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2025年8月31日

出血性脳卒中「半減」──ESPRITが示した“目標120未満”は本物か

2025  8月  中国


脳卒中の大きな危険因子は高い収縮期血圧である。最適な目標を120未満にまで厳しく下げるべきか、140未満で十分かは決着していない。

そこで本研究(ESPRIT二次解析)は、120未満をねらう厳しめ降圧が、脳卒中にどれだけ効くかをくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月30日

日本人は体重より腹囲で決まる──ウエストが示す脳卒中リスク

2025  8月  日本


心臓病や脳卒中といった心血管疾患は、日本人にとっても大きな死亡原因である。肥満がこれらのリスクを高めることはよく知られているが、従来使われてきたBMI(体格指数)だけではリスクを正しくとらえきれない場合がある。

とくに日本人は、体重が重くなくても「お腹だけ出ている」タイプが多く、脳卒中の危険を見逃してしまう可能性がある。そこで、腹囲に基づいた新しい体型指標であるBRI(Body Roundness Index)やWHtR(ウエストと身長の比率)が役立つかどうかを、日本人を対象に長期間追跡してくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月29日

心筋炎30倍増──しかし“脳卒中予防薬”と持ち上げられるコロワクの二面性

2025  8月  韓国


コロナワクチンは重症化を防ぐと言われてきたが、副作用として心筋炎や血栓症が心配されてきた。特に脳卒中や肺塞栓といった血管の病気にどう影響するのかは、まだはっきりしていなかった。

そこで、ワクチンを打った人と打っていない人を比べて、短い期間にどんな違いが出るのかをくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月28日

歩行改善の夢は幻?──ボツリヌス注射に揺れる期待と失望

2025  6月  イタリア


脳卒中のあとによく見られる「つっぱり(痙縮)」は、とくに足首やふくらはぎに出やすく、足先がつま先立ちや内側にねじれたような形になる。こうした状態は歩きにくさや転びやすさを招き、介護する人の負担にもなる。

そこで、筋肉のつっぱりをやわらげる治療として「ボツリヌス毒素(BoNT)注射」が広く使われてきた。けれども「つっぱりが減っても、歩けるようになるのかどうか」ははっきりしていなかった。そこで、その点を改めてくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月27日

脱水で脳内出血4倍、糖尿病ありなら7倍の理由とは!

2025  8月  アメリカ


年をとると、のどの渇きを感じにくくなったり、腎臓の働きが弱まったり、さらには利尿薬などの薬を飲んでいることも多いため、脱水になりやすいといわれている。

脱水は便秘や尿路感染、転倒などの原因になるが、「脳卒中とどのくらい関係しているのか」ははっきりしていなかった。そこで、脱水と脳卒中のつながりを大規模データでくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月26日

脳卒中経験者は“薬漬け”!?──減薬で命と生活を守る新常識【ポリファーマシー研究からの警告】

2025  8月  アメリカ


脳卒中を経験した高齢の人は、多くの薬を同時に飲む「ポリファーマシー」になりやすい。薬が増えると、副作用や飲み合わせによるトラブルが起こりやすくなり、転倒や認知機能の低下、入院のリスクも高まることが知られている。

こうした問題を避けるために「減薬(デプリスクリプション)」という考え方が広がってきたが、実際に脳卒中を経験した人が減薬についてどう感じているのかは、まだはっきりしていなかった。その実態をくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月25日

ラクナ梗塞は軽くなかった──10年後には10人に1人が認知症

2025  8月  イギリス


ラクナ梗塞は小さな脳梗塞として知られ、比較的軽症で予後も良いと考えられてきた。
一方、皮質梗塞は脳の表面で起きるタイプで、大血管や心臓からの血栓が原因になることが多い。

しかし、本当にラクナ梗塞は安心できるのか、長期的に比較した研究はこれまでほとんど存在しなかった。
特に認知症の発症や再発、死亡、生活の質がどう変わるのかを10年近い長いスパンで追跡したデータは乏しかった。

そこで、小血管病と大血管病の違いを明らかにし、患者の予後や治療方針を考える手がかりを得るべくくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月24日

血管内治療の幻想崩壊──ステントもバルーンも“危険装置”だった

2025  8月  ヨルダン
   

脳の動脈が動脈硬化で細くなる「頭蓋内動脈狭窄(sICAS)」は、脳梗塞の再発リスクが高い重大な病態である。
これまで「血管内治療(カテーテルで広げればよい)」という考え方が根強くあり、とくにステントやバルーンによる治療は“未来の標準”と期待されてきた。

しかし一方で、薬だけの治療(抗血小板薬や生活習慣管理)でも十分に再発を防げるという報告が増えつつあった。

本当に血管内治療は有効なのか──その真偽を確かめるため、メタ解析をこころみたそうな。

2025年8月23日

骨の味方が脳の敵に!? カルシウムと脳梗塞リスクの意外な関係

2025  8月  中国


脳梗塞(虚血性脳卒中)は脳血管が詰まって起こる病気で、日本を含むアジア地域で大きな健康問題となっている。これまでの研究では、血液中の金属元素の量と脳梗塞の危険性に関連があるのではないかと指摘されてきたが、それが本当に原因なのか、単なる相関なのかははっきりしていなかった。

さらに、アジア人を対象とした研究は少なく、十分な検証が行われていないのが現状である。そこで、血中の金属濃度と脳梗塞の発症との因果関係を遺伝子データを使ってくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月22日

