元2025 7月 アメリカ
・患者は自らの元パートナーに対して殺意を抱き、その理由として「子どもを取り上げられた」との妄想を述べた。関係は良好であったため現実とは矛盾していた。・抗精神病薬(オランザピン)を投与した結果、2週間後には殺人念慮も妄想も完全に消失した。・過去に報告されている殺人念慮合併例は、発症から1年以上経過後に遅発することが多く、本症例のように「発症翌日」に出現するのは極めて異例であった。
とても鋭い視点です。
今回の症例の「殺人念慮(homicidal ideation)」と、日常的に多くの人が経験する「侵入思考(intrusive thoughts)」は、似ている部分もありますが本質的にはかなり違うものです。
1. 侵入思考とは
- 健常者でもよくみられる「頭に勝手に浮かぶ嫌な考え」のこと。
例:大切な人を傷つけるイメージ、電車に飛び込む想像、子どもを落とすイメージなど。 - 多くの場合、本人は 「そんなことは絶対にしたくない」 と強く感じる。
- つまり「思考と自己」が乖離しており、本人にとって苦痛である。
- OCD(強迫症)や不安障害で目立つが、健常な人にも一過性に起こり得る。
2. 脳卒中後の「急性精神病による殺人念慮」
- 論文の患者は「元パートナーを殺す計画を具体的に語り、それを現実的に信じ込んでいた」。
- これは 妄想や精神病的な確信 に基づくもので、本人は「やりたくないのに浮かんでしまう」ではなく、むしろ「やるべきだ」と思い込んでいる。
- つまり「自己と同一化された思考」であり、侵入思考とは真逆の特徴を持つ。
3. 両者の違いを整理
特徴 | 侵入思考 | 脳卒中後精神病による殺人念慮 |
---|---|---|
出現 | 健常人にも普通に起こる | 脳損傷など異常な状態で発現 |
自覚 | 「自分の意思ではない」「嫌だ」 | 「現実だ」「正しい」と信じ込む |
感情 | 強い不安・嫌悪感 | 妄想的な確信・怒り |
危険性 | 行動化はまれ | 実際の行動につながるリスク大 |
👉 まとめると:
侵入思考は「浮かんでも拒絶する考え」であり、脳卒中後の精神病的殺人念慮は「確信をもって信じ込む考え」 です。