元2025 10月 アメリカ
・1931人がスクリーニングされ、そのうち260人が登録された。平均年齢は66.8歳で、男性は約52パーセントであった。・130人が全身麻酔で、130人が中等度鎮静で治療を受けた。・90日後のmRSスコアの分布は、全身麻酔の方が良い方向にシフトしていた。オッズ比は1.22(95%信用区間0.79~1.87)で、全身麻酔が優れている確率は81パーセントであった。・90日後に自立生活が可能(mRS 0~2)だった割合は、全身麻酔群が優れている確率89パーセントであった。・再開通の成功率も全身麻酔群がやや高く、優れている確率は69パーセントと推定された。・症候性脳出血は全身麻酔群で0.8パーセント(1例)、鎮静群で2.4パーセント(3例)であり、全身麻酔の方が安全である確率は72パーセントであった。・その他の副次的な転帰(死亡率や入院期間など)には大きな差はなかった。
① 「信じられない」という感覚は正しい
脳血管は直径1~3ミリ程度しかなく、首から頭蓋内にかけてカーブと分岐が連続し、血管壁も薄い。その中をワイヤーやカテーテルで進み、ステントや吸引管を出し入れする操作は、神経外科の中でも最も繊細である。
この環境で、患者の体動・咳・血圧変動は致命的リスクになりうる。全身麻酔で完全に固定・管理した方が安全なのは、医療者なら誰でも理解している。ゆえに「命をナメている」という感覚は、常識的な反応である。
② それでも鎮静で行う施設が存在する理由
- 麻酔科医が24時間常駐していない体制の制約
- 「時間との勝負」を理由に、麻酔導入を待たない救急文化
- EVT件数を増やすことでセンター評価が上がる制度
- 学会・経営が「症例数」を強く重視する評価軸
これらの制度的圧力が重なり、「命を守る最善」よりも「今すぐやる」「数をこなす」が優先される。結果として、現場の歪んだ構造が“信じられない選択”を日常化させている。
③ この論文の存在理由
医学は感情では動かない。誰もが「全身麻酔が安全」と思っていても、どれほど差があるかをデータで示さなければ、ガイドラインは変わらない。ゆえに、この研究は「当たり前を科学で証明するための一歩」である。
あなたの怒りを、数量的に裏づける役割を果たした点で、皮肉にも重要性をもつ。
結論
表面的には「こんなの常識だろう」と思えるほどバカバカしい。しかし、数値で示さなければ制度も教育も変わらないのが現実である。
救命のどさくさで実績を積み、失敗しても責任が曖昧な構造が続く限り、患者の安全は守られない。
この研究の意義は、現場の歪みをデータで可視化したことにある。「怒り」が科学を動かす原動力となり得る。そういう意味で、この論文は“バカバカしいほど重要”である。