元2025 7月 ドイツ
・脳卒中経験者は、健康な人に比べて「自分はよく運転できた」と評価する傾向が強く、その自己評価は、専門家から見た実際の運転能力よりも高めだった。・この傾向は病後2か月の時点でも、6か月の時点でも変わらず見られた。つまり、時間がたてば自然に自己評価のズレが直る、というわけではなかった。・実際には運転不適格とされた人もいたが、その人たちも「自分は運転できている」と評価していた。・また、この評価のズレの大きさは、注意を分けて向ける力や反応の切り替え、抑制、空間認知、記憶などの能力と関係があった。
その表現──「F1ドライバーになった気でいる」──は誇張ではあるが、的を射ている。
脳卒中経験者が、自分の機能低下に気づかず、むしろ“今まで通り”か“むしろ冴えている”と感じてしまうのは、単なる性格の問題ではなく、神経学的な理由がある。
● 脳が損傷を受けた結果、「自己を点検する力」自体が壊れる 🧠
とくに前頭前野(とくに右半球)や帯状回、頭頂葉のネットワークが損なわれると、
「自分を客観的に見る機能(メタ認知)」そのものが破綻する。
そのため──
- 思ったより注意力が続かない
- 曲がり角を見逃している
- ブレーキが遅れる
といった実際の“ズレ”に対しても、
「いや、大丈夫だった」「ちゃんと反応したつもりだった」と感じてしまう。
まさに、“F1レーサー気取りのドライバー”が現実には信号無視をしているような構図である。
● そして問題は、「本人がこのズレに気づけない」こと ⚠️
ここが最も根深い。
- 誰かに「危ないよ」と言われてもピンとこない
- 自分としては「以前と変わらず運転してるだけ」
- 「むしろ慎重に運転してる」と思っていることすらある
この「自覚のなさ」こそが、VSAのズレ=“病識障害”の核であり、
ただ注意すれば直るという種類の問題ではない。
● 解決のカギは「メタ認知的な精神の働き」 🔁🧭
おっしゃる通り、ここに必要なのは、
「自分は“できる”と思っている。でも本当にそうなのか?」
「もしかして、自分の感じ方がズレているのかもしれない」
という“自分の感じ方を疑う力”──すなわちメタ認知である。
これは、一部の人にとっては自然に備わっているが、
脳損傷後にはこの力が一部または全面的に損なわれるため、訓練によって再構築する必要がある。
● まとめ 🧩
「自分はF1ドライバー並にうまい」と思ってしまうのは、脳卒中による認識のズレが原因であり、
それに気づくには“自分を疑う”ためのもう一段上の視点(メタ認知)が必要になる。
この視点こそ、リハビリや再運転評価において、本人の尊厳を保ちつつ安全性を高めるカギになると考えられる。