~ 5000超の記事をシンプルな単語で検索するよ!

2025年5月17日

検査では“正常”でも… 二重課題であらわれる半側空間無視の正体

2025  5月  イタリア


脳卒中のあとに起きる認知の問題は人によってさまざまであり、脳の損傷部位と症状の重さが必ずしも一致しない。このギャップは、従来「脳の予備力(リザーブ)」がうまく働くことで、見かけ上は軽く済んでいると説明されてきた。

しかし、そのような説明だけではすべてのケースを理解するには不十分である。とくに、日常生活では問題が生じているにもかかわらず、標準的な検査では「異常なし」と判断される患者が少なくない。そこで本研究では、「見かけ上は問題がないが、実際には潜在的な障害がある」状態に着目した。

そこで、マルチタスク(二重課題)のように脳にとって負荷の大きい状況をつくり出すことで、普段は見えない認知障害、特に左右の空間への注意のかたより(=半側空間無視に類似した症状)があらわれるのではないかという仮説を立て、くわしくしらべてみたそうな。



対象は、右または左のどちらかに脳卒中を起こした46人の患者で、標準的な検査(BIT)では「半側空間無視」は認められなかった人たちである。この人たちに対して、画面上に左右どちらかに一瞬出る点の位置を答えてもらうタスクを実施した。これを単一課題(Single Task: ST)として行ったあと、視覚や聴覚の別の課題を同時にこなす二重課題(Visual/Auditory Dual Task: VDT/ADT)を行ってもらった。

課題の正答率にもとづいて患者を2つのグループに分け(C1とC2)、パフォーマンスの違いと脳の損傷部位・神経の断線(disconnectome)の関係を詳しく解析した。



次のようになった。

・二重課題を行ったときに、左右の空間に対する注意のかたより(無視のような症状)がはっきり出た患者は全体の約3分の1(C2群)であった。それ以外の患者(C1群)はすべての条件でほぼ完璧にタスクをこなしていた。

・C2群では、単一課題ではふつうの成績だったが、二重課題になると、脳卒中と反対側に出た刺激を見落とす傾向が顕著に強くなった。しかもそれは視覚課題でも聴覚課題でも同じように現れた。これは「感覚の種類」というより「注意力リソースの限界」が関わっていると考えられる。

・脳画像の解析では、C2群では前頭葉の白質(とくに右前頭葉)や、いくつかの重要な脳ネットワーク(マルチプルデマンドシステム:MD系)に属する領域が損傷していた。そこにつながる神経線維(SLF II/III, FAT, AAFなど)の断線も多くみられた。これらは、複数の課題を切り替えたり注意をうまく配分したりするために重要なネットワークである。


マルチタスクという負荷のかかる状況では、ふだんは見えない「隠れた注意障害」が現れてくることがわかった。これは紙と鉛筆の検査では見逃されることが多く、日常生活の中では困っているのに「検査では異常なし」とされる原因のひとつである可能性がある。
さらに、こうした注意の障害には「どこが壊れたか」だけでなく、「どれくらい注意リソースが使えるか」という動的な要素がかかわっていることがわかった。今後のリハビリでは、こうしたマルチタスク状況を想定した評価や、注意力そのものを強化する訓練が重要になると考えられる、


というおはなし。

半側空間無視のしくみ




感想:

『半側空間無視は刺激にたいする気配りがいっぱいいっぱいになってしまうがゆえに起きる。それに関係する脳の領域はやや右よりである、ってことね。』


以下、医師国家試験正答率98%のAIの回答コピペ↓


そう、それはこの論文の示唆ともきれいに一致している要約である。

少し言い換えると:

半側空間無視は「空間を感じとる力」そのものの喪失ではなく、「注意というリソースの割り振りが限界を超えたとき」に破綻して出てくる現象であり、その破綻はとくに右半球の前頭-頭頂系ネットワーク(MD系)に依存している。

この研究ではとくに:

  • 視覚・聴覚どちらの二重課題でも無視が誘発された
  • 損傷部位は右前頭葉白質とそのネットワーク(SLF II/III, FAT, AAF)に集中していた
  • これは「空間処理の右半球優位性」を支持するものであり、かつモダリティを超えたドメイン汎用的リソース(MD系)の関与を強く示唆する

という構図になっている。

つまり、あなたの表現「気配りがいっぱいいっぱい」というのは非常に本質的で、認知リソースが目一杯になったときに、まず真っ先に“削られる”のが対側空間への注意であり、それを維持するためには右半球にあるリソース制御の中枢が不可欠、という理解になる。

それを踏まえて一言でまとめるなら:

半側空間無視は、“注意の持ち出し制限”にぶつかったとき、まず右脳系の空間ネットワークが破綻することで生じる注意の偏り現象である。

この見方は、単なる「視野の欠損」とは違う、「動的な注意資源管理の失敗」として半側空間無視を理解する立場であり、近年の脳機能ネットワーク研究と親和性が高い。




半側空間無視 (作業記憶 OR 注意リソース)」の関連記事





ご意見 ご感想はこちら

名前

メール *

メッセージ *