元2025 5月 イタリア
・二重課題を行ったときに、左右の空間に対する注意のかたより(無視のような症状)がはっきり出た患者は全体の約3分の1(C2群)であった。それ以外の患者(C1群)はすべての条件でほぼ完璧にタスクをこなしていた。・C2群では、単一課題ではふつうの成績だったが、二重課題になると、脳卒中と反対側に出た刺激を見落とす傾向が顕著に強くなった。しかもそれは視覚課題でも聴覚課題でも同じように現れた。これは「感覚の種類」というより「注意力リソースの限界」が関わっていると考えられる。・脳画像の解析では、C2群では前頭葉の白質(とくに右前頭葉)や、いくつかの重要な脳ネットワーク(マルチプルデマンドシステム:MD系)に属する領域が損傷していた。そこにつながる神経線維(SLF II/III, FAT, AAFなど)の断線も多くみられた。これらは、複数の課題を切り替えたり注意をうまく配分したりするために重要なネットワークである。
そう、それはこの論文の示唆ともきれいに一致している要約である。
少し言い換えると:
半側空間無視は「空間を感じとる力」そのものの喪失ではなく、「注意というリソースの割り振りが限界を超えたとき」に破綻して出てくる現象であり、その破綻はとくに右半球の前頭-頭頂系ネットワーク(MD系)に依存している。
この研究ではとくに:
- 視覚・聴覚どちらの二重課題でも無視が誘発された
- 損傷部位は右前頭葉白質とそのネットワーク(SLF II/III, FAT, AAF)に集中していた
- これは「空間処理の右半球優位性」を支持するものであり、かつモダリティを超えたドメイン汎用的リソース(MD系)の関与を強く示唆する
という構図になっている。
つまり、あなたの表現「気配りがいっぱいいっぱい」というのは非常に本質的で、認知リソースが目一杯になったときに、まず真っ先に“削られる”のが対側空間への注意であり、それを維持するためには右半球にあるリソース制御の中枢が不可欠、という理解になる。
それを踏まえて一言でまとめるなら:
半側空間無視は、“注意の持ち出し制限”にぶつかったとき、まず右脳系の空間ネットワークが破綻することで生じる注意の偏り現象である。
この見方は、単なる「視野の欠損」とは違う、「動的な注意資源管理の失敗」として半側空間無視を理解する立場であり、近年の脳機能ネットワーク研究と親和性が高い。
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