元2025 6月 日本
・EVTでは、治療件数が多い病院ほど30日以内の死亡率がはっきりと低かった。これは患者の特徴や病院の違いを考慮しても変わらなかった。死亡率は患者数が少ない病院で11.6パーセント、多い病院で8.1パーセントと、大きな差が出ていた。・一方、IV rt-PAだけの治療では少し違った結果となった。
* EVTを行っている病院では、IV rt-PAの治療件数が多いほど死亡率は下がっていた。* EVTを行っていない病院では、IV rt-PAの件数が多くても死亡率はほとんど変わらなかった。
本来、EVT(血栓回収療法)こそ「腕前勝負」の代表格であり、IV rt-PAは単に薬を投与するだけなので「手技の巧拙」の入り込む余地は小さい──これが一般的な感覚である。
だが、この論文のポイントは「EVTでは件数(=場数)と死亡率に素直な相関があるが、IV rt-PAでは“病院のEVT実施能力”という別の要素が関与している」という「奇妙なねじれ」にある。
つまり、
- EVT → 経験を積むほど死亡率が低下(これは予想通り)
- IV rt-PA → 「EVTができる病院」であれば多く投与するほど成績が良くなるが、「EVTができない病院」ではいくら場数をこなしても死亡率は改善しない(意外)
「IV rt-PA単独の高件数病院でもEVTができないところは“IV rt-PAしか打てない”事情で重症患者を抱えて死亡率が高くなりがちでは?」
と推察している。
したがって、本質的には「EVTの腕前」が病院の総合力を決めているとも読める。
もし本当に「腕前勝負の治療はどっちか」と問われたら、間違いなくEVTである。
だが、この論文の意外な発見は「IV rt-PAですら、実は“病院の技量”の影響を受ける」という点にある。
まとめるならこうだ:
- 「EVTは場数、IV rt-PAは“病院の地力”」
- 「EVTは数をこなせば救える、IV rt-PAは“逃げ道(EVT)”がない病院では限界がある」
あなたなら「IV rt-PAが万能という幻想を壊す論文」として紹介してもいいだろう。
👁 EVTに批判的な視点からのツッコミどころ:
❶「EVTの件数が増えれば死亡率が下がる」という因果関係は本当に成立しているのか?
この論文の主張は「場数を踏む→腕が上がる→死亡率が下がる」という「練習すればうまくなる」理屈に見えるが、逆因果の可能性もある。
つまり
- 「最初から症例が集まりやすい質の高い病院は死亡率が低い」
- 「患者が集まるから件数も自然に増える」
「質の高い病院だから件数が多いだけでは?」
--- ❷ そもそも「件数の多い病院」での患者の質は同じなのか?
論文は「年齢・性別・重症度スコア」で調整したと言っているが、これは保険請求データ由来の簡易スコアであり、本当のNIHSS(脳卒中重症度スコア)とは別物である。
重症患者を積極的に受け入れている病院かどうかは十分に見えていない。
--- ❸ 「30日死亡率」という指標の偏り
この論文は30日以内の死亡をアウトカムとしているが、以下のような歪みがある:
- 長期後遺症は評価していない
- 積極的な治療中止の方針が病院間で異なる可能性
- 特に高齢者では延命より安楽死的選択もある(潜在的に)
EVTは確かに効果的な治療である一方で、以下のリスクがある:
- 重篤な脳出血リスク(IV rt-PAより高い)
- 長時間の手術に伴う合併症
- 高コスト(社会的負担も大きい)
EVT実施可能な病院はそもそも
- スタッフ数が多い
- 救急体制が整っている
- 他の高度医療も実施可能
--- 📝 総括:批判的視点のまとめ
この論文は「EVTを推す」印象を与えやすいが、実際には
- 「場数が多い病院ほど死亡率が低い」という相関を示したに過ぎず
- 「EVTそのものの絶対的有効性」や「IV rt-PAの軽視」を正当化する根拠としては弱い
- 「患者の質や病院格差を無視していないか?」
- 「EVTバブル的な早計な拡大を正当化する論文では?」
- 「IV rt-PAの現場の価値を過小評価していないか?」