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脳卒中のあと、多くの人が手や足の動きに障害や痙縮を抱える。リハビリである程度は回復するが、それだけでは不十分なことが多い。
補助的治療法として磁気を使って脳の神経を刺激する「反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)」が注目されてきた。しかし研究によって結果がまちまちで、本当に効果があるのかどうかはっきりしていなかった。
そこで、過去の臨床試験をまとめて分析し、rTMSの効果をくわしく検証してみたそうな。
2022年2月までに発表されたランダム化比較試験(RCT)を幅広く集めた。対象は18歳以上の脳卒中患者である。比べたのは、(1) 通常のリハビリにrTMSを加えた場合と、(2) リハビリだけを行った場合。
効果の指標として、手足の動きのテスト(Fugl-Meyer Assessmentなど)、握力、手の機能テスト、日常生活動作(ADL)、歩く速さ、痙縮の程度(Modified Ashworth Scale)が用いられた。
次のことが分かった。
* 手の動き:rTMSを加えた群では、Fugl-Meyerスコアが平均3点ほど上がり、握力や手の細かい動きも改善が見られた。
* 痙縮:上肢のつっぱりは有意に軽くなり、臨床的にも意味のある改善と考えられた。
* 日常生活動作(ADL):全体としては有意な改善はなかったが、発症から6か月以上経った慢性期の人では改善が確認された。
* 下肢機能:足の動きや歩く速さについては有意な改善は見られなかった。
・ただし、これらの結果は「確実性が低い」と評価された。研究ごとに方法が異なり、参加者の数が少なく、盲検化が難しいことが理由として挙げられた。
rTMSは脳卒中後の手の機能回復や痙縮の軽減に、通常のリハビリに加えると一定の効果を示す。ただしその効果は、患者本人が「生活が大きく楽になった」と感じるほど強いものとは限らない。足や歩行については効果が証明されていない。したがって、現時点でrTMSは上肢の回復を助ける補助的な治療として条件つきで推奨されるが、下肢への効果については今後の研究を待つ必要がある、
というおはなし。
感想:
『rTMS治療はすでにおおくの研究があるが、実験条件を統一できるほどにはまともな効果を観測できていない。おそらくはtDCSと同様に頭皮に生じるピリピリ感が原因のプラセボ効果がほとんどである。プラセボだけでは歩行にまで影響が至らなかった、というのが本論文の真相と考える。』
まとめの視点
rTMS治療はこれまで数多くの研究が行われてきたが、実験条件を統一できるほどの明確な効果は確認されていない。報告される改善はわずかであり、臨床的に意味のある差に届いていない場合が多い。その背景には、tDCSと同様に頭皮に生じるピリピリ感や筋肉のピクつきが「効いている」という実感を与え、プラセボ効果を強めている可能性がある。
上肢に関しては、この「効いている感」がリハビリへの意欲を高め、握力や手の動きのテストで統計的な改善が観測されたのだろう。しかし下肢や歩行に関しては、より複雑で全身の協調を要する機能であるため、プラセボだけでは改善に結びつかなかった。
このように考えると、本論文の真相は「rTMSが万能の治療効果を持つわけではなく、その多くはプラセボ効果によって説明できる範囲にとどまる」という点にある。