元2025 10月 日本
・クラゾセンタンを使用したのは193例(38%)で、・14日間の投与を完遂した患者では、良好な回復の可能性が約2倍に上昇していた(p=0.010)。・若年、軽症、シロスタゾールやスタチンの併用も良好予後と関係していた。・一方で、高齢や重症、遅発性脳虚血や脳浮腫の発生は不良予後につながった。DCIの発生率は8.1%と、従来報告よりも低値であった。
了解。その前提(不信感あり)で、論文の“インチキ(に見え得る)/要注意ポイント”を短くズバッと指摘します。
要注意①:非ランダム化・後ろ向き観察研究(交絡の温床)
- デザインは多施設・後ろ向き観察。薬剤割付は臨床判断で、交絡(適応バイアス)を避けられない構造です。
- 主要解析はロジスティック回帰+逐次的変数選択(AIC)で、過適合やモデル不安定性の懸念が残ります。
- したがって、“クラゾセンタン→予後改善”は因果ではなく関連にとどまります。
要注意②:「完遂効果」解析にサバイバー/イモータルタイム・バイアス疑い
- 「クラゾセンタン14日完遂」を主要共変量にした解析を提示(完遂OR 1.97)。
- しかし完遂は時間依存の事象。重症化や有害事象で早期中止した患者は自動的に「非完遂」へ落ち、生存できた患者ほど完遂側に集まり有利になります。論文はこの時間依存交絡の調整方法を明示せず、イモータルタイム・バイアスのリスクが高い。
要注意③:群の混在(fasudil/クラゾセンタン/併用)と処方重なり
- 対象506例のうち、クラゾセンタン38.1%/ファスジル68.3%で併用や途中切替が存在。
- 解析は「初期薬剤」別や「完遂」別で見ていますが、途中での薬剤変更・併用の時間的順序や累積曝露量が厳密に扱われていません。
要注意④:主要転帰が退院時mRSのみ(長期転帰なし・施設差影響)
- 主要評価は退院時のmRS 0–2で、在院日数中央値32日。
- 退院時mRSは施設の退院方針やリハ転院の慣習に左右されやすく、3–6か月の機能転帰が一般に望ましい。長期アウトカムの提示なしはバイアス源。
要注意⑤:DCI発生率が異例に低い(8.1%)
- 論文の攣縮関連DCIは8.1%と報告。
- 文献的にはDCIは20–30%前後が多く、定義・検出頻度・診断プロトコルの相違や過小捕捉の可能性が疑われます。
要注意⑥:安全性評価の検出力不足/過小評価の恐れ
- 体液貯留(肺水腫・脳浮腫)に差なしとするが、クラゾセンタンは既報で体液貯留リスクが知られる薬剤。イベント数が少なく非劣性を示したわけでもないため、βエラー(検出力不足)で差が出なかった可能性は十分。
- しかもクラゾセンタン中止→ファスジル切替の症例がある構造上、完遂群が安全に見えやすい。
要注意⑦:一般化可能性の限界(日本特有の薬剤事情)
- ニモジピンが日本では未承認。代替としてファスジル/シロスタゾール/スタチン等を併用する治療体系は国際標準と異なるため、域外一般化は限定的。
要注意⑧:SHAPの“解釈しやすさ”と“因果”は別
- 著者はランダムフォレスト+SHAPで寄与度を可視化。
- ただしSHAPはあくまで予測モデル内での特徴量寄与の可視化で、因果効果の推定ではない。非線形・相互作用を見やすくする利点はあるが、残存交絡や測定誤差はそのまま。
要注意⑨:選択基準が絞られている(バイアスの可能性)
- 発症48時間以内に根治術+術後“攣縮予防薬投与”、かつ発症前に自立ADLなど、重症例や診療遅延例は外れている可能性。
- 不完全データ除外も選択バイアス源になり得る。
要注意⑩:利益相反(COI)の存在)
- 最終著者がクラゾセンタン販売会社(Nxera Pharma Japan)から研究資金。研究計画や解析への関与は否定しているが、COIはCOI。解釈には一段強い懐疑が妥当。
まとめ(辛口一言)
この結果(OR 1.84~1.97)は観察研究の交絡と「完遂」解析の構造的バイアスで過大評価されている可能性が高い。しかも短期転帰のみ・DCI低率・安全性差なしの結論は検出力的に脆弱。あなたの“強い不信感”は統計学的にも十分に正当化可能、というのが私の評価です。