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2025年7月5日

“EVTこそ正義”は幻想?日本の場数信仰に潜む危うい現実

2025  6月  日本


脳卒中は今でも世界的に大きな死因のひとつである。最近では血栓回収療法(EVT)やtPA静注療法(IV rt-PA)という治療法が進歩し、死亡率は下がってきている。ただ、これらの治療は「時間との勝負」であり、設備と経験がそろった病院で早く治療を始めることが大事である。

よく「患者数が多い病院ほど治療がうまい」と言われるが、EVTとIV rt-PAのどちらがよりこの影響を受けやすいのかはよくわかっていなかった。

そこで、日本におけるEVT導入期に、治療件数と30日以内の死亡率にどんな関係があるかをくわしくしらべてみたそうな。



日本全国の保険データ(2014年4月〜2016年2月)を使って、急性の脳梗塞(AIS)でEVTまたはIV rt-PAの治療を受けた患者を調べた。

具体的には、以下の3つのグループに分けた。

* EVTを行っている病院でEVTを受けた患者(8,227人)
* EVTを行っている病院でIV rt-PAだけ受けた患者(13,406人)
* EVTを行っていない病院でIV rt-PAだけ受けた患者(6,035人)

病院ごとの治療件数は、年間の症例数に応じて「少ない・普通・多い」の3段階に分けた。30日以内の死亡率を主要な結果として、患者の年齢や性別、脳卒中の重さ、病院の特徴、地域の条件などを考慮して統計解析を行った。



次のことが分かった。

・EVTでは、治療件数が多い病院ほど30日以内の死亡率がはっきりと低かった。これは患者の特徴や病院の違いを考慮しても変わらなかった。死亡率は患者数が少ない病院で11.6パーセント、多い病院で8.1パーセントと、大きな差が出ていた。

・一方、IV rt-PAだけの治療では少し違った結果となった。

* EVTを行っている病院では、IV rt-PAの治療件数が多いほど死亡率は下がっていた。
* EVTを行っていない病院では、IV rt-PAの件数が多くても死亡率はほとんど変わらなかった。


日本でEVTが導入されたばかりの時期には、EVTの治療件数が多い病院ほど死亡率が低くなることが明らかになった。この結果は「たくさん治療を行うことで腕が上がる」という、いわゆる practice-makes-perfect の考え方を裏付けるものである。
一方、IV rt-PAに関しては、病院にEVTができる体制があるかどうかが成績に大きく関係していた。つまり、単に治療の件数だけでなく、EVTができる設備や体制があるかどうかも重要であることが示された、


というおはなし。

脳外科医は竹田くん



感想:

『暗にEVTを推しているようにみえます
 EVTに批判的な視点に立った場合、どんなつっこみどころがありますか?』



以下、医師国家試験正答率98%のAIの回答コピペ↓



本来、EVT(血栓回収療法)こそ「腕前勝負」の代表格であり、IV rt-PAは単に薬を投与するだけなので「手技の巧拙」の入り込む余地は小さい──これが一般的な感覚である。

だが、この論文のポイントは「EVTでは件数(=場数)と死亡率に素直な相関があるが、IV rt-PAでは“病院のEVT実施能力”という別の要素が関与している」という「奇妙なねじれ」にある。

つまり、
  • EVT → 経験を積むほど死亡率が低下(これは予想通り)
  • IV rt-PA → 「EVTができる病院」であれば多く投与するほど成績が良くなるが、「EVTができない病院」ではいくら場数をこなしても死亡率は改善しない(意外)
この現象の背景について論文は
「IV rt-PA単独の高件数病院でもEVTができないところは“IV rt-PAしか打てない”事情で重症患者を抱えて死亡率が高くなりがちでは?」
と推察している。

したがって、本質的には「EVTの腕前」が病院の総合力を決めているとも読める。

もし本当に「腕前勝負の治療はどっちか」と問われたら、間違いなくEVTである。
だが、この論文の意外な発見は「IV rt-PAですら、実は“病院の技量”の影響を受ける」という点にある。

まとめるならこうだ:
  • 「EVTは場数、IV rt-PAは“病院の地力”」
  • 「EVTは数をこなせば救える、IV rt-PAは“逃げ道(EVT)”がない病院では限界がある」
この視点は、あなたのような実践家にとってかなり示唆的だ。
あなたなら「IV rt-PAが万能という幻想を壊す論文」として紹介してもいいだろう。


👁 EVTに批判的な視点からのツッコミどころ:

❶「EVTの件数が増えれば死亡率が下がる」という因果関係は本当に成立しているのか?
この論文の主張は「場数を踏む→腕が上がる→死亡率が下がる」という「練習すればうまくなる」理屈に見えるが、逆因果の可能性もある。

つまり
  • 「最初から症例が集まりやすい質の高い病院は死亡率が低い」
  • 「患者が集まるから件数も自然に増える」
──という構造の可能性を否定しきれていない。これは「選択バイアス」である。

「質の高い病院だから件数が多いだけでは?」

--- ❷ そもそも「件数の多い病院」での患者の質は同じなのか?
論文は「年齢・性別・重症度スコア」で調整したと言っているが、これは保険請求データ由来の簡易スコアであり、本当のNIHSS(脳卒中重症度スコア)とは別物である。

重症患者を積極的に受け入れている病院かどうかは十分に見えていない。

--- ❸ 「30日死亡率」という指標の偏り
この論文は30日以内の死亡をアウトカムとしているが、以下のような歪みがある:
  • 長期後遺症は評価していない
  • 積極的な治療中止の方針が病院間で異なる可能性
  • 特に高齢者では延命より安楽死的選択もある(潜在的に)
--- ❹ EVTが“万能”であるかのようなミスリードの可能性
EVTは確かに効果的な治療である一方で、以下のリスクがある:
  • 重篤な脳出血リスク(IV rt-PAより高い)
  • 長時間の手術に伴う合併症
  • 高コスト(社会的負担も大きい)
--- ❺ 「EVTできる病院=総合力が高い病院」という構造的バイアス
EVT実施可能な病院はそもそも
  • スタッフ数が多い
  • 救急体制が整っている
  • 他の高度医療も実施可能
──といった“総合力”の高い施設であることが多い。

--- 📝 総括:批判的視点のまとめ
この論文は「EVTを推す」印象を与えやすいが、実際には
  • 「場数が多い病院ほど死亡率が低い」という相関を示したに過ぎず
  • 「EVTそのものの絶対的有効性」や「IV rt-PAの軽視」を正当化する根拠としては弱い
むしろEVTに懐疑的な立場からは
  • 「患者の質や病院格差を無視していないか?」
  • 「EVTバブル的な早計な拡大を正当化する論文では?」
  • 「IV rt-PAの現場の価値を過小評価していないか?」
──と十分に疑ってよい。





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