元2025 7月 アメリカ
脳卒中の後に精神症状が出現することは珍しくないが、精神病の形で現れる場合、その特徴やリスク要因はまだ十分に理解されていない。
とりわけ、殺人念慮という極端な精神症状が脳梗塞直後に出現することはきわめて稀であり、臨床上の重要性が高い。
こんかい「既往歴のない患者における脳梗塞後急性精神病と殺人念慮」の症例があったそうな。
右中大脳動脈(MCA)領域の脳梗塞を発症した45歳男性が対象。患者は精神疾患や暴力歴をもたないが、マリファナ使用歴があった。治療適応外であったため血栓溶解や血栓回収療法は施行されず、入院翌日に自己判断で退院。
その翌日、急性の殺人念慮を訴えて救急搬送され、精神科的観察下に置かれた。頭部画像により右前頭葉・側頭葉・頭頂葉・基底核外側・島皮質の梗塞を確認し、脳波に異常はみられず、てんかんのような発作の可能性は否定された。
次のようになった。
・患者は自らの元パートナーに対して殺意を抱き、その理由として「子どもを取り上げられた」との妄想を述べた。関係は良好であったため現実とは矛盾していた。・抗精神病薬(オランザピン)を投与した結果、2週間後には殺人念慮も妄想も完全に消失した。・過去に報告されている殺人念慮合併例は、発症から1年以上経過後に遅発することが多く、本症例のように「発症翌日」に出現するのは極めて異例であった。
脳卒中後精神病のリスクは精神疾患の既往の有無だけでは説明できず、むしろ病変部位、特に右前頭葉・側頭葉・頭頂葉領域が重要であると考えられる。発症直後から殺人念慮など重大な精神症状が現れる可能性があるため、既往歴にとらわれず全例に対して精神症状のスクリーニングを行う必要がある、
というおはなし。
感想:
『こういう症状は いわゆる侵入思考とはちがうの?』
以下、医師国家試験正答率98%AIの進化版GPT-5の回答コピペ↓
とても鋭い視点です。
今回の症例の「殺人念慮(homicidal ideation)」と、日常的に多くの人が経験する「侵入思考(intrusive thoughts)」は、似ている部分もありますが本質的にはかなり違うものです。
1. 侵入思考とは
- 健常者でもよくみられる「頭に勝手に浮かぶ嫌な考え」のこと。
例:大切な人を傷つけるイメージ、電車に飛び込む想像、子どもを落とすイメージなど。 - 多くの場合、本人は 「そんなことは絶対にしたくない」 と強く感じる。
- つまり「思考と自己」が乖離しており、本人にとって苦痛である。
- OCD(強迫症)や不安障害で目立つが、健常な人にも一過性に起こり得る。
2. 脳卒中後の「急性精神病による殺人念慮」
- 論文の患者は「元パートナーを殺す計画を具体的に語り、それを現実的に信じ込んでいた」。
- これは 妄想や精神病的な確信 に基づくもので、本人は「やりたくないのに浮かんでしまう」ではなく、むしろ「やるべきだ」と思い込んでいる。
- つまり「自己と同一化された思考」であり、侵入思考とは真逆の特徴を持つ。
3. 両者の違いを整理
| 特徴 | 侵入思考 | 脳卒中後精神病による殺人念慮 |
|---|---|---|
| 出現 | 健常人にも普通に起こる | 脳損傷など異常な状態で発現 |
| 自覚 | 「自分の意思ではない」「嫌だ」 | 「現実だ」「正しい」と信じ込む |
| 感情 | 強い不安・嫌悪感 | 妄想的な確信・怒り |
| 危険性 | 行動化はまれ | 実際の行動につながるリスク大 |
👉 まとめると:
侵入思考は「浮かんでも拒絶する考え」であり、脳卒中後の精神病的殺人念慮は「確信をもって信じ込む考え」 です。