くも膜下出血治療に異変?クラゾセンタンが効く“隠れた患者層”とは

2025  8月  日本


くも膜下出血(aSAH)では、脳血管れん縮(スパズム)が遅れて起きて脳梗塞や機能障害につながることが大きな問題である。

クラゾセンタン(エンドセリン受容体拮抗薬)は、過去の臨床試験で「血管れん縮を減らす」効果は見せてきた。
しかし「最終的な生活の自立度(mRSなどの機能予後)」の改善は一貫して示されず、国際的には効果が疑問視されてきた。

一方で日本の実臨床では「効いているのでは?」と感じられる症例もあり、なぜRCTと現場の感覚が食い違うのかが課題であった。
そこで、従来の平均値比較ではなく「一人ひとりの予後予測と実際の転帰を比べる」という新しい枠組み(PAOE)を用い、クラゾセンタンが本当に役立つ患者層を明らかにしようとしてみたそうな。

2025年8月21日

脳卒中患者でもスマートウォッチで血圧管理!? いつの間にか信頼できる時代に

2025  8月  台湾


脳梗塞の急性期には血圧が大きく変動しやすく、その管理がとても重要である。ところが従来の病棟での血圧測定は、看護師が1日数回カフで測る方法が中心で、寝ている間や日中の変動を十分に捉えることができなかった。

そこで、手軽に回数多く血圧を測れるスマートウォッチに注目が集まっている。これまでは健康な人を対象にした検証が多く、血圧が大きく揺れる脳卒中患者で本当に使えるのかはわかっていなかったのでくわしくしらべてみたそうな。

脳卒中リハビリにおける音楽療法とバイノウラルビート

はじめに

脳卒中は運動機能や認知機能の障害に加え、情動面(うつや不安)や睡眠障害など様々な問題を引き起こします。近年、音楽療法がこうした脳卒中後のリハビリに有益であることが報告されており、飲み込み障害や失語症の改善、認知・運動機能の向上、気分の改善、神経学的回復の促進につながるとされています。音楽は脳の情動・認知・記憶・運動に関わる領域を広範囲に活性化しうるため、リハビリ治療への応用が期待されています。

本稿では、バイノウラルビート(binaural beats)を用いた音楽療法に注目し、その脳卒中後リハビリへの活用可能性を医学論文に基づき検討します。バイノウラルビートは左右の耳にわずかに異なる周波数の音を聞かせることで脳内に特定周波数の拍動音を知覚させ、脳波を誘導・同期させる方法です。この手法は聴覚的ニューロモジュレーション(音刺激による神経調整)の一種で、非侵襲かつ簡便に脳活動へ影響を及ぼせる点が注目されています。以下、バイノウラルビートが脳卒中患者の認知機能、運動機能、神経可塑性(脳の柔軟な適応能力)、睡眠、情動調整に与える可能性について、関連研究や音楽療法全般の知見も踏まえて整理します。

バイノウラルビート


音楽療法が脳卒中リハビリに与える効果

まず一般的な音楽療法の効果を概観します。音楽療法は単なる鑑賞から楽器演奏、歌唱、リズム運動まで多岐にわたり、脳のマルチモーダルなネットワークを刺激します。例えば音楽に合わせたリズム刺激は歩行訓練に応用され、リズミック・オーディトリ・スティムレーション(Rhythmic Auditory Stimulation; RAS)として広く知られています。RASのランダム化試験のメタ解析では、歩行速度や歩幅の改善、下肢運動機能(Fugl-Meyer Assessmentスコア)の上昇、バランス能力(Berg Balance Scaleスコアなど)の向上といった有意な効果が確認されています。これはリズム刺激が運動とタイミングの脳回路を同期させ、運動機能の再学習(モーターラーニング)を促すためと考えられます。

また、楽器演奏を取り入れた音楽療法(例:電子ピアノやドラムの練習)は上肢の巧緻運動の回復に役立つことが示されています。Music-Supported Therapy (MST)と呼ばれる介入では、慢性期脳卒中患者の麻痺した手の機能が有意に向上し、機能的MRIで損傷半球の聴覚-運動野ネットワークの活動・結合の回復(可塑的変化)が観察されています。さらに同患者群では、治療後に抑うつ症状の軽減やポジティブ感情の増加といった気分面の改善も報告されました。このように音楽療法全般は運動・認知・情動の幅広い領域に効果を及ぼし、脳の可塑性を引き出す包括的リハビリ手段となり得ます。

以上の音楽療法の効果の中で、バイノウラルビートが特に役立つと考えられるのは「脳波の誘導・同期」というユニークな特性による認知機能や情動状態の調整であり、さらにリズムによる覚醒水準の最適化を通じた運動学習の補助です。以下、バイノウラルビートの作用メカニズムと各機能領域への影響を詳しく見ていきます。

バイノウラルビートのメカニズムと一般的な作用

バイノウラルビートでは、例えば左耳に200 Hz、右耳に210 Hzの純音をヘッドホンで聞くと、その差分の10 Hzに相当する拍動音が脳内で知覚されます。この10 Hzはα波(8~13 Hz)の周波数帯に相当し、リラックスした覚醒状態に見られる脳波です。同様に、4 Hzの差を与えればθ波(4~7 Hz)~δ波(<4 Hz)に相当し、これはまどろみや睡眠状態の脳波、16~20 Hz差ならβ波(14~30 Hz)で集中・警戒状態の脳波に対応します。バイノウラルビート刺激(Binaural Beat Stimulation; BBS)は、こうした仕組みで脳波を特定帯域に誘導(エントレインメント)し、結果的に心理状態や認知パフォーマンスに変化をもたらすと考えられています。

