元2025 10月 中国
・血中エリスリトールが高いほど、冠動脈疾患・心筋梗塞・脳卒中のリスクがわずかに上がることが示された。・一方で、心不全や糖尿病との関係は見られなかった。・リスク上昇の幅は大きくはないが、エリスリトールが血管や血小板の働きに何らかの影響を与える可能性があると考えられる。・とくに脳卒中については、血栓(血のかたまり)ができやすくなることとの関連が注目されている。
その理解はおおむね正しいです。
今回の研究が示したのは、「太っている人が“無糖”食品を選ぶから脳梗塞リスクが高く見える」という交絡ではなく、エリスリトールそのものの代謝特性が関係している可能性がある、という点です。
1. 従来の仮説:「太っている人が甘味料を選ぶからリスクが高い」
以前から、「人工甘味料と脳卒中・心血管疾患の関連」は報告されていましたが、
それらは多くが観察研究(質問票ベース)であり、
「もともと血糖が高い・太っている・高血圧の人が無糖食品を選ぶ」という交絡因子(confounder)の影響を除けませんでした。
つまり、「無糖を選んでいるからリスクが高い」のではなく、
「リスクが高い人が無糖を選んでいる」のではないか、という逆因果の可能性が常にあったのです。
2. 今回の研究の強み:遺伝的な“ランダム化”で交絡を除外
この論文(Fanら, Am J Prev Cardiol, 2025)は、メンデルランダム化解析(MR)を用いました。
MRでは、エリスリトールの血中濃度を左右する遺伝的変異(SNP)を「自然のランダム割り付け」として利用します。
遺伝子は出生時にランダムに決まるため、太っているかどうか、生活習慣がどうかとは無関係です。
したがって、エリスリトール濃度が高い遺伝的傾向を持つ人が、
実際に心筋梗塞や脳卒中を起こしやすいとすれば、
それは「肥満や食習慣とは独立した、エリスリトール自身の影響」である可能性が高いのです。
3. 結果として見えてきたこと
MR解析では、血中エリスリトールが高いほど脳卒中・冠動脈疾患のリスクがわずかに上昇していました。
この結果は、「太っているから」「生活習慣が悪いから」では説明できない。
つまり、“努めて無糖食品を選んでいる人”が損をしている構図ではなく、
エリスリトールという分子自体の生理作用(血小板活性化・血管反応性など)が関与していると考えられます。
4. 言い換えると
無糖を選んでいる努力自体が悪いわけではない。
ただし、「無糖=安全・無害」とは言えない時代に入った。
砂糖を減らすことは良いが、代替物の代謝的リスクを知らないまま使い続けるのは危うい。
5. 結論として
この研究は、「生活習慣をがんばっている人のせい」ではなく、
エリスリトールという物質そのものの代謝的リスクが見えてきたという点で重要である。
「努力が裏目に出る」わけではなく、
「新しいリスク認識が求められる」という方向性で理解するのが正確です。
