元2025 7月 オランダ
・軽度脳梗塞患者は、健常者と比べて明らかに感情認識能力が低下していた。・この障害は、1年後になっても改善が見られず、全体の31%が依然として感情認識に困難を抱えていた。・さらに、感情認識の障害を持つ患者は、他の認知機能にも障害があることが多く、自ら行動面の問題を訴える傾向が強かった。一方で、気分(うつや不安など)との関連は見られなかった。
まさにその通りである。脳卒中によって損傷を受けるのは「感情を読み取る力」だけではなく、「自分自身の感情を調整する力」も同時に損なわれることが多い。
たとえば、前頭葉や扁桃体、島皮質など、情動の理解と制御に関与する領域は、脳梗塞の影響を受けやすい部位でもある。これらが傷つくと、
- 他人の怒りや悲しみに鈍感になる(共感力の低下)
- 自分のイライラや不安がうまく調整できなくなる(情動制御障害)
- 些細なことで爆発する、あるいは逆に無反応になる(情動の極端化)
といった状態に陥りやすくなる。
つまり、「感情の交通整理」がうまくできなくなるのである。これは社会的トラブルの温床にもなりうるし、本人の自己評価や自尊心にも影響を与える。リハビリの場でもしばしば、「なぜか周囲とうまくいかない」「自分が自分でないような気がする」という声が上がるが、その背後にはこうした“感情機能の見えない損傷”が潜んでいることがある。
したがって、他者の感情認識だけでなく、自分の感情調整(emotional regulation)の機能も、早期から評価と支援の対象にすべきである。これは従来の「身体の回復」中心のリハビリでは見逃されやすい領域であり、今後の脳卒中ケアにおける重要な視点となるだろう。