既存研究から、周波数帯ごとの心理・生理効果の特徴が報告されています。低周波(δ・θ帯)のバイノウラルビートは不安の抑制や睡眠促進に有効であり、睡眠障害の軽減やリラクゼーション目的で利用する試みがあります(例:δ/θ帯の音楽を毎日聴かせ軽度不安を軽減したパイロット研究)。一方、高周波(β帯)の刺激は記憶・注意・覚醒度を高め、認知課題の成績や警戒心を向上させることが報告されています。例えばLaneらの研究(1998)では、16 Hzと24 Hzのトーンによるβ帯バイノウラルビートを聴取した群は、1.5 Hzと4 Hzのθ/δ帯ビートを聴取した群に比べて30分間の視覚注意課題で有意に成績が良く、かつ主観気分もよりポジティブでした。この結果は、高周波ビートが脳の覚醒レベルを上げ注意・集中力を高める一方、低周波ビートは鎮静効果が強く注意課題のパフォーマンスは低下しうることを示唆します。

総じて、バイノウラルビートは周波数帯域の選択によってリラクゼーションから集中亢進まで幅広く心理状態を調節し得るツールです。その応用可能性は大きく、実際に「気分や認知機能の改善」を目的に健康な人や患者に用いた複数の研究が存在します。系統的レビューによれば、バイノウラルビート刺激は記憶・注意などの認知機能や、ストレス・不安の軽減、モチベーションや自己信頼感の向上といった心理的効果が報告されており、脳波(EEG)の変化も含めた作用メカニズムが検討されています。さらに聴覚刺激によるニューロモジュレーションは、安全かつコスト面でも優れており、専門技術を要する経頭蓋刺激(tDCSやrTMS)などに代わる在宅でも可能な補完療法としても期待されています。

以上の知見を踏まえ、次節よりバイノウラルビートが脳卒中患者の認知機能、情動、睡眠、運動機能などに具体的にどう影響し得るか、関連する研究結果を詳述します。

認知機能への影響と神経可塑性の可能性

脳卒中後には記憶障害や注意障害、遂行機能低下など認知機能の低下が頻発します。また脳の再組織化(可塑的変化)を促すことが機能回復に不可欠です。バイノウラルビートの脳波誘導効果は、これら認知面の改善や可塑性の支援につながる可能性があります。

認知機能への直接的エビデンスとして、アルツハイマー病患者を対象に行われた試験では興味深い結果が出ています。Alzheimer型認知症患者に対しα帯域(10 Hz)のバイノウラルビート音を2週間聴取させた研究では、治療群で認知検査(MMSE)のスコアが有意に改善し、対照群では変化が見られませんでした。さらに治療群では抑うつ・不安ストレス指標(DASS-21)の得点も有意に低下し、EEG解析でもα波・β波・γ波パワーの増加など脳波スペクトルの変化が確認されています。認知症という別領域の研究ですが、音による適切な脳波帯域の賦活が認知機能を底上げし、気分症状も緩和し得ることを示す興味深い結果です。脳卒中後の認知機能障害にも、周波数選択的な聴覚刺激が神経回路の賦活や高次機能の回復をサポートする可能性があります。

実際、健常者を対象とした研究でも記憶・注意課題中のバイノウラルビートの効果が示唆されています。Beaucheneら(2017)はα帯域のビート刺激が作業記憶課題の応答正確度を上げ、脳の機能的結合を変化させることを報告しています。また別の報告ではγ帯域(約40 Hz)のビートが注意力トレーニングの習得を加速する可能性が示されました。40 Hz前後のγ振動は認知処理や神経同期に重要で、マウス研究では40 Hz光刺激や音刺激で脳内の可塑的変化(ミクログリア活性化による老廃物除去など)が生じたとの報告もあります。このように高周波数帯の刺激は注意・学習能力のブーストやシナプス可塑性の誘導に関与し得ると考えられます。

さらに神経可塑性という観点では、音楽療法それ自体が脳卒中後の脳ネットワーク再編を助けるエビデンスがあります。前述のMSTでは聴覚と運動のネットワーク結合が回復しました。バイノウラルビートも、左右両耳からの入力を中脳で統合する際に発生する現象であり、左右大脳半球の協調や皮質-視床ネットワークの同期を生む可能性があります。実際、バイノウラルビート刺激で脳の左右半球のα波コヒーレンスが上昇したとの報告もあり(Orozco Perezら, 2020)、脳全体の機能的結合に影響を及ぼすことが示唆されています。定常的なバイノウラル音響刺激の曝露は脳の可塑性を促進し、記憶保持力を改善し、学習・情報処理能力を高める可能性があるとも指摘されています。

もっとも、脳卒中患者における直接的な認知機能改善のエビデンスは現状限定的です。先行研究では意識障害(最小意識状態など)の患者に対し、お気に入りの音楽にα帯バイノウラルビートを重ねて聴かせることで、30回の治療後に意識レベル(昏睡尺度)が有意に向上したとの報告があります。この研究では脳波や脳幹誘発電位にも改善が見られ、音楽+αビートの組み合わせが通常の音楽だけより患者の覚醒度を高める効果が示されました。脳卒中後の高次脳機能障害に対しても、例えば注意力トレーニング時にβ/γ帯ビートを付加したり、リハビリ後のリラックスタイムにθ帯ビートで定着を促すといった応用が考えられます。これらは今後実証が期待される分野ですが、バイノウラルビートが脳の覚醒水準や情報処理効率を調節することで、リハビリ中の学習効果や再訓練効果を高める可能性が示唆されます。

