元2025 6月 中国
・高リスク群では、寒冷暴露後にADPという物質を使った血小板のかたまりやすさ、ICAM-3およびVEGFといった炎症・血管マーカーが有意に上昇した。・また、腸内細菌叢においてはPrevotella_9やCatenibacterium属の増加、Anaerostipes属の減少が見られ、腸内多様性も低下した。・FMTを受けたマウスでは、血小板活性亢進、腸管バリア破綻、LPSの増加、さらにTMAO産生に関与する脂質代謝経路の活性化が確認された。
これまでの定説──「寒いと血管が収縮して血圧が上がり、脳卒中のリスクが上がる」──は単純な生理反応モデルであって、今回の研究ではそれを“部分的には正しいが、それだけでは不十分”と明確に示している。
結論から言えば:
❌「寒さ=血管収縮だけで脳卒中になる」というモデルでは、寒冷による脳卒中リスクの全体像を説明できない
✅ 腸内細菌叢の変化、特に炎症性代謝物(LPS・TMAOなど)の上昇が、寒冷暴露の“見えない中間機構”として決定的である
🧊【従来モデル】寒冷 → 末梢血管収縮 → 血圧↑ → 脳卒中
- 一般に言われる「寒いと血管が収縮して血圧が上がるから危ない」という説明。
- 実際に高齢者では寒波にあわせて脳卒中の発症数が上がることが多数報告されている。
- だが、このモデルでは以下が説明できない:
- なぜ一部の人だけが顕著な影響を受けるのか?
- なぜ同じ気温でも地域差・体質差が大きいのか?
- なぜ血圧に変化がないのに脳卒中が起こる場合があるのか?
🧠【今回の新モデル】
寒冷 → 腸内細菌叢の構成変化 → 炎症性代謝物(LPS, TMAO)↑ → 血管内皮障害 + 血小板活性↑ → 脳卒中
- 特に注目すべき中間項は:
- LPS(リポ多糖):腸管バリアの破綻により漏出、炎症性サイトカインを刺激
- TMAO(トリメチルアミン-N-オキシド):動脈硬化・血栓形成を促進
- このモデルでは、「寒さ」という物理環境が、腸内細菌叢を介して体内の炎症・血栓傾向に波及するという新たな生理学的メカニズムが提示された。
🔬この論文で明らかになった新事実
観察 | 解釈 |
---|---|
血管収縮・血圧上昇は確認されないケースでもリスク増加 | 別経路(腸→炎症→血栓)あり |
高リスク者で腸内フローラが大きく乱れた | 腸の恒常性破綻が感受性に影響 |
LPS添加で血小板活性↑ | 血管反応ではなく分子生物学的因子が媒介 |
寒冷便を移植されたマウスも同様のリスク↑ | 物理的寒冷ではなく“腸内記憶”が引き金 |
✅ 結論
「寒冷 → 血管収縮 → 血圧上昇」だけでは、脳卒中リスクの寒冷依存性を説明しきれない。
むしろ、腸内細菌叢の“冷害”こそが根本的メカニズムの一端を担っている。