mathematical coupling and compression to ceiling. Stroke, 52(5):1915-1922. - 数学的 coupling により70%という数値が人為的に生まれる危険性を指摘した論考。
Bernhardt J. et al. (2015). Efficacy and safety of very early mobilisation within 24 h of stroke onset (AVERT trial). Lancet, 386(9988):46-55. - 超早期リハの大規模RCT。過度に早い離床は転帰を改善せず、標準ケアで十分である可能性を示唆。


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