情動調整・睡眠への効果

脳卒中サバイバーの多くは、抑うつや不安といった心理的ストレスを抱え、睡眠障害や日内変動の乱れが見られます。情動面のケアと睡眠の質向上は、リハビリ意欲や全身的な回復力に直結する重要な課題です。バイノウラルビートは上述の通り不安緩和やリラクゼーションに用いることができ、薬に頼らない音楽的アプローチとして注目されます。

具体的なエビデンスとして、バイノウラルビートの聴取が不安を低減した例があります。Le Scouarnecら(2001)のパイロット研究では、軽度の不安を抱える被験者15名に4週間、週5回程度、δ~θ帯域(睡眠領域)のバイノウラルビート音入り音楽を聴取させました。その結果、日々の自己評価で不安感が有意に減少し、終了時には状態不安(STAI)スコアも減少傾向を示しました。また別の試験では、手術前の患者にバイノウラルビート入り音楽を聴かせたところ、偽音楽や無介入に比べて術前不安が有意に26%ほど低下したとの報告があります。これらは聴覚刺激によるリラクゼーションが不安軽減に有効であることを示しています。

脳卒中患者に焦点を当てると、バイノウラルビート併用による心理リハの報告があります。Kotelnikovaら(2021)は、運動障害(脳卒中や整形外科疾患による)の患者93名を対象にリラクゼーション目的の音響振動療法を実施し、一部にバイノウラルビート成分を組み込んで効果を検証しました。その結果、情動面(不安・抑うつ)の改善や「動作への恐怖心(運動恐怖症)」の軽減においてバイノウラルビート併用群で有意な効果が認められました。一方で、痛みの軽減や認知(記憶・注意)の回復には有意な効果が見られなかったとも報告されています。つまり、バイノウラルビートは精神的安定やモチベーション向上には寄与するものの、認知機能自体の回復には直接的には寄与しにくい可能性が示唆されます。ただし認知訓練への応用に関しては前節のような周波数選択の工夫や長期的介入など検討の余地があり、さらなる研究が必要です。

睡眠への影響については、バイノウラルビートを睡眠改善に用いた研究は少ないものの、周波数帯と効果の対応から推察できます。δ波やθ波は深い眠りや浅い眠りの脳波であり、これらを誘導する音刺激は入眠を促進し睡眠の質を高める可能性があります。前述のLe Scouarnec研究ではδ/θ刺激による不安軽減とともに睡眠潜時短縮も示唆されており、不眠傾向の人に有益だった可能性があります。脳卒中患者では睡眠時無呼吸や不眠が予後に悪影響を及ぼすことが知られており、睡眠改善は重要な課題です。寝る前に心地よい音楽に微細なδ帯バイノウラルビートを混ぜて聴かせることで、入眠儀式として睡眠リズムを整える効果が期待できるかもしれません。もっとも、不眠症患者を対象にしたランダム化試験ではバイノウラルビートの効果は最小限であったとの報告もあり、個人差やプラセボ要因も大きい領域です。現時点では確立した手法ではありませんが、副作用がなく容易に試せるリラクゼーション法として、睡眠衛生の指導と併せてバイノウラル音楽を利用することは一つの選択肢となるでしょう。

運動機能リハビリへの応用

バイノウラルビートは情動や認知面での効果が注目されがちですが、運動機能のリハビリテーションにも補助的役割を果たし得ます。音楽療法の中核にはリズムによる運動同期があり、これはRASの成功によく表れています。ではバイノウラルビート特有の効果として、単なるメトロノーム的リズム以上の何が期待できるのでしょうか。

一つにはリズム+脳波誘導による全身的なバランス機能の向上が挙げられます。Chenら(2025)は脳卒中患者27名を対象に、リハビリ訓練中にバイノウラルビート刺激(BBS)付き音楽を聴かせた群(15名)と、従来型の音楽療法のみの群(12名)を比較しました。その結果、両群ともバランス能力の指標(Berg平衡尺度BBScやMini-BESTest)が改善しましたが、日常生活動作(Barthel Index)と抑うつ(BDIスコア)の改善幅はBBS群で有意に大きいことが分かりました。さらにBBS群内での相関解析では、バランス能力の向上量が下肢機能・気分・ADL能力の向上と有意に関連しており、バイノウラルビート刺激がリハビリ効果を全般的に底上げした可能性があります。著者らは、音楽とリズムの相乗効果でバランスが改善したのではないかと結論づけ、脳機能への影響メカニズム解明を提言しています。この研究は直接的な運動成績への効果としてはバランス改善を捉えていますが、バイノウラル刺激がもたらす覚醒度や集中力の変化がリハビリ訓練の効率を上げたとも考えられ、興味深い所見です。

他の角度からは、運動学習課題におけるバイノウラルビート効果も報告されています。Azizzadehら(2024)は若年成人と高齢者それぞれに対し、α帯域(8.67 Hz)のバイノウルアルビートを30分聴取しながら鏡映描写課題(手先の巧緻運動課題)を行う群と、ヘッドホン装着のみで無音の対照群を比較しました。その結果、高齢者ではαビート群のみ課題エラー数が有意に減少(精度向上)し、若年者ではαビート群のみ反応時間が有意に短縮(速度向上)しました。同時に行った脳波解析では、若年群ではα波パワーの顕著な増大が、高齢群ではβ~γ波パワーの増大が認められました。著者らは、αビートが若年者にはリラックスによる効率化を、高齢者には覚醒度引き上げによる代償をもたらし、それぞれ異なる経路で運動パフォーマンスを向上させたと考察しています。この知見は、脳卒中患者のリハビリでも年齢や症状に応じて最適な周波数の選択が重要であることを示唆します。例えば、注意が散漫で意欲低下が見られる患者にはβ帯域で覚醒度・動機づけを上げる、緊張が強く協調運動が硬い患者にはα帯域で過剰な力みを抑えるなど、周波数調整によってリハビリ効果を高める戦略が考えられます。

