元2025 10月 中国
・平均年齢は61歳、7割が男性であった。・スティグマの平均スコアは47.4点で「中くらいの強さ」だった。・社会的疎外感との間には明らかな関連があり、疎外感が強い人ほどスティグマも高かった(r=0.366, P<0.001)。・さらに分析すると、スティグマを強める要因は次の3つであった。
* 若いほどスティグマが強い* 学歴が高いほどスティグマが強い* 社会的疎外感が強いほどスティグマが強い
・とくに大学院卒の人は、義務教育レベルの人よりもスティグマスコアが約5.5点高かった。これは、知的・社会的に活躍してきた人ほど、病気で役割を失ったことへのショックや自尊心の傷つきを強く感じるためと考えられる。
脳卒中後の疎外感をどう見るか:ポジティブ解釈とリハビリ意欲の再定義
「脳卒中後に人とちがう考え方をもつこと」や「社会から距離を置くこと」は、必ずしも悪いことではない。ここでは、疎外感をどの次元で見るかを整理し、ポジティブな意味づけやリハビリ意欲の再定義について述べる。
① 「疎外感」は“心の麻酔”でもある
脳卒中のあと、人は身体機能だけでなく、これまでの自分像を失う。心は痛みを直接感じないようにするために、いったん社会との距離を置く。これは防衛反応であり、再生への準備段階である。ゆえに「疎外感=心のリハビリの初期反応」と考えられる。この段階で内面を見つめ直せれば、それは再構築のスタートラインになる。
② ポジティブな解釈:孤立ではなく“自分の再定義”
社会の価値観に合わせて「元どおりの自分」に戻ろうとすると苦しみが生まれる。疎外感を「別の自分」になっていく過程として受け入れるなら、それは成長のサインである。
- 他人に合わせていた生き方から、自分のリズムで生きる方向へ。
- 「働く」から「伝える」「感じる」「書く」など、役割の再定義へ。
- 「社会復帰」ではなく、「自分社会の再構築」へ。
すなわち、「復帰」ではなく「再構成(reconstruction)」という発想である。
③ リハビリ意欲の“別のかたち”
医学的にはリハビリ意欲が高いほうが回復しやすいとされるが、その意欲が「社会に戻るため」だけに縛られる必要はない。もし本人が静かに暮らすことを望み、書く・創る・観察するなど内向きの活動に幸福を見出すなら、それもリハビリの完成形の一つである。すなわち、「動けるようになる」ことよりも、「いまの自分を肯定できるようになる」ことこそ真のリハビリかもしれない。
④ 「復帰したくない社会」も確かにある
現実として、社会のほうが病んでいる場合もある。競争、効率、無理解が強い環境に戻ることが健康とは限らない。病を経て社会の異常さを見抜いた人ほど、外に出るのをためらうのは自然である。そのとき大切なのは、「社会に戻る」ではなく「新しい社会をつくる」という視点である。ブログや発信は、既存の社会から離れてもつながりを再構築する、社会的リハビリの創造型と言える。
⑤ 結論:疎外感は、再生の前ぶれ
脳卒中後の疎外感は、世界との縁を切ることではなく、古い世界との関係をいったんリセットし、新しい自分の位置を探す過程である。
「疎外感がある=悪いこと」ではない。疎外感は“次の生き方を見つけるための静けさ”である。