さらに心理面から運動への波及として、前述のKotelnikovaらの研究ではバイノウラルビート併用により「動作への恐怖心(転倒や再発への不安)」が軽減しました。これは患者がリハビリ動作に前向きに取り組む助けとなる重要な効果です。恐怖心や不安が強いと運動学習の妨げになりますが、音楽とバイノウラルビートでリラックスできれば自発的な練習量や挑戦意欲が増し、結果的に機能回復が促進されるでしょう。以上より、直接・間接の両面からバイノウルアルビートは運動リハビリテーションの潤滑油として機能し得ると考えられます。

瞑想・マインドフルネスなど関連療法との接点

バイノウラルビートの活用を考える上で、瞑想やマインドフルネスとの親和性にも触れておきます。瞑想状態に入ると脳波にはα波やθ波の増強が生じることが知られており、熟練した瞑想者は安静閉眼時に高振幅のα波を示す傾向があります。これはリラックスしつつ集中した意識状態を反映しています。脳卒中後の不安や注意障害の緩和策として、マインドフルネス瞑想法が導入されるケースもありますが、その効果は認知機能のわずかな改善や抑うつ・ストレスの軽減程度と報告されています。しかし副作用なく反復可能なセルフケアとして有用です。

バイノウラルビートは、この瞑想の過程を音響的にサポートするツールになり得ます。実際、市販の瞑想音源やリラクゼーション音楽にはα帯やθ帯のバイノウラル音を混ぜ込んだものが多数存在し、初心者でも脳波を整えて瞑想状態に入りやすくすることを謳っています。科学的検証は十分ではないものの、一定の周波数刺激が迷走神経系を調整し自律神経バランスを整える可能性も指摘されています。ストレスで高ぶった交感神経活動を抑え、副交感神経優位に誘導することは脳卒中後の血圧管理や精神安定にも有益でしょう。

また、「オーディオニューロモジュレーション」全般の視点では、聴覚を介した脳刺激としてバイノウラルビート以外にも経皮的迷走神経刺激音(ある周波数の音で迷走神経を刺激)やASMRのような聴覚刺激によるリラクゼーション現象などが研究され始めています。これらも広義には音で脳の特定システムを調整する試みであり、非侵襲で実生活に取り入れやすい点が共通します。例えばある臨床試験では、脳波フィードバックを用いて個人に合わせたリアルタイムのバイノウラルビートを提供し、脳状態の改善を図る研究が計画されています(NCT07165899)。瞑想的アプローチと先端技術を組み合わせたこうした試みは、今後のリハビリ領域にも新風をもたらす可能性があります。音による神経調整は、脳卒中リハビリに取り入れられる補完療法の一つとして今後もエビデンスの蓄積が望まれます。

おわりに

バイノウラルビートを用いた音楽療法は、脳卒中リハビリの分野ではまだ新しい試みですが、関連領域の知見はその有用性を示唆しています。音楽療法自体が脳卒中後の運動・認知・情動機能を幅広く支援する中で、バイノウラルビートは脳波帯域への働きかけというユニークな作用で効果を増幅しうると考えられます。既存のパイロット研究からは、お気に入りの音楽にバイノウラルビートを加えることで意識障害患者の覚醒度が上がった例、リハビリ中のバランス訓練に取り入れてADLと気分の改善が得られた例、リラクゼーション場面での使用により不安や動作恐怖が和らいだ例などが報告されています。バイノウラルビートの周波数を工夫すれば、リラックスさせたい時にはα/θ帯、注意を喚起したい時にはβ帯というように患者のニーズに合わせたセッションが可能です。

もっとも、エビデンスはまだ初期段階であり、プラセボ対照を含む大規模試験や、最適な周波数・音楽との組み合わせ、介入期間など不明な点は多く残されています。安全性については報告された副作用はほとんどなく、少なくとも補助療法として試すことのリスクは低いと考えられます。ただし過度の期待は禁物であり、標準的なリハビリ訓練を補完するリラクゼーション・モチベーション向上策として位置付けるのが適切でしょう。

総合すると、バイノウラルビート活用は認知面では注意・記憶の改善や脳の覚醒状態調整に、情動面では不安軽減や睡眠改善に、運動面ではリズム同期と集中力向上による訓練効果アップに寄与しうると考えられます。これは瞑想やマインドフルネスとも通じるアプローチであり、今後さらに脳卒中リハビリへの応用研究が進めば、音楽療法のレパートリーに新たな選択肢を提供するでしょう。その日常生活への適用のしやすさも踏まえ、患者のQOL向上と神経回復力促進を目的とした音楽的介入として、バイノウラルビート療法は大きな可能性を秘めています。

参考文献

Xu C, et al. Potential Benefits of Music Therapy on Stroke Rehabilitation. Oxid Med Cell Longev. 2022;2022:9386095. ※2023年に撤回. 音楽療法が嚥下障害・失語の軽減、認知・運動機能の改善、気分の改善、神経学的回復の促進に寄与することを総説。

Chen R, et al. Effects of Auditory Frequency Stimulation on Balance and Rehabilitation Outcomes in Patients With Stroke: A Randomized Case-Control Study. Brain Behav. 2025;15(7):e70671. バイノウラルビート刺激併用群でバランス機能・ADL・うつ指標の改善が対照より大きかったことを報告。

Liu Z, et al. Short-term efficacy of music therapy combined with α binaural beat therapy in disorders of consciousness. Front Psychol. 2022;13:947861. 意識障害患者に音楽+α帯域バイノウラル刺激を適用し、意識レベルや脳波・誘発電位の指標が改善。低周波BBによる不安抑制・睡眠促進、高周波BBによる記憶・注意向上についても言及。

Mirmohamadi SM, et al. A Review of Binaural Beats and the Brain. Basic Clin Neurosci. 2024;15(2):133-146. バイノウラルビートの認知機能(記憶・注意)や心理機能(ストレス・不安など)への効果、および脳波への作用メカニズムについての最新レビュー。

Kotelnikova AV, et al. Binaural Acoustic Beats in the Psychological Rehabilitation of Patients with Impaired Motor Functions. Bull Rehabil Med. 2021;20(1):60-69. 脳卒中等の運動障害患者にリラクゼーション目的のバイノウラル音響刺激を用い、情動面の改善と運動への恐怖心軽減を示す一方、疼痛や認知には有意な効果なしと報告。

Lane JD, et al. Binaural auditory beats affect vigilance performance and mood. Physiol Behav. 1998;63(2):249-252. β帯バイノウルアルビートが注意課題成績を向上させ主観的な気分もより良好だったこと、θ/δ帯では効果が劣ったことを示した古典的研究。

García-Argibay M, et al. Efficacy of binaural auditory beats in cognition, anxiety, and pain perception: a meta-analysis. Psychol Res. 2019;83(2):357-372. (本文中で直接言及していないが関連するメタ解析。バイノウラルビートの不安軽減効果に中程度のエビデンスを報告。)

その他、本文中で引用した各種文献の詳細は省略しましたが等に示された内容に基づいて構成しています。



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原因不明の脳梗塞を追え!ESUSは“隠れた病気のサイン”だった

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脳梗塞のなかには、通常の検査をしても明らかな原因が特定できないものがある。このようなケースは「塞栓源不明の脳塞栓症(ESUS)」と呼ばれてきた。

従来は、心房細動や卵円孔開存といった隠れた塞栓源が多いのではないかと考えられ、抗凝固薬による治療が有効なのではないかという期待があった。

その効果を確認するべくこれまでの研究をまとめてみたそうな。

2025年8月19日

薬より強い?食物繊維が“脳卒中後うつ”を遠ざける驚きのメカニズム

2025  7月  中国


脳卒中は世界で2番目に多い死因であり、多くの人が後遺症を抱えて生活している。その中でも「脳卒中後うつ(post-stroke depression, PSD)」は3人に1人が経験するとされ、リハビリの妨げや再発・死亡リスクの上昇につながる大きな問題である。特に女性は男性よりもうつになりやすく、症状も重くなりやすい。

一方で、これまでの研究では「食事と気分」の関係が注目されてきた。特に食物繊維は腸内環境を整える働きがあり、心の健康にもつながるのではないかと考えられている。しかし「食物繊維とうつ」を調べた研究は多くても、「脳卒中後うつとの関係」を調べたものはほとんどなかった。

そこで、米国の大規模調査NHANESのデータを使って、女性における食物繊維摂取とPSDの関係をくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月18日

くも膜下出血=動脈瘤の常識が崩れる日

2025  8月  オランダ


くも膜下出血(SAH)の大部分は動脈瘤破裂によるものとされているが、その約15%は非動脈瘤性(nSAH)である。

nSAHはさらに、perimesencephalic SAH(PMSAH)と non-perimesencephalic SAH(NPSAH)に分類される。PMSAHは脳幹周囲に限局した出血であり、静脈起源と考えられていて予後は良好とされている。一方でNPSAHは出血の広がりが大きく、動脈性出血を反映していると考えられ、予後は不良である。

そこで、この二つの病型を比較し、その臨床経過や転帰にどのような差があるかをくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月17日

骨折の有無は関係なし——満足度を奪う真犯人は“転倒恐怖(FoF)”

2025  8月  中国


脳卒中患者は身体機能やバランス能力の低下により転倒リスクが高い。転倒は身体的損傷をもたらすだけでなく、心理的影響として「転倒恐怖(Fear of Falling, FoF)」を引き起こしやすい。

FoFは活動量の低下や社会的孤立を招き、生活満足度(QOL)の低下に直結する。しかし、入院中の脳卒中患者において、転倒の重症度・損傷の有無・FoFが生活満足度にどのように関連するかは十分に明らかになっていなかった。

そこで、この関連を解明し、転倒予防と心理的ケアの必要性をくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月16日

STICH後も諦めない脳外科医たち──ルーマニア発・ICH開頭手術の正当性探し

2025  7月  ルーマニア


脳内出血(ICH)は脳卒中の中でも死亡率・後遺症率が高いタイプである。外科的に血腫を取り除くことは理論的には有用と考えられてきたが、大規模試験(STICHなど)では全体として明確な生存利益が示されていない。

それでも、血腫の場所や大きさによっては手術が有利になる可能性は残っている。

そこで、ルーマニアの単一施設で2017〜2023年に治療したテント上ICHの患者を対象に、外科治療と保存療法の転帰を比較し、死亡率や手術適応の要因をくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月15日

脳卒中リスクは“歩くほど”下がる!3000歩から始まる驚きのデータ

2025  8月  オーストラリア


高血圧は脳卒中を含む主要な心血管疾患の最大の危険因子の一つである。日常生活で容易に実践できる身体活動として「歩くこと」は有望であるが、具体的にどの程度の歩数や歩行強度が脳卒中リスクの低下と関連するかについては、これまで十分なデータがなかった。

そこで、加速度計で計測した客観的な歩数データを用い、高血圧者における歩数・歩行強度と主要心血管イベント発症リスク(特に脳卒中)との関連を明らかにするべくくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月14日

「75歳からの血圧革命」──130mmHg未満で本当に寿命は延びるのか?

2025  8月  日本


高齢になると血圧は上がりやすくなり、それが心筋梗塞や脳卒中などの心血管病、さらには死亡のリスクを高めることが知られている。一方で、血圧を下げすぎると腎臓の働きが悪くなったり、立ちくらみや転倒、認知機能の低下といった副作用が出ることも心配されている。

2019年の日本高血圧学会ガイドラインでは、75歳以上の人の目標は「収縮期血圧(SBP)140mmHg未満」だった。しかし、その後の研究で「130mmHg未満」を目指す厳しめの血圧管理でも、心血管病や死亡を減らせる可能性があることが分かってきた。
特に日本は超高齢社会であり、この年齢層でどのくらいの血圧を目標にするのがよいかを明らかにすることはとても重要である。

そこで、75歳以上の高血圧の人で、SBP<130mmHgを目指すことが本当に効果的で安全かどうかを、過去の臨床試験をまとめてくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月13日

脳卒中でもトイレが人を歩かせる:リハ病棟で“こっそり独歩”が起きる理由

2025  7月  オーストラリア


脳卒中リハビリにおいて、入院中に「独歩(自分ひとりで歩く)」へ移行できるかどうかは、退院後の生活の質に直結する重要な節目である。

しかし、病院では転倒予防のため、理学療法士など専門職による安全確認が行われるまで単独歩行が制限されることが多い。
この安全管理の仕組みは患者の自立を守る反面、活動量低下や心理的負担を招く可能性がある。

そこで、脳卒中患者が入院中に独歩へ移行する際の意思決定過程やリスク認識について、当事者の視点からくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月12日

笑いも泣きも止まらない──橋脳卒中が壊す“右脳ネットワーク”と、その立て直し方

2025  7月  韓国


病的笑い・泣き(Pathological Laughing and Crying:PLC)は、脳卒中のあとに突然こらえきれない笑いや泣きが出てしまう症状である。感情そのものがおかしくなるわけではなく、その出し方を調節する仕組みが壊れることで起きる。

なかでも橋(pons)という脳幹の一部を傷めた脳卒中では、PLCが比較的よく見られることが知られている。しかし、橋の損傷がなぜPLCにつながるのか、特に脳のどこに代謝の異常が出ているのかははっきりしていなかった。

そこで、橋脳卒中患者を対象に、脳の糖代謝を調べるPET検査を使ってPLCの背景をくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月11日

破裂動脈瘤、“今すぐ手術”は本当に必要か──遅らせた方が助かる患者たち

2025  7月  ギリシャ


くも膜下出血(SAH)において、動脈瘤クリッピング手術は再出血予防のために早期に行うことが一般的である。

しかし、発症から手術までの時間が転帰にどう影響するかについては議論があり、特に遅延手術が必ずしも不利ではない可能性が指摘されている。

そこで、発症から手術までのタイミングと臨床転帰の関連をくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月10日

脳卒中リスク37%減!高齢者が見逃しがちな“ビタミンB1不足”の真実

2025  8月  中国


脳卒中は世界で2番目に多い死因であり、後遺症による生活の質の低下や医療費の増加をもたらす大きな病気である。

ビタミンB12や葉酸と脳卒中の関係はよく知られているが、ビタミンB1(チアミン)については大規模な調査があまり行われてこなかった。ビタミンB1は体のエネルギーづくりや神経の働きを保つために欠かせず、不足すると代謝の乱れや血管の動脈硬化を通じて脳卒中の危険を高めるおそれがある。

そこで、高齢者におけるビタミンB1の食事からの摂取量と脳卒中の発症リスクの関係をくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月9日

「1年で回復しなければ終わり」なんてウソだった──脳内出血の“その後3年”に希望がある

2025  7月  中国


脳内出血(ICH)後の運動機能回復は、通常3か月から1年以内に評価されることが多い。
しかし、実際には1年を過ぎてから回復する例もあると考えられており、そのような長期的経過を丁寧に追った研究はほとんど存在しない。

このことにより、回復可能性が過小評価され、臨床現場での支援やリハビリの判断にも偏りが生じる恐れがある。

そこで、脳内出血後の運動回復がどれほど長期間にわたって継続するのかを明らかにするべく、1年以降に回復する患者の特徴をくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月8日

脳卒中を防ぐのは“発酵”の力──効いたのはヨーグルトだけだった!

2025  7月  中国


脳卒中は、死や重度の後遺障害を引き起こす深刻な疾患であり、個人と社会に大きな負担を与えている。食事を含む生活習慣の改善は、脳卒中予防の鍵となる。その中で発酵乳製品、特にヨーグルトは腸内環境を整える食品として知られており、脳と腸の相互作用「脳腸軸」を通じて脳卒中リスクに影響を与える可能性がある。

しかし、これまでの研究では発酵乳製品と脳卒中との関連について一貫した結果が得られておらず、特にアメリカ国内の大規模データに基づいた検証が不足していた。

そこで、発酵乳製品の摂取が脳卒中リスクに与える影響を明らかにするため、全国規模の健康栄養調査データを用いてくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月7日

「水を飲めば健康」なんてウソだった?脳梗塞の急性期に“水分の与えすぎ”で死亡率2.5倍という衝撃

2025  7月  中国


脳梗塞の重症患者に対しては、脱水を避けるために十分な水分補給が重要とされてきた。

特に急性期では、点滴による水分投与が標準的に行われている。しかしその一方で、水分を与えすぎることが脳浮腫や全身への悪影響を引き起こす可能性があるにもかかわらず、そのリスクについては明確な根拠が不足していた。

そこで、脳梗塞急性期における水分出納バランス(とくに点滴を含む総水分量)と3か月後の死亡率との関連をくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月6日

手は動くのに、使えない――脳卒中リハビリの盲点とは?

2025  8月  スイス


脳卒中後の上肢機能障害は極めて高頻度に見られるため、リハビリテーション領域では上肢の運動機能を評価する指標としてFugl-Meyer Assessment(FMA-UE)が広く用いられてきた。

しかし近年、FMAにおいて高得点を示すにもかかわらず、実生活上では上肢をほとんど使用していない患者が一定数存在することが報告されている。

このような「運動機能は温存されているのに、パフォーマンスが伴わない」という乖離現象が、急性期から存在するのか、そしてその背景に何があるのかは十分に解明されていない。

そこで、この現象の原因として認知機能障害(特に空間無視、遂行機能障、失行)が関与している可能性に着目し、急性期脳卒中患者を対象にくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月5日

「歌えば脳が変わる」は本当だった!右脳が目覚める、ことば回復の“裏ルート”とは?

2025  7月  フィンランド


脳卒中の後に言葉が出にくくなる「失語症」は、患者の生活や社会参加を大きく制限する問題である。特に慢性期(発症から半年以上)の患者では、自然な回復だけでは限界があることが多い。

これまでにも、音楽を取り入れたリハビリが言葉の回復を助ける可能性があると指摘されてきた。中でも「みんなで歌う」という活動は、脳の構造そのものを変える力があることがわかってきた。しかし、脳の動きをリアルタイムで見る方法(fMRI)を使って、歌が脳にどんな変化を起こすのかを調べた研究は少なかった。

そこで、グループでの歌唱トレーニングが、脳のどこにどんな働きを引き出すのかをくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月4日

「目を覚ませ」と手首に電気──中国発、昏睡治療の知られざる切り札

2025  7月  中国


脳卒中をはじめとする重い脳の損傷によって、人は昏睡や植物状態といった意識障害(DoC)に陥ることがある。
このような状態からの回復を助ける方法として、近年「正中神経刺激(MNS)」という手首への電気刺激療法が注目されている。
いくつかの研究では、MNSによって患者の意識レベルが改善する可能性があるとされている。

しかし、効果があっても危険な副作用があるのでは意味がない。
これまでMNSが原因でけいれん、心拍の異常、肺炎、出血などの合併症が増えるのかどうか、まとまった検証はなされてこなかった。

そこで、MNSの安全性について、過去に行われた臨床試験を集めて分析し、そのリスクをくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月3日

「脳卒中後、なぜ“自分は運転がうまい”と思ってしまうのか?」 ――F1ドライバー気取りの危うい自信とは

2025  7月  ドイツ


脳卒中を経験すると、身体や認知の働きに何らかの後遺症が残ることがある。運転という行為は、その両方を使うため、再開には注意が必要である。

実際には、多くの人が病後の運転再開について「自分で大丈夫だと思うから」という理由だけで判断してしまっている。
そこで問題になるのが、「自分の運転能力を正しく見きわめられているのか?」という点である。

過去の研究では、脳卒中経験者が自分の運転をやや過信しやすい傾向が示されていた。

そのようなズレが時間の経過とともに回復するのかどうか、また脳のどのような働きと関係しているのかをくわしくしらべてみたそうな。

2025年8月2日

酪酸は口より肛門から──浣腸による血圧低下の衝撃

2025  7月  アメリカ


高血圧は心臓病や脳卒中の主要な原因であり、とくに黒人においては他の人種よりも有病率が高く、合併症も多いことが知られている。それにもかかわらず、彼らを対象とした臨床研究は非常に少ない。

近年の研究では、腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸、とくに酪酸という物質が、血圧の調整に関わっている可能性が指摘されてきた。酪酸は食物繊維をエサにして腸内細菌が発酵することで作られる。動物実験では酪酸によって血圧が下がることが確認されているが、人間を対象とした研究は少ない。

そこで、「酪酸を腸に直接届けたら、血圧はすぐに下がるのか?」を検証するために、酪酸を肛門から入れるという臨床試験をおこなってみたそうな。

2025年8月1日

「その動脈瘤、本当に治療が必要ですか?」 ―自然閉塞した11例が問いかける、医療の常識―

2025  7月  チリ


くも膜下出血の中には、原因となる動脈瘤が見つからないまま経過するものがある。とくに中脳のまわりに出血が限局するタイプでは、一般的に「原因不明の出血」として扱われることが多い。

だが近年、その一部に「脳幹穿通枝動脈瘤(BAPA)」と呼ばれる、非常に小さな動脈瘤が関与している可能性が報告されている。

この動脈瘤は検出が難しく、治療すべきかどうかの判断も定まっていない。そこで、BAPAの患者に対して保存的な治療(つまり何もせずに経過を見る方法)の結果と有効性をくわしくしらべてみたそうな。